「母ちゃんどこに行くと?」。きれいに着飾った母の着物の袖を引っ張りながらついて回った。母はクスッと笑っているだけだった。三十路だったろうか? ほんのりと化粧が匂った。
夏が来る前に母の多数の着物を整理することにした。業者の「茶道されてました?」の問いにかすかに期待した私。正絹でもシミありや丈が短い物、それに紬や絣は、普段着扱いで査定無しになるとの説明だった。「500円で買わせていただきます」。正絹二枚を手にし、おもむろに証書と硬貨を渡してきた。
せめてリメーク用にと、袖の部分を数枚残してお別れした。
宮崎市 津曲久美(62) 2020/8/11 毎日新聞鹿児島版掲載