孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルゼンチンによる中国漁船撃沈事件 双方の思惑もあって大きな外交問題にはならない・・・との指摘

2016-03-23 21:07:02 | ラテンアメリカ

アルゼンチン沿岸警備隊の砲撃によって沈没する中国漁船【https://www.youtube.com/watch?v=TdeMZVbman8】)

ベトナムは撃沈措置を歓迎
アルゼンチン沿岸警備隊は14日、同国の首都ブエノスアイレスの南1300キロにあるプエルトマドリンの沖合で中国漁船を発見し、停船を求めましたが、漁船側はこれを無視して逃走。沿岸警備隊の船舶に繰り返し体当たりしてきたため、沿岸警備隊は発砲し中国漁船を撃沈しました。

通常、排他的経済水域(EEZ)内での漁業は、その沿岸国の許可を必要としますが、問題の中国漁船は許可を取っていないばかりか、アルゼンチン政府が漁業禁止とした海域でイカ漁の操業をしていたとも報じられています。

日頃、傍若無人な行動が批判されることが多い中国漁船を撃沈させたということで、アルゼンチン側の砲撃を支持する、あるいは好意的に捉える向きが多いようです。

尖閣諸島水域での日本の“弱腰”対応を批判する声も。

****アルゼンチンが中国漁船を撃沈、拍手喝采した国は****
違法操業の中国船に軍事力行使、世界はどう伝えたのか

・・・・自国の領海に中国船が侵入を重ねてもなんの実効措置もとらない日本とは対照的な対応である。日本人から見ると、アルゼンチンの対応は性急で強硬に映るかもしれない。

だが、国際社会ではアルゼンチンの軍事力行使を非難する声はあがらなかった。逆にベトナムでは拍手や歓声が起きたほどだという。

アルゼンチン側を支持する国際世論が多いため、中国政府もなかなか強硬な報復策をとることができないようである。米国のオバマ大統領が3月23日にアルゼンチンを公式訪問することも、中国の姿勢に微妙な影響を与えそうだ。

「ベトナムもアルゼンチンを見習うべき」
(中略)アルゼンチン政府は撃沈措置をすぐに中国政府に通報した。中国側はそれに対して懸念を表明し、中国漁船に違法行為はなかったと主張して、アルゼンチン政府に事件の徹底した解明を求めた。

この事件は世界で報道された。米国のニュースメディアも一斉に取り上げたが、アルゼンチンによる撃沈措置を批判的に取り上げる報道は皆無だった。CNNなどは、中国の漁船が世界中で違法な操業を行っていることを強調して伝えていた。

アジアを見ると、中国との間で海洋紛争を抱えるベトナムの漁業関係者がこのアルゼンチンの措置に「拍手喝さいした」と報じられた。

東南アジアのニュースを主体に報道するネット新聞「グローバル・ニュース・アジア」(3月15日)によると、ベトナムの漁業関係者が次のように語ったという。

「ベトナムの漁船が自国の水域で合法的に操業していても、中国は攻撃してくる。一方、自分たちの違法操業は違法だと認めない。今回も中国側に落ち度があるとは認めないだろう。ベトナムもアルゼンチンのように武力を整え、きちんと対峙しなければならない」(後略)【3月23日 古森 義久氏 JB Press】
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親中国政権から親米政権へ交代したアルゼンチン
アルゼンチンでは昨年11月、フェルナンデス大統領の任期満了に伴う大統領選挙の決選投票が行われ、暫定政権も含め14年間続く中道左派政権の打倒を目指す中道右派の野党連合「カンビエモス(変えよう)」のブエノスアイレス市長、マウリシオ・マクリ氏が勝利しています。

今回事件は、反米・親中国的な前政権から親米的なマクリ新大統領への政権交代を象徴するような出来事というとらえ方もあります。

昨年の大統領選選挙については、下記のように“米中の覇権争いとなった”とも指摘されていました。

****米中の覇権争いとなったアルゼンチン大統領選。同国の将来はいかに!?****
・・・・この選挙は単なる「次期大統領選」ではない。これまで12年間続いた中国そしてロシアへの依存外交を国民が選ぶのか、或いは欧米に重要度を置く外交に軌道修正するかという判断を問う外交選挙であり、結果次第ではアルゼンチン及び同国でビジネスを行う外国企業にとっても今後の方向性を問うという意味合いがあるのだ。(中略)

どん底のとき手を差し伸べた中ロとの関係
アルゼンチンの過去を振り返れば、19世紀後半から20世紀初頭において穀物のヨーロッパへの輸出で発展し、世界でトップ経済の一国を担っていた国だった。その影響で、首都のブエノスアイレスは南米のパリと称されるほどにあらゆる文化が発展した。

一方で、現在のアルゼンチンは経済面で中国とロシアに依存した国になっている。この両国への依存度が如何に強いか? 

それは、2期8年を勤めるクリスティーナ・フェルナンデス大統領が、中国とロシアへは数度訪問しているにもかかわらず、米国へは任期中に一度も訪問していないということからも明らかだろう。

特に、中国への依存度が高いことは国民レベルでも感じているようで、彼らの間で自国名をスペイン語で「アルヘンティーナ」という代わりに「アルヘンチナ」と皮肉る者もいるという(「チナ」=スペイン語で中国のこと)。

アルゼンチンから中国へは大豆など穀物を輸出し、中国からはその輸出を促進させる為だとして、インフラ整備などで中国資金がアルゼンチンに流入して来た。そして、中国製品で同国の市場は溢れている。

アルゼンチンが中国に傾斜した背景には、フェルナンデス大統領がベネズエラのチャベス前大統領やブラジルのルラ前大統領の反米意識に共鳴したからだ。

しかも、2001年にデフォルトを経験し、その後経済は回復したものの、インフレ率は常に高く輸出の伸展を妨げて来た。しかも、2014年には米国の「ハゲタカ」ファンドとの問題から再度デフォルトを経験した。

その為、アルゼンチンにとって外貨の獲得は容易ではない。そういった事情の中で、中国は容易にアルゼンチンに資金を提供する国として両国は関係をより深めたのである。

ロシアもそれに追随して、武器の供給や原子炉の建設などで協力している。この二国の支持もあって、現在アルゼンチンのBRICSへの加盟も間近に迫っているという。

アルゼンチンを舞台にした米中覇権争い
しかし、ここで留意されるべきことがひとつあるのだ。それは、「コンドル作戦」についてだ。コンドル作戦とは、CIAが70-80年代に南米の左派勢力を一掃するべく当時の右派政権や現地の諜報組織に資金支援をし賄賂などを行わせ、時には人体に損傷を加えたりして左派系のリーダーを失脚させるべく行っていた工作活動のことだ。

その対象になった国はブラジル、アルゼンチン、ボリビア、チリ、パラグアイ、ペルーといった国で、さまざまなスピンを流すことで対象国の左派系リーダーを政治の表舞台から失脚させていた。

そして今、米国は「第2のコンドル作戦」を展開しているとして「RT」などのロシア系メディアなどが報じ始めているのだ。

かつてのコンドル作戦ではブラジルのルラ前大統領、ベネズエラのチャベス前大統領、エクアドルのコレア大統領、ボリビアのモラレス大統領そしてアルゼンチンのキルチネール前大統領らの失脚を狙っていたという。
何れも、チャベス前大統領が提唱したボリバール革命に共鳴したリーダーたちである。

そして今、現職のマドゥロ、コレア、モラレスらの失脚を第2コンドル作戦は狙っているという。この中に、アルゼンチン大統領選挙の行方が対象にされているというのである。即ち、米国が直接的間接的にマクリ候補を支援する活動を行っているというのだ。

マクリ候補はこの選挙キャンペーンで中国とのこれまでの契約内容などを検証し直すと表明している。そして、米国とヨーロッパとの関係の強化を計ると言明しているのである。

日本にしても他人事ではなく、マクリ氏が大統領に当選すれば、親中路線から方向転換するということで、これまでの疎遠だった関係にも変化が現れるはずだ。ちなみに、マクリ候補はトヨタのカムリV6を所有しているそうだ。

一方のシオリ候補はキルチネール前大統領の時に副大統領を勤めた人物で、彼は中国とロシアとの外交路線を踏襲するというボリバール革命の共鳴者であり、こちらは中ロが支援を行っていると思われる。

ただ、どちらが大統領に選ばれるにせよ、フェルナンデス大統領政権下の負の遺産に取り組まねばならない。アルゼンチン経済紙『iProfesional』によると、来年のインフレ34%、GDPはマイナス0.3%、貨幣の切下げ38%まで進む、財政赤字4.1%、失業率8.4%と予測されており、どの点においても非常に厳しい経済状況が控えているということである。【2015年11月15日 白石和幸氏 HARBOR BUSINESS Online】
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如何に上手く外交関係を維持するかを考えている両国
ただ、“親中路線から方向転換する”とは言いつつも、対中国依存が強い現実経済を考えると、やはり対中関係は重視せざるを得ないところもあるようです。

また、中国としても、上記のようなアメリカとの綱引き状態にあって、あまり強硬な対応をとるとアルゼンチンを更にアメリカ側に追いやってしまいかねない・・・との警戒感もあります。

16日、中国外交部は、「極めて強い関心を持っている。アルゼンチンに、ただちに徹底的に調査して中国側に詳細を伝えること、中国人船員の安全と合法的権益をしっかりと保証すること、同様の事件の再発を根絶するため、有効な措置を取ることを要求する」と表明していますが、上記のようなアルゼンチン・中国双方の思惑もあって、前出の白石和幸氏など、外交問題としてそうもつれることはなそうだ・・・とも指摘しています。

****アルゼンチン沿岸の中国漁船撃沈は両国の外交問題に発展するか****
中国漁船撃沈が亜中関係に与える影響
結論からいうと、この事件はアルゼンチンと中国の外交問題に発展する可能性はというと薄いのではないかと思われる。

中国にとってラテンアメリカへの投資で、アルゼンチンはベネズエラとブラジルに次ぐ3番目に重要な国なのである。

昨年12月に誕生したマクリ大統領の新政権は、それまでの12年間に及ぶ中国とロシアを軸にした外交から、欧米との外交強化に軸を移している。そのように外交政策が変化している時に中国がアルゼンチンに対して今回の事件の抗議をすることは、マクリ政権がそれに反発して欧米指向の外交姿勢を更に強める可能性があるからである。

マクリ新政権以前の12年間に両国間の貿易は劇的に発展した。〈2014年には150億ドル(1兆7100億円)の貿易取引が実施され、その内の50億ドル(5700億円)が農牧畜産品と自然資源を主要品目としたアルゼンチンから中国への輸出総額〉であった。

また、〈2014年には両国で20項目以上の協定が交されており、47億ドル(5360億円)の2つの火力発電所の建設や25億ドル2850億円)の鉄道建設〉なども協定に含まれている。更に、〈中国人民銀行とアルゼンチン中央銀行との間で人民元とペソの110億ドル(1兆2540億円)相当のスワップ協定〉も交されている。

マクリ政権も選挙前より対中姿勢が融和傾向
マクリ大統領も、大統領選挙前は中国との協定は見直しが必要だとしてそれまでの両国の関係に懐疑の念を抱いていた。しかし、大統領に就任するや、中国のアルゼンチン経済における重要度に気がついたようで、今では中国への批判は一切避けているという。

ただ、依然としてマクリ大統領は欧米主体の外交姿勢をアルゼンチン外交の柱にするとしており、アルゼンチンが加盟しているメルコスール(南米南部共同市場)とEUとの貿易拡大に彼も動き始めている。

それに供応するかのように、2月にはイタリアのレンツィー首相がイタリアの首相として18年振りにアルゼンチンを訪問し、その1週間後にフランスのオランド大統領も19年振りに同国を訪問した。

そして3月23日にはオバマ大統領が米国大統領として19年振りの訪問となる。

このような外交事情がある中で、今回の事件を契機に敢えてアルゼンチンとの関係を疎遠にさせるような挙動を中国が取るとは筆者には思えない。寧ろ、中国はマクリ政権とこれまでのように如何に上手く外交関係を維持するかということを考えているはずだ。【3月20日 白石和幸氏 HARBOR BUSINESS Online】
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上記のように、オバマ大統領は“歴史的”なキューバ訪問を終えて、アルゼンチンを訪問しています。

略奪式漁業・環境破壊で遠洋漁業へ
なお、なぜ中国漁船がアルゼンチンで操業しているのかについては、略奪式漁業・環境破壊で中国近海で魚が消えてしまった実情が指摘されています。

****中国漁船がなぜ、アルゼンチン沖に行くのか 「略奪式漁業・環境破壊で近海で魚が消えた」=中国メディア****
中国メディアの第一財経日報はこのほど、「撃沈された中国漁船はなぜ、万里も遠しとせずアルゼンチンで漁獲したのか?」と題する記事を掲載した。
同記事は、環境破壊と略奪式漁業のために中国近海の水産資源が枯渇したと紹介した。(中略)

第一財経日報は、中国の近海では水産資源の減少が深刻と紹介。河北省在住の漁業関係者は「10年、20年前と比べて、捕れる魚やエビは、比較にならないほど少なくなった。しかも小さくて「肥料にしかならない」ものが多いという。  

近海漁業を駄目にした理由が、海岸地域の開発だ。抑制のない埋め立てで海洋生物は産卵場所を失い、食物連鎖も断絶した。そのため、「水産資源の生き残り」も困難になったという。  

加えて、大規模な「略奪式漁業」だ。中国の漁業が大きく発展したとされるのは1960年代だ。しかし漁船数は60年代末でも、1万隻余りに過ぎなかった。ところが1990年代半ばまでには20万隻を超えた。船の数が増えただけでなく、漁船が大型化し、漁具も現代化した。水産資源を「根こそぎ」という状態になった。  

さらに、河川の汚染が極端化した。渤海湾の中の「三大湾」のひとつとされる莱州湾は、海洋生物の重要な産卵場所であり漁場でもあったが、2006年以降は、莱州湾に流れ込む主要河川の多くで、水質が「劣5類」と、最低ランクになった。莱州湾の30%の海域が、「劣5類」の水の影響を受けており、海洋生物の産卵数は減りつづけているという。  

そのため、漁業関係者は「新天地」を探さざるをえない状態になったという。  

中国の遠洋漁業が「大躍進」期を迎えたのは2011年以降で、2015年までに遠洋漁船は2500隻、総トン数は205万とに達した。  

中国はすでに、40の国と地域と排他的経済圏(EEZ)内での漁獲について協定を結んでおり、太平洋、インド洋、大西洋、南極海域のすべてで、中国漁船が操業しているという。

遠洋漁業の発展が最も目覚ましいのは山東省で、2015年6月末現在で、遠洋漁業の資格を持つ企業は31社、保有する遠洋漁船は434隻、総トン数は25万9000トンに達した。  

撃沈された「魯煙遠漁010」も山東省企業の煙台海洋漁業有限公司に所属する遠洋漁船だ。 【3月18日 Searchina】
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まあ、日本漁業も世界中で漁獲していますので、事情は大差ないでしょう。
日本と中国で世界の魚をとりまくっていると、やがて大きな問題にもなります。
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