“THE MEDIEVAL HOUSES of KENT”の紹介-35

2016-07-09 09:18:12 | 「学」「科学」「研究」のありかた



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Collar₋rafter roofs
   Collar-rafter roof : 垂木 rafter で合掌をつくり、首の部分を繋梁 collar で繋ぎAの字形に組み、それを横並べして屋根を形づくる工法(後掲の図参照)

単純な Collar-rafter roof は、一般にごく初期かあるいはごく後期につくられていると一般に考えられてきた。実際、遺構は、二つの時期に明白に分かれて存在する。先に第5章でみたように、13世紀後期から14世紀初期にかけての遺構(多くは大きな石造建物に見られるが)は、比較的幅(梁間)の狭い付属棟に多い。Crown-post roof が14世紀に一般的になり、社会的に広まるにつれ、Collar-rafter roof が姿を消していったようである。table 2 (下に再掲)で分るように、14世紀後期以降の木造建物には、この形式の事例は極めて少ない。この形式の屋根は15世紀初頭から普及しだすが、それも、16世紀に入ると、全体の四分の一にまで減ってしまう。

このような現象の理由は、Collar-rafter roof 工法とそれを用いる建物の認知度と大きく関係している。この工法は、WEALDEN 形式の家屋には全く存在しない。cross wings を持つ家屋に見られることがあるが、多くは(調査された事例の72%程度) end-jettied 形式unjettied 形式の家屋に用いられている。下に載せる fig85 に示す EAST PACKHAMOLD WELL HOUSEBETHERSDENPIMPHURST FARMHOUSE や、用途がはっきりしない建物や複合形式の建物がその例である(それには、厨房と思われる例も含まれる)。
これらの多くは、規模が小さい。下にこのシリーズ「-26」に載せた 家屋の型式別の床面積を整理した表 fig67 を再掲します。

この表で分るように、WEALDEN 形式の家屋の地上階の面積は、時代によらず平均して80㎡程度である。一方、end-jettied 形式の家屋は、1406~75年には75㎡であるが、以後は64㎡程度に低減している。けれども、Collar-rafter roof の建物は、1475年以前は平均68㎡、以降は62㎡になるなど、時期によらずほぼ一定している。
このような違いは、梁を承ける壁の高さ:桁の高さ:で比べてみても同様である。梁を承ける壁の高さ:桁の高さ:を示したのがtable 4 である(下掲)。
この表は、母屋と cross wing :付属棟とに分けているが、Collar-rafter roof の建物は、母屋では全体の61%が3m以下であり、母屋と付属棟を合わせると、Collar-rafter roof の建物の34%は(この数字がどういう算定か分りません)4mよりも低く、総じて低いと見なしてよいだろう。4mを越える例は、134例中僅か7例に過ぎない。梁を承ける壁の高さ:桁の高さが高くなると、Collar-rafter roof 形式は急減するのである。



これらの図は、建設時期が遅いほど Collar-rafter roof は小さく、丈の低い建物に使われ、建物の規模とこの最も単純な形式の屋根の間に密接な相関があることを示している。更に、この形式が14世紀後期と15世紀初頭には建設例がないのは、建物の規模が直接的に関わっていると考えてよいだろう。この形式が一旦使われなくなった後、5・60年後に再び使われだしたなどということは考えにくい。おそらく、crown post を使える余裕のある裕福な人びとにとっても、その代替工法として重用されたのではないだろうか。
つまり、おそらく、この形式の工法 :Collar-rafter roof は実用的な建物、簡単な小さな建物に使われ続けたのである。この類の建物は、15世紀項は以前までは、少しではあるが建てられ続け、それとともに、Collar-rafter roof も生き永らえたのである。
Collar-rafter roof 工法は、多分、14世紀、15世紀初期を通して途切れることなく用いられたと考えられるが、現在、その後期の事例のみが僅かに遺っているに過ぎない。
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      次回は、Collar-rafter roofs with crown struts の節の予定です。


筆者の読後の感想
二本の材を逆V形に組み合掌をつくるのは、木材で建物をつくる最も基本的で簡単な方法です。ただ、合掌の底辺:梁間:を大きくするには、材:垂木:を長く断面も太くする必要がありますが、それは、針葉樹に比べ広葉樹では至難の業です。しかし、それにあくまでもこだわる。その「熱意」はすごいと思わざるを得ません。
日本の場合、垂木だけで屋根形を構成する方法を早々とやめ、束と母屋桁が屋根の構成材の主役となります。それによって、垂木は細身で済み、屋根の形もいわば「自由」になった、と言えるかもしれません。
この彼我の「発想の転換点」が何に拠るのか、考えてみたいと思っています。

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