私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

正気(sanity)

2015-07-29 22:14:23 | 日記・エッセイ・コラム
 シリアがいよいよひどいことになって来ました。「アラブの春」なるものの虚偽性ここに極まれり――ここに露呈しているのは、dirty な血にまみれた巨大な毒牙です。すでに20万を超える市民の死者たちの棺に、そして、束の間、私たちの耳にも達したロジャバ革命の正気(sanity)の声に、挽歌を捧げる時が近づいているのかも知れません。
 私はSANE という言葉が好きです。今年の2月、『ロジャバ革命』についてブログ記事を書きました。シリア北部のトルコとの国境地帯で、クルド男女の戦士たちが命をかけて建設しようとしている新しい社会、新しい世界の正気(sanity)の度合いを端的に示す立派な憲法がすでに宣言布告されています。正確には憲法草案と見るべきものでしょうが、英訳版は普通の文面で20ページほどの長さ、95の条文から成っています。その「前文」を以下に再録しますので読んでください。これは前文だけです。

http://civiroglu.net/the-constitution-of-the-rojava-cantons/

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The Constitution of the Rojava Cantons

Preamble

We, the people of the Democratic Autonomous Regions of Afrin, Jazira and Kobane, a confederation of Kurds, Arabs, Syrics, Arameans, Turkmen, Armenians and Chechens, freely and solemnly declare and establish this Charter.

In pursuit of freedom, justice, dignity and democracy and led by principles of equality and environmental sustainability, the Charter proclaims a new social contract, based upon mutual and peaceful coexistence and understanding between all strands of society. It protects fundamental human rights and liberties and reaffirms the peoples’ right to self-determination.

Under the Charter, we, the people of the Autonomous Regions, unite in the spirit of reconciliation, pluralism and democratic participation so that all may express themselves freely in public life. In building a society free from authoritarianism, militarism, centralism and the intervention of religious authority in public affairs, the Charter recognizes Syria’s territorial integrity and aspires to maintain domestic and international peace.

In establishing this Charter, we declare a political system and civil administration founded upon a social contract that reconciles the rich mosaic of Syria through a transitional phase from dictatorship, civil war and destruction, to a new democratic society where civic life and social justice are preserved.

ロジャバ諸県の憲法

前文

我々、クルド人、アラブ人、シリア人、アラム人、トルコ人、アルメニア人、チェチェン人の連合体である、アフリン、ジャジーラ、コバネ三県の民主的自治区の人民は、率直かつ厳粛にこの憲章を宣言し、制定する。

自由、正義、尊厳、そして民主主義を求め、平等と環境的持続可能性の原理に導かれて、この憲章は、お互いの平和な共存と社会のすべての要素の間の理解に基づく新しい社会契約を宣言する。それは基本的人権と自由を擁護し、人民の自決の権利をあらためて確認する。

この憲章の下、我々この自治区の人民は、すべての人々が公共生活で自由に自己表現できるように、和解、多元的共存、民主的参加の精神で一致団結する。権威独裁主義、軍事主義、中央集権、公事への宗教的権威の干渉から自由な社会を建設するために、この憲章はシリアの領土的一体性を認め、国内的また国際的平和を維持することを強く願うものである。

この憲章を制定するにあたって、我々は、独裁政治、内戦、破壊から、市民生活と社会正義が保護される新しい民主的社会への遷移の局面を経て、シリアの豊かなモザイックを調和させる社会契約に基づいた政治的システムと市民行政を布告する。

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 ロジャバ革命の実現を目指す人々(その数を百万と見積もっておきます)と、米国もトルコも打倒したがっているアサド大統領のシリア現政府との関係は別に論じなければなりませんが、上の憲法前文から察せられることは、アサド大統領が、シリア全土の混乱崩壊よりは、ロジャバ地域の住民に対してこの憲法が求める形態の自治を許す立場を取っていることです。
 この憲法前文に息づいている人間の正気(sanity)を私は大変美しものとして感じます。シリアに関連して、類似の正気の文章を別のところでも見つけました。
 去る7月19日、シリア団結連帯運動(Syria Solidarity Movement)という運動団体のパレスチナ人たちがシリア戦争についての一つの声明を発表しました。私は、この声明文にも、同じような正気が息づいているのを感じました。その冒頭の部分を訳出します。出来れば全文を読んでください。

http://dissidentvoice.org/2015/07/statement-of-palestinians-about-the-global-war-on-syria/
原文は
http://www.syriasolidaritymovement.org/2015/07/22/statement-of-palestinian-groups-and-individuals-in-the-occupied-homeland-refugee-camps-and-the-diaspora-about-the-global-war-on-syria/
にあります。
 この運動団体は、明らかにアサドのシリア政府の情宣活動の一端を担う団体であり、声明文はプロパガンダの要素を含んではいるでしょうが、事態を見据える目の確かさと非条理に立ち向かう静謐な戦意はパレスチナ人の正気の発露です。

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We are Palestinians and Palestinian organizations that declare our solidarity with the Syrian people in their historic struggle for survival, now in its fifth year. We are in a unique position to understand and appreciate the challenges facing our Syrian brothers and sisters, because we face the same challenges.

We understand what it means to have our lands and our property taken by foreign usurpers. We understand what it means for millions of our people to be driven out of their homes and to be unable to return. We understand what it means for our interests and our national rights to become the plaything of the most powerful nations on earth. We understand what it means to suffer and die in defense of our sovereignty and human rights.

「我々は、今や5年目に入った、生き残りを賭けた彼らの歴史的闘争の只中にあるシリアの人々との団結連帯を宣言するパレスチナ人とパレスチナ人組織体である。我々は、シリアの兄弟姉妹たちが直面している諸々のチャレンジを理解し認識する格別の位置にある。何故ならば、我々は同じチャレンジに直面しているからだ。

我々には、外からやってきた強奪者たちに我らの土地と我らの所有物を強奪されることが何を意味するかがよく分かる。我々には、何百万という同胞が、彼らの住処から追い出され、帰ってくることが出来ないということが何を意味するかがよく分かる。我々には、我らの権益と我が国の国家的権利がこの世で最も強大な国々の遊戯道具になることが何を意味するかがよく分かる。我々には、我らの国家主権と人権を擁護するために苦難を受け、生を捧げることが何を意味するかがよく分かるのだ。」
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 先週以来、トルコの対「イスラム国」政策の“方向転換”が日本のマスメディアを(も)賑わせていますが、連日の記事を読んでも、何が起こっているのか、一般読者には分からないでしょう。理由は簡単明白です。「イスラム国」の兵士たちが、米欧の、そして、トルコの、アサド政権打倒のための傭兵であるという事実をマスメディアがあくまで伏せるからです。クルド人の正気、パレスチナ人の正気、シリア人の正気の声を扼殺しようとしている凶暴な力こそ、狂気(insanity)そのものです。伝えられる所では、トルコと米国は28日までに、シリア北部のトルコ国境沿い約100キロにわたり安全地帯を設ける計画で大筋合意。これを狂気の沙汰と言うべきか、あるいは、冷酷残忍にして巧妙無比の計算と呼ぶべきか――これは次回に考えます。

藤永 茂 (2015年7月29日)

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3 コメント

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クルド (鈴木元)
2015-07-30 18:24:14
シリア北部のクルドとイラク北部のクルドをはっきり区別する必要があると思います。文脈から今回の記事では、「クルド」はシリア北部のクルドを意味している事は、明白ですが。
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「ポスト安倍総選挙」 (通りがけ)
2015-08-04 20:50:11
「エスカレーターで歩かないバカ者ども」nueq labさんへ投稿
http://nueq.exblog.jp/20276833/

さて、安倍とオバマが共同声明を出したことでわかるように、安倍はすでに吉田茂が世界の目を盗んで結んだ日米安保密約とまったく同じやり方で日米TPP密約にひそかに署名調印しています。なぜわかるかというと、日本のテレビは120%嘘八百しか放送しないから、交渉不調と報道すれば実は日米が合意したというのが真実なのです。簡単でしょ。
これで安倍晋三の役目はすべて終わったので、すぐに内閣総辞職衆参同時総選挙が行われます。
ここでイスラエル直轄スパイ総務省内乱罪憲法破壊テロ選挙でイスラエル悪魔王が総理に選出するのは橋下徹です。多くの小政党が乱立する大混戦を演出して、僅差で衆議院議員に出馬した橋下徹を党首とする維新の党が第一党になる猿芝居が予定されています。
この選挙で必ずイスラエルスパイ日本政府総務省はムサシとNHKを大車輪でフル回転させてきます。NHK解体はもう時間不足で間に合わないから、今度の選挙ではムサシを集中的に攻撃して使用不能にする作戦が良いでしょう。
そこでムサシを現場の選管が今後使えなくするために「幸せの和」を日本中に拡散しましょう。
http://image52.bannch.com/bbs/787532/img/0262596974.pdf
日本国憲法前文「正当な選挙」の具体的実施方法が詳しく書いてあります。これでフリーメーソンスパイ日本政府を完膚なきまでに叩いてこの地球から消滅させることができます。「神童の国」の日本人ならこどもでも幸せの和を見れば即座にこの世の悪魔イスラエル武器商人フリーメーソンを宇宙の外へ追い出すことができるのです。

「日本国憲法の正当な選挙」
http://08120715.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-d332.html

日本国総務省選管が所轄するすべての公職選挙住民国民投票審査の投票場で、日本国憲法主権者国民のあなたの投じた「大切な一票」を、選管の役人と公務員が徒に損なわないように監視する方法が書いてあります。今後すべての投票権の行使を行う機会には、投票場へこの文書または最後に記載した参考文書「幸せの和」pdfを印刷してご持参になって、公明正大な日本国民であるあなた様の清き一票の投票という日本国最強の国民主権の行使を済ませておいでください。
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 日本国憲法前文「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、」にある通り、日本国憲法国民主権の根幹は公正で不正のない国会議員選挙である。

 しかるに2012年12月16日衆議院選挙は総務省選管と総務省NHK共犯で不正な選挙管理が行われた日本国憲法違反の重大刑事犯罪内乱罪選挙であった。

 日本国憲法を誠実に遵守する我々国民は憲法が主権者国民に保障する基本的人権直接参政権を行使してすべての公職選挙を以下の如く監視し選管行政執行において日本国公務員による違憲な犯罪不正行為がないよう投開票場現場で日本国君主である国民が下僕公務員を直接監視監督監査する。

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◎2012年12.16投票場の鉛筆は選管の投票妨害という憲法違反犯行だった。 鉛筆文字は最高のセキュリティロックがかかった公文書投票用紙には不適切の極致である。選管に鉛筆記入強要犯罪を止めさせてすべての投票場に油性(ボール)ペンを用意させよ。

◎期日前投票箱は期間中午後8時から翌朝8時まで指紋認証電子ロックで封印して所轄警察署長室金庫に保管せよ。投票日には夜8時まで警察で保管すること。

◎開票仕分け計数機の導入は総務省の随意契約談合公金横領汚職犯罪であるから選挙での計数機使用を違法行為として厳禁し、もし各地選管で開票仕分けにムサシ等の票自動仕分け機械を使用すれば総務省の憲法違反と汚職を現行犯で警察へ告発する。

◎仮に開票仕分け機を使用したならば、必ず公務員の手作業で機械仕分け後の全票目視確認検査を立会人の監視ビデオ全録画のもとで公明正大に行え。 この全票手作業目視検査票最終確認を省略すればただちに当該開票場の憲法99条違反選挙妨害罪公務員全員を刑訴法現行犯逮捕し、主権者国民が直接参政権を行使してすべての開票目視検票確認作業をDVD全録画記録のもとに現場で警官へ命じて緊急代行させる。

◎投票および開票は同一会場で市民の立ち会い監視全経過ビデオ記録のもとに各会場毎すべて公務員の手作業で行え。

◎各開票所の集計結果を中央選管にファックス送信して中央で全体集計し開票率100%で初めて当選者確定発表せよ。 全開票終了当選確定前の途中経過情報には厳重な公務員守秘義務がかかっていることをすべての日本国公務員は忘れるべからず。

◎臆測流布(風評被害)当確速報報道を全テレビ局に対して絶対禁止とし、抜け駆け当確速報報道があればそれは中央選管公務員守秘義務違反リーク犯行の証明である。その場合直ちに全集計場で開票作業停止中断、それまでの集計結果を破棄し、全開票場で最初から全票公開手作業で徹夜で再計数とする。違法な当確速報したテレビ局は守秘義務違反の刑事犯罪で逮捕し、即座に放送免許取消処分に付す。

◎各投開票場で投票時間の恣意的な短縮又は場外に投票者の列があるのに定刻で投票場を閉鎖すれば、公僕公務員による主権者国民に対する日本国最強の主権行使である投票行為を妨害する憲法99条違反犯罪(内乱罪)であるから、妨害行為を行った公務員を全員現行犯逮捕したうえですべての来場主権者国民に憲法主権の行使である投票行為を時間延長を行っても完全に完了せしめよ。これが一票の重みの平等である。

◎国政選挙国民審査実施においては選管はすべての投票用紙に不正流用防止のため日本銀行券と同様に1番から2億番までの機械読み取り通し番号を印刷しなければ、偽札作りと同等の内乱罪である。必ず通し番号印刷せよ。通し番号シリアル番号印刷の無い投票用紙は無効であり、それを用いた選管は全員内乱罪で逮捕し、すべての選挙はやり直しとする。

≪憲法99条違反内乱罪選管NHK共犯不正選出憲法違反外患誘致罪国賊総理安倍を憲法70条懲戒罷免せよ!≫
≪99条違反内乱罪選管1216同日最高裁裁判官国民審査も不正審査である。直ちに再審査せよ!≫
≪最高裁裁判官国民審査の投票において主権者国民はすべての裁判官を油性ペンでオール×印記入し全員不信任懲戒審査全員罷免せよ!≫

以上、日本国君主主権者勤労納税国民が直接参政権を行使してすべての日本国公務員公僕に対し、選挙で上記の日本国憲法違反内乱罪を塵ひとつも起こさぬよう厳重に警告する。

---附記:日本国憲法第10章 最高法規---

第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

第98条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
 2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。


以上、出典元は幸せの和FAXを参考にした。
http://image52.bannch.com/bbs/787532/img/0262596974.pdf
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「最後の希望」は継承できるのか (Hitoshi Yokoo)
2015-08-04 22:44:55
クルド労働者党の指導者が、サパテイスタの影響を受けていることは、このブログで初めて教えられました。クルド労働者党に関してはまるで知りませんが、サパテイスタについては、太田昌国さんの書物等から情報を得ていました。

サパテイスタ運動は、すでに二昔以上前、ソ連、東欧圏の崩壊後に社会変革運動の「最後の希望」として世界の注目を集め、インターネットを駆使して国家の暴力を未然に防ぐ戦術は、おおいに称賛されたと記憶します。

けれども、サパテイスタ運動の本質は、そのような技術的レベルに止まるのではなく、旧来の左翼前衛党観に対して根本から変更を迫ったところにあったのではないでしょうか。

都会育ちの学生左翼10名ほどが、チアパス州の山中深く分け入り、農業を営む先住民と生活を10年ほど共にしたそうですが、その蓄積こそがサパテイスタ運動の質を形成したと云えます。

「教育者が、教育されなければならない」とは若きマルクスの言葉ですが、マルクスの場合は言葉だけ、サパテイスタの連中は、ラデイカルにその言葉を生き抜いたのではないでしょうか。

都会育ちの若者が山中で生きていくことは、表層的イデオロギー以前の問題で、その過程において、若者達は、衣食住全てに関して先住民から学びそして甘え、生きていくしかなかったと云えます。「甘える」ことは悪いことではありません。相手が「主」で自らを「従」とした関係であり、教えられ学ぶ姿勢と同じだと思います。

私がサパテイスタ運動に感じることは、マルコス副司令官等の指導部は、先住民達に完全に急所を握られているということです。レーニン風の完全無欠の前衛党が無知な大衆を指導するという旧来の社会変革運動は、負の遺産しか残さなかったが、サパテイスタ運動は何か違う、それが「最後の希望」と云われた所以でしょう。レーニン主義が父性的前衛主義なら、サパテイスタは母性的前衛主義だと、私は勝手に命名しています。

NAFTA(北米自由貿易協定)へのメキシコ参加を巡り、国内の農業が壊滅的打撃を受けることへの危機感から、サパテイスタは武装蜂起に至りますが、それも先住民達からの突き上げによってのことです。

見た目には頼り無げに映りますが、サパテイスタはやはり「最後の希望」だと思います。あの狂気染みた「輝ける道」等とは、根本的に違う、他者との関係の仕方がまるで違う、「従者の革命」とでも呼ぶほか無いのがサパテイスタ運動だと思います。

このような運動の質を継承するのは大困難なことだと思います。
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