陽だまりの旅路イスキア

あ、slice of life…日向香を感じる日々の暮らし…

六月の子規庵

2019年06月18日 | slow journey

山手線鶯谷駅で降りて根岸へと向かう。
この鶯谷駅を降りたのは初めてである。
山手線の中では一番乗降客数が少ない駅と
何かに書いてあったような気がする。
駅前のマック(関西ではマクドだが)で
時間調整を兼ねてコーヒーブレイク。

鶯谷駅から根岸方面へ歩く。
しばらく行くとラブホテル街に入った。
こういう風景、わたし結構好きである。
整然としている街は好きじゃない。
ていうか全然つまらない。欲望と混沌こそが
街の表情を創ると私は思ってる派である。
上澄みだけを掬ったような街に魅力はない。

“休憩〇〇円、泊り〇〇円~”、
嗚呼!あの時代は「♨」マークと言ったっけ。
辺りを窺いながら彼女の肩を抱きつつ一気に入る。
あの我が青春は一体どこへ消えちまったんだろう!
初老の諦念という寂寥感がちくりと心を刺す。

そのホテル街を抜けた先に件の子規庵はあった。

「たのもう!」ではないが、玄関で声を掛けて
木戸銭?を払いあがり込む。やっと来たぞ!
俳人にとってはここは歌枕ならぬ俳枕の地だ。
一度は訪ねておかねばならぬ地である。
開館時間すぐだったので、来庵者は私たちと
もうひとり旅の初老の方だけであった。

子規の病臥の間から庭を眺めてみる。
へちま棚はまだ茂ってはいなかったが
ここから子規は何を思い考えていたのだろう。
愛用の文机にも座ってみた。
膝が立てられるよう、机の一画は
四角く切り取られていた。膝を入れてみる。

座机の正面に庭の全景を眺めた。
茂りの庭にはほつほつと十薬の花、そして
一叢の未央柳が明るく咲き揃っていた。

しばし子規のこと、そしてかつて
ここで繰り広げられた句会の様子などに
思いを馳せる。投句も終えて
子規庵を後にした我々は、例えて云うなら
なんか忘れ物をやっと取り戻したような
そんな安堵感に包まれていた。

すこし雨が降ってきたようである。
根岸を濡らす六月の雨。濡れながら
私たちはかつて子規も食したという
老舗の料理屋へと下町の路地を抜けた。

■子規庵
東京都台東区根岸2-5-11
10:30~16:00

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