わたくし人形使いは命知らずなので夏コミ原稿締め切り前でも映画を2本見てしまう。
だって塚口なんだもん。
というわけで今日見てきた1本目はこれ!
「香港国際警察/ポリス・ストーリー」「サイクロンZ」に続く「ジャッキー・チェン4K映画祭」の3本目の作品。
わたくし人形使いは主にテレビ放送でジャッキー・チェン映画に親しんできましたが、この作品はおそらく今回初めて見るような気がします。
田舎から香港に職を探して出てきた青年コオ。しかしいきなり詐欺にあって全財産をだまし取られてしまいます。
そんな中で、コオは貧しい花売りの女性ローズ夫人から気まぐれに一輪のバラを買います。その直後、ギャングの抗争に巻き込まれたコオは、誤解から死に瀕したギャングのボスの後継者に指定されてしまいます。
それからコオの運命は大きく変転。ギャングのボスに収まったコオはなんとか組織をまとめ上げ、事業も成功させ、恋人までできるという幸運に見舞われます。
そんな折、コオはローズ夫人の娘が婚約者とその家族を連れて香港を訪れるという話を聞きます。彼女は娘を心配させないために裕福な暮らしをしていると偽っていたのでした。
コオはそんなローズ夫人を助けようと、対立組織や警察まで巻き込んだ一世一代の大芝居を打つことを決意するのでした。
感想なんですがえええええええええ話や……。(滂沱)
本作はいわゆる人情モノで実に人の情が身に沁みる……。
ジャッキー映画は激しいアクションはあるものの全体的にコミカルな楽しい映画という印象が強いですが、本作では特に悪役端役に至るまで憎めない奴らばっかりで実にほっこり。原稿締め切り前で荒んだ心が癒やされました。
個人的に好きなのは組織の補佐役の人ですかね。飄々とした人物でケンカになっても敵に捕まってものらりくらりとしてますが、なんだかんだで最後までコオに協力してくれるのが好き。
悪役では悪徳警察隊長のホーも好き。多分作中でいちばん直球の悪いやつなんですが、ラストで警察を追放されてフェリーに乗ってるのが笑えます。
そしてジャッキー映画といえばそこら辺にあるものを最大限活用して戦う環境利用闘法なわけですが、本作のラストバトルである工場内での戦いはジャッキー映画におけるアクションのエッセンスが凝縮されててとても楽しかった。縄跳びのところとか敵の方も完全に楽しくなってただろ。
世にアクション映画数あれど、この「コミカルさと激しいバトルを両立したアクション」って改めて唯一無二だと思いますね。アクションシーンは濃淡あれどバイオレンスなわけですが、ジャッキー映画のアクションシーンは驚くほどバイオレンスを感じないんですよね。ニュアンスで言うとほとんど「欽ちゃんの仮装大賞」を見てる気分になる。伝われこのニュアンス。
そしてあの「大団円」を絵にして額に入れたかのようなラスト、コオたちだけじゃなくて部下も涙ぐんでるのが笑えました。お前ら本当にヤクザもんか?
しばらくしてからの2本目はこの作品!
「奇蹟/ミラクル」の余韻ぶち壊しのみんな大好き暗黒ディストピアSFの金字塔!
はずかしながらわたくし人形使いは今回が初見です。名前は当然知ってましたが原作ともに未読未見だったんですよね。それがなんの因果か4Kリマスターされるというのでこれも運命-さだめ-ということで見てきました。
2022年のニューヨークは人口爆発によってすでに崩壊寸前となっており、路上に衣食住を失った人々が溢れていました。天然の食料はほとんど全滅し、一部の特権階級の人間を除いた多くの人々は、大企業ソイレント社が提供するソイレント・レッド、ソイレント・イエローといった合成食品の配給を受けてかろうじて生きている状態でした。
そんなニューヨークで、ソイレント社の幹部サイモンソンが暗殺される事件が発生。ニューヨーク殺人課の刑事ソーンはその事件を追う中で、ソイレント社の新製品「ソイレント・グリーン」を巡る秘密に直面することになり……。
いわゆる古典SF作品における未来の世界が現実世界ではすでに過去になっていることはままあるものですが、本作の舞台となるのは2022年のニューヨーク。すでに2年前ですよ。
そして本作の冒頭部分、これをフィクションとして見ることはとてもできなかった。特に人々が外出制限を受けたり全員がマスクをしているところなんかは自分自身が実際に経験してしまってますからね。「事実は小説より奇なり」とは言いますが、我々が今生きているこの現実はもしかしてこの作品よりも恐ろしいことになっているのでは……と思わずにはいられません。
本作はそのテの元ネタとしては非常に有名なので秘密とオチは知ってましたが、その上で本作に盛り込まれた「来たるべき暗い未来像」には大きな衝撃を受けました。
今でこそ「人間を精製して合成食とするディストピア世界」というネタは、他ならぬ本作をネタ元として無數の作品でオマージュされているのでそこの衝撃度は大きくないんです。
しかし、大きな衝撃があるのはそこの前。
ソーンの同居人で協力者である老人・ソルは、ソーンに依頼されて調査を行う中でソイレント・グリーンの秘密を知るんですが、その秘密に耐えられず公共安楽死施設による安楽死を選びます。
そしてこの安楽死施設から運び出された遺体が、直接ソイレント・グリーン工場に運び出されるわけです。
安楽死施設では利用者に対して丁寧なヒアリングが行われ、丁重に「式典室」に迎え入れられます。ソルは希望したベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の音色、そしてかつて地球に存在した豊かな自然の映像に包まれながらその生涯の幕を閉じます。ここまではしっかり人間としての尊厳が守られており、荘厳さすら感じました。
しかしそこから工場へ運び出される段になると、安楽死を遂げた死者たちは一様に袋に入れられた「荷物」としてトラックに乗せられていきます。そこに人間としての尊厳はなく、死者は「個」を剥ぎ取られてただの「大量の死体」になっている。この落差よ……。
なまじ直前まで丁寧に扱われているのが、かえって「人間を食料にする」という禁忌を浅ましくごまかすための言い訳に感じられました。
本作にはゴア表現などの直接的にショッキングなシーンはないんですが、その分こうしたじわりと滲んでくるような嫌悪感がありました。
ほかにも、若く美しい女性が特権階級に「家具」として囲われていたり、多くの知識を持つ老人が「本」としてその知識を役立てる職業に就いているなど、「人間の物品化」とも言える文化が当然のこととして定着しているというのもおぞましい。
SF作品というのは明るい未来を想像すると同時に暗い未来を予想するという側面がありますが、そこで想像された「暗い未来」を自分が現実に生きているこの事実、なんともいえない気分になりました。