はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

縁側の祖母

2016-11-18 23:48:54 | はがき随筆
 幼い頃、ひなびた縁側で祖母が背をかがめて日なたぼっこをしていた。こぢんまりとした顔や体つきは父の母親に、しかと映った。針仕事に精を込めている。のどかな時を経る日もあった。祖母の傍らに寄るとうれしかった。老婆のしわくちゃの顔、手足は不思議にも大黒さまのごとく神々しく映った。白髪を解き竹ぐしで梳いてあげた。肩をもむと肉の薄い骨がごつごつと手触りが悪かった。こっくりと船をこぎだした。1世紀も世の橋を渡り、歴史を刻んだ。祖母に感謝の念でいっぱい。祖母の細長い目はうるんでいた。私の目にも涙が光った。
  姶良市 堀美代子 2016/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載

秋桜

2016-11-18 23:06:38 | はがき随筆
 「この際、辞めて、好きなことでも自由にしたらどうですか」。皆その方に提案した。余命半年、不治の病と宣告されたのに退職する様子などみじんもない。「私は一日でも長く、みんなと一緒に働きたいの。これまでと何も変わらずに」。そう行って「さあ、不良品を作らないように」とニッコリ作業に戻るのだった。とても丁寧な仕事ぶりだった。痛みもあったはずなのに、ゆがむ顔など見たことがない。私の記憶の中には、揺れる秋桜のような表情しかない。笑顔こそ強者の証しなのだ、と無言で示してくれた彼女を、二児は立派に見送っていた。
  出水市 山下秀雄 2016/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載

西郷どん

2016-11-18 23:00:23 | はがき随筆
 再来年の大河ドラマは「西郷隆盛」に決まった。日本の歴史でも大きな影響を与えたのが西郷どん。今でも心の広いかごっまの偉人として親しまれている。ふるさと泊野(紫尾のふもと)にも西郷どんの話しが語り継がれている。「狩りに訪れたドタバタ民話や、娘の頃に茶いっぺとつけもんをさし上げたら西郷どんの手がふとくて優しかった」。この小さな集落の貴重な西郷どんの話。「泊野も登場すれば村おこしになるがなあ~思いは膨らむ!」。西郷どん、もう一度あの日の「泊野」に戻ってきやんせと、少年だった老人が一人考えているところである。
  さつま町 小向井一成 2016/11/16 毎日新聞鹿児島版掲載

2歳の孫の言葉 多彩な表現驚き

2016-11-18 22:49:36 | 岩国エッセイサロンより
山陽小野田市  会 員   河村 仁美

娘が1か月間入院しているため、2歳の孫娘を預かることが多くなった。孫の話す言葉に擬音語や擬態語がたくさん出てくるので、驚かされている。
 娘の家で、孫が「あわあわしなくちゃ」と言うので、何のことだろうと思って見ていると、ハンドソープのポンプを押した。すると、泡のせっけんが出てきたので納得した。先日も、出かけた時に「おくつパッチンしてない」と、履いていた靴の布製接着テープをとめていた。
 人形に「お熱ピッピしましょ」とおもちゃの体温計をさし、「ピピピ、お熱はありませんね」と言って遊んでいるのには、笑ってしまった。
 こんなにたくさんの音を使うのに、不思議なこともある。絵本に描かれた犬を見て、私が「ワンワンだね」と言うと、孫は「ワンワンじゃなくて犬だよ」。孫育ては始まったばかり。難しいものだ。
  (2016.11.12 読売新聞「私の日記から」掲載)

トラクター

2016-11-18 22:47:56 | はがき随筆
 祖先から受け継いだ田畑80㌃を兼業農家として続けて50年余り。耕す物は耕運機での歩行から乗用トラクターになった。
 いよいよ寿命が来て買い替えなくてはならない。「使う人も先が短い。手ごろな中古でよい。金もないのだから」「いやいや中古はまた修理しないといけない」と家族討論。息子も当分帰って来ない農地を守り、活用せにゃならぬからと新車に踏み切った。息子や孫から言われる前に「じいちゃんはマコテ高カオモチャを買ウタトヨー」と。まだまだ元気でウマイ米、ヤサイ作りにキバランナラ。
  湧水町 本村守 2016/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載