電脳筆写『 心超臨界 』

勇気とは恐怖に抵抗してそれを支配することである
恐怖が消えるわけではない
( マーク・トウェイン )

歴史を裁く愚かさ 《 全体主義国家ドイツの管理売春——西尾幹二 》

2025-02-16 | 04-歴史・文化・社会
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「連合軍が押収して1946年にニュルンベルク裁判に提出されたドイツの記録文書は、恐怖をあおるためにドイツ人征服者が組織的に強姦したことを立証している。ポーランド、ユダヤ、ロシアの女たちが強姦され、多くの場合、むごたらしく殺された。情容赦なく何百人もの少女や女性が迫害され、軍用娼家へ追い込まれ、そこで強制売春に使役された。いわゆる『慰安勤務』である。それが管理的に行われた大量殺人の前段階だったこともしばしばだった。」(ヘルケ・ザンダー/バーバラ・ヨール『1945年 ベルリン解放の真実』現代書館)


『歴史を裁く愚かさ』
( 西尾幹二、PHP研究所 (2000/01)、p145 )
第3章 慰安婦問題の国際的不公平
1 ドイツの傲岸、日本の脳天気

◆全体主義国家ドイツの管理売春

フランツ・ザイドラーの緻密な本は「衛生」がテーマで、いわゆる「強制連行」があったか否かという問題には、上の証言のほかには格別の指摘はなかったように思える。本の狙いが別なのである。けれども西欧でも東欧でも、占領地におけるドイツ国防軍の売春婦たちは、一度監禁されれば、衛生管理の見地からも自由行動を封じられた、まさに「女奴隷」であったことは紛れもないようだ。

「すべての売春宿の少女たちは、駐屯地司令官の発行した身分証明書を所持していた。彼女らは売春宿のなかで暮らしていた。監視なしで宿の外に出ることは禁じられていた。医療検診、美容院、そして週一度の散歩へ出かけるときにも、途中において『なんらかの信頼に足る同行者』を必要とした。」

一方、ここを訪れるドイツ兵たちにもさしたる自由はなかったように見える。パートナーが決められていることは前に見た。ほかにも厳しい規制があった。コンドームを使用すること。性交後に病気の予防処置をしてもらうこと。各店には予防処置室があり、暗い中に赤十字のついた青い小さなランプが灯っていたそうだ。

なんとも憂鬱な光景である。

ザイドラーの次のまとめの言葉が、全体主義国家の管理売春の本質を的確に要約している。

「第二次大戦の戦争状況の全体性は、国家が性愛(エロス)の領域をさえもしっかり摑んだ点にあらわれていた。生の秩序というものの全体は個人のタブーに対しては制限を知らない。国防軍の売春宿においては性行為は一つの管理問題だった。売春宿の設立、備品目録、売春婦、お客の割り当て、性病予防処置、等々は書類番号で整理される事柄だった。兵士の一身上の内的領域が、お役所による管理プログラムの一部であった。兵士が国防軍売春宿に一歩足を踏み入れた瞬間に、規定と態度指導の支配をたっぷり受け入れるほかなかった。性行為の中断も監視された。性的欲望の鎮静でさえも命令から自由になった空間の中にはなかった。」

恐らく日本の兵士たちが置かれた環境もそう大きな違いはなかったであろう。ただ合理的残酷性、計画的非人間性においてドイツのほうが一段と徹底さに貫かれていたのではなかったか、と思われてならないが、比較する術をわれわれの世代はもう持たない。

いわゆる「強制連行」については、ザイドラーも先に証言していたが、最近出た訳書に次のような言句も存在する。

「連合軍が押収して1946年にニュルンベルク裁判に提出されたドイツの記録文書は、恐怖をあおるためにドイツ人征服者が組織的に強姦したことを立証している。ポーランド、ユダヤ、ロシアの女たちが強姦され、多くの場合、むごたらしく殺された。情容赦なく何百人もの少女や女性が迫害され、軍用娼家へ追い込まれ、そこで強制売春に使役された。いわゆる『慰安勤務』である。それが管理的に行われた大量殺人の前段階だったこともしばしばだった。」(ヘルケ・ザンダー/バーバラ・ヨール『1945年 ベルリン解放の真実』現代書館)
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