V.T.R. |
ここのところらしくない展開、作風が続いていた辻村深月、しかし今回は久しぶりに深月ワールドに浸ることができました。
作者はチヨダ・コーキ、そして解説が赤羽環とくればそう、スロウハイツの神様です。
この作品はチヨダ・コーキのデビュー作との位置付けで、いきなり見開きでその名前を見たときにはビックリ、読み終わったときに解説に赤羽環の名前を見て二度ビックリ、深月ファンにはたまらない構成になっていますがもちろん魅力はそれだけではありません。
軽快なテンポにここそこに秘められた伏線、あっという間に読み終わった二日間でした。
ただ残念なことにスロウハイツの神様、あるいは冷たい校舎の時は止まる、子どもたちは夜と遊ぶ、名前探しの放課後に比べればインパクトはありません。
伏線の回収が甘いと言いますか、設定に無理があると言いますか、キモであるアールの行動原理がよく分からないままに終わってしまいましたし、ティーとJの年齢関係が今ひとつイメージできず、SやAやYとの関係も濃密なようでどこか希薄、深いようで上っ面、ティーの思い込みでしかないような感じがあります。
それはティーの独白が延々と続いているのがその理由なのか、しかしチヨダ・コーキのデビュー作だからこそそういった青さを残した演出と考えればオチが早々に分かってしまったのも深月の掌の上で踊らされていただけなのかもしれず、そのあたりは読み手それぞれでしょう。
★5つのところから雑さを引いての★4つか、★3つのところからスロウハイツの神様の後押しで★4つか、いずれにせよ久しぶりの深月の秀作でした。
2017年3月10日 読破 ★★★★☆(4点)