孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  徴兵に揺れる若者の心情 混迷する政局 クリミア併合2年で自信を示すプーチン大統領

2016-03-21 23:18:39 | 欧州情勢

【3月19日 AFP】

徴兵拒否の動きも 教育現場で進められる「愛国教育」】
東部で親ロシア派と政府軍の対立が続くウクライナは、現在は一応の停戦状態ということで大規模な衝突はなくなったものの、散発的な衝突は今も続いており、犠牲者も増え続けています。

そのウクライナは、2013年末に一度徴兵制廃止を決めていましたが、ロシアによるクリミア半島の占拠とその後の南東部(ドンバス地域)における内戦とにより、2014年5月に入ってから徴兵制を再開しています。

「徴兵」という個人の選択を超越した決定に直面して、ウクライナの若者のなかには徴兵を拒否する者も少なからず存在しており、そうしたなかで徴兵に応じた若者、徴兵を拒否した若者、それぞれの心情を追ったドキュメンタリー番組を昨日観ました。

****ドキュメンタリーWAVE「銃は取るべきか~徴兵に揺れるウクライナの若者たち~****
放送日 3月20日

2年にわたり政府軍と親ロシア派勢力の間で衝突が続くウクライナ。若者たちが次々と東部に送られ、死者は9000人を超えた。

その中で今、徴兵を拒否する動きが広がっている。徴兵拒否には2~5年の禁固刑が科せられるため国外に逃げる者が増加、その逃亡先の多くは、プーチンが門戸を開放しているロシアや近隣の国々だ。

失業率が10%に上り国の将来像が見いだせなくなっている現状と、選択を迫られる若者たちの姿を追う。【NHK】
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ここで描かれているのは、徴兵に応じて慣れない新兵訓練の日々を送る若者、徴兵を避ける合法的手段してポーランドへの留学を選んだ若者とその家族、借金を抱えており自分が徴兵に応じると妻にその責務が覆いかぶさるため、非合法に徴兵を逃れて、ひそかに働き続ける若者、経済苦境のなかで収入を得る手段としてやむを得ず軍に志願した若者など・・・その事情は様々です。

こうした徴兵拒否するウクライナ若者の主張については【https://shanti-phula.net/ja/social/blog/?p=93238】にも報じられていますが、こちらはロシア側メディアの報告ですので、多分にロシア側の意向を反映した内容にもなっているきらいもあります。

NHKドキュメンタリーでは、教育の現場で進む「愛国心とは何か?」といった“愛国教育”や、機関銃の分解組み立てを学ぶ軍事教練的な教育の実態も報じられていました。

「愛国心とは国家の統一をまもろうとすること」「国家のために犠牲をささげること」・・・・

正直なところ、こうした「愛国心」については違和感もあります。

隣国が理不尽にも攻撃してきた。自国の人々を殺害している。同胞や家族を守るために銃を手に取って戦わねば・・・という話なら、わかりやすいものがあります。結局は殺人行為である「戦争」というものはどう考えるかという根源的問いかけはありますが。

ただ、ある地域がどうしても一緒にやっていきたくない、そのためには戦いも辞さないというときに、「国家」の統一性を守るために銃を手にしてこうした動きを抑え込もうとするのが、そのためには個人の命を犠牲にするのが当然だというのが、果たして「愛国心」という名の崇高な行為なのか・・・?

ウクライナ東部に限らず、スコットランドでも、カタルーニャでも、民族的、文化的、経済的背景もあって、どうしても一緒にやっていけないというなら、国を分けてもいいのではないか、そのために互いに殺しあうまでのことではないのではないか・・・ 国家の枠組みのありようは、そこに暮らす住民が決めるべきことではないのか・・・と思えます。

もっとも、ウクライナ東部の動きは住民の意向を反映したものではなく、ロシアの侵略行為と一部武装組織によって一方的に作り出されたものだ・・・という立場に立てば、また別の話になってくるのでしょう。

2党の連立離脱で与党過半数割れ
そうした判断の根拠として、選挙で民意を問うというのは有効な手段と思えますが、ウクライナ政府は東部に自治権を付与することにつながる地方選挙実施には応じていません。

****<ウクライナ>親露派支配2州の地方選実施を拒否****
ウクライナ東部の政府軍と親ロシア派武装勢力の紛争を巡り、ウクライナと独仏露の4カ国外相が3日、パリで会談した。

独仏露は情勢正常化へ向けて、親露派が支配するドネツク、ルガンスクの東部2州で今年6月ごろまでに地方選挙を実施するよう要求した。だが、ウクライナのクリムキン外相が「治安回復が先」と拒否し、物別れに終わった。

昨年2月の停戦合意(ミンスク合意)では、東部2州に一定の自治権を持たせるための憲法改正や東部での地方選挙実施が盛り込まれた。

ラブロフ露外相は、「残念ながらすべて実現していない」と指摘し、親露派と対話する意思がないとウクライナ政府を批判した。エロー仏外相は会談後、「地方選を行うために法整備を進める重要性を確認した」と述べた。

ロシアは、独仏との共同歩調を強調して欧米の対露制裁解除を狙っているとみられる。

一方、ウクライナ側には、地方選を実施すれば親露派支配を事実上認めてしまうことになるため議会の合意が得られないという理由があるようだ。【3月4日 毎日】
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そのウクライナ政府の政情は揺らいでいます。

****ウクライナ与党、半数割れ 大統領が首相辞任要求 2党が連立離脱****
欧州連合(EU)加盟を目指すウクライナの政権が、改革の行き詰まりで混乱に陥っている。

ポロシェンコ大統領が大黒柱の首相に辞任を求めたが、不信任案は否決。連立与党は4党のうち2党が離脱して過半数を失った。国際通貨基金(IMF)の融資も保留され、混迷を深めている。東部で続く親ロシア派との紛争への影響も懸念される。

ポロシェンコ氏は16日、演説でヤツェニュク首相の辞任を要求。政権は2014年5月の大統領選に圧勝したポロシェンコ氏と、ヤツェニュク氏の2人が車の両輪だったが、与党内の対立で経済改革が停滞する状況を打開する狙いだった。

第1党の「ポロシェンコ・ブロック」が同日、議会(定数450)に首相の不信任案を提出したが否決された。同党自体、議席は143なのに賛成は97人。結果を不満として18日までに連立から2党が離脱し、与党はポロシェンコ・ブロックとヤツェニュク氏の「国民戦線」の2党だけに。過半数に9議席足りなくなった。

東部の紛争で国内総生産(GDP)は前年比で約10%減り、インフレ率も40%を超えた。最大の懸案は、富豪らが基幹産業をおさえる「旧ソ連型」の経済構造の改革だが、東部の紛争でその富豪らが資金提供する義勇軍部隊に頼る事情もあり、進まない。

不信任案否決をめぐっても、ウクライナ・メディアは、富豪らが多くの与野党議員に影響力を行使したと指摘している。

IMFの175億ドル(約1兆9800億円)の融資も、67億ドルがなされただけで昨秋以降は改革の遅れを理由に止められている。

別の政党との連立を模索する動きもある。ポロシェンコ氏は欧米が混乱を恐れる解散総選挙は避けたい考えだ。

東部では親ロ派との大きな衝突は収まったが、昨年2月の停戦合意で定められた、東部に特別な地位を与える憲法改革には抵抗が強い。総選挙になれば、国民に不満の強い停戦合意が争点化されてしまう恐れがある。【2月20日 朝日】
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ウクライナ政府が東部の地方選挙実施に応じられない背景には、こうしたウクライナ政府の混乱、親ロシア派に譲ったような形になると政権がもたない・・・という事情があるのでしょう。

一方で、国民側にはヤヌコビッチ前政権下で深刻化した汚職への対策の遅れや景気低迷への国民の不満が強くあって、その不満が東部親ロシア派への対応と結びついて政情を不安定化させることにもなっています。

クリミア実効支配をアピールするプーチン大統領
ロシア・プーチン大統領は、2014年3月18日のクリミア併合から2年が経過し、その成果を誇示しています。
実際、ロシア本土と結ぶ橋や海底ケーブルの建設が進み、クリミアのロシア依存が強まっています。

****プーチン露大統領クリミア視察、併合から2年****
ロシアのウクライナ南部クリミア半島の併合から2年となる18日、ウラジーミル・プーチン大統領が現地を訪れた。

プーチン大統領は、トゥズラ島に立ち寄り、ロシアとクリミア半島を結ぶ総工費30億ドル(約3300億円)の巨大な橋の建設現場を視察した。

ロシア政府の狙いは、孤立しているクリミア半島とロシアの結び付きをこの橋で強化することにある。

プーチン大統領は、橋の建設は「歴史的使命」だとして、2018年12月までに完成させると述べ、低迷しているクリミア経済のてこ入れにはロシア本土とクリミアを初めて直結する橋が必要不可欠だと述べた。

さらに、ウクライナへの電力依存を軽減させるために敷設を進めている海底ケーブルは、今年5月に完全に使用できるようになると述べた。

昨年、ウクライナからの送電線が爆破される事件が起き、クリミア半島で大規模な停電が発生したため、安定した電力供給は差し迫った懸案事項だった。

国営テレビで放送された国民に向けの演説でプーチン大統領は、クリミア併合から2年となることを祝い、クリミアとロシアを結ぶ橋は「われわれの一体化を示す新たなシンボルになる」と述べた。

一方、首都モスクワをはじめとするロシア各地では、クリミア併合2周年を祝う政府主催のコンサートや祝典が開かれた。

ロシア政府は、クリミア併合は、ウクライナ南部クリミア半島で行われたロシア編入の是非を問う住民投票で圧倒的多数が賛成票を投じた結果に従ったものだと主張している。
 
クリミア併合によりプーチン大統領の人気は急上昇し、独立系調査機関レバダ・センター(Levada Centre)が先月行った世論調査によると、ロシア国民の83%がクリミア併合を支持している。

しかし、クリミア併合により、ロシアと欧米諸国の関係は急速に冷え込んだ。

また、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は18日、この2年間でロシア当局が「恐怖と抑圧をクリミアに広げている」と非難。さらに、ロシア編入に反対したクリミアの少数派民族、イスラム教徒のタタール人が迫害を受け、ウクライナ寄りの活動家や記者が弾圧されていると強く非難した。【3月19日 AFP】
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なお、クリミア併合2年を記念するロシアでの行事については、“2年前の熱狂は冷めつつある”との指摘もあります。

****<クリミア編入2年>モスクワで集会 参加市民は限定的****
ロシアのプーチン政権がウクライナ南部クリミア半島を一方的に編入してから2年となった18日、モスクワの赤の広場近くでロシア側の記念集会が開かれた。

有力政治家や著名歌手が登壇したが、参加した市民は限定的。経済難が長引く中、2年前の熱狂は冷めつつある。(後略)【3月19日 毎日】
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ただ、併合への支持率、あるいはプーチン大統領への支持は依然高いものがあり、“「欧州の一員にはなれなかった」「生活の質は欧米にほど遠い」。国民の多くはこうした屈辱感を「大国意識」で埋め合わせているのだと専門家らは分析している。”【3月18日 産経】といった指摘もあります。

欧州内にも対ロシア経済制裁で温度差
ウクライナ政府は、ロシアのクリミア併合に関する対ロシア経済制裁措置の延長を求めています。

****対ロ制裁、継続確認=クリミア編入拒否―ウクライナ独仏3首脳****
ウクライナ大統領府によると、ポロシェンコ大統領は17日、訪問先のブリュッセルでドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領と3首脳会談を行った。独仏首脳はウクライナ東部の停戦合意が完全に履行されるまで、対ロシア制裁を継続すると確認した。

また、独仏首脳は、南部クリミア半島のロシア編入を認めない欧州連合(EU)の方針に「変更はない」と約束した。18日はロシアによるクリミア編入条約調印から丸2年となる。【3月18日 時事】 
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もっとも、イタリアやギリシャ、ハンガリーのように経済制裁継続に懐疑的な国もあります。

****協調試されるEU・・・対露制裁の延長論に温度差も****
対ロシア政策をめぐり、欧州連合(EU)が揺れている。

ウクライナ危機の後、ロシアに対する経済制裁に踏み切ったが、その期限が近づき延長の是非が今後の焦点となってくるためだ。制裁への態度が加盟国で割れる中、難民・移民流入への対応も絡み、EUの協調が試されている。

「われわれは対ロシア政策の5原則で一致した」。EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表は14日、外相理事会後の記者会見でこう強調した。理事会がEUとロシアの関係について議論したのは約1年ぶりだ。

原則には、ウクライナ東部情勢の解決に向けた「ミンスク合意」が履行されるまで、ロシアへの態度を変えないことなどが盛り込まれた。

だが、7月末に期限がくる経済制裁への直接の言及はなく、加盟国間の意見が割れている問題の議論をモゲリーニ氏が避けたとも伝えられる。

EUは2014年7月のマレーシア航空機撃墜後、ロシアの金融、エネルギー、防衛の主要産業を標的に制裁を発動。今年1月末に半年間延長したが、その扱いをめぐって加盟国の温度差が再び目立ってきた。

イタリアやギリシャ、ハンガリーは制裁に懐疑的でジェンティローニ伊外相は14日、「現時点でどんな決定も当たり前ではない」と強調。一方、英国やバルト諸国は「ロシアによる安全保障上の挑戦を見失ってはならない」(ハモンド英外相)と制裁維持を訴えた。

一方、ロシアは移民流入にも乗じてEUにくさびを打つ。プーチン大統領は2月、訪露したハンガリーのオルバン首相に対し、同国の移民への厳しい対応を評価。オルバン氏はシリアでの空爆を念頭に露側の「テロ撲滅の努力」をたたえ、「対露関係の正常化に関心がある。制裁延長は自動的ではない」と表明した。【3月18日 産経】
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今後の火種にもなりそうな、ロシアが拘束するウクライナ女性軍人の問題
ロシア・プーチン大統領はウクライナを“敵”に仕立てることで、政権の求心力を得ようとしていると言われています。

****敵視政策で求心力=18日クリミア編入2年―プーチン政権****
2014年3月18日のロシアによるウクライナ南部クリミア半島編入条約調印から18日で丸2年となる。国際社会は「力による現状変更」を認めず、対ロシア制裁を継続。プーチン政権は今も、国内向けプロパガンダで敵のイメージを作り出すことで、正当性と求心力を維持している。

 ◇作られるウクライナ憎悪
「敵」の筆頭は、ウクライナと、編入を問う2年前の住民投票に反対した先住民族クリミア・タタール人。ロシアの軍事介入で始まった東部紛争でさえ「ウクライナ政府による住民への懲罰」と見なすロシア人は多い。

1、2月にロシアとウクライナで実施された合同世論調査によると、昨年9月に比べてウクライナ人の対ロ感情は、好感が34%から36%に微増し、反感が53%から47%に緩和した。

これに対して、ロシア人の対ウクライナ感情は逆に、好感が33%から27%に減少し、反感は56%から59%に増えた。軍事介入した側が憎しみを深めている構図だ。

ロシア経済紙ベドモスチは社説で「ロシア人の対ウクライナ感情は、テレビのプロパガンダに起因している」と分析。「論理的にはプロパガンダが止まれば、憎悪はすぐに消えるだろう」とみる。

しかし、ロシア人の3分の2が「ウクライナと戦争をしていない」と今も世論調査で回答。プーチン政権の公式見解と違わず、自国の正当化に終始している。【3月17日 時事】
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そうした中で、ウクライナとロシアの関係を更に悪化させそうな問題として、ロシアで拘束が続くウクライナの女性空軍中尉、ナディア・サフチェンコ氏(34)の問題があります。

****ウクライナ女性軍人に有罪判決=G7が解放要求―ロシア****
ロシアで拘束されているウクライナ女性のナディア・サフチェンコ空軍中尉(34)に対し、南部ロストフ州の裁判所は21日、殺人罪などで有罪判決を下した。検察側は禁錮23年を求刑。量刑は22日言い渡される。

日本を含む先進7カ国(G7)は、ウクライナ東部の停戦合意に鑑みて即時解放を要求しており、実刑判決が下れば、対ロシア批判が一層深まりそうだ。中尉はウクライナへの送還を求め、抗議のハンストを再開する構え。

中尉は、昨年6月にウクライナ東部でロシア国営テレビ記者らが砲撃され死亡した事件を受け、連行された。無罪を主張する中尉は、ウクライナでは「ジャンヌ・ダルク」(地元メディア)と英雄視され、解放を求めるデモが続いている。【3月21日 時事】
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ロシアはウクライナへの敵対心を煽り、ウクライナ国内の対ロシア強硬派は「ジャンヌ・ダルク」を担いでロシアへの敵愾心を煽るだけでなく、「停戦」を続けるウクライナ政府を揺さぶろうとする・・・なかなかウクライナ情勢が安定するのは難しいようです。
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