電脳筆写『 心超臨界 』

一般に信じられていることと全く逆のことに
真実があることがしばしばある
( ブリュイエール )

天然塗料・柿渋の時代がやってくる――今井敬潤さん

2024-07-14 | 09-生物・生命・自然
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円空彫りを始めて3年目になる。出来上がった像に初めて色を塗る時、使用したのはオイルステインだった。シンナーの匂いがいつまで立っても鼻につく。部屋のなかに置けば、シックハウスと同じになる。そこで最近できあがった制多迦童子(護法神)には、柿渋を使用してみることにした。使ってみて驚いた。揮発油のような体に悪い影響を及ぼすものとは違い、全く神経を刺激することがない。一種特有のにおいがむしろ懐かしい。昔、糞尿を肥料として畑にまいていたころの完全自然循環社会への郷愁なのかもしれない。

岐阜女子大学非常勤講師・今井敬潤さんは、忘れられかけていた柿渋に興味を持ち、柿渋の歴史、生活や産業に占めた位置などを調べ、「柿渋」(法政大学出版局)という本にまとめたのが2年前である。柿渋は千年以上の歴史を続けてきた日本人の宝。見直され始めた今は、柿渋元年とも言える。改めて先人たちの柿渋利用法や製法をきちんと整理し、正しく知っておく必要がある、という。


◆天然塗料・柿渋の時代がやってくる

「柿渋の妙味 再び色づく――防水・防腐効果に着目、塗料・染料として活用紹介」
 今井敬潤(いまい・きょうじゅん=岐阜女子大学非常勤講師)
( 2005.11.15 日経新聞(朝刊))

柿の季節である。干し柿づくりが最盛期だし、甘柿の出荷も大忙しだ。

その干柿産地の一つ宮城県の丸森町に、私は春から二度ほど大阪から出かけた。ささやかだが、町おこしのお手伝いである。地域で新たに取り組んでいるのは柿渋づくり。まだ試作段階だが、町では「柿渋を事業に」と意気込んでいる。

× × ×
戦後は需要急増
柿に甘柿と渋柿があることは知られている。しかし、柿渋となると、柿の渋味(しぶみ)であることは想像できても、具体的にどんなもので、その用途などについて知る人は少ないのではないだろうか。

柿渋を青い実のうちに採り、臼などでついて破砕し、搾る。半年間ほど発酵・熟成させると、褐色で渋味と特有のにおいを持つ液体が出来上がる。これが渋味物質のカキタンニンを多量に含む柿渋である。

柿は中国から日本に伝わったが、柿渋の起源はよくわからない。ただ、柿渋を見事なまでに活用してきたのは日本である。防水・防腐効果がある柿渋を木、紙、布に塗布、また染めることで強度を増し、耐水性、耐腐食性を高めた。酒袋など醸造用の搾り袋、漁網、渋紙、紙子、和傘、うちわの生産、建材塗装などには欠かせず、かつては塗料、染料として生活や産業の必需品だった。

雨が多く湿度の高い風土で、防水や防腐に苦心した人々が、様々な用途を開発してきた。わが国を代表する天然塗料として漆があるが、それ以上に柿渋は生活に身近で大切な産業資材だった。だから明治時代以降、甘柿が普及するまで、各地の柿は、干柿、柿渋のための渋柿が主だった。

しかし、合成樹脂塗料や合成繊維の登場で、戦後しばらくすると柿渋需要は急速に減り始める。各地の柿渋業者は次第に姿を消し、用途は清酒製造での清澄剤などに限られるようになった。

× × ×
見直される機能
私は大学で果樹園芸学を専攻した。農業高校で教え始めたころから柿渋に興味を持ち、調べ始めた。しかし、すでに柿渋の歴史、生活や産業に占めた位置などは忘れられかけていた。かかわった人々などを訪ね、「柿渋」(法政大学出版局)という本にまとめたのが2年前である。

ところが、10年前くらいから、様々な方面で柿渋への関心が高まり始めた。近年、建築や染色関連雑誌などで、しばしば柿渋や柿渋染めが取り上げられるようになった。

私にも、柿渋染めに熱心な染色家や愛好家、建築家や工務店の方から声がかかり、丸森町のように、柿渋を産業振興の一つにと考える地域からの相談も増えてきた。

以前に比べると、驚くようなもてはやされ方だが、その理由は、何より天然の塗料、染料であるということのようだ。とりわけシックハウスが言われ始めてからは、住宅関連の塗装剤として評価されているし、その風合いを好む人もある。

柿渋には防虫効果もあると言われ、大きなホームセンターなどでは、塗料として漆類と並べて売られている。私の知るある京都の柿渋屋さんは、用途を清澄剤から塗料や染料にシフトしている。

このほか柿渋の抗菌性を生かし、匂いの残らないタオルが生産されているし、アレルギーの子供用に柿渋染めのカバンも商品化されている。化粧品の下地用剤、壁紙への利用も進んでいる。廃棄問題などを考え、柿渋で染めた綿製の漁網を作ろうとする動きもある。

今年の春と夏、たまたま手にした柿渋染めの色合いに魅せられたという米国の女性が訪ねてきた。柿渋を米国に紹介、自宅に柿を植え、将来は柿渋を作りたいという。

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正確な歴史学ぶ必要
柿渋への再評価は、多少の戸惑いもあるがうれしいことである。恐らく人々の中に、石油化学製品万能への反省があるのではないかと思う。

ただ、人気がたかまるにつれて、懸念されることもある。一部には柿渋への過度な評価があるし、質の悪い柿渋が売られ始めているとも聞く。

柿渋は千年以上の歴史を続けてきた日本人の宝である。見直され始めた今は、柿渋元年とも言える。改めて先人たちの柿渋利用法や製法をきちんと整理し、正しく知っておく必要がある。まだ十分にわかっていない柿渋の物理的、化学的特性を研究し、柿渋を総合的に解明することも望まれる。

柿の実がなる秋の風景は、私たちの郷愁を誘う。しかし、柿渋の有用さがさらに認められれば、柿を風景としてみるだけでなく、資源として懸命に柿林を育てる時代がくるかもしれない。
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