「日本家屋構造」の紹介-15・・・・釣束(つり づか)・敷居・鴨居の構造

2012-11-05 13:41:16 | 「日本家屋構造」の紹介


少し間遠くなりましたが、「日本家屋構造」の紹介を続けます。
今回は、開口部に必須の部材である敷居鴨居構造:つくりかたについての解説です。

日本の建物:木造軸組工法の建物では、が開口部の縦枠になり、横枠だけが後から付加されるのが普通です。
これは塗り篭めるつくり大壁づくり土蔵でも同じです。
   大壁づくり土蔵では、開口部が壁に任意に設けられているように見えますが、
   必ずを利用して設けられています。
   
こういうつくりかたは、現在は、稀有かもしれません。
その意味で、この解説は、貴重なのではないか、と思います。
   西欧の煉瓦造や石造の建物づくりでも、開口部のつくりかたは、前代の木造に倣っていると考えられます。
   つまり、基本は、日本のつくりかたと大差ありません。
   現在多くなっているつくりかたは、枠組工法:2×4工法:由来なのかもしれません。
   それが「常識」になってしまっている!!

はじめは、鴨居を釣る束:釣束(つり づか)のいろいろの構造。

第一 枠釣(わく づり)の仕口:方法。
第四十八図のは、室内の小壁(こ かべ)の釣束(つり づか)を枠釣(わく づり)とする方法の解説図。
   小壁鴨居・内法上の丈の低い壁のこと。
小屋梁の下端(の所定の位置)に、(頭枘の)枘孔を彫り、を嵌める。
そのとき、胴付(枘を設ける面)は、梁下端より1寸くらい下になるようにつくる。および枘孔も、同様に1寸くらいの逃げをとる。
胴付から3寸ほど下に(こうがい)を差し通す蟻型の孔を彫る。
   :音はケイ たばねた髪をとめ、または冠をとめるためにさすもの。かんざし:髪挿し。・・(新漢和大辞典)
     「こうがい」の読みは、髪掻(かみかき)の変化。(新明解国語辞典)
      漢字の「意」に対する日本語の「読み」と思われます。
        余談:当地の近在に「笄崎」という地名があり、未だに読みが判っていません!
一方で、2寸角程度の角材で図のように小屋梁をくるむようなをつくり、その下枠をに掛けての上部を釣り、(の下端を鴨居または無目を取付ける)。
   は、頭枘小屋梁にあけた枘孔に嵌めてあるため、平面上で所定の位置にある。
枠釣法は、万一が所定の位置より下がったとき、小屋梁の上端と横木との間にを打込んで、高さの調節ができるようにした工夫である。
   きわめて手の込んだ構造法で、実物を見たことも、もちろんこの方法を使ったことも私はありません。
図のは、釣束の上部を寄せ蟻送り蟻とも呼ぶ)として小屋梁に取付ける方法。
この場合、蟻枘の長さは2寸~3寸程度として、蟻型の根元は、図のように多少腰を上げて刻む。
の(上端ではなく)根枘につくることもある。
いずれにしても、入念な刻みが必要な方法である。
   図のように、鴨居の向きが異なる場合は、頭枘寄せ蟻による取付けはできない。
   向きが同じの場合でも、頭枘根枘とも寄せ蟻にするには、かなりの精度の高い仕事が要求される。
図のおよびは、鴨居を取付ける方法。
鴨居の上端に篠差蟻(しの さし あり)をつくり、蟻型を嵌め、傍からを打込んで固定する。
釣束鴨居無目などの横材を取付ける場合には、すべて、これらの仕口を用いるのが望ましい。
   篠差蟻無目:前回までに説明あり。
   註 図では内法貫の位置が蟻型の直ぐ上に描かれていますが、実際は、距離をとります。
      この図のとおりでは、蟻型が取れてしまいます。

次に敷居鴨居への取付け方の解説。
容量的に、一頁に敷居・鴨居ごとの解説と図をまとめることができなかったため、はじめに両者の解説、次に両者の図、のようにまとめました。読みにくいかもしれません。ご容赦!


第一 敷居に取付ける方法
第四十九図のは、敷居待枘(まち ほぞ)および横栓を取付けたときの断面図。
図のは、この断面図の上側のように取付く場合の敷居の端部のつくり、は下側のように取付く端部のつくりを示している。
図のの平面図で説明する。
取付け法-1
図のの左側の敷居の取付く面に待枘を埋め、横栓の道を彫り、敷居の端部には図ののような刻みを施す。
敷居の右側の端部に横枘をつくり、にはそのの嵌まる孔を刻む。
横枘はおおよそ5分角(図の)。
先ず、敷居の右側の横枘を嵌め、次いで左側を下して待枘に嵌め、横栓を打って固める。
   嵌め込み下す際に、右側の横枘に一定程度無理がかかる。
待枘は、高さは敷居の丈より5分短く、幅は3分程度、堅木でつくる。
   待枘雇い枘の一。後から柱に孔を穿ち取付ける。下に床板などがあることが必要。
取付け法-2
敷居下に足固め(あし がため)がある場合、両側のおよび敷居の両端に、図ののように待枘を2箇所設け、敷居を落して取付け、足固め敷居を、およそ3尺ピッチの吸付蟻(すいつき あり)で固定する。
   これは、足固めの上に敷居を載せた場合の方法。

図の下側()は、敷居の長さを正確に写し取る方法の解説図。
   これは、に大きながあったり、あるいはに図のように狂いがある場合の敷居の形状を決める方法。
先ず敷居材の側面を柱間に押し当て、敷居の上端の前面の角に、の前側の角から直角の線を引き[い][ろ]点を付ける。
次に右側のの内側の側面に曲尺を当て、敷居の上端に[は][に]の線を記し、この線に直交しかつ[い]点を通る直線を作図する。この線が、敷居の胴付:(右側の)に当たる面:を示す。
左側ののような大面を写し取るには、それぞれの面に曲尺を当て[ほ][へ]および[と][ち]の点を記し(あるいは線を引き記し)、次にの面角[り][ぬ]の距離を敷居上端に写し、[り]点を通り[へ]~[ほ]に直交する線、および[ぬ]点を通り[と]~[ち]に直交する線を引くと、各を写し取ることができる。
   要は「図学」の実践である。というより、「図学」の源は実践にあった、ということ。

第二 鴨居の取付け方
第五十図のは、片方の端部に横枘をつくり、他端は2箇所の釘彫りをしてを打つ粗末な仕口。
中央部では(小舞竹を取付ける)塗込み貫枘差しとし、それにまたは目鎹(目違い鎹)で取付ける。
   註 現在は、これよりも「粗末」なのが実際ではないでしょうか。
図のは、鴨居の一端に横枘をつくり、他端には繰出し枘(くりだし ほぞ)をつくって所定の位置に設置してを繰り出し、が抜けないようにを打つ方法。
   繰出し枘:別材でつくって嵌め込み、移動させることができる
   これもきわめて手の込んだ方法。私は見たことがありません。
図のは、鴨居大入れにする方法。
鴨居の上端に箱目違いを彫り、その木口を図の丁一のように切り落としの所定位置にその形を写し取り、一方を深さ3分、他方は一分5厘ほどの深さに彫り、遣り返しで嵌め込み、片方の上端にを打って固める。
   遣り返し:一旦、深い方の孔へ全体を入れ、次いで浅い方の孔に材を引き戻す方法。通称「行って来い」。
   きわめて精度の高い刻みが必要ですが、仕上りは逸品です。
   大入れ敷居でも可能で、そのときは、大入れの彫り込みの下端にの道をつくっておき、
   取り付け後、を打って大入れの形に密着させる方法がとられます。
   これもきわめて丁寧仕事。
図の丁二は、長押の矧ぎ付けを容易にするため丸鉋をかけた場合の断面図。
図のは、敷居引独鈷(ひき どっこ)で足固めに固定する方法を示した図。
   この図は敷居の裏面を見ている。
   引独鈷:接合する二材を、別の材:雇い材:で引きつけて接合する継手・仕口をいう。
   継手・仕口または雇い材、そのどちらも「ひきどっこ」と呼んでいます。
   独鈷:仏具の一。銅または鉄製の両端のとがった短い棒。(「新明解国語辞典」)
       建築用語は、その形状から生まれたのでしょう。
図のは、引独鈷の姿。
敷居下の足固め下端で引独鈷鼻栓を打って敷居の位置を固定する。
   これも丁寧な仕事です。
   足固めがないときは、根太掛などの横材が代用されます。

   ここに紹介されている方法は、鴨居の取付け方の冒頭で「普通の粗末なる仕口」と述べられている方法でさえ、
   現在では見かけなくなっているように思えます。
   今では、それが丁寧な仕事と言われかねない・・・。
   残念ながら、木ねじ、ビスの類にたよって、突き付けでおしまい、などという
   日曜大工なみの仕事がまかり通っているのではないでしょうか。
   そのため、乾燥材、人工乾燥・・・などと騒ぐのかもしれませんね。
   ここで紹介されている方法は、どれも、木材の特徴に習熟して工夫された方法と言えるでしょう。

今回はここまでにします。
次回は、長押の取付けの解説になります。
           
コメント (3)
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