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オリオン村(跡地)

千葉ロッテと日本史好きの千葉県民のブログです
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QED 熊野の残照

2016-12-04 00:57:23 | 読書録

QED 熊野の残照

講談社

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QEDシリーズもそろそろ後半戦、ということもあるのか、ややタッチを変えての熊野三山です。
タタルこと桑原崇に棚旗奈々、途中から熊つ崎こと小松崎良平に奈々の妹の沙織が合流といつもの面々ではありますが、しかし物語は神山禮子の視点で語られていきます。
この神山禮子がある意味での主人公、その冷めた視点でタタルや奈々を観察しているところのギャグ要素は空回り気味ではありますが、こういった展開も悪くはありません。

題材がまたしても神話の世界だったりもしますので、自分にはかなりハードルが高いのもいつものことです。
征服者に虐げられた民、怨霊、鬼、といったテーマは毎度のお約束ではありますが、それに加えて今回は読み方すら分からない漢字がぞろぞろと、さすがに天照大神や素戔嗚尊ぐらいは分かりますが伊弉諾尊、長髄彦、饒速日命ともなるとちんぷんかんぷん、熊野三山の家都美御子大神、夫須美大神、速玉大神なんてのもさっぱり、いずれも土豪の名前らしいのですが氏姓の繋がりが見えないので人間関係がよく分かりません。
それを紐解いてまで、が正直なところだったりもして、今回はタタルらが殺人事件に遭遇をすることもなく、その講釈を名跡紹介とともに延々と聞くことに耐えられるかどうか、自分にはやや苦痛ながらも叙述トリックな香りがぷんぷんと、それを整理をするのに頭を使いましたから、まずまずではありました。
どうやら次の作品への導入でもあるようですので、あまり間を置かずに読むことにします。


2016年12月3日 読破 ★★★☆☆(3点)


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組織犯罪対策課

2016-12-03 01:30:25 | 読書録

アウトバーン

幻冬舎

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アウトクラッシュ

幻冬舎

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アウトサイダー

幻冬舎

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組織犯罪対策課シリーズ三部作です。
余韻を持たせた終わり方をしていながらもシリーズを通したテーマが完結をしていますし、最新刊から既に3年が経っていますので、おそらく次回作はないのでしょう。
そんなことが気になるぐらいに面白かった、シンプルな感想です。

かつては品行方正な婦警だった八上瑛子はしかし夫が謎の転落死を遂げてそれが自殺と判断され、そのショックで流産をしたことで人格が変わったかのような「アウトロー」になり、低利で金を貸し付けることで警察内部に人脈を作り、広域暴力団の幹部や中国マフィアのボスと持ちつ持たれつの関係で夫の死の真相を追い求めていく筋立てとなっています。
そのため各巻ともに基本的には単体で成立はしていますが、その背景にあるものを理解してこそでしょうからシリーズとして読むのが作法でしょう。
ちょっとあり得ないぐらいのスーパーウーマンながらも立ちはだかる敵も強大なためにバランスがよく、ハラハラ感がありますので読む者を飽きさせません。
アウトバーンは人物や背景の紹介を兼ねた導入編ですので小手調べ、アウトクラッシュは真相への取っ掛かりで盛り上がりが最高潮、そして完結編となるアウトサイダーで敵の正体が明らかになり解決へ、その最後のオチが呆気なさ過ぎたのが不満と言えば不満ですが、メリハリがあってなかなかの出来栄えです。
一作目がドラマ化をされていて八上瑛子が米倉涼子、瑛子を警察の闇として追い出しにかかる富永署長が渡部篤郎はナイスキャスト、ただ読みながらイメージをしていたのは篠原涼子に辰巳琢郎だったりもして、そうやって映像化をしながら読むことが増えている今日この頃です。


2016年12月2日 読破 ★★★★☆(4点)


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福家警部補の挨拶

2016-11-23 00:25:17 | 読書録

福家警部補の挨拶

東京創元社

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何年か前にドラマ化をされて話題になった福家警部補シリーズ、そのときに買ったものを今ごろに手に取りました。
謎を解いていく一般的なミステリーではなく、まず犯人の視点で事件のあらましが語られて、それを探偵役たる主人公が解き明かしていきます。
いわゆる倒叙タイプで古いところでは刑事コロンボや、古畑任三郎なんかもこの範疇に含まれるのではないかと、そんなこんなでこの手のものはあまり読んだことがないので楽しみにしていましたが、残念ながら形ばかりで中身が伴わずにガッカリ、期待はずれな初見となりました。

小柄で学生のような外見の福家警部補はしかし酒豪、人使いの荒い、それでいて緻密な論理派とそこそこキャラは立っています。
事件現場で警察バッチを探してゴソゴソと、そして警官に止められるのはお約束、ある意味で映像化を意識したものなのかもしれません。
ただ肝心の謎解きがダメダメ、犯人の軽率なミスや偶然に助けられたところが大きく、ご都合主義が見え隠れします。
完全犯罪などは無理、やめておきなさい、そう言われているような、とにかく敵失による証拠固めが多すぎてげんなりとさせられます。
実際の捜査などはそんなものなのでしょうが、そこはエンターテイメント、名探偵な展開が欲しかったのが正直なところで、福家警部補の指摘に「こうだったんじゃないか」「その可能性は否定できない」と容疑者が墓穴を掘っていくのがあまりに滑稽でした。
事件の状況に腑に落ちない点があったとしても、そんなことは私には分からない、それが一般的な反応です。


2016年11月22日 読破 ★★★☆☆(3点)


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忍びの国

2016-11-20 00:32:00 | 読書録

忍びの国

新潮社

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舞台は戦国期の伊賀国、十二家評定衆が支配をする忍びの国に攻め入る織田の軍勢、そんな天正伊賀の乱が描かれています。
いわゆる史実に基本的には忠実に大きく外れることなく、それでいて独創的な、そして魅力的な登場人物が横行闊歩なところなどは作者の筆力が成せる技なのでしょう。
それなりに複雑な設定も読みやすい文章で取っつきやすく、戸惑うようなところはありません。

その主人公は伊賀で随一の技を誇る無門なのか、武辺一筋の日置大膳なのか、はたまたその成長を信長に認めさせた織田信雄なのか、いやいや、伊賀の下人こそが主人公です。
人間扱いをしない十二家評定衆に幼い頃から人間性を失うような鍛錬を強いられて、生死の境を見失い、倫理観を持たず、金のためなら何でもやる、その置かれた境遇、生き様、時折に見せる一寸の虫にも五分の魂、一人一人はゴミのような扱いをされていますが、その集大成とも言える無門を通してそれらが描かれているように思います。
また侮蔑しあっていた者同士がギリギリの環境で心が触れあうところなどもしびれますし、信長のニヤリ、はなかなか秀逸でした。
来年に上っ面をなぞっただけのような映画化がされるようで、観るつもりはありませんが、それで作品の価値が貶められやしないかと今から心配です。


2016年11月18日 読破 ★★★★☆(4点)


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猫弁と指輪物語

2016-11-14 00:10:05 | 読書録

猫弁と指輪物語

講談社

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ジャンルとしてはホームドラマなのでしょう、猫弁の第三弾です。
前作とは違って今回はきっちりと猫が主役となっていますから看板に偽りはありませんし、水戸黄門的な安心感も健在です。
相変わらずに猫絡みの依頼をこなす百瀬太郎、エンゲージシューズを作るために大福亜子との秋田への旅行、寿春美の将来設計などなど、前作からの引き継ぎも万全でした。

それとなく撒かれた伏線も早い段階で目星が付きますので、例によってミステリーとしての面白さはさほどではありません。
狭すぎる世の中もご都合主義なところがあり、そりゃないだろ、どこまで偶然に頼ってるんだよ、なんて突っ込みたくなるところもままあります。
それでもどこかホッとしてしまう安心感こそが猫弁の魅力であり、その温かさが伝わってきました。
シリーズを通しての「謎」でもある太郎の母についての取っ掛かりも出てきましたし、完結まであと二冊、きっと読み手を裏切らないフィナーレになることを楽しみにしています。


2016年11月11日 読破 ★★★★☆(4点)


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オリンピックの身代金

2016-11-09 00:05:46 | 読書録

オリンピックの身代金(上)

講談社

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オリンピックの身代金(下)

講談社

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東北の寒村から上京して東大大学院に通う島崎国男はやはり東京に出稼ぎに出てきていた兄が飯場で死亡したことで遺骨を受け取りに出向き、そこで東京オリンピックを目前にして建築ラッシュが続く中でそれを支えながらも、しかし社会の底辺とも言える肉体労働者の過酷な生き様を目にします。
自らもその肉体労働を経験することで理不尽な社会構造に怒りを覚えた島崎は、オリンピックを人質に国、政府に対して戦いを挑むといったストーリーです。

島崎、それを追う警察、この二つのストーリーが時間差を置いて展開していきます。
その時間差が徐々に縮まっていって一本に紡がれて結末を迎える、事件、種明かし、みたいな構成はある意味で新鮮ではありました。
しかしつまらない、これが吉川英治文学賞を受賞した決め手が何だったのかが分からず、読み切るのにかなりエネルギーが要ったのが正直なところです。
富が東京に集中をする一方でその日を食い繋ぐのに汲々とする地方、あるいはホワイトカラーとブルーカラー、この地域格差と経済格差を問題提起するにせよ、それがなぜ身代金を要求することに結びつくのか、大金を手にすることでその先に何があるのか、何かを解決できるのか、そこがさっぱり理解できませんでした。
そのため島崎に共鳴も感情移入もできず、それこそただのゲームのようにも思えてしまい、ステレオタイプな刑事部と公安部の対立などは横暴さが際立っただけです。
ただただ無力感だけが残ったような、これこそが著者の言いたかったことであればまさに名作、しかし自分にとっては駄作でしかない昭和39年の東京の一風景でした。


2016年11月8日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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刀伊入寇

2016-10-23 00:35:57 | 読書録

刀伊入寇

実業之日本社

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藤原隆家は藤原北家、関白道隆の四男で中関白家と呼ばれる名門中の名門の御曹司ではありながらも、武人肌な人物だったようです。
花山法皇の輿に矢を打ち込むなどして政権の中枢から外され、その後に望んで大宰権帥として太宰府に赴き、そこで刀伊の入寇に対して功を上げたことが有名です。
その子孫には平治の乱の信頼、平清盛の継母の池禅尼、また肥後菊池氏の祖である蔵規は隆家の子、あるいは孫とも言われており、この菊池氏のそれは仮冒との説が有力ですがそれだけ高貴、かつ武家にとっても相応しい血脈とされていたのでしょう。
この作品は隆家の「強き者と戦いたい」との一念、そして九州北部を襲った女真族との戦いを描いています。

爽やかな男ぶり、そんな隆家です。
朝廷での政争、花山法王や叔父の道長との争いが前半に、そして女真族との戦いがメインとなる後半とも、ぶれない一本気なところが描かれています。
基本的には史実に忠実に、そこに作者の手腕であるトッピングのバランスが良く、あまり知らない時代の話でもあり先が見えない楽しさがありました。
清少納言や紫式部、安倍清明などを登場させる必要があったのかどうかはやや疑問ながらも清少納言が隆家の姉である一条天皇の皇后定子に、紫式部が同じく一条天皇の中宮彰子に仕えていましたので隆家との交流があってもおかしくはなく、これも一つの演出なのでしょう。
乙黒、瑠璃など魅力的な人物も出てきますし、井伊直虎だったら藤原隆家でもいいんじゃないの、なんて思ったりもしています。


2016年10月21日 読破 ★★★★☆(4点)


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グラスホッパー

2016-10-16 00:03:09 | 読書録

グラスホッパー

角川書店

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遊び半分で妻を殺された元教師の鈴木、相手を自殺に追い込む殺し屋の鯨、ナイフを得手にする殺し屋の蝉、鈴木の復讐を軸にこの三人の視点で話は進んでいきます。
犯人の父親が経営する裏稼業に就職してチャンスを狙う鈴木、収賄疑惑がかけられた国会議員の秘書を自殺させた鯨、その口封じに鯨を狙う蝉、 しかし犯人が「押し屋」に殺されたことで事態は急転、それぞれが抱える悩み、鈴木は温かい家族を持つ押し屋に戸惑い、鯨はこれまで殺してきた相手の幻に苦しめられ、蝉は言われるがままに殺し続ける操り人形な自分に疑問を感じ、悲劇的でもあり、また安穏でもある結末に紡がれていきます。
軽快なテンポで伊坂幸太郎らしい不思議な世界が展開をしていきますので没入感は最高、珍しくも休日深夜に読み切りました。

オチとも言える仕掛けは早々に分かってしまったので仕立てとしてはどうだろう、そんな思いはしかし最後の一行で吹き飛びました。
それを確かめるべく読み返したのもこれまた珍しく、田中の一言がじわじわと、確信までには至りませんがその二段仕掛けに驚いています。
気がつかなければ気がつかないままに、おそらくは気がつかない人が多いのではないかと、思い込みすぎかもしれませんが現実と幻想の狭間をいったりきたりです。
それだけに普通の人を演ずる生田斗真に興味がありながらも映画はパス、思い込みが正しければ絶望をしそうな幕間映像でしたので、そっと大切にしまい込むことにします。


2016年10月15日 読破 ★★★★☆(4点)


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明智光秀の密書

2016-10-12 00:28:39 | 読書録

明智光秀の密書

祥伝社

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さすがにこれはしんどい、内容の評価以前の問題です。
不注意と言われてしまえばそれまでですし、書店でぱらぱらと見れば気がついたかもしれませんが、電子書籍では無理です。
短編集ですのでいくつかのものが被ってしまうこともあり、また同じ作品を複数の出版社から出すことはままありますが、それであればタイトルを変えないでください。
次から次へと読んだことのあるものが続き、デジャブな感じで読み終えてみれば、後書きで著者が「改題をしたもの」と書いているのを見て愕然としました。
天正十二年のクローディアス、こちらを読んだことがある方は手を出してはいけない短編集です。
作品自体に問題があるわけではありませんので、評価は同じとさせていただきます。


2016年10月11日 読破 ★★★☆☆(3点)


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葉桜の季節に君を想うということ

2016-10-09 00:09:30 | 読書録

葉桜の季節に君を想うということ

文藝春秋

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これはかなり評価が割れそうな作品です。
その美しいタイトルとは裏腹な入りにまずビックリ、また登場人物のそれぞれの刻の視点で進んでいきますので話があっちゃこっちゃに飛んで落ち着きがありません。
それが最後に一つに紡がれていくなんてのはよくある展開で目新しくもなく、八割方までは駄作の雰囲気がプンプンでした。
ところが追い込みから仰天の展開、この手のものはかなり読み込んでいるので身構えるまでもないはずが、初めて作家ということもあり油断をしていたのかもしれません。
読み返しても無茶ではありますが無理なものではなく、評価が高いのはそこに尽きるでしょう。
ややずるさを感じなくもありませんが、これはもう見事の一語です。

ただ残念なことに、本筋のストーリーがチープすぎます。
かつて探偵事務所で働いていた主人公が高校の後輩とともに知り合いのお嬢様から依頼をされた保険金殺人、詐欺商法の裏取りに挑む一方で並行して流れる恋物語なのですが、ストーリーをテクニックで彩ったのではなく、テクニックを披露するためにストーリーを作り上げた、そんな気すらします。
終盤の盛り上がりでせっかくそこまでの細かな伏線を拾い上げて、解説めいたものも自然に流しながらも、最後の最後にストーリーの肝を放置ってのはないでしょう。
あれだけ主人公に事件にこだわるモチベーションを語らせておいて、この結末は酷すぎます。
これが評価の低い理由ではないかと、ぐぅーっと盛り上げてストンと落とされた、トータルで考えれば平凡と評しておきます。


2016年10月7日 読破 ★★★☆☆(3点)


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QED 鬼の城伝説

2016-10-01 04:54:29 | 読書録

QED 鬼の城伝説

講談社

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パターン化が顕著なQEDシリーズも、結局のところはテーマに興味があるかどうかなのでしょう。
今回の鬼伝説、吉備津彦命の温羅退治は守備範囲からかなり離れているのですが、それでも一昨年の史跡巡りで日本100名城スタンプが目当てで足を運んだ鬼ノ城で触れていますので心理的な距離が近く、現地の描写もまだ記憶が新しいためにふむふむと、それなりに入り込むことができました。
崇、小松崎、棚旗姉妹のでこぼこ珍道中もこれまたお約束、崇のうんちくもマンネリを意識したのか前半部分を新たな登場人物に語らせたのもよかったように思います。

ミステリーとしてのそれが物足りないのにも、慣れてきました。
あまりに偶然に頼った仕掛けはそもそもがツマでしかなく、その言葉遊びと同じく突っ込むのは野暮と言うものなのでしょう。
崇がタタル、だからタタラというわけでもないでしょうが産鉄へのこだわりもいつもどおりで、実際に古代史に占める「鉄」の存在がそれだけ大きいのでしょう、孝霊天皇など登場人物を調べるようになっただけでも守備範囲の広がりとまでは言わずとも豊かになったような気になれます。
ちょっとルビが無いと読めない漢字が多すぎるかなぁ、これが一番のハードルかもしれません。


2016年9月30日 読破 ★★★★☆(4点)


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初陣 隠蔽捜査 3.5

2016-09-30 04:04:03 | 読書録

初陣 隠蔽捜査 3.5

新潮社

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前作でがっかりして暫く離れていたのですが、久しぶりの隠蔽捜査です。
今度はどうかなぁ、と不安が前面、しかし見事にその不安を払拭してくれました。
短編集はどうしても深みが足りないのですがそこを逆手にとって、コンパクトに切れ味のある作品に仕上がっていて、連載の都合なのでしょう、どうしても説明めいた記述や「警視庁の刑事部長との電話を先に切る所轄の署長は竜崎ぐらいだ」との伊丹の言葉が何度も出てくるのは仕方なし、気になるのがその程度の傑作です。

やはり主演は竜崎と伊丹、しかし全てが伊丹の視点で描かれています。
快活な刑事部長を演じてはいるものの内面は小心、周りにどう思われるかを極度に気にする伊丹の逡巡、その解決に原理原則を貫く竜崎が登場をするのは必然なのでしょう。
このシリーズの特徴、魅力は竜崎と伊丹のキャラが立っていること、そしてどこか水戸黄門に似通っているお約束の爽快感だと思います。
それがこの作品ではさらに凝縮がされていて、そうだろうな、そうなるんだろうな、ほらっ!みたいな、意外さはありませんが思わずにやついてしまう展開です。
ただ読み手を極端に選ぶので注意が必要、ここまでの三作に絡んだ舞台裏だったり、両主演がこれまでに経てきた事件の背景、そのキャラへの理解が足りていないとちんぷんかんぷんで駄作と受け取られかねず、この作品から入る人はまずいないでしょうが、順番どおりに読み進めるのが必須なシリーズであることを予めご認識ください。


2016年9月26日 読破 ★★★★★(5点)


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恋七夜

2016-09-22 01:20:17 | 読書録

恋七夜

集英社

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タイトルからして想像はできましたが、それでも安部龍太郎らしからぬ展開にちょっと驚かされました。
京の花街、上七軒の北野太夫こと富子と、鍵師ならぬ紐で封印を作り出す結師の由比源四郎、この二人の切ない恋物語が軸ですのでらしくない、と言ってしまえばらしくはないです。
それでも舞台は安土桃山時代、秀吉が一番に充実をしていた時期を描いているのは本領発揮か、北野大茶会での「事件」が物語を盛り上げます。

ただミステリー仕立てとしているのには、賛否が分かれるところでしょう。
餅は餅屋、残念ながら仕込みが甘いのかミステリーを読みすぎているからなのか、「事件」の犯人も黒幕も顛末も、やっぱりといった流れになってしまっています。
富子の生い立ち、源四郎の生き様を丹念に描いて恋の行方を引き立てていただけに、そこに特化をした方がよかったように思います。
それでは安部龍太郎ではない、そんなジレンマに陥ってしまったことでのどっちつかず、国のその後もちょっとは描いて欲しかったですし、いろいろともったいなさ爆発でした。


2016年9月21日 読破 ★★★☆☆(3点)


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毒殺者

2016-09-17 04:24:34 | 読書録

毒殺者

文藝春秋

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初めての作家でしたが評判がいいようで楽しみにしていたのですが、自分の嗜好には合いませんでした。
二重、三重のトリックは見事な技法ながらもバランスが悪く、片や伏線を張りすぎで早々に分かってしまったかと思えば、片や逆に餌が全くと言っていいほどに撒かれていないことで種明かしをされても驚きよりは憤慨が強く、その技法に酔った独りよがりな展開にガッカリです。
このオチはさすがに受け入れられず、それなりに苦労をして読み進めた努力は報われませんでした。

その苦労の理由は価値観によるところも大きく、そこは読み手それぞれだとは思います。
テーマとしてはさして珍しくもない保険金殺人、しかしそれがやたらと胸くそ悪かったのは登場人物の描写、言動の醜さです。
それも一つの演出であり、また伏線、餌でもあったのでしょうが、これでもか、の押しに辟易としてしまいました。
ルビを振るなど「どうだ!」とばかりの挑戦的な書きようも面白くなく、あるいは宿の男性、同窓会のハガキなど、理解できなかった箇所が少なくないのもその理由かもしれません。
自分の読解力の問題でもあるのですが、ただ一般受けをするような作品でないことだけは確かです。


2016年9月15日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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隠された帝

2016-09-12 00:01:29 | 読書録

隠された帝

祥伝社

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中臣鎌足とともに蘇我氏を倒した中大兄皇子は後の天智天皇、その息子である大友皇子を壬申の乱で滅ぼしたのは大海人皇子の天武天皇、この二人は兄弟ですが兄の天智よりも弟の天武の方が年長ともされており、また大友皇子は今は代数に加えられて弘文天皇と呼ばれていますが即位をしたかどうかは不明だそうです。
この時代は朝鮮半島で高句麗、新羅、百済が争い、そこに日本と唐が参戦をするといった混迷状態で、これまた教科書の定番である白村江の戦いもこの頃のことです。
天智、天武ともその高句麗、新羅、百済の王族の出身との説もあるようで、それとはまた違った角度での井沢節を楽しませてもらいました。

著名なアナウンサーのベッド・ディテクティブ、安楽椅子探偵ならぬベッド探偵が謎を解き明かしていきます。
天智系と天武系との対立、天智天皇暗殺説など古代ミステリーとしてぐいぐいと読む者を引きつけて、そうだったのか、と思わせてしまうだけの説得力がありました。
さりげなく当時の状況を鑑みずに文献絶対主義の歴史学者、学界をさりげなく批判、を通り越してこき下ろすところなどもらしさ全開、痛快でもあります。
ただ残念なことに箸にも棒にもかからない、くだらなさすぎる別の事件を並行して走らせたこと、その意図が全く分かりません。
これが無ければもっと★をあげられたのですが、ミステリー作家としての矜持なのか、それもまた井沢元彦です。


2016年9月11日 読破 ★★★☆☆(3点)


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