私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

どっちになっても同じ事

2020-11-01 23:56:29 | 日記・エッセイ・コラム

 トランプが勝つかバイデンが勝つか??!!?? 世界中のマスコミは大騒ぎです。しかし、何も変わりはしないでしょう。アメリカは、一番基本的なレベルでは、何も変わらないでしょう。BUSINESS AS USUAL のままでしょう。

 いま手許に1972年発行の週刊朝日編集部編『1945~1971  アメリカとの26年』(新評社)という500ページを超える大冊の本があります。ずっしりとした読み応えのある書物です。週刊朝日前編集長小松恒夫氏の「あとがき」に

「この本の主な内容は「日本とアメリカ この25年」と題して、週刊朝日1969年11月28日号から70年11月20日号まで連載されました。期間にすれば満一年、52週ですが、その間に年末年始の特集企画が入り込んだり、赤軍派によるハイジャックなどの大事件が起こったりしたため、しばしば休載を余儀なくされ、結局掲載回数は通算38に止まりました。この本はその38回全編に70年末、新年号特集企画のため渡米した記者の現地ルポ「アメリカに吹き始めた『新しい風』」(71年1月8日号掲載)を加えて構成されてものです。・・・・・・ 」

とあります。上の現地ルポを書いたのは千本 健一郎(せんぼん けんいちろう、1935年10月26日 - )氏、私は、1968年にカナダに移住した後も『朝日ジャーナル』を定期購読していたので懐かしい名前です。現地ルポは45ページにわたる長編。冒頭は太字で

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アメリカの「新しい風(ニュー・ウィンド)」は西から吹く、といわれる。特有の突き抜けるような青空と、眩しいほどの陽の輝きが、新しい変化をふくらます酵母(イースト)なのだ、ともいう。

 そしていま、この「波乱ふくみの土地(イースティ・ランド)」を吹き抜けるのは、若ものたちの「革命(レボリューション)」のざわめきを乗せた新しい風だ。西海岸から東海岸まで、自信にみちた既成の「アメリカ」が、「新種(ニュー・ブリード)」を自認する新しい世代から、かつて経験したことのない挑戦を受け始めたのだ。

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と始まります。

 ロサンゼルスで乗ったタクシーの若い運転手が元気よく千本 健一郎さんに話しかけてきます:「民主党も共和党も、企業の操り人形だ・・・ 今のアメリカは、1930年代のヨーロッパと同じような危機をむかえている。・・・・」

千本さんの目には、運転手席の横にあるナチスのカギ十字のついた「第三帝国の興亡」という分厚い本が飛び込んできます。

その頃のカリフォルニアのこと、アメリカの若者たちの事なら、私もよく憶えています。刺激に満ちた筆致の長いアメリカ現地ルポを千本さんは次のように結んでいます:

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 さて、アメリカはどこへ行くのか。

「影が現実になる時代が始まった」という指摘がある。これまで、影に隠れていた部分がアメリカの歴史の本舞台で自己を主張しはじめる時代がきているというのだ。

 リベラルは「未来はない」といい、ビューティフル・アメリカンは「オレが未来だ」という。

 果たして、どこにアメリカの未来はあるのだろう。

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 この本の帯は大新聞各紙から絶賛を受けたとありますが、今日でもその内容の価値は些かも落ちていません。広く再読に値します。いま再読して、私たちを驚かせるのは、「アメリカは何も変わらないままで今日まで来た」という事です。千本さんは「果たして、どこにアメリカの未来はあるのだろう」と結語していますが、この50年前の優れたアメリカ現地ルポからの印象は「そのうちに何かが起こる」というものであったのは間違いのないところです。確かに、マスコミで騒がれるような事件は、1970年から2020年の今日まで、無数に起こりました。しかし、『1945~1971  アメリカとの26年』を真剣に読み、現在のアメリカを凝視する人間は、この戦後75年間にアメリカは何も変わっていないと結論せざるを得ません。「果たして、どこにアメリカの未来はあるのだろう」という問いに対しては「今のままのアメリカに未来はない。未来が欲しければ、一つの普通の国になることだ」と答えたいと思います。

 2年ほど前に亡くなったウィリアム・ブルム(William Blum)という賢人がいます。この人の著書に

があり、最近また関連の記事が出て、1945年終戦以来アメリカが世界で行ってきたことに関心を向けることを勧めています。

https://zcomm.org/znetarticle/the-united-states-government-is-the-biggest-criminal-organisation-in-the-world

 

参考までに、引いてある表を一つ引用します。アメリカの国際的犯罪行為が、戦後の75年間、如何に一貫しているかを見て下さい。アメリカは国の内外で何も変わっていないのです:  

William Blum was an employee of the US state department who became aware of the scale of US crimes abroad and decided to document them. His book, Rogue State, is one of the best beginner’s guides to understanding what really goes on in the world. The following list is an updated version of his analysis of the US government’s most serious crimes.

Table 1: US Military and CIA Interventions since World War 2

China 1945–51 Korea 1945–53 The Phillippines 1945–53; 1970s -90s
Marshall Islands 1946–58 France 1947 Italy 1947–70s Greece 1947–49; 1967–74
Albania 1949–53; 1991–92 Eastern Europe 1948–56
Soviet Union Late 1940s – 60s Germany 1950s Iran 1953
British Guyana 1953–64 Guatemala 1953–90s
Costa Rica Mid 1950s; 1970–71 Syria 1956–57; 2011 — present
Middle East 1956–58 Indonesia 1957–58; 1965 East Timor 1975–99
Western Europe 1950s and 1960s Italy 1950s — 70s
Vietnam 1950–73 Cambodia 1955–73 Laos 1957–73
Iraq 1958–63; 1972–75; 1991 — present Cuba 1959 — present
Haiti 1959; 1987–2004 France/Algeria 1960s South Africa 1960’s — 80s
Diego Garcia 1960s — present Ecuador 1960–63; 2000
Congo/Zaire1960–65; 77–78 Brazil 1961–64 Peru 1965
Dominican Republic 1963–65 Chile 1964–73 Bolivia 1964–75
Thailand 1965–73 Ghana 1966 Uruguay 1969–72 Panama 1969–91
Australia 1972–75 Portugal 1974–76 Angola 1975-80s
Jamaica 1976 Seychelles 1979–81 Grenada 1979–83
Yemen 1979–84; 2015 — present Nicaragua 1979–90
Afghanistan 1979–92; 2001 — present South Korea 1980
Honduras 1980s; 2009 El Salvador 1980–92 Chad 1981–82
Libya 1981–89; 2011 — present Suriname 1982-84 Morocco 1983 Fiji 1987 Bulgaria 1990–91
Columbia 1990s — present Somalia 1993
Yugoslavia 1991–99 Venezuela 2001–04

 

藤永茂(2020年11月1日)