はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

嵐明け

2006-10-09 08:09:04 | はがき随筆
 昨夜の激しい風に打たれ落とされた落ち葉の洪水の庭。その植え込みの中に、やっと先日来咲き始めた彼岸花を探す。折れてはいないが、嵐に立ち向かい堪え忍んだ容姿で疲れ茎を曲げて、やっと花冠を支えている。早速、支え棒で花茎を整えてやった。そうして一夜明けた今朝、すっかり風と雨に洗い流された木立の中に、朝日の差し込みを受けて元気に美しくよみがえって咲いている彼岸花を再発見する。
 その可憐な、そして強じんな生命力の持ち主に、しばらく見とれ、たたずみ、肩を押される思いで出勤した。
   鹿児島市 春田和美(70) 2006/10/9掲載 特集版-6

笑顔かけ合い

2006-10-09 08:02:10 | はがき随筆
 私共の散歩道、清流の山野川に架かる梶木橋のたもとに、このごろ木札が墨痕鮮やかに「どげなふな~声をかければ互いが笑顔」と素晴らしい標語である。この地域の有志の方々が立てられたのだろう。これはもうお隣近所同士の助け合い言葉であると思う。老弱男女どなたも喜ばれる声かけ合いだと思う。「田圃の出来」はとか「体調は」「子供さんたちは」は話し合いのきっかけになり、話題が広がるだろう。お互い忙しいほどに笑顔の声かけ合いは良いものである。
 殺伐たる世相に地域を守るよすがになるのではと思うのである。
   大口市 宮園 続(75) 2006/10/9掲載 特集版-5

時間が薬

2006-10-09 07:53:53 | はがき随筆
 「おーい、おーい」。玄関で夫の声。大きなリュックを背負った山の帰りらしい夫が何か怒鳴ってる。「あらごめんなさい」と謝っても「もういいっ」と言うなりくるりと踵を返し何処かへ行ってしまった。「お父さーん」。大きな自分の声で眼が覚めた。嫌な夢……。一昔前の私だったら、この夢でどんなに落ち込んだことだろう。マッターホルンを背に今日もほほ笑む彼に「なんで夢に出てきてまで怒鳴るのよ!」と笑ってしまった今の私。涙の日を過ごしていた私に「時間が薬よ」と慰めてくれた多くの友へ。「ようやくお薬が効きました」。
   鹿屋市 西尾フミ子(72) 2006/10/9 掲載 特集版-4

定年

2006-10-09 07:46:01 | はがき随筆
 この秋、子供が定年を迎える。働き詰めでいつの間にかの定年。当たり前のことではあるが、当たり前にこの日を迎える事ができるのは老親にとって何よりもの親孝行であり、嬉しい限りである。年に3回の帰省を続けながら、力量に応じた勤めを長年果たしてきた子供に心から感謝したい。
 第二の人生に、無事踏み出せる幸せを真摯に受け止めて、団塊の世代などと気負うことなく、これからは少し歩みを緩めて過ごしてほしいと願っている。
 子供は、いくつになっても愛おしいものである。
   南さつま市 寺園マツエ(84) 2006/10/9 掲載 特集版-3

ネクタイ

2006-10-09 07:18:14 | はがき随筆
 ネクタイ掛けには、昔の広幅物から細幅物まで合わせて数十本ぶら下がっている。それぞれ買い求めた時の動機や思い出がいっぱい詰まっている。ネクタイは、外観から締めている人の個性や品格などを問われる服飾品の一つでもあるので、年齢と雰囲気にふさわしい色や柄を選定する必要がある。独身時代には、異性の関心を惹かせようと意識して派手な色柄物を選んで買いあさったものだ。ネクタイの色も祝儀は白、葬儀は黒と決まっているが、長ずるにつれて、そのいずれかを締める回数も次第に増えてくる事だけは確かなようである。
   霧島市 有尾茂美(77) 2006/10/9 特集版-2

母がピアノを

2006-10-09 07:00:54 | はがき随筆
 母が「ピアノのけいこを始めたい」と。
「まあ、その年齢で今から?」と言うのはぐっと引っ込めた。
 歌を弾きたいとの注文。可愛い歌を集めた高齢者向けのテキストを買った。
 週に1回、母宅に出張レッスン。手も指もすっかり硬くなり、上手く弾けないが、何回も繰り返し練習する。
 ひょっとすると、しぱしば人生に疲れ果て路頭に迷う娘の私を勇気づけたくて、元気づけたくて頑張ってくれているのかも……。
 今日、59歳の誕生日を迎えることができました。
   鹿児島市 馬渡浩子(59) 2006/10/9 特集版-1