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オリオン村(跡地)

千葉ロッテと日本史好きの千葉県民のブログです
since 2007.4.16
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町長選挙

2017-03-17 00:50:15 | 読書録

町長選挙

文藝春秋

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精神科医・伊良部シリーズの第三弾、そして最終弾です。
これまでと同じく現代社会がもたらしたストレスに病んだ人たちと「名医」との小話が4つ、しかし雰囲気はこれまでとはかなり変わっていました。
おちゃらけているのは同じながらもストレスの原因に深く切り込んでいるのが特徴的で、もちろん切り込んでいくのは「名医」ではなく患者自身です。
しかし無意識ながらもサジェスチョンをしているのは「名医」でもあり、医は技術ではなく心、といった趣ではありました。

心配になったのはタイトルにもなっている町長選挙を除き、大半の人がモデルが誰かが分かってしまう患者たちです。
さすがに訴えられたら言い逃れができないのはプロ野球のスト問題やTBS買収騒動など周知の事件がベースになっているからで、ちょっとドキドキしてしまいます。
おそらくは無事だったのでしょうが、その理由は主役となった人たちの心情、背景、報道への不信が主題だったからではないかと、一方で記者たちへの配慮も欠かしていません。
前二作で腰が引けていたのですがこの筋立てであればもっと読んでみたいなと、そう思えた注射マニアの「いらっしゃ~い」でした。


2017年3月16日 読破 ★★★★☆(4点)


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V.T.R.

2017-03-11 00:25:02 | 読書録

V.T.R.

講談社

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ここのところらしくない展開、作風が続いていた辻村深月、しかし今回は久しぶりに深月ワールドに浸ることができました。
作者はチヨダ・コーキ、そして解説が赤羽環とくればそう、スロウハイツの神様です。
この作品はチヨダ・コーキのデビュー作との位置付けで、いきなり見開きでその名前を見たときにはビックリ、読み終わったときに解説に赤羽環の名前を見て二度ビックリ、深月ファンにはたまらない構成になっていますがもちろん魅力はそれだけではありません。
軽快なテンポにここそこに秘められた伏線、あっという間に読み終わった二日間でした。

ただ残念なことにスロウハイツの神様、あるいは冷たい校舎の時は止まる子どもたちは夜と遊ぶ名前探しの放課後に比べればインパクトはありません。
伏線の回収が甘いと言いますか、設定に無理があると言いますか、キモであるアールの行動原理がよく分からないままに終わってしまいましたし、ティーとJの年齢関係が今ひとつイメージできず、SやAやYとの関係も濃密なようでどこか希薄、深いようで上っ面、ティーの思い込みでしかないような感じがあります。
それはティーの独白が延々と続いているのがその理由なのか、しかしチヨダ・コーキのデビュー作だからこそそういった青さを残した演出と考えればオチが早々に分かってしまったのも深月の掌の上で踊らされていただけなのかもしれず、そのあたりは読み手それぞれでしょう。
★5つのところから雑さを引いての★4つか、★3つのところからスロウハイツの神様の後押しで★4つか、いずれにせよ久しぶりの深月の秀作でした。


2017年3月10日 読破 ★★★★☆(4点)


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天主信長

2017-03-10 00:13:48 | 読書録

天主信長(表)

講談社

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天主信長(裏)

講談社

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一二でも上下でもなく表裏、そんな天主信長です。
表は竹中半兵衛の、裏は黒田官兵衛の構成になっていますがテーマは同じ、天下布武を目前とした織田信長が本能寺の変で潰えるところまでが描かれています。
ある意味でその本能寺の変の「真説」を唱えているようでもあり、しかし二条御所の襲撃を手違いで済ませるなど、作者がどこまで本気かは分かりません。

主眼であろう「真説」はなかなかに意表を突いていて、天守と天主の意味するもの、また半兵衛の求むるところ、官兵衛の求むるところの違い、その求むるための単なる道具として描かれている羽柴秀吉など面白くもありましたが、しかし表裏にする必要があるとも思えなかったのが正直なところです。
秀吉の両兵衛の視点から信長を描いてはいるものの、それで筋立てが大きく変わっているわけではありません。
表の最終盤は半兵衛死後で官兵衛の視点になっていますから裏が手抜きとすら思えるぐらいに同じ記述になっている箇所が多々あり、そこは完全に流し読みでした。
つまりは肝心のオチの描写が表裏ともほぼ同じなわけで、両方を読む価値がありません。
表を読んでいたからこその裏、といったところもなく、同時発刊だったらしいので「両兵衛のどちらかお好きな方を」が正しい向き合い方だと思います。


2017年3月8日 読破 ★★★☆☆(3点)


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ちょっと探偵してみませんか

2017-02-25 01:36:57 | 読書録

ちょっと探偵してみませんか

講談社

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岡嶋二人の短編集、いや、超短編集です。
謎解きに特化した作品はほとんどが数ページ、犯人だったりトリックだったり方法だったり、解き明かす対象は違えど岡嶋テイストに変わりはありません。
たださすがに短い、星新一もびっくりな構成は小学生ぐらいのときに探偵もののクイズ本みたいなのがありましたが、まさにそんな感じです。
あまりに短いので伏線を拾い上げるのが簡単か、あるいは「そりゃないだろ」と脱力か、なるほどな~と白旗なものがほとんどなかったのが残念でした。
おそらくは週刊誌か何かに連載したものを集めたものなのでしょうが、タイトルどおりに「ちょっと」時間を潰すのには最適、ただそれだけ、といったところです。


2017年2月21日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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刑事の墓場

2017-02-19 00:13:25 | 読書録

刑事の墓場

講談社

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脳男、とはまた違った刑事もの、作風も変わっています。
担当地域も矮小な警察署に異動してきた主人公はしかしそれが人事の間違いと自分に言い聞かせて、それはそこが「刑事の墓場」と揶揄されるところだからです。
何か不祥事を起こしたり使えなかったり、しかし表沙汰にするわけにもいかずの流刑扱い、自分がそんなはみ出し者であるはずがない、と信じての宿直室での仮住まい、それが夜間の小さな事件に遭遇し、そこから広がる殺人事件、署を巡る有力者たちの思惑も絡んでのスピーディーな展開から目が離せません。

あるいはシリーズ化をするつもりだったのかもしれません。
普段はやる気のない同僚たちがしかし事件が起きれば一変、異能とも言える技量に行動力が伴って、まるで別人のように捜査に邁進します。
しかし思わせぶりな身の上、どうしてこの墓場に流れ着いたのかを語ることなく終わってしまったのが消化不良で、だからこそ続編があるのかと思っていました。
刑事の、を冠とした作品はありますが舞台は全く別のようですし、中途半端にオチをつけてしまったのが拙かったのかもしれません。
単体とすれば謎解きもそこそこ、まずまず面白くはありましたが拾いきれなかった伏線がもどかしくもありますので、並、といったところかと思います。


2017年2月13日 読破 ★★★☆☆(3点)


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第三の時効

2017-02-16 00:30:22 | 読書録

第三の時効

集英社

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短編はどうしてもページ数が限られますので深みと言いますか奥行きと言いますか、長編に比べれば足りていないのがほとんどです。
しかしこの作品はF県警強行犯シリーズと銘打った連作短編集ではあるものの、なかなかどうして、各話とも長編に負けないぐらいの濃密さがたまりません。
シリーズとして続編が出版されていないのが残念至極、単行本に未収録のものがあるようですから気長に待っています。

F県警捜査一課強行犯には捜査一係朽木、二係楠見、三係村瀬と優秀かつ一癖も二癖もある班長、係なのにトップが班長なのがよく分かりませんが、そしてこの三人を統べる課長の田畑、刑事部長の尾関とそれぞれの思惑と意地のぶつかり合い、基本的には人間ドラマが主眼となっています。
それでいて事件の謎解きも楽しめますし、被疑者や被害者などの登場人物も負けないぐらいに人情、打算、しがらみなどにまみれた人間くささが読む者の心を掴んで離しません。
ありきたりのドラマですと嘘っぽさが付いて回りますが、そうならないのは丸裸な人間と相対しているからなのでしょう。
三人の班長の個性が事件解決に繋がっていくところにも違和感はありませんし、班同士のいがみ合い、上昇志向などにもリアル感があります。
自らも優秀な刑事でありながらもそれ以上に優秀な部下を持つ田畑課長のジレンマ、も見ものです。


2017年2月8日 読破 ★★★★★(5点)


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戦国連歌師

2017-01-30 00:17:12 | 読書録

戦国連歌師

講談社

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いきなり織田信秀が登場をしましたので地方を巡る連歌師が戦国の世で生き抜いていく様が描かれるかと思いきや、生き様は描かれてはいるものの、派手な活躍はありません。
むしろ地方行脚して糊口を凌ぐ公家と同じく、京文化にあこがれる田舎武者を頼らざるをえない連歌師の苦しさが前面に出ています。
華々しい戦国武将、ではなく地下に生きる民の姿を露わにするのが得意な作者らしく、淡々と淡々と、東国への旅は続きます。

天下一の連歌師である宗牧と無為こと宗養の親子は実在の人物で、主人公たる弟子の友軌はおそらくはオリジナルなのでしょう、その友軌の視点で旅が描かれています。
地侍の出身ながらも家を支えきれずに連歌の道に逃げ込んだとも言える友軌の日々の苦行、将来への不安、などなど、現代のフリーランスな人々も似たようなものなのでしょう。
その中でも必死に学んで芸を高める努力を惜しまず、一方で師に雑用を押しつけられる不満、叶わぬ恋心、死への恐怖、それでも連歌に生きていく気持ちで物語は幕を降ろします。
終わり方に締まりのない中途途半端さが残念でしたし、もう少し戦国の世に生きる連歌師の役割、メッセンジャーとしての活躍などがあってもよかったとは思いつつも、天下一の宗匠であってもその日暮らしなところに妙なリアル感があり、その弟子であればさもありなん、といったところではあります。


2017年1月29日 読破 ★★★☆☆(3点)


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子どもの王様

2017-01-25 00:04:00 | 読書録

子どもの王様

講談社

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最初に読んだハサミ男、そして美濃牛でいけると判断をして著書を買い揃えてみたのですが、黒い仏で評価は急落、そして右肩下がりを止めることができなかった殊能将之です。
いろいろな作風があると言ってしまえば聞こえはいいのですが腰が据わっていないと言いますか、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、その方向性が見えてきません。
冒頭からイヤな感じのあったこの作品も何を描きたかったのか、何を訴えたかったのか、さっぱりと分からないままに読み終えてしまいました。

平易な文章に戦隊ヒーローのようなテレビ番組、これは児童向けの作品なのかもしれません。
ただそのテーマは社会問題として挙げられているものでもあり、ショッキングな結末があり、とてもお子様向けとは言えないでしょう。
それでいて大人が読めば簡単に分かってしまうからくりはミステリーとしても中途半端ですし、迫り来るものものもない、同じものでも子どもと大人では見えているものが違う、世界が違う、悩み苦しみながら大人への扉を開ける、超好意的に見ればそうとれなくもないですが、おそらくはそういうことでもないと思われます。
まだ数冊あるのが気が重く、それが晴れる次の作品であることを願ってやみません。


2017年1月24日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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長い腕

2017-01-23 00:11:54 | 読書録

長い腕

角川書店

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呪い唄

角川書店

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弔い花

角川書店

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長い腕シリーズ、ではありますが、横溝正史ミステリ大賞を受賞した「長い腕」は2001年で、続編となる「呪い唄」が2012年は作者としては11年ぶりの二作目ですからwikiによればサラリーマンとの兼業なのか、完結編の「弔い花」などここ数年は活動を活発化させていますので気に留めておきたい、そんな川崎草志です。
愛媛県にある早瀬町を舞台にした近江敬次郎の復讐劇、明治から平成までの時代を前後しての展開はスピード感があってぐいぐいと引き込まれていきますが、逆に落ち着きがなかったのはマイナスか、それでもやや強引な人間関係を気にしなければ名作、もっと評価をされてよいのではないかと思います。

ただやはり個人的には「偶然」が多すぎるかなと、島汐路と上司の石丸圭一との距離、早瀬町で起きる殺人事件、地震により事故にあった汐路の従姉妹、などなど、それも敬次郎の執念と言ってしまえばそれまでですが対象が島家でないことは早い段階から明らかですし、ご都合主義は否めません。
東家、西家、宇賀家、古倉家、藤家、そして島家と早瀬町で御屋敷と呼ばれる旧名家、その零落、断絶など移りゆく様は時代の流れとともに変わらなければならない、しかし変われない人間の性を浮き彫りにしていて迫り来るものがあり、一つの人間ドラマでもあります。
また勝小吉や麟太郎、関東大震災で両親を失った長谷川正男など本筋とは関係のないところにページを割いたのが結果的には適度なブレーキになってよかったような、いずれにせよ理論詰めでトリックを解明するような作品ではありませんので念のため、あとは大工さんの視点での意見を聞いてみたいものです。


2017年1月21日 読破 ★★★★☆(4点)


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謀殺

2017-01-08 00:04:59 | 読書録

謀殺

講談社

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滝口康彦の短編集です。
時代は前後をすれども舞台はいずれも肥前、龍造寺氏、そして鍋島氏に関係する人物が出張ります。
それぞれの内容は千差万別ながらも根底にあるテーマは「人を信ずること」「裏切り」「その先にある虚しさ」ではないかと、どこか寂寥感の漂う作品でした。

タイトルとなっている謀殺は龍造寺隆信に誘殺された柳川城主の蒲池鎮並、その無事を願う母の思惑とその思いを託された侍女、そして「正直者」な隆信の使者との駆け引きに似たやりとりと、ちょっとしたボタンの掛け違えによるすれ違い、それがもたらす悲劇的な結末が描かれています。
皆まで語らずに最後は余韻を残していることでさらにその悲劇が際立っていて、じりじりとした後味が残ります。
こんな時代だからこそ人を信じたい、それはある意味で敗者の世迷い言であり、しかし長い目で見れば勝者だったのかもしれません。
また五州二島の大守とも呼ばれた隆信が、かつて困窮時に世話になった蒲池鑑盛の嫡男を罠にかけて屠ったことをきかっけに斜陽となっていく様は因果応報でもあります。
なかなかに含蓄に富んだ、と構えてしまうのもあれですが、ただの歴史小説の枠にはまらない名作だと思います。


2017年1月4日 読破 ★★★★☆(4点)


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ボトルネック

2016-12-31 02:37:17 | 読書録

ボトルネック

新潮社

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ふと気がつけばパラレルワールド、しかしそこにいたのは自分ではなく生まれることのなかった姉が、そして周りの人々も違った人生を歩んでいます。
テーマとしてはアニメ向きかとも思いますが、実際のところはそんな甘っちょろいものではありません。
ボトルネック、その言葉がじわじわと真綿で首を絞めるかのように追い詰めていく、これはファンタジーではなく重苦しい人生譚でしょう。

読み方はいろいろあると思います。
額面どおりにパラレルワールドでの物語とするのが王道でしょうが、夢の中の出来事と見えなくもありません。
無意識の中でなれなかった自分を投影して自身を見つめ直す、気づき気づかされる、その現実にどう処していくかを問われているようにも思えます。
そうであれば人生を変えるチャンスが自分にあったはず、それを手に入れられなかったのは限界でもあり、運命でもあり、そして憧れでもあります。
そこから立ち直ることができれば映像化も楽しみですが、結末はご自身の目でお確かめください。


2016年12月29日 読破 ★★★★☆(4点)


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王になろうとした男

2016-12-30 00:03:31 | 読書録

王になろうとした男

文藝春秋

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伊東潤の短編集です。
北条氏を中心とした関東の武将を取り上げることが多いのですが、しかし今回は織田氏です。
それでもあまりメジャーではない渋いところを引っ張りだしてくるのはさすがと言いますか、伊東潤はこれでなきゃ!といった感じでしょう。
逸話などがあまり多くないことでそれだけ作者の腕の見せどころ、今作もたっぷりと楽しませてもらいました。

毛利新介、塙直政、荒木村重、津田信澄、そして彌介と、思わずニヤリ、といった顔ぶれです。
桶狭間で今川義元の首を取ったのが毛利新介、一時は柴田勝家と肩を並べるまでになった塙直政は原田直政の方が通りがよいかもしれず、叛乱を起こしたのは荒木村重、津田信澄は信長の甥で明智光秀の女婿だったために本能寺の変のどさくさで謀殺され、黒人奴隷から信長に取り立てられた彌介はやはり本能寺の変での奮闘を最期に姿を消しました。
これらの人物の半生を描くのではなくテーマは野心、距離を置く者、取り込まれて自滅する者、ふと気がついて冷静さを取り戻す者、夢を追い求める者など、切り口は新鮮です。
中川清秀、万見仙千代、あるいは本能寺の変での丹羽長秀、村井貞勝など登場人物の関わり合いもなかなかに面白く、これはお薦めです。


2016年12月27日 読破 ★★★★☆(4点)


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灰色の砦

2016-12-22 00:04:35 | 読書録

灰色の砦

講談社

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建築探偵シリーズの第四作、にして、いきなり回顧録になってしまいました。
年の瀬に桜井京介と鍋をつつくために集まった栗山深春と蒼、その京介を待つ間に深春の昔語りが始まります。
京介と深春が大学に入って出会った輝額荘、古びた木造下宿での楽しい生活、しかしそこで起きた事件をきっかけにギクシャクしていく住人たち、そして切ない最期が待っています。

ある意味で京介の人となり、にスポットを当てたような作品です。
その美しすぎる顔立ちへの逆コンプレックス、建築への造詣、こだわり、世を捨てたような価値観、まだ10代の京介は前作までに増して尖っています。
しかし深春には心を許すとっかかりがこの輝額荘での事件であり、おそらくは今後に蒼との出会いも描かれるのでしょう。
事件自体は前作でも取り上げられた著名な建築家であるライト、帝国ホテルを設計した実在の人物ですが、その波乱に富んだ人生と重ね合わせるかのような重苦しい物語です。
トリックはもちろんのこと犯人、動機までもが見えてしまいましたので駄作かと言えば駄作でもなく、人の心の奥底まで踏み込んだ人間模様、ミステリーとしてのバランスがよく、あまり深すぎないところで建築が噛んでいるのもいい感じで、そんな色褪せていく砦での青春群像でした。


2016年12月20日 読破 ★★★★☆(4点)


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QED 神器封殺

2016-12-13 00:00:13 | 読書録

QED 神器封殺

講談社

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珍しく前作と登場人物や舞台が繋がっているとのことなので、あまり間を開けずのQEDシリーズです。
その前作ではこれまた珍しく直接的な殺人がなく桑原崇に棚旗奈々の「事件を呼ぶ体質」が改善をしたかと思いきや、今作では冒頭からショッキングな殺人事件が起こります。
事件の背景と、前作では名前だけ出てきた登場人物、引き続きの熊野、そして神器の謎がシンクロしていく、これは前後編と考えればよいのかもしれません。

もちろん毎度のことながら事件やその謎は刺身のつまでしかなく、頭を悩ませるようなトリックや、唸らされるような解決策が示されるわけでもありません。
例によってタタルの蘊蓄を披露するためのネタでしかなく、これは推理小説ではなく教養作品の一種なのでしょう。
ただ困ったことに守備範囲から大きく逸れるためにその蘊蓄が真実なのか、はたまた眉唾なのかが判然とせず、こういった説もある、程度で対するのがよいようにも思います。
天照大神や素戔嗚尊などの神話の世界の神々は伝説ではなく神武東征など古代史を投影したものであると知っただけでも賢くなったような、そんな自己満足に陥ってもいます。
由緒ある神社の位置関係なども興味深く、信心という点では現代よりも数倍に知識が深く、そしてこだわらなければならない必然性があったのでしょう。
意味深なニューキャラクター、タタルのライバルなのか同好の士なのか、御名形史紋なる人物が今後にどう絡んでくるかは分かりませんが、どうやらスピンオフである毒草師シリーズの主人公とのことなので、読むべき範囲が広がったことにもなります。


2016年12月12日 読破 ★★★☆☆(3点)


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殺人者志願

2016-12-07 00:00:33 | 読書録

殺人者志願

講談社

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岡嶋二人の殺し屋です。
辛抱が足りずに仕事が長続きをせず、でもお金が無くても買い物に糸目はつけない、そんな夫婦は当然に借金を抱えて首が回らなくなり、血の繋がらない遠縁の親戚を頼ります。
その親戚から交換条件として出された殺人依頼、ドキドキハラハラ、そこのけそこのけ素人な殺し屋が通る!

根は善人な夫婦の四苦八苦、見ているこちらが手に汗握ります。
その殺人計画はあまりに杜撰、警察を舐めすぎ、なんてのは野暮な指摘で、当事者の気持ちになって読むのが正しいのでしょう。
仕掛けは最後になるまで分かりませんでしたし、オチも然り、やや都合がよすぎた感もありましたが、これが作風ですのでこんなものではあります。
この夫婦のその後が気になりますが、それはまた別のお話です。


2016年12月6日 読破 ★★★☆☆(3点)


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