向上心 《 忍耐と自制心は人生街道を平らに均してくれる――サミュエル・スマイルズ 》

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忍耐と自制心は人生街道を平らにし、閉ざされているはずの道をいくつも切り開いてくれるだろう。自尊心を持つことも同じく大切だ。自分自身を尊ぶ者は、他人も尊敬するのが普通だからである。


『向上心』
（ サミュエル・スマイルズ、三笠書房 (2011/5/21)、p107 ）
第3章　自分を生かす働き方――日々、精一杯働いているか、やりがいはあるか
4　心の鍛え方しだいで「日々の迷い」は簡単に吹っ切れる

◆忍耐と自制心は人生街道を平らに均(なら)してくれる

信仰に厚い人の一生は、きびしい自己修養と自制心によって支えられている。まじめで注意深く、悪を避けて善を行ない、魂の領域に足を踏み入れ、死に対しては忠実で、不運に耐え、すべてを成し遂げた後はじっと運命を待つ。

よこしまな精神と闘い、この世の邪悪を支配する者には厳然と立ち向かう。固い信仰心で心を清め、善を施すのに疲れを知らない。気力を失わぬ限り、時が来ればどれもこれもみな収穫できるからである。

実務に長じた人間も、きびしいルールや手順に従う必要がある。仕事でも人生と同様に道徳的な資質が大きな役割を果たす。成功するためには、どちらにも性癖を規制し、自分だけでなく他人にも懸命な指図を与えるような注意深い自己訓練が必要なのである。

忍耐と自制心は人生街道を平らにし、閉ざされているはずの道をいくつも切り開いてくれるだろう。自尊心を持つことも同じく大切だ。自分自身を尊ぶ者は、他人も尊敬するのが普通だからである。

政治の世界もビジネスの世界と変わりがない。この分野で成功をおさめるには能力よりも性癖、非凡な才能よりも人格がものを言う。自制心がなければ忍耐力も弱く、思いやりにも欠けて自分はおろか他人を指導する力もない。

ある時、政治家のピットを囲んで総理大臣としていちばん大事な才能は何か、という話が出たことがある。「上手に演説すること」「豊富な知識を持つこと」「骨身を惜しまず働くこと」などと意見が出た。するとピットは、「いや、どれもちがう！　いちばん大事なのは忍耐だ」と答えた。つまり忍耐とは自制することであり、ピット自身この点では完璧に近かった。

友人は、ピットが癇癪を起したのを一度も見たことがない、と敬服している。忍耐は一般に消極的な美徳だと言われているが、ピットは行動だけでなく、気力と素早い機転とを忍耐に結びつけ、驚くほど前向きの姿勢をとったのである。