鳥取は不思議である。
日中、駅前には
あまり人通りを見かけないなあ
と思っていたら、日が暮れると
酒場には人がいっぱい居る。
鳥取の夜だ。
いろいろ調べて決めた店に
当日、電話したら
あいにく満席だとのこと。
鳥取ってそんなに混んでいるのか?
失礼な物言いだが
正直…びっくりも甘かったという思い。
しかし、そう言われると
何としてでも行きたくなった。
それが酒飲みの習性というか
機微というものだ。(そうかいな?)
仕方なくチェーン展開の居酒屋で
腹ごしらえを兼ねて時間を潰してから
(なんとここもすでに満員に近かった)
八時過ぎに今度は直接訪ねてみた。
繁華街から少し離れた所で
民家もある暗い商店街あたり…。
ちょっと探したが、何とか
目的の看板を遠目に見つける。
まさに名店は隠れた所にありの風情。
なんかわくわく。
扉を開けた!するといっせいに
カウンターに居並ぶ先客の視線が飛び込む。
しかし店主らしき人物がいない。
どうしてよいものか、しばし
その場で所在なげに立ち尽くしていたら
常連客らしきお客さんが
「どうぞどうぞ」と私たちを促してくれた。
ほっとして空いてるカウンターに座る。
ほどなくして、ここの
女将さんらしき割烹着のおばちゃんと
息子らしき若いお兄ちゃんが現れた。
「一度電話したんですが…。」
「あぁ。あのお客さんね。」
電話した客だということは
今、ここにいる皆の周知事項となっていた。
それほどアットホームな店だったのだ。
恐いもの知らずとはこのことか?
ここは地元の常連さん店である。
店のある場所柄からしてそうだろう。
みんな楽しくお酒と料理と会話を
思い思いに楽しんでいるように見えた。
かといってイチゲンのよそ者を
疎んじるような閉鎖的な雰囲気は
店側にも客側にも感じられなかった。
一言で言えば
とても居心地がよさそうな店である。
何よりぱっと入って感じる空気がいい。
きっとこの店はこれまでの歴史の中で
店主の思いを理解した客だけが淘汰され
その客たちがこの店を店主と共に
育んできたのだろうと思わせる店だった。
お客のクオリティがいい。
数少ない私の経験でも
こういう店は間違いなく一級の店だ。
そして品書きを見て、注文し
供されたものを見て、味わい
それは確信に変わったのである。
魚もん、鍋もん、野菜もん
肉もん、地どりもん…とあった品書き。
“何とかもん”
という言い方は、わたし好みである。
「今日の焼きもん、何?」なんてよく使う。
もう腹が脹れているので、残念だが
あまりかさばるものは食べられない。
魚もんから干ハタを頼む。
350円は安いなあと思ったいたら
出てきたものを見てさらにびっくり。
ひい、ふう、みい…小ぶりとは言え
なんと七匹もついているではないか。
これは食べ応えがあるなあ。
鍋もんからは湯どうふを。
これは380円也。
ここなら刺身もさぞ値打ちだろうなあ。
酒が入って心地よくなってきた頃
カウンター隣の常連さんと会話ができた。
この店の良さを一通り聞かせてくれた後に
「鳥取のうまいもんは何すか?」
と男女三人のお方たちに尋ねてみると
以外にも、それは「シイラ」だ
と言う答えが返ってきた。
この刺身が無茶うまいのだそうだ。
ただし、シイラの身は足が超早いので
鮮度が落ちたやつを食らうとやばい。
腹が超特急になるらしいのだ。
だから地元でしか食せないと言う。
ちなみにシイラという魚
何でも食いつく魚だそうで
地元の漁師に食べる習慣はないと言う。
「何でも食うのは穴子と一緒じゃあ。」
おやおや。
一緒に来た酒飲み部下が
もう上機嫌になっている。
やれやれ…(+_+)
シイラは夏から秋にかけてがいいと言う。
今度はその季節に是非やって来たい。
その時は、宵口からここを訪ねて
鳥取の美味しい食材を酒と共に
たっぷり堪能してみたいものである。
「食べてみんさい。」
この言葉…
鳥取弁と広島弁が同じなのは驚きだった。
これはこれから
ますます縁が深くなりそうな予感。
■酒樽
鳥取県鳥取市川端三丁目115