はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

乗り合いバス

2020-08-10 19:37:46 | はがき随筆
 本紙の本の紹介欄で「ほのぼの路線バス」を読み思い出した小さな旅の事。今では町も様変わりして停留所もなく思い出すよすがもないが。売店を兼ねた切符売り場にたくさん物が並んでいた。数個が一列にネットに入り吊り下げてあった蜜柑。たぶん母と眼科医院に行った時だろう。寒々と細長く感じた廊下に置かれた長椅子を立ち、一緒に診察室に入った。帰りはバス停前の饅頭屋さんで十個、お土産を買うのが嬉しくて堪らなかった。今ではささやかな幸福の記憶。しかし私はいつも食いしん坊だなぁ。いつも思い出の多くが食べ物に終始する。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2020/8/10 毎日新聞鹿児島版掲載

セッコク

2020-08-10 19:00:53 | はがき随筆
 大隅の山に久しぶりに出かけた。コロナ騒動で登山まで禁止になり、とんだ巻き添えであった。
 この山は照葉樹の原生林であり、植物も豊富である。小生は野生の石斛の花を見るために訪れたのである。
 ラン科で有名なのはコチョウランであるが、この花は人間の召使のごとく周りを照らす花である。石斛は大きな木の幹や枝に着生しており、ひっそりと白い花を咲かせている。それは、神秘の森の妖精のごとくである。
 ストレスも発散して、はるばる来たかいがあった。
 鹿児島市 下内幸一(71) 2020/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

うれし悲し

2020-08-10 18:55:08 | はがき随筆
 小学3年の孫娘から夫と私を描いた絵をプレゼントされた。「ありがとう」と受け取り、絵を見てあぜんとした。顔にくっきりとしわが書かれ70~80のおばあちゃんになっていた。昨年はしわもなく可愛く描いてくれていたのにとショックだった。
 皆に昨年と今年の絵を見せると「まぁ、よく観察してるわ。表現力大だね」と笑いこけた。うれしいような悲しいような……。夫は「こんなにじいさんかよ」と少々不満げだった。
 来年はどんな絵を描いてくれるだろう。今年よりおばあちゃんにならぬよう、お肌の手入れをしなくちゃ。
 宮崎県串間市 林和江(64) 2020/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

旅は人生です

2020-08-10 18:44:15 | はがき随筆
 心に残る初めての遠足。歩きながらおやつも食べた。また楽しかった修学旅行。キョロキョロしてた思い出。コロナの昨今、子どもたちにも体験してもらいたいですね。
 私の旅はリタイアを機に海外が主で、出会いが楽しい。最初のパリの子どもたちと、みんな笑顔でOK。天使のほほ笑みそのものです。今ごろはみんな50歳くらいと思う。親の出身国により顔立ちが? カメラを向けるとポーズ。また一つ自分へのお土産に。
 今年も古城巡りを計画した。しかしコロナでキャンセル! 人生の中休みです。
 鹿児島県伊佐市 坂元佐津夫(68) 2020/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

夕暮れの時間

2020-08-10 18:36:48 | はがき随筆
 雨あがりの夕暮れ、高い鉄塔の上で、1羽のカラスがのんびりした声で鳴いている。
 夕げの支度に手を止め、西の方に目を向けると、雲海のような空が広がり、薄紅いろに染まって明々としている。暗い山々のシルエットとは対照的な、少しずつ変化してゆく色のグラデーション。別世界にいるようでしばし時間を忘れていた。
 雨粒をまとったアジサイが光に反射し、あでやかに輝いて見える。やがてセミが鳴き始めた。
 まるで、夕暮れの時間を楽しんでいるかのように、平穏な一日が過ぎてゆく……。
 宮崎県日向市 梅田絹子(65) 2020/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

豪雨

2020-08-10 18:30:00 | はがき随筆
 7月上旬に熊本県南部地方が今までにない豪雨に襲われた。最近は世界中の各地域が思いがけない水害に見舞われている。
 地球表面の7割は海洋だが、地表が温暖化しているので海水温度も上昇している。だから海面から蒸発する水蒸気が最近は異常に増加している。水蒸気は上空で凝結して雲になるが、激増した水蒸気は莫大な雨雲になって地球を覆う。これが豪雨の原因である。
 現状を維持することなく、世界中の国々が協力して石炭の使用を抑えて、温暖化ガスの排出を減らすように努力すべきだと思う。
 熊本市東区 竹本伸二(92) 2020/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

機転の努力

2020-08-10 18:20:34 | はがき随筆
 遠方の病院に月1回の薬取りに。自宅を出ると、車を激しい雨がたたく。がまんの平常心で運転。前進すると、先車が途中川の氾濫、泥水が浸水し窓まで来ての立ち往生。岸の上で指揮する男性が、私たちにも後方へと手を。後部座席足場に水がどっと流れ入る。高台の方へ向きを変えた。一歩ちがうと自分の事に。足腰を冷やすと第2の心臓体調悪化。コンビニで靴下、タオル購入。停電なのに親切丁寧な対応。病院に着くとコロナ第2波の警戒。こちらも慰め言葉。低体温症にしない努力は正解。慰められ安堵の私。駐車場で夫は車内の水出し。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(80) 2020/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

笑いのツボ

2020-08-10 18:03:27 | はがき随筆
 夫婦も40年を超すと、つかず離れずの鉄則を守らなければならないことを痛感する。
 その一つに限られた時間の会話がある。面白い話でなければ通用しない。敵の笑いのツボに届けば一服の清涼剤どころか、回春の妙薬かもしれない。しかし、作為的は最悪である。
 大好物のピーナツの燻製が残りわずかになっていた。缶を手にしたら重い。蓋を開けるといっぱい。あまりのうれしさに「ピーナツが湧いてきている」と叫んだ時の妻の大笑い。
 妻の心遣いをユーモアでどう称賛して笑わせるか。このごろの重要な生きる課題である。
 宮崎市 杉田茂延(68) 2020/8/8毎日新聞鹿児島版掲載

100歳の手

2020-08-10 17:55:02 | はがき随筆
 100歳を迎えられたその方は、鼻からの栄養補給。寝返りも自分ではできないのでお手伝いさせてもらっている。
 ある日「今日はいい天気ですよ」などと話しながら、手や足をマッサージしていた時のこと。突然その方の手が私の両ほほを包み込んだ。話しかけても一方通行だと思っていたので、思いもよらぬお返事をいただけたことにうれしさがこみ上げてきた。100年、いろんな事があったであろう、あの手の感触は、私の活力源となった。その人らしい最期を迎えられるように今は私にできることを精いっぱいさせてもらおうと思っている。
 熊本市中央区 上田綾香(27) 2020/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

夏休み

2020-08-10 17:45:10 | はがき随筆
 待ちに待った夏休みが来た。ラジオ体操が朝の日課。近所の子供たちが、寄ってくる。
 おはようなんて言わない阿吽の顔なじみ。竹林の葉影がゆれる。女の子たちは、おはじきに夢中、陣取りゲームに没頭する。男の子たちなんて眼中にない。
 日が昇ると、川へ水遊びに走った。川底のぬるぬる感を忘れない。急に沈みだした従姉妹の髪の毛を慌てて引っ張ったことを思い出す。雷が鳴ると水に潜り、唇が紫色になるまで遊びほうけた。たくましい田舎の子供たち。宿題は早々に済ませ遊び放題の夏休み。夢の中でも遊び続ける。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載

月下美人が10輪

2020-08-10 17:21:30 | はがき随筆



 狭い庭ながら3カ所に点在する月下美人が、一気に10輪まとめて開花した。9時ごろに懐中電灯で照らして様子をみる。まだ3分咲き程度だ。10時過ぎ、もうそろそろ開花するだろうと外に出た。咲いていた。
 カミさんに懐中電灯で照らしてもらい、シャッターを切る。夜中の庭をあっちに行きこっちに移動。老夫婦にとっては大仕事だったが、なんとか全部撮ることができた。
 これまでも毎年咲いてはいたが、10輪もまとめて咲いたのは初めて。船橋の娘にも連絡した。「写真を送って」と返信が届いた。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(84) 2020/8/6 毎日新聞鹿児島版掲載
 

大雨警報

2020-08-10 17:05:42 | はがき随筆
 「赤い色の雨雲が気ているよ」と父の声が聞こえた。
 すぐにケータイを見せてもらった。ものすごく大きく強そうな雨雲があった。どのくらいすごい雨なのかなと想像してみた。きっとびしょぬれになるだろうなと軽い気持ちでいた。
 午前10時半ごろ、瓦をたたきつける音とともに大粒の雨がたくさん降ってきた。玄関先に出てみると、体中を打ち続ける石ころのように痛かった。生まれて初めての体験だった。
 家の庭を見ると、大きな桃の木が倒れかかっていた。まるで僕に何かを訴えかけているかのようだった。「気を付けて」
 宮崎県都城市 平田壮一朗(11) 2020/8/5 毎日新聞鹿児島版掲載

親父へ

2020-08-10 16:58:19 | はがき随筆
 昭和という少年時代の思い出を絵で伝えている。よく問われるのが「オハン(あなた)な母子家庭ナア」である。たしかに絵の中に父の姿はない。父は郵便局員で朝早く夜遅くの日々だった。母は小さな田畑を耕し、私は母の小さな背中を見て成長していた。あらためて父を思い返してみると、父は旧満州に渡り、戦後は波瀾万丈の人生を生きてきたが、私たちには希望を与えてくれていた。多くを語らない親父だった。古希を過ぎた今だからこそ、言えなかった感謝の言葉を絵にしたためて送りたい。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(72) 2020/8/3 毎日新聞鹿児島版掲載