孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州難民問題  「バルカンルート」閉鎖の混乱 EU・トルコの合意をめぐる問題

2016-03-16 21:42:42 | 難民・移民

【3月15日 AFP】

国境に足止めされた難民らの苛立ち・不安
欧州に押し寄せる難民・移民問題では、トルコからギリシャに渡りバルカン半島を北上する、いわゆる「バルカンルート」の周辺国(スロベニア、クロアチア、セルビア、マケドニア)が難民らの流入を厳しく制限し、事実上閉鎖された状態にあります。

“(9日)スロベニアが同国内で難民申請する移民ら以外の入国を拒否。クロアチア、セルビアも同様の措置をとったのを受け、マケドニアが有効な旅券と査証を持たない移民らの入国を拒否した。”【3月10日 産経】

このため、ギリシャ北部のマケドニアとの国境にはおよそ1万2000人が足止めされており、ギリシャ全体では、島々を含めておよそ4万5000人の難民たちが足止めされた状態で、難民たちの間からは不安や不満・苛立ちの声が広がっています。

過密状態のなかで先行きが見えない状況にしびれをきらした難民の中には、強行突破しようとする者も出ており、混乱が報じられています。

****ギリシャに滞留の移民、数百人がマケドニア国境を突破****
ギリシャ北部のマケドニアとの国境に足止めされていた移民のうちの数百人が14日、水位がももの位置まで上がった川を渡ってマケドニア側に入り、同国軍により制止された。

ギリシャの対マケドニア国境では、バルカン諸国が国境閉鎖に踏み切ったため移民ら数千人が留め置かれ、イドメニ付近の移民キャンプは過密状態に陥っている。

移民ら約1000人がこの日、閉鎖されている検問所を通らずにマケドニアに入る経路を探し回り、イドメニからおよそ2キロ離れた村で代わりの経路を見つけ出した。

AFPの記者によると、移民らは所持品全てを抱えて丘を越え、流れの速い川の中を歩いて渡り、この村に向かった。ギリシャの警察当局によってたちまち包囲されたが、2度にわたってくぐり抜けた。最初は移民らが多過ぎて阻止しきれず、2回目は川を渡っていく移民らを警察車両が追跡できなかったという。

だがその後、マケドニア軍が移民らの移動を制止。同行取材していた記者約20人も、国境を越えた直後に警察に連行され、「不法入国」を理由に1人500ユーロ(約6万3000円)の罰金を科された。

また同日にはこれに先立ち、大雨で水位が上がったマケドニアの川で、ギリシャからの越境を試みて水死したアフガニスタン人3人の遺体が発見されている。

さらにギリシャ沖のエーゲ海(Aegean Sea)では移民らが乗った船が沈没し8人が行方不明となり、同国の沿岸警備隊が捜索に当たっている。【3月15日 AFP】
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EU・トルコ 一律送還・同数「第三国定住」受入で合意
事態打開を目指すEU側はトルコとの間で、ギリシャに密航した全難民らをトルコに送還する一方、送還されたシリア難民と同数のトルコにとどまるシリア難民を「第三国定住」の正規の手続きに基づいてEUに移住させることで大筋合意しています。

****密航移民をギリシャから送還 EU・トルコが大筋合意****
難民・移民流入問題をめぐり、欧州連合(EU)28加盟国とトルコは7日、ブリュッセルで行った首脳会談で、ギリシャに密航した移民らをトルコに送還する一方、同国にとどまるシリア難民をEUに移住させることで大筋合意した。

詳細を詰め、EUは17〜18日の首脳会議での最終合意を目指す。EU側は移民危機収束への「突破口」と期待するが、実効性の確保が課題となりそうだ。

トゥスクEU大統領は会談後の記者会見で、大筋合意について「われわれは突破口を得た」と強調。トルコのダウトオール首相は新たな措置が危機的状況を「転換させる」手段となりうるとの見解を示した。

合意はトルコ側の提案に基づいており、送還は全移民が対象。一方、EUは送還したシリア難民と同数を正式手続きに従いトルコから引き取る。

正式な難民の受け入れルートを確保しつつ、密航への厳しい態度を示すことで、違法業者が介在する無秩序な流入を押さえ込む狙いだ。

EUは当初、流入数の約3割を占めるシリア難民以外の経済移民の送還受け入れをトルコに求める方針だったが、メルケル独首相が6日、ダウトオール氏とさらに踏み込んだ措置で調整した。

メルケル氏はオーストリアなどの入国制限といった個別対応でEUの連帯が一段と損なわれることを警戒。国内では重要な地方選挙を控え、成果を示す必要にも迫られていた。(後略)【3月8日 産経】
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難民問題での協力とりつけのため“価値観を放棄”したEU
国内で政府批判を行うメディアを弾圧するなど強権的な姿勢が目立つトルコ・エルドアン政権ですが、難民問題でどうしてもトルコの協力が必要なEU側は、本来であれば批判すべきそうした問題には目をつぶってトルコ側の要求を入れた形となっています。

****シリア難民をトルコに強制送還 ついにメルケルも音を上げた****
欧州の難民危機を解決するため、欧州連合(EU)とトルコはこのほど、ギリシャに密航する難民・移民のすべてをトルコに送還することで大筋合意した。

合意では、難民問題をEU加盟交渉の促進などにしたたかに利用しようとするトルコと、なり振り構わずトルコにすがるEUの実像が浮き彫りになった。だが、合意で難民の欧州流入に歯止めがかかる見通しは全く不透明なままだ。(中略)

トルコはこの見返りに、EUのトルコ国内への難民支援金を現在の33億ドルからほぼ倍に増額すること、EU加盟国へのビザなし渡航の自由化を当初予定を前倒しして6月末までに導入すること、そして長年求めてきたEU加盟の交渉を加速させることの3点をEU側に約束させた。

EUの首脳会議は昨年、欧州に押し寄せる難民のうち16万人を加盟国に割り当てることで合意したが、ハンガリーなどの東欧諸国が受け入れを拒否するなどしたこともあり、わずか700人の行き先が決まっただけだ。今回の首脳会議も議論が8日にずれ込むなど難航した。

こうした状況下で頃合いを見計らっていたトルコのダウトオール首相が難民の送還方式を提案。EU側は「実現すれば、難民問題の突破口になる」(メルケル独首相)と賛同するなど、“渡りに船”とトルコ提案に飛びついた。

EU側はこの際、トルコに約束した見返りのほか、これまでトルコに求めていた民主化要求も放棄してしまった。

表現の自由の価値観放棄
EUはトルコのEU加盟交渉などで、国内の民主化の促進を要求。エルドアン政権も一時は少数民族クルド語の放送や教育を合法化したり、死刑を廃止するなどこれに応じた。

しかし加盟交渉が停滞するにつれて、民主化も後退。最近では政府批判を展開する最大手紙ザマンを5日に政府管理下に置くなど政権の強権姿勢が一段と強まっている。

しかしEUは今回、表現の自由という欧州の価値観を要求することはせず、エルドアン政権の言論弾圧を事実上黙認する形でトルコの難民送還の提案に飛びついた。

トルコを怒らせては、難民危機の解決に向けた提案が崩壊しかねないからだ。「双方は互いの利害のためにただ取引しただけ」(トルコ人コラムニスト)と、なり振り構わないEUの姿勢を問題視する向きも多い。(後略)【3月15日 WEDGE】
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合意の国際法上の疑義
密航した難民を一律に送り返すことになるEUとトルコの間の合意については、国際法で定められた「保護されるべき難民」もトルコに機械的に強制送還することになるとして国際法上の疑義も指摘されています。

****トルコへ難民送還、合法性に疑問の声 EU内相理事会****
難民危機をめぐり、欧州連合(EU)は10日、ブリュッセルで内相理事会を開いた。7日のトルコとの首脳会議では、中東などからギリシャ入りする難民らを経由地のトルコに送り返す案で大筋合意したが、各国からは合法性に疑問の声が相次いだ。EUは17日からの首脳会議で正式合意を目指すが、難航も予想される。(中略)

さらに問題とされているのは、密航した難民を一律に送り返すこと自体の適法性だ。ルクセンブルク内相から懸念する声が出たほか、ザイド国連人権高等弁務官も9日、「集団的かつ独断的な追放」は国際法上、違法な可能性がある、と指摘した。【3月12日 朝日】
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強制送還したシリア難民と同数の「第三国定住」を受け入れることについても、東欧諸国などの強い反対が予想されています。

****対立と分裂が深まる懸念**** 
EUは17、18日の首脳会議で正式な難民送還の合意を目指すが、反対論や問題も浮上している。難民拒否の強硬派であるハンガリーのオルバン首相は「第三国定住」として、シリア難民の受け入れが義務づけられることに猛反発、他の東欧諸国が追随する可能性もある。

この「第三国定住」が年間数十万人に達することも予想され、合意を推進したいドイツなどと反対する東欧諸国などとの間の対立と分裂が深まる懸念がある。「第三国定住」の場所など具体的な議論が始まれば、収拾がつかなくなる恐れも強い。【前出 WEDGE】
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新たな危険、新たな人道危機
さらに、「バルカンルート」が厳重な管理下におかれることで、より危険なルートに人々が押し寄せ、犠牲者が増大する危険も懸念されています。

“懸念されるのは、トルコからギリシャ経由の欧州入りルートが遮断された場合、難民らはより危険な「リビア―地中海―イタリア」というルートに向かうと見られていることだ。このルートは地中海を横断するため船の沈没などでこれまでに数千人が死亡しているが、海が穏やかになる春の到来で急増する危険性もある。”【同上】

未だ問題が山積している状況ですが、冒頭の川を渡る難民らの写真を見ると、手をこまねいているだけではすまされない思いを強くします。

“欧州各地で漂流している多数の難民に加え、ギリシャには約5万人の難民が足止めされ、野営地では厳寒の中、病気になる人などが急増、新たな人道危機が生まれつつある。”【同上】

独州議会選挙で反難民政党躍進 メルケル首相は寛容政策堅持
難民受け入れを主導してきたドイツ・メルケル政権も国境管理を厳重化しており、今回合意でもトルコ・ダウトオール首相の提案する難民送還方に乗った形となっています。

しかし、ドイツ国内ではこれまで難民受け入れを進めてきた、また、今も受け入れ方針を撤回していないメルケル首相に批判的な空気が強まっており、13日に行われた州議会選挙ではそうした反難民の動きが大きく表面化しています。

****ドイツ州議会選、反移民の右派政党が躍進 メルケル首相の与党敗北****
ドイツで13日、移民・難民の大量流入が問題化して以降では最大規模となる州議会選挙が3州で行われ、アンゲラ・メルケル首相率いる「キリスト教民主同盟(CDU)」が大幅に議席を減らした一方、移民受け入れに反対する新興の右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が有権者の憤懣をすくい上げて躍進した。

今回の州議会選は、戦火を逃れてきた人々の受け入れを表明したメルケル首相の寛容な移民・難民政策に対する事実上の国民投票とみなされていた。

CDUは2州で敗北したうえ、これまで地盤としてきた南西部バーデン・ビュルテンベルク州でも得票率が過去最低の27%に落ち込み、第1党の座を「緑の党」に譲り渡した。

一方、ドイツ入国を試みる不法移民に対して警察は発砲してもかまわないなどの発言で物議を醸してきたAfDは2桁台の支持を獲得し、3州全てで議席を確保。特に東部ザクセン・アンハルト州では第2党の座に躍り出た。

2013年に欧州連合(EU)に批判的な政党として立ち上げられたAfDは、その後、移民受け入れ反対を掲げる政党へと変化し、これまでは旧東ドイツでのみ支持を広げていた。【3月14日 AFP】
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ただ、ドイツ有力紙シュピーゲル(電子版)は意外にも、今選挙戦はメルケル氏の勝利だった、と指摘しているそうです。

****反難民」党躍進 踏ん張れメルケルさん****
ドイツの州議会選挙で難民受け入れ反対を訴える右派政党が躍進し、メルケル首相率いる保守与党が議席を減らした。首相への逆風は厳しさを増すが、人道重視の寛容政策を貫くよう求めたい。

躍進したのは右派政党「ドイツのための選択肢」。旧東独の一州で得票率約24%を獲得して第二党、旧西独二州では約13%、約15%で第三党となった。これまで、いずれの州でも議席がなかった。

メルケル首相は選挙後、難民政策の不変は言明したものの、「満足できるような解決策を見つけるに至らないことへの有権者の不安」が背景にあったと認め、欧州全体での解決を図っていくとした。

内戦が続くシリアなどからの難民殺到にメルケル首相は昨年秋、上限のない受け入れを表明。入国者は約百十万人に上り、難民による暴行事件が起きたことで、寛容政策への批判は強まった。

「選択肢」党は反ユーロを主張し三年前に設立され、反難民で支持を広げた。女性党首のペトリ氏は「銃を使ってでも違法な入国を阻止しなければならない」と強硬姿勢を際立たせていた。

独誌シュピーゲル(電子版)は意外にも、今選挙戦はメルケル氏の勝利だった、と指摘する。
寛容政策への異論が噴出する保守与党から「選択肢」党へ票が流れた可能性がある半面、連立相手の社会民主党に加え、野党緑の党の支持者が寛容政策を支持した、と分析する。

南西部の州では、保守与党大敗の一方で緑の党が躍進。西部の州では、寛容政策に距離を置きメルケル氏のライバル視されていた保守与党の女性州首相候補が、社民党に敗れた。

戦後一貫してきた難民への寛容政策は逆風にもかかわらず、国民に定着していると考えてよさそうだ。ただ、難民への不安や反感をなくすには、ドイツ語習得や職業訓練による社会統合が急務だ。

ドイツにばかり難民を押し付けるのには無理がある。欧州連合(EU)はトルコと、欧州に到着する難民を送還しトルコから直接シリア難民を受け入れることで合意した。

受け入れに難色を示す中東欧諸国には、難民流入をコントロールしEU加盟国で負担を分担していくよう、今週の首脳会議で理解を訴えたい。

英国では六月、EU離脱の是非を問う国民投票が実施される。責任と規律と協調の必要性を、政治家は分かりやすく説明せねばならないだろう。【3月16日 中日「社説」】
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バーデン・ビュルテンベルク州での「緑の党」躍進は、保守層にも浸透する州首相の個人的な人気が背景にあると、また、ラインラント・プファルツ州での与党の反メルケル・反難民候補の敗北は党内の混乱ぶりを印象づけたことによるとも指摘されてはいますが、【シュピーゲル】が「メルケル氏の勝利だった」と言うのですから、逆風のなかでそれなりに善戦したということなのでしょう。

反難民政党躍進という今回州議会選挙を受けても、メルケル首相は寛容な移民政策を変更する見込みはないことを明らかにしています。

****独州議会選、与党敗北も難民政策の路線維持 政府報道官****
ドイツの3州で行われ、与党「キリスト教民主同盟(CDU)」が大幅に議席を減らした州議会選について、アンゲラ・メルケル首相が現在の寛容な移民政策を変更する見込みはないと、政府報道官が14日、語った。

シュテフェン・ザイバート政府報道官は記者会見で「(独)連邦政府は決然として、国内外での難民政策におけるわが国の路線を維持する。その目標は、すべての(欧州連合)加盟国における難民の明らかな減少につながる欧州共通の持続可能な解決法であるべきだ」と述べた。(後略)【3月14日 AFP】
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選挙結果に右往左往しないところはさすがです。

【「同時代を生きる人間としての責務」としての難民問題
難民問題はドイツだけに責任を押し付けるものでもなく、また、欧州だけが対応を求められる問題でもなく、ひろく世界全体が対応すべき問題です。

****シリア難民40万人受け入れを UNHCRトップが国際社会に要請へ****
シリア内戦の発生から5年となった15日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップを務めるフィリッポ・グランディ高等弁務官は、各国にシリア難民40万人を追加で受け入れるよう要請する方針を示した。

高等弁務官に就任後初めて米首都ワシントンを訪問した同氏は、危機を終わらせるために国際社会はもっと行動しなければならないと呼び掛けた。

グランディ高等弁務官は「私は3月30日にジュネーブで会合を主催するが、その場で国際社会に対し、すべてのシリア難民の10%を受け入れるよう要請する」と報道陣に語り、「10%は相当な人数だ。40万人以上になる」と付け加えた。

内戦発生以降、シリア人400万人以上が戦火を逃れて国外へ脱出した。また、シリアの国内避難民は600万人以上に上っている。

シリアと国境を接するトルコやレバノン、ヨルダンは大量の国外脱出者たちへの対応に苦慮している。また、多数の難民受け入れに乗り出したカナダとドイツが称賛される一方、米国などそれ以外の国々に対しては非難の声が上がっている。【3月16日 AFP】
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異なる民族・文化の難民受け入れについては、そのリスクが大きく取り上げられます。
それらにどう対応すべきかという話はありますが、おそらくどうしても残るリスクもあるでしょう。実際、問題もいろいろ生じるでしょう。

しかし、そうしたリスク・問題を受容することは、難民問題を生んでいる現代社会に生きている全世界の人々の「同時代を生きる人間としての責務」であると考えます。
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