【3月12日 AFP】
【燃え続ける憎しみの炎】
昨年7月末に起きたユダヤ人入植者によるパレスチナ人親子の放火殺人事件、更にユダヤ教が新年を迎えた9月中旬、エルサレム旧市街にあるイスラム教・ユダヤ教双方の聖地「ハラム・アッシャリフ」(ユダヤ教呼称「神殿の丘」)で起きたパレスチナ人とイスラエル治安当局との衝突に端を発したパレスチナ人とイスラエル当局の緊張については、「第3次インティファーダ」の危険も・・・ということで、これまでも取り上げてきました。
(2015年10月12日ブログ“パレスチナ イスラエルのガザ空爆 ハマスは「波状攻撃」呼びかけ 高まる第3次インティファーダの危機”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151012
2015年10月31日ブログ“パレスチナ 収まらない混乱 「国際社会は何か解決策を提示できるだろうか」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151031など)
当時の状況に比べれば、現在はメディアで取り上げられることもすくなくなりました。
メディア側が飽きた・・・ということは別にしても、やや落ち着いてきたことは事実でしょう。
実際、「停戦」中とはいえ内戦状態のシリア、サウジアラビア対イランの代理戦争とも言われるイエメンなどと比べてはもちろん、国連が「世界でも最悪レベルの人権状況になっている」と指摘する南スーダン、イスラム国(IS)を凌ぐような残虐性を見せるボコ・ハラムの活動が止まないナイジェリアなどと比べても、市民犠牲者の数は少ないレベルでしょう。
ただ、「インティファーダ」(抵抗運動)の火が消えた訳ではなく、人々の心の中で燃え続けているのもまた、間違いないでしょう。
特に、昨年来の衝突の中心は20歳以下の若者たちであり、その憎悪の炎は今後も長く燃え続けることになります。
****イスラエル「襲撃の半数近く 20歳以下の犯行」****
イスラエルの情報機関は、パレスチナ人による襲撃事件が去年10月以降、220件以上に上り、このうち半数近くが20歳以下の若者による犯行だと発表し、双方の間の緊張が緩和に向かう見通しは立っていません。
イスラエルとパレスチナの間では、エルサレムの聖地を巡る対立をきっかけに去年10月以降、緊張が高まっています。
イスラエルの情報機関は15日、ナイフや車などを使ったパレスチナ人による襲撃事件が、去年10月からの4か月間で未遂も含めて228件に上り、このうち半数近くが20歳以下の若者による犯行だとする統計を発表しました。
この間に殺害されたイスラエル人は27人に上り、一方、パレスチナ人は少なくとも160人で、このうち半数以上が襲撃事件の現場でイスラエルの治安部隊などに射殺されていて、パレスチナや欧米の一部からは過剰な武力の行使だとして批判が出ています。
またパレスチナ側には、一部の事件が治安部隊や入植者によるでっちあげだとする見方が根強く、イスラエルに対する嫌悪感も一層高まっています。
一連の事件について、パレスチナ暫定自治政府は相次ぐ暴力を非難したうえで、「イスラエルの占領や入植政策が続くなか、若者たちが未来に希望を失った結果だ」としています。
しかし、イスラエル政府は「過激思想に基づくテロであり、パレスチナに対する占領政策とは関係ない」として強硬な態度を崩しておらず、緊張が緩和に向かう見通しは立っていません。【2月16日 NHK】
********************
最近の事件としては、イスラエルを訪問したアメリカのバイデン副大統領とイスラエルのペレス大統領の会談中に、会談場所から数キロの場所で起きています。
****パレスチナ人が米観光客刺殺=商都で襲撃事件―イスラエル****
イスラエルのメディアによると、商都テルアビブのヤッファ港近くで8日、パレスチナ人の男が通行人を刃物で次々と刺し、米国人観光客1人が死亡、約10人が負傷した。男は海岸沿いの遊歩道を逃走中、警官に射殺された。
ヤッファ港は世界最古の港の一つで、観光名所としても知られる。事件が起きた時間帯、イスラエルを訪問中のバイデン米副大統領が、現場から数キロの場所でペレス前大統領と会談していた。
この日は、中部ペタクチクバとエルサレムでも、パレスチナ人の男らによるイスラエル人襲撃事件が相次いで発生し、警官ら3人が負傷した。【3月9日 時事】
*******************
【イスラエル、ハマスへ報復空爆 ハマスはIS接近の情報も】
全体としては昨年に比べれば落ち着いているようにも見える状況下で、パレスチナ自治政府ガザ地区をめぐり、ロケット弾攻撃と報復空爆という何度も繰り返されきた衝突があり、巻き添えで6歳から13歳の兄妹3人が死傷しています。
****イスラエルがガザ地区を空爆、巻き添えで兄妹3人が死傷****
パレスチナ自治区ガザ地区で12日早朝、イスラエルの戦闘機がイスラム原理主義組織ハマスの拠点を空爆し、近くに住む兄妹3人が死傷した。
ガザ保健当局者によると、イスラエル軍の空爆があったのはガザ北部ベイトラヒヤにあるハマスの軍事部門、イザディン・アルカッサムの拠点。これに巻き込まれて10歳の少年が死亡。6歳の妹も重傷で、13歳の兄が軽傷を負ったという。
11日夜にガザ地区からイスラエル側に向けてロケット弾4発が発射されており、イスラエル軍はこの報復として、アルカッサムの拠点を含むガザ地区の4か所を空爆したと説明した。
イスラエルに着弾したガザからのロケット弾攻撃による死者は出ていないもよう。【3月12日 AFP】
******************
ロケット弾を発射したのがガザ地区のどの勢力なのかは明らかになっていませんが、イスラエル軍は、ガザ地区での出来事はガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが責任を負うとして、ハマスに対する報復攻撃を行うとうのが従来からの方針であり、今回もその方針に沿った報復攻撃です。
“この空爆で、攻撃を受けた場所の近くにあった住宅が破壊され、この家に住む10歳の男の子と6歳の女の子のきょうだいが死亡しました。きょうだいの家族はNHKの取材に対して、「イスラエルは軍事施設を狙ったというが、市民が標的になっているではないか。10歳の子どもが戦闘員だとでもいうのか。あの子は家で寝ていただけで殺されてしまった」と怒りをあらわにしていました。”【3月13日 NHK】
また、“ハマスの指導者は、ことしに入って新たな戦闘の準備を進めていると述べるなど、イスラエルとの対決姿勢を強調していて、ガザ地区を巡って緊張が再び高まるおそれがあります”【同上】とも。
ハマスの動きは把握していませんが、イスラム国(IS)との関係も報じられています。
********************
パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが、シナイ半島のイスラム国(IS)負傷兵をガザ地区内の病院で治療し、見返りにISから武器や資金を得ていると、イスラエルが告発した。
同地区とエジプトを結ぶ数百の秘密トンネルから運び込まれている模様で、米国はエジプト政府に「トンネル撲滅」を改めて求めている。【3月号 選択】
********************
また、【中東の窓】http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/では、上記情報に加え、下記のようなイスラエルのハマス警戒姿勢を紹介しています。
****ハマスの脅威(ガザ)****
・・・・また同ネット(y net news)の別の記事は、このところ続いている西岸でのイスラエル人に対する攻撃は、パレスチナ人の個人的なインティファーダではなく、ハマス・インティファーダという記事を載せています。
さらに、al jazeera net はイスラエル軍が、ハマスの海軍特別攻撃隊がイスラエルにとって大きな脅威をなっていると報じています。(後略)【3月13日 「中東の窓」】
********************
【これまではISを静観してきたイスラエルに変化の可能性も】
イスラエルはゴラン高原でシリア南部と接し、また、エジプト・シナイ半島とも接していますが、これらの地区でISなどイスラム過激派が跋扈していることに関しては、サウジアラビアやトルコのように地上軍を派遣して云々といったような目立った言動はとっていません。
ロシアのミサイルがシリアからヒズボラに渡るのを阻止するための空爆などは行っていますが。
シリアの反体制派は政府軍が攻撃しづらいように、イスラエルを背にして展開することが多く、そのことは承知しているイスラエル軍は多少の流れ弾程度は無視するようにしているとも。
国内やパレスチナ自治政府との関係で難しい問題を抱えるイスラエルとしては、必要以上にシリアにかかわって、余計な揉め事を抱え込みたくないというのが本音で、シリアについては「アメリカが責任を持って対応すべき」といったところです。
****イスラエルが対IS戦に加わらない理由****
ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、イスラエルでの対イスラム国戦のシミュレーションを見聞し、1月26日付同紙に「イスラエルはなぜイスラム国について慎重なのか」との論説を書いています。論旨は次の通り。
イスラエル国家安全保障研究所(INSS)は、「ISがシリア国境でイスラエル軍偵察隊を攻撃、4人を殺害、ヨルダンの国境検問所も襲撃し、シリア南部のダアラ地域を占拠した」との想定で、米、ヨルダン、イスラエルの代表も参加した戦争シミュレーションを行った。
IS攻撃に慎重なイスラエル
イスラエルとヨルダンの代表は、報復はしつつも、テロリストに対する激しい戦闘を回避し、米国のリーダーシップを見守る方針を取った。
ISとの紛争には、米国が関与を強めても、イスラエルとヨルダンはシリアの混乱した内戦に引きずり込まれないように慎重さと自制心をもって行動する、との結果が出た。(中略)
イスラエルが本気を出せばISは3〜4時間で駆逐可能
このシミュレーションの結果に満足できないとすれば、現実に対してはなおさらであろう。ISが地域や国際秩序に対する重大な脅威であるとのコンセンサスは高まっている。しかし、イスラエルもヨルダンも、戦いの大部分を行っている米国を頼りにしている。
イスラエルの軍司令部を訪問して、シミュレーションはイスラエル軍指導者の紛争への見方を正確に反映している、と確信した。
あるイスラエル軍高官は、「イスラエルは、北及び東の国境沿いのIS軍を攻撃するのではなく、抑止、封じ込め、ひそかな接触さえ望んでいる」と言い、「イスラエルがシリア南部とシナイ半島のIS軍への総攻撃をすれば、3、4時間で駆逐できるだろうが、その後事態は悪化するので、我々は抑止に努めている」と述べた。
「イスラエルはISへの対応で蜂の巣をつつくようなことをしたくないが、米国は超大国であり、地域でのリーダーシップを維持したければISを押し戻す戦いを率いなければならない」と殆どのイスラエル当局者が言っている。(中略)
イスラエル人は、中東では国家システムが壊れ、それは長年続きそうであると考えており、どのように戦争をするのか、注意深く考えなければならないとしている。【3月11日 WEDGE】
******************
アメリカに責任を押し付けた形のイスラエル側の本音ですが、ISとガザ地区のハマスが関係を深めるという話になれば、全く話は違ってきます。
自国の安全に脅威を与えかねない不安の芽は早い段階で摘んでしまうというのがイスラエルのやり方ですから、ただでさえもつれた中東・シリア情勢を更に混沌とさせるような動きがでてくる可能性もあります。
なお、アメリカ・オバマ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相の関係は相変わらずよくないようです。
****首相の訪米中止で波紋=両国関係悪化も―イスラエル****
イスラエルのネタニヤフ首相の訪米取りやめが波紋を呼んでいる。オバマ米大統領との会談が調整されていたが、米側が訪問中止を知ったのはメディアを通じて。イラン核合意などをめぐって冷え込んだ両国関係がさらに悪化する可能性がある。
首相は、ワシントンで20日から開催される在米イスラエル・ロビー団体の会合に合わせて訪米を検討していた。イスラエルのメディアは7日、首相が訪米を取りやめたと報じ、理由の一つとして「大統領との会談の予定が立たなかった」ことを挙げた。
しかし、米メディアによれば、米側は既に18日の首脳会談を提案していた。国家安全保障会議(NSC)のプライス報道官は7日、「訪問中止をメディアで知って驚いた」と不快感を示した。
イスラエル首相府は8日、「駐米大使が先週、首相が来ない可能性も十分あると(米側に)伝えていた」と釈明。首相府筋は、大統領選予備選の最中に、選挙に干渉している印象を与えるべきではないと判断したと説明した。【3月8日 時事】
********************