電脳筆写『 心超臨界 』

何もかもが逆境に思えるとき思い出すがいい
飛行機は順風ではなく逆風に向かって離陸することを
ヘンリー・フォード

プリスとレモは、哺乳類であるウサギの海馬でシナプス可塑性を発見した――池谷裕二さん

2010-03-14 | 09-生物・生命・自然
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「記憶力を強くする」
【 池谷裕二、ブルーバックス、p158 】

ヘブの学説はデカルト以降もっとも記憶の核心をついた理論として注目を集め、以来、多くの研究者たちがヘブの法則を満たすシナブス可塑性の発見を試みました。

そして、まず、アメリカの神経生物学者トークとカンデルが1960年代に、軟体動物であるアメフラシの神経回路にシナブス可塑性が存在することを示唆しました。その業績が評価され、カンデルは2000年のノーベル賞を受賞しました。しかし、神経科学界により大きな衝撃を与えた研究は、ヘブの法則が提唱されてから20年あまりがすぎた1973年、生理学雑誌に報告されたスウェーデンの神経生理学者プリスとレモの発見です。この報告によると、二人は、哺乳類であるウサギの海馬でシナプス可塑性を発見したというのです。彼らの発見はこういうものです。

  海馬歯状回のシナブスを高い周波数で刺激すると、シナブス伝達の
  効率は上昇し、この現象は刺激の後、長時間持続した。

プリスとレモの二人は、シナブス結合の増強が長期的に持続するというこの現象を「長期増強(Long-term potentiation)と名づけました。この興味深い現象は、その後盛んに研究されるようになり、いまでは英名の頭文字だけをとって「LTP」とよばれ、世界中で親しまれています。それでは、このLTPについて詳しく説明しましょう。

脳研究者は、神経細胞の活動を記録するために、きわめて細い金属の針(電極)を脳に刺し、その先端を目的の神経細胞に近づけて活動を記録するという方法を使います。このようにして、神経細胞の活動を電気的に記録し解析する学問を「電気生理学」といいます。プリスとレモの大発見もまた電気生理学の手法を使って行われたものです。

(中略)

プリスとレモは、神経活動を記録するために使う電極のほかに、さらにもう一本、神経細胞を刺激するための電極も同時に脳に挿入しました。そして、その電極を使って、神経細胞を1秒間に数百回という高い周波数で刺激し、神経細胞を強く活性化させました。すると、シナブス電位は瞬時に大きくなり、しかも、この増大が数時間から数日も持続したのです。これがLTPです。このLTPを引きおこすための高周波数の電気刺激を「テタヌス」とよびます。

もちろん、シナブス電位が大きくなったということは、シナブスの伝達の効率が上昇したということにほかなりません。シナブスを電車の駅にたとえるならば、路線の「時刻表」が変わって、その駅が盛んに利用されるようになったということです。第4章で述べたようなシナブス可塑性は、まさに予言どおり脳に存在したというわけです。しかも、記憶に深く関与している海馬に存在したのです。

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