私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

操り人形の間の諍いもパペット・ショーの内

2012-02-29 09:54:50 | 日記・エッセイ・コラム
 別の話題を用意していたのですが、2012年2月28日の朝日新聞朝刊の国際関係記事のページに興味深い記事が3つ出ていましたので、急にそちらに切り替えます。
<第1の記事>「米系NGO43人「陰謀」問われ法廷へ」
■ カイロの裁判所で、米系などの非政府組織(NGO)が正規の組織登録を行わず、不正に国外から資金を受け取ったなどとして米国人職員ら43人が起訴された刑事裁判の公判が始まった。米政府は強く反発しており、対エジプト援助を打ち切る可能性も出て来た。・・・・・ ■
私たちはこの記事から何を読み取ればよいのでしょうか? 私は次のように読みます。:「エジプトの春のパペット・ショーの舞台の上で2つの操り人形が勝手にあらがっているように見えるが、勿論、ショーの全体が人形遣いアメリカの演出である。」そしてこのショーの本当の狙いは、エジプトの革命が本当の民主革命になることを阻止することです。ですから、「米政府は強く反発しており、対エジプト援助を打ち切る可能性も出て来た。」というのは誤った観測です。カイロの特派員さんも多分それをご存じでしょう。
 エジプトの軍事政権が17のNGO事務所を閉鎖したのは昨年末の12月27日のことで、その中には、IRI(American International Republican Institute)とNDI(National Democratic Institute) というアメリカの2大政党の直々の出店のような有力NGOsも含まれていて、これらのNGOにはNED(National Endowment for Democracy)というアメリカの名うての資金源(アメリカ政府の機関と考えてよい)などから、昨年度中に数億ドルにのぼる資金が与えられたと考えられます。一方、オバマ大統領はNGOへの援助金の数倍にあたる軍事援助をエジプトの軍事政権に与えて、武器を売り込み、上空飛行権を確保していて、2月中旬にはこうした軍事援助の続行を議会に要請しました。アメリカ政府が目指しているのは、シリアとイランへの攻撃陣を固める一方、全面的な人民革命を実は望まない中流階級の“進歩的分子”を適当に操って、アメリカが世界の民主主義の守護神であるかのような虚像を保存することなのです。二つの操り人形の間のちょっとした諍いはそのための演出だと思われます。現地特派員も含めて、エジプトに詳しい人々も、おおよその所、私と同様の意見だろうと推測します。ただ、色々の理由から本当のことが言えないのでしょう。万一そうでなくとも、誰もが認めざるを得ない事実がここに露呈したことは否定できません。それは世界中でうごめく有力NGOs の殆どは極めて政治的なアニマルだということです。今度のエジプトでのゴタゴタは、専門家は先刻ご承知であったにしても、われわれ一般庶民には必ずしも見えてなかった有力NGOなるものの実像をはっきり示してくれました。この事実を踏まえた上でシリアやバーレーン情勢を見つめていなければなりません。
<第2の記事>「新憲法案承認賛成票は89%」
■ シリア国営テレビは27日、シリアで26日に行われた国民投票で、限定的な民主化を含む新憲法案が89%の賛成を得て承認されたと伝えた。投票率は57%。・・・■
この記事で面白いのは国民投票がインチキだったと書いてないことです。現地の状況から判断して、そうは書けなかったのでしょう。この高い賛成率は、シリアの現政権を国民が支持していることの表れです。報道者はこのくらいのコメントを付けたらよいのではと私は思います。朝日の同じ国際記事のページにロシアのプーチン首相が、シリアについては「リビアのシナリオは容認できない」と発言し、リビアについては「一連の国は人道の名の下に空爆でリビア体制を清算した。中世ですらない原始的な醜い舞台のようだ」と批判したと報じられています。この「醜い舞台」という表現、私も全く同感です。人道主義と民主主義の偽りの旗のもとで、リビアという一つの国が壊されてしまいました。シリアで同じことが起ってはなりません。
<第3の記事>「ポルトープランス(ハイチ) 大統領の食事は機密?」
これは、国連安全保障理事会の理事国大使たちに随行した朝日新聞の特派員がハイチのマーテリー大統領主催の晩餐会で経験した事の報告です。
■ 大統領を警護する黒人男性に、カメラをわしづかみにされた。「フォト!」。写真をみせろということらしい。・・・ 写真を見せろと迫られたのは、撮影直後のことだ。戸惑いながら写真を見せると、マーテリー氏がライス米大使の横でサンドウィッチをほお張る写真2枚を、今この場で削除するようにもとめられた。・・・ ハイチでは国民の大多数が貧困にあえぎ、一昨年の大震災の被災者50万人以上が今もテントなどで暮らす。政府関係者は「大統領は食事の様子を国民に見られるのが嫌だった」と明かす。だったら、カメラの前で食べなければよかったのに。・・・ ■
特派員さんには悪いけれど、何と間抜けた記事でしょう。大統領がサンドウィッチを食べたのがまずかったのではありません。ライスと一緒だったのがまずかったのです。(このジョーク分かっていただけますか?)なんぼ貧困にあえいでいるにしても、大統領がサンドウィッチをほお張ることにめくじらを立てるほどハイチ人は馬鹿ではありません。問題は黒人女性スーザン・ライス米国国連大使と談笑していた事でしょう。抑圧された貧困大衆は国連治安維持軍をその本質どおりに「占領軍」と呼んでいます。「占領軍出て行け」という叫びは貧困大衆の胸中に鬱屈しています。もう一つの可能性は、マーテリーとライスの背後に老凶悪犯デュヴァリエの姿を偶然カメラが捉えていたかもしれないことです。私はその晩餐会に誰が出席していたかが最大の報道のポイントであったと思います。クリントンは勿論いたでしょうが、その右腕のファーマーはいたのか?デュヴァリエは?アリスティドは?そして、これは間違いなく記録できた筈ですが、ハイチを支配している黒人の超寡頭支配階級の有力者の顔ぶれこそ報道価値の高いアイテムであった筈です。

藤永 茂   (2012年2月29日)



最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
メディアの報道の裏にある真相を、読まなければい... (kenshin)
2012-03-02 13:09:57
メディアの報道の裏にある真相を、読まなければいけないのですね。
まずは、USAの行なうことは全て疑うことですね、そして、裏にある意図を読まなければいけないのですね。そうすると、つじつまの合うことに遭遇する。悪魔の意志が見えてくるのですね。
返信する

コメントを投稿