私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ハネケの<白いリボン>

2011-03-09 11:18:16 | 日記・エッセイ・コラム
 昨年の暮れ、私のブログを読んで下さったウイーン在住の近藤英一郎という方から、次のようなコメントを頂きました。:
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もしお時間がお有りでしたら、ミヒャエル-ハネケの<白いリボン>という映画をご覧になって下さい。
ハネケは、昨今のオーストリアが誇れる唯一の人物です。
日本で上映中のようなことを耳に挟みましたので。
16年間中欧で暮らして、ヨーロッパ人(様々な階層の)の、芯部底部にたびたび触れ、その時の、何ともいえないザラッとしたグロテスクな感触がそのまま描かれているので、心底、驚愕しました。
日本の能の様な印象でした。

映画がお好きのようですので、お知らせ致しました。

佳き新年を
近藤英一郎(在ウィーン)
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 映画<白いリボン>が2月末から一週間福岡でも上映されましたので観に行ってきました。
 この黒白の映画から受けた印象は大変つよく重いもので、ここでうまく要約して報告することは出来ません。これから長い間こころの中で反芻を続けることになると思います。人間が他の人間に対して如何に残酷でありうるか、何故これほどまで執拗に残忍であり得るか、その行為はどのような契機で触発されるか、この映画を観た人は、自分の胸の奥深くで、こうした問いに苛まれ続けることになります。
 映画を観た直後の日曜の夜、NHKの大河ドラマ「江(ごう)」を観ながら、しきりに<白いリボン>のことを想っていました。この大河ドラマをつくっている人たちとハネケとの間には気の遠くなるような距離があります。単なるエンターテインメントと真の芸術の差だと言ってしまえばそれまでですが、NHKのドラマの非戦反戦のメッセージの嘔吐を誘う浅薄さを私は嫌悪します。この粗雑なフィクションで我々視聴者をマニピュレート出来ると考えるほど、このドラマの制作者たちは我々一般日本人を馬鹿にしているのでしょうか。映画<白いリボン>でハネケはナチズムの発祥基盤の問題を意識していたという解釈は可能でしょうが、そうであるにしても、ハネケのメッセージの重さと真摯さには我々ひとりひとりの魂を真っ向から打ち据えてくるものがあります。少しふざけた物言いを許して頂くとすれば、男女同権、反戦平和と言ったお馴染みのお題目についても、<白いリボン>の方が「江(ごう)」より百倍も有効なプロモーション効果を発揮するに違いありません。

藤永 茂 (2011年3月9日)



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