シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

まあだだよ

2006-04-20 | シネマ ま行
あ~なんてホッとする作品だろう。戦中、戦後を背景に繰り広げられる引退した先生松村達雄と過去の生徒たちとのひとつひとつの風景。

これは監督黒澤明が敬愛する随筆家内田百氏のお話らしいが、ワタクシは恥ずかしながら内田氏のことは何一つ知らない。でも、この内田氏のことは何一つ知らなくともこの作品は大いに楽しめます。

作家になるために教師を引退した先生。引退後もいつまでもいつまでも慕い続け先生の家に通いつめる生徒たち。(所ジージ、井川比佐志、寺尾聰などなどなど)この先生のあだ名は金無垢。どこまでも純粋で貴重な存在といったところか。このおじいちゃん先生。おじいちゃんでありながら、教師でありながら、ものすごく冴えたユーモアのセンスと純粋な心を持っている。世の中を風刺する明晰さと人の心を包み込む優しさにあふれ、まさに金無垢という言葉にふさわしいお人柄。

「まあだだよ」というのは、先生がなかなかくたばらないという意味で、生徒たちがかくれんぼの要領で「まあ~だかい?」と尋ねると先生が「まあだだよ」と応えるというこの辺りも非常に素晴らしいユーモアで先生と生徒のとーーーってもいい関係を表している。これを不謹慎なんて言う人はまずいないだろうが、ワタクシならそんな人がいたらその人の人生見てみたいなんていうちょっとイジワルな好奇心さえ芽生えてしまう。

あ~こんな先生がいたら素敵だなー。本当に心の底からそう思える。ワタクシは「先生」という言葉があまりにも簡単に使われていて嫌いなので、普段なら学校の先生のことは教師、病院の先生のことは医者と呼ぶし、弁護士や代議士を先生なんて死んでも呼ばないゾと思っているのだけど、この内田氏のことはなんだか、自然に先生と呼んでしまいそうだな。やっぱり大切なのは人柄だよねー。

少し映画から話がずれましたね。映画的なことを書くと、戦中、戦後の日本の姿をもの凄く自然に描いているし、先生の自宅が焼けたあと、ほったて小屋で過ごす時期に巡っていく季節の描き方が素敵だし、これは、個人的な趣味だけど、夏といえば男性は真っ白のスーツを着て麦藁帽子をかぶる時代でそんな衣装も良かったな。

黒澤明監督の映画は以前「生きる」を取り上げましたが、まだまだ取り上げたいものがたくさんあります。「黒澤明は偉大な監督」というのがもう「1+1=2」くらいに刷り込まれている人も多いと思います。そのせいで、逆に難しいんじゃないかとかって敬遠しちゃったりね。でも、カメラワークがどうだとか、演出がどうだとか、そんな技術的なことはすっかり置いておいて素直に受け取ることができる作品が多いと思うので、できれば見て欲しい。この「まあだだよ」は特に何も難しいところはないので黒澤作品のとっかかりにいいかもです。

オマケ「暗闇を怖がらない人間は想像力が欠如しているんだよ」という先生の言葉が印象的だったなぁ。そう、本当にその通りだと思う。と暗闇が怖いワタクシは先生の言葉に救われちゃいました。


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