シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

未来を花束にして

2017-01-31 | シネマ ま行

1912年のロンドン。女性参政権を求めて闘った女性たちを描く。

洗濯工場で働くモードワッツキャリーマリガンは、同じ工場に勤めるヴァイオレットミラーアンヌ=マリーダフに影響を受け、女性参政権運動に興味を持つ。公聴会でヴァイオレットが証言をするはずだったのだができず、(夫にその件で殴られたのが理由?)代わりに証言することになる。そこで彼女は改めて自分の人生を振り返る。母親も同じ洗濯工場で働き、自分もそこで生まれ子供のころから働きづめ、夫ベンウィショーもそこで働いているが男性は配達中心で外に出られるのに対し、女性は危険な薬品と蒸気とアイロンに囲まれた場所で一日中働いて、男性より就労時間が長いのに賃金は男性より安い。母親も若くしてヤケドを負って死に、薬品で肺もやられるので彼女もそう長生きはできないだろう。おまけに(これは映画の途中で分かることだけど)工場長には(幼い頃?)性的虐待を受けていた(っぽい描写がある)。

こんな人生を当たり前とされ、女性に男性ほどの理論的な思考はできないから政治参加させる必要などないと決めつけられている現状に目を覚ましたモードは次第に女性参政権運動にのめり込んでいく。

女性参政権運動は長らく平和的な運動に終始していたが、ここに来て彼女たちの不満は爆発し、もう平和的な運動では何も変わらないという極限まで来ていた。人を傷つけないという条件下で店の窓ガラスを割ったり、郵便ポストに爆弾を仕掛けたり、運動は暴力的な面を帯びていき、モードもその急進派となり、投獄も経験し、夫には家を追い出され挙句の果てには息子を養子にまで出されてしまう。(一人で息子の面倒も見られない夫に当時の法律は味方して親権は夫のものである)「お母さんの名前はモードワッツ。大きくなったら必ず探して」というモードに泣けた。

息子と離ればなれになってまでモードがこの運動を続けるのは、もちろん自分のためでもあるけど、やはり未来の子どもたちのためであった。「もし、自分たちに娘がいたらどんな人生を歩んでいたと思う?」と夫に聞いた時、「お前と同じ人生だろ」と言われ、モードの決心はますます固くなったんじゃないかと思う。未来の娘たちにもうこんな思いはさせたくない。自分と同じ人生を歩む女性が後から後から出てくるだけだなんてもううんざりだった。だからこそ、昔の自分と同じように工場長から性的虐待を受けているヴァイオレットの長女を工場から救ってやって、運動を支持している議員の妻のアリスホートンロモーラガライのところの女中として雇ってもらえるように計らったのだろう。

運動家たちを追い詰めるアーサースティード警部ブレンダングリーソンは、男尊女卑の冷血漢なのかと思いきや、現在の法律を守るために彼女たちを取り締まっているだけという感じだった。最初は彼も多分けしからん女たちだくらいに思っていたのだと思うのですが、モードたちを尋問したりする中で彼の中の何かが変わっていっていたような気がします。彼が自分の信念を変えて彼女たちを応援するようになったとかそういうのではなかったですが、どこか彼の中で彼女たちを尊敬するような部分が芽生えていたように思います。

モードたちを引っ張る女医のイーディスエリンをヘレナボナムカーターが演じていて、彼女の押さえた、それでいて確固たる意志を持った女性の演技はとても素晴らしかったと思います。彼女たちの運動を率いていたパンクハースト夫人はこの作品には数分しか登場しないのだけど、この運動をする女性たちにとって心の支えとなる指導者としてメリルストリープという存在感のある役者が演じたことにはとても意味があったと思います。メリルくらい存在感のある人が演じたからこそ、たった一度「闘い続けるのよ」と言われただけのモードの心の支えとなったことに説得力があったと思います。本物のパンクハースト夫人もおそらくそれくらいカリスマ的な方だったのでしょう。

女性参政権に限らず、先人たちが闘って(死者を出してでも)得た権利をワタクシたちはまっとうに行使しなければいけません。



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