会社の近くの居酒屋へ行く。
大概ひとりなのでカウンターに座る。
しわがれた声のおかみが注文を聞く前に
冷蔵ケースからその日のつまみを選ぶ。
広島の鰯の造りは甘くて美味い。
それと白菜が食べたいから
豚入りの豆腐なべ。これは注文。
焼酎のキープを出してもらう。
一度の来店で覚えてもらえたのか
黙っててもボトルを出してくれた。
今日は黒霧島。
切れているときは白波だ。
奥のテーブル席はかしましいが
カウンターは一人客がぽつんぽつん。
おおよそ単身赴任の会社員だろう。
同病相憐れむのは好きではないので
一人で湯割りを楽しむ。ときどき
テレビを観るとはなしに眺める。
料理をする主人は無口だが、この頃
ぼつんぽつんと話しかけてくる。
さしたる話題ではない。
こういう場所で、かっこよく言えば
孤高に飲むのが好きなのだ。
今日出会った広島の人たちの
顔や言葉を思い浮かべては
湯割りを喉に送る。
旬魚をつまむ。
“人の小過を責めず
人の陰私を発(あば)かず
人の旧悪を念(おも)わず”
(菜根譚)
「なかなか難しいものだ。」
湯割りを流す。また箸をつける。
しかし
毎晩の食事を考える…ちゅうことは
案外しんどいものだなあ。
「カミサンはえらい。」
ふと妻の顔が浮かんだ…。