長い腕シリーズ、ではありますが、横溝正史ミステリ大賞を受賞した「長い腕」は2001年で、続編となる「呪い唄」が2012年は作者としては11年ぶりの二作目ですからwikiによればサラリーマンとの兼業なのか、完結編の「弔い花」などここ数年は活動を活発化させていますので気に留めておきたい、そんな川崎草志です。
愛媛県にある早瀬町を舞台にした近江敬次郎の復讐劇、明治から平成までの時代を前後しての展開はスピード感があってぐいぐいと引き込まれていきますが、逆に落ち着きがなかったのはマイナスか、それでもやや強引な人間関係を気にしなければ名作、もっと評価をされてよいのではないかと思います。
ただやはり個人的には「偶然」が多すぎるかなと、島汐路と上司の石丸圭一との距離、早瀬町で起きる殺人事件、地震により事故にあった汐路の従姉妹、などなど、それも敬次郎の執念と言ってしまえばそれまでですが対象が島家でないことは早い段階から明らかですし、ご都合主義は否めません。
東家、西家、宇賀家、古倉家、藤家、そして島家と早瀬町で御屋敷と呼ばれる旧名家、その零落、断絶など移りゆく様は時代の流れとともに変わらなければならない、しかし変われない人間の性を浮き彫りにしていて迫り来るものがあり、一つの人間ドラマでもあります。
また勝小吉や麟太郎、関東大震災で両親を失った長谷川正男など本筋とは関係のないところにページを割いたのが結果的には適度なブレーキになってよかったような、いずれにせよ理論詰めでトリックを解明するような作品ではありませんので念のため、あとは大工さんの視点での意見を聞いてみたいものです。
2017年1月21日 読破 ★★★★☆(4点)

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