電脳筆写『 心超臨界 』

一般に外交では紛争は解決しない
戦争が終るのは平和のプロセスとしてではなく
一方が降伏するからである
D・パイプス

国民国家=日本の解体の危機が迫っている――井上寿一さん

2009-11-06 | 04-歴史・文化・社会
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 「国家ビジョンの再構築」
 学習院大学教授・井上寿一

  [1] 4つの大規模な試み
  [2] 「社会主義」への幻想
  [3] 四分五裂した左翼運動
  [4] 漸進的な民主化を選択
  [5] 二大政党制の病理現象
  [6] 奇想天外なクーデタ
  [7] 挫折した農本主義
  [8] 昭和デモクラシー
  [9] 戦争の体制変革作用
  [10] 4つの教訓


「国家ビジョンの再構築」――[1] 4つの大規模な試み
【[やさしい経済学―「社会科学」で今を読み解く]09.11.05日経新聞(朝刊)】

先の総選挙は歴史的な大転換、あるいは現代史の画期として、誰もが異口同音にその重要性を指摘した。確かに政権交代は実現した。しかし、選挙の争点は景気や雇用、年金・福祉といった個別の政策を巡るものにとどまった。政策的な争点に関する限り、この選挙に歴史的な画期を見いだすことは難しい。真の争点は何だったのか? 個別の政策的な争点に隠れて見えなくなった日本の国家ビジョンこそ、問われてしかるべきだった。

米ソ冷戦終結後20年を経て、いまだ新しい世界秩序は確立していない。昨年の「リーマン・ショック」後、世界経済は今のところ小康状態を保っている。しかし危機の再来のおそれは否定できない。他方で国内の閉塞(へいそく)感は限界に近づきつつある。格差拡大社会の影響は、日本のあらゆる分野に波及している。総選挙を巡るメディアの過熱した報道ぶりとは対照的に、国民は醒(さ)めていた。国家と国民を結びつける代表民主制に対する懐疑の念が深まっていたからである。国民国家=日本の解体の危機が迫っている。

日本はこれからどうすべきか。格差拡大社会がもたらす閉塞状況を打ち破り、活力を取り戻しながら、国際社会における存在感を高めていかなくてはならない。それには確かな国家ビジョンの再構築に基づく理念の発信が必要である。

以上の問題意識、関心から、この論考は、昭和戦前史に国家ビジョンの再構築の手掛かりを求めて、そこから示唆を得ようとする試みである。日本近代史の最新の研究成果を踏まえて進めるこの作業は、政治史と社会史の境界領域において、従来のイメージとは異なる、もう一つの昭和戦前史の発見に私たちを導くことになるだろう。

歴史学は社会科学の実験室である。歴史データは国家ビジョンの再構築のために約に立つはずだ。昭和戦前期は、20年の短期間に様々な国家ビジョンを巡る大規模な実験を行った時代だからである。以下では4つの国家ビジョン(社会主義、議会主義、農本主義、国家社会主義)を取り上げる。これらの社会実験の分析結果を通して、昭和戦前史の教訓をどのようにいかすべきかを考えてみたい。

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井上寿一(いのうえ・としかず)
56年生まれ。法学博士。専門は日本政治外交史
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