はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

 妹

2016-11-21 14:45:09 | 岩国エッセイサロンより
2016年11月19日 (土)
  
   岩国市   林 治子   会員

 玄関の戸が勢いよく開く。足音が響く。「姉ちゃん、元気していたかな」。大きな声の主は、わが家の「訪問介護士さん」。実は一番下の妹。月2回来てくれる。結婚するまで学校の先生をしていただけあって、すこぶる元気だ。
  「なかなか、きれいにしてるじゃん」 
 辺りを見渡して、ちょつと褒める。私の気持ちをぐーんと引き上げる。
  「今日は何したらいいん」
 私はだんだん老化が進んでいる。電球の取り換えや台所の換気扇の掃除など高い所の物を扱うのが難しい。できるだけ自分でするように工夫も努力もしてきたが、時間がかかってどうにもならなくなった。それで、妹にお願いするようになっている。
 楽な方法を知ると、もう駄目。妹へのお願いばかりがどんどん増える。用事をまとめてお願いして、楽になった代わりに、自ら考えて行動しなくなった。頭の老化は進むばかりだろう。
 しかし、料理は自分で作る。お昼を一緒に食べる時、妹に 「おいしいね」を連発されると、悪い気はしない。高じて、物によっては前日から時間をかけて作りもする。
  「姉ちゃんにしんどい思いをさせるのなら、ここに来る意味がない」 
 かわいいことも言う妹は、昼前に来て、4時には慌ただしく帰っていく。

     (2016.11.19 中国新聞「こだま」掲載)