孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  半数近い子供が未就学 なくならない伝統的・宗教的価値観による児童婚や「名誉殺人」

2016-03-07 21:11:30 | アフガン・パキスタン

【2月27日 AFP】

子供の47%は教育を受けていない
イスラム過激派の襲撃を受けた後も、精力的な活動を行っているノーベル平和賞受賞者でもあるパキスタンのマララさんは、かねてより教育の重要性を世界に訴えています。

****教育がなければ、シリアの復興ない・・・マララさん****
ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさん(18)は(2月)4日、ロンドンで開かれていたシリア支援会合の会場で読売新聞などと記者会見し、「子供たちが学校に行けなければ、シリアの未来、シリアの復興はない」と語り、教育支援の強化を呼びかけた。

マララさんは、「欧州や世界の国々はシリア難民を歓迎していない。ならば難民を受け入れているヨルダンなど周辺国を十分に支援してほしい」と訴えた。

会見に同席したシリア難民の少女、マズーン・アルメレハンさん(17)は、「私たちは『失われた世代』ではない。教育を受けて、シリアの和平と復興に貢献したい」と述べた。

ヨルダンの難民キャンプに身を寄せていたマズーンさんは、教育の重要性を訴えて「シリアのマララ」とも称されている。【2月5日 読売】
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マララさんが教育の重要性を訴えるのは、自身の出身国パキスタンにおける教育の厳しい現状もあってのことでしょう。

****学校に行っていない子供が2400万人に、パキスタン****
パキスタン政府は25日、子供2400万人が学校に行っていないなどとする教育に関する報告書を発表した。国民の約4分1が16歳未満とみられるパキスタンの教育の実態が改めて示された。

パキスタン教育統計2014~2015年版によると、5~16歳までの子供5080万人の47%は教育を受けていないという。政府の報告書が厳しい現実を明らかにするのは、パキスタンでは珍しい。

パキスタンでは17年間、国勢調査が行われていないが、約2億人とされる人口の約3分の2は30歳未満とみられる。

人口予測や人口学的分析を用いてまとめられた同報告書によると、学校に行っていない子供2400万人のうち、女子が1280万人と男子1120万人より多く、小学校に入学した子供の69%が5年生までに退学するという。

報告書では、パキスタンにおける教育資源不足も強調。公立小学校の約29%が教師1人で運営されているほか、18%は教室が1つしかなく、9%は学校の建物さえないという。

一方、学校に行っていない子供の数が前年より約100万人減少するなど、明るい兆しもあった。【2月27日 AFP】
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教育が十分に行われていない理由は触れられていませんが、経済的な余裕がないことや、北西部などイスラム過激派の影響力が強い地域などでは、教育、特に女子教育の価値が理解されていないこと、政府の教育投資における努力不足などが推察されます。

なくならない児童婚や「名誉殺人」】
教育が進まない結果、個人の人権を重視した現代的価値観もなかなかひろまらず、伝統的価値観や宗教的価値観が支配的な社会がそのまま存続することにもなります。

そうしたことの表れが、児童婚であったり、名誉殺人であったりするのではないでしょうか。

****児童婚に関与した6人逮捕、パキスタン****
パキスタン東部パンジャブ州で5日、7歳の男児と6歳の女児の結婚式を行った容疑で6人が逮捕された。警察当局が6日、発表した。

逮捕されたのは子どもたちの父親2人と、結婚式を執り行った聖職者1人、証人を務めた3人で、児童婚禁止法(Child Marriage Restraint Act)に基づいて起訴された。有罪となった場合、禁錮6月または罰金5万ルピー(約5万6000円)、もしくは両方が科せられる。

パキスタンでは先月、児童婚をまとめた当事者に対する罰則の強化などを盛り込んだ改正法案が提出されていたが、これを冒涜(ぼうとく)的でイスラムに反するとする宗教機関の反対を受け、法案は取り下げられた。

現在のパキスタンの法律では女性が結婚可能な年齢は16歳から、男性は18歳からだが、イスラム・イデオロギー評議会(CII)の宗教学者らは、この年齢についてイスラムの教えに沿っていないとしている。

CIIの宗教学者らは、シャリア(Sharia、イスラム法)に婚姻に関する具体的な年齢制限はないと主張。結婚は思春期を迎えればでき、その思春期は年齢で規定できないとしている。

人権保護活動家らは、改正法案が取り下げられたことを厳しく批判した。【2月7日 AFP】
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****実の姉妹2人を殺害、「名誉殺人」か パキスタン****
パキスタンの警察当局は2日、実の姉妹2人を殺害した疑いで、きょうだいの男の行方を追っている。「名誉殺人」とみられている。

事件は、パキスタン北部パンジャブ州サヒワル地区のヌールシャー村で起きた。

警察当局によると、モハマド・アシフ容疑者は、4~5年前にも母親を殺害したが、家族に赦免され、釈放されていたという。

「20代後半のモハマド・アシフ容疑者は1日夜、容疑者の姉妹2人の品格に疑問を持ち、さらに彼女たちの生活スタイルに反対して、2人を射殺した」と、地元警察当局のアラー・ディッタ・バティ氏はAFPに語った。姉妹2人は即死し、容疑者は逃走したという。

2月29日には、約5時間の所在を説明できなかった18歳の娘を父親が殺害する事件が東部ラホールで起きたばかりだった。

また、2月28日に米ハリウッドで開催された第88回アカデミー賞では、パキスタン人監督による名誉殺人のドキュメンタリー映画が短編ドキュメンタリー賞を受賞したばかりだった。【3月2日 AFP】
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「名誉殺人」という呼び方も、おそましい現実を美化するような響きもあって、いかがなものかと思います。
単なる醜悪な殺人に過ぎません。

学校教育を敵視するイスラム過激派
一方、個人の人権を重視した現代的価値観を欧米的価値観の押し付けとして排し、宗教的価値観を重視するイスラム過激派にとっては、教育は最大の攻撃目標となります。
パキスタンでは「パキスタンのタリバン運動(TTP)」による学校襲撃が相次いでいます。

****武装勢力の襲撃から1か月、大学再開 パキスタン****
隣国アフガニスタンの旧支配勢力タリバン関連の武装組織によって先月襲撃されたパキスタンの大学が15日、警察の厳重警備の下、再開した。

パキスタン北部チャルサダ地区にあるバチャ・カーン大学は先月20日に襲撃され、教員や学生ら21人が死亡した。

14年末にこのチャルサダに近いペシャワールで学校が襲撃され、150人以上が殺害された事件からようやく1年が経ち、安心感が生じてきた矢先の出来事だった。

再開した大学のファザル・ラヒム・マルワット副学長はAFPの取材に対し「大学が再開したのは非常に嬉しいが、警備は大変厳重だ」と述べた。構内では校舎の屋上などに警官隊や特殊部隊が配置され、学生は登校時、ボディスキャナーによる身体検査を受けていた。

バイオテクノロジー学部の学生(20)は「犠牲になった仲間の学生たちのために、今日私たちは強い決意をもって学校に来ないわけにいかなかった」と述べた。

またイフティカル・アラム教授は「パキスタンを闇と無知へ葬ろうとする敵を負かすつもりだということを世界に示すために、われわれは今日、授業を再開する」と述べた。

犯行を認めたイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」のウマル・マンスール司令官は先月公開した動画の中で、学校は「アッラーの掟(おきて)にたてつく人々の養成所」だと表現し、非難している。【2月15日 AFP】
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シャリフ政権は、ペシャワールの学校襲撃事件を機に、それまでのイスラム過激派への宥和的姿勢から、軍部と同調した厳しい掃討作戦へと、方針を転換しています。

しかし、未だ過激派を一掃するまでには至っていません。

****掃討、逃れる過激派****
パキスタン政府は1年前の学校襲撃事件を米同時多発テロになぞらえて「パキスタンの9・11」と呼び、軍部は、TTPの本拠地でアフガン国境付近に広がる部族地域で掃討作戦を本格化させた。

難民化した住民は100万人以上。それに交じって、過激派の大半は都市部やアフガン側へ逃れたとみられている。

政府・軍部はアフガン政府にTTP幹部の拘束と引き渡しを求める一方、摘発の対象を都市部にも広げた。報復される恐怖から有罪判決を出したがらない裁判官に代わって軍人がテロ犯を裁く軍事法廷を設置。08年の途中から凍結していた死刑執行を復活させ、300人以上の刑を執行し人権団体から非難を浴びた。

パキスタン治安当局によると、この1年間に国内で8万5千人が逮捕され、テロ事件の犠牲者数はほぼ半減した。

ただ、19日にもペシャワルの検問所を狙った自爆テロで11人が死亡するなど、完全になくなったわけではない。

バチャ・カーンの孫でANP党首のアスファンドヤル・ワリ・カーン氏は地元テレビに「テロリストは部族地域から追われただけで、根絶にはほど遠い」と語った。【1月21日 朝日】
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イスラム過激派を一掃するためには、武力による掃討作戦だけでなく、教育の拡充、住民の経済状況の改善も必要です。

“学校に行っていない子供の数が前年より約100万人減少”“テロ事件の犠牲者数はほぼ半減”と、パキスタン社会も新しい社会に向けて動き出してはいるのでしょう。

できれば、この動きを更に加速させてもらいたいところです。

インドでも多発する「名誉殺人」】
なお、名誉殺人が行われているのはパキスタンだけではありません。
パキスタンとは犬猿の仲の隣国インドでも多発しています。

****兄弟が女性焼殺、インドでまた「名誉殺人」 身分違いの結婚理由に****
インド西部ラジャスタン州の村で、家族の意向に反して異なるカーストの男性と結婚した女性が、兄弟に焼き殺される事件があった。地元警察が6日、明らかにした。インドでは、家族の名誉を汚したとの理由で身内を殺害する、こうした「名誉殺人」がしばしば起きている。 

被害者のラーマ・クンワルさん(30)は8年前にカーストの異なる男性と駆け落ちして村を離れていたが、もう家族が結婚を許してくれることを期待して4日に帰省した。

しかし、まだ怒りが収まっていなかった兄弟らは夫の親族宅にいたクンワルさんを家の外へ引きずり出し、村人らの前で火をつけた。

地元ドゥンガルプール県の当局者はAFPの取材に「彼女は今なら両親が許してくれると思っていたが、兄弟たちは彼女が村に戻ったと知るなり、すぐに(クンワルさんのいた)家に駆け付け、彼女を引きずり出した」と語った。

クンワルさんは助けを求めて叫んでいたが、誰も助けようとしなかったという。さらに焼殺の証拠を隠滅するため、クンワルさんの葬儀はその日のうちに行われた。

だが、クンワルさんの義母の通報を受けた警察が現場に急行し、証拠を採取するために火葬現場に水をかけて火を消した。

事件では、これまでにクンワルさんの兄弟のうちの1人と男6人が逮捕されたが、警察はさらなる容疑者の行方を追っているという。

インドでは数百年前から、家族や地域社会が認めない関係にある男女を名誉を汚したとの理由で殺害する「名誉殺人」の風習があり、現在も地方部を中心に残っている。インドの最高裁判所は2011年、「名誉殺人」に関与した者には死刑を科すとの判断を示している。【3月7日 AFP】
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