孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・ロシア・中国  封殺される政権批判

2016-03-06 21:59:05 | 国際情勢

【3月6日 AFP】

【「昨日(4日)はトルコのメディア史上最も暗黒な日々の一つとなった」】
トルコ・エルドアン政権が強権的な体質があることは今更の話ではありますが、政権に批判的な国内最大の新聞を管理下におき、反対するデモ隊も強硬な対応で鎮圧するという姿勢に、国外からも批判の声があがっています。

****トルコ政権に批判的な大手紙が政府管理下に、各国から懸念の声****
トルコ最大級の発行部数を誇り、レジェプ・タイップ・エルドアン政権に批判的な論調で知られる大手紙ザマン(Zaman)は5日、前日に裁判所の決定により政府管理下に置かれたことを受け、同国のメディア史上「最も暗黒な日々」になると紙面で警告した。

エルドアン大統領の政敵で現在は米国を拠点にしているイスラム聖職者フェトフッラー・ギュレン師との関わりが深いザマン紙は4日、裁判所の命令で政府管理下に置かれ、事実上接収された。政権批判派は、政府に批判的なメディアの言論を封殺する新たな試みだと批判している。

4日夜、警察はまず催涙ガスと高圧放水銃を使用してザマン紙本社前に集まっていたデモ隊を排除し、ボルトカッターでこじ開けた入り口から数十人の当局者が本社に入り、同紙を正式に政府の管理下に置いた。現地メディアは一連の出来事を映像で報じた。

地元メディアによれば、建物に入れる状態になったところで裁判所が指定した執行人らがバスでザマン紙本社の敷地に乗り付けたという。同紙の新運営陣は5日に編集長を解雇したと伝えられている。

しかしこの状態にありながら同紙は5日、最新号を発行。黒の背景に「憲法は停止された」という大見出しが躍る第1面で「昨日(4日)はトルコのメディア史上最も暗黒な日々の一つとなった」と報じた。

5日もイスタンブールにある同紙の本社前で約500人が抗議行動を行ったが、機動隊はゴム弾や催涙ガスを使用して排除した。

■ロシア政府も調査を呼び掛け
この事態に欧州連合(EU)は懸念を表明。ロシア外務省も、言論の自由に関する国際的な基準をトルコ政府が満たしているか欧州評議会などは調査すべきだと表明した。

米政府は、今回の裁判所の決定は「政府批判を行うメディアをトルコ政府が法的手段で弾圧した嘆かわしい最新の事例」だとして、トルコ政府に言論の自由を尊重するよう求めた。【3月6日 AFP】
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政権を獲得するまでは同じイスラム主義者として盟友関係にあったギュレン師ですが、近年は完全に敵対関係にあり、徹底的な弾圧対象となっています。

“半国営のアナトリア通信などは法的根拠について、エルドアン大統領と対立する米国在住のイスラム教穏健派指導者ギュレン氏が率いる「テロ組織を(同紙が)支援した疑い」と伝えている。検察官は、この「テロ組織」が、トルコ政府と敵対するクルド系反政府武装組織クルド労働者党(PKK)と協力関係にあり、政権転覆をもくろんでいるとしているという。”【3月5日 毎日】
トルコ治安当局は2014年12月にも、ギュレン師が行った演説内容を掲載したことなどが「テロ容疑」に当たるとして同紙編集長ら約30人を逮捕しています。

ロシア 野党指導者暗殺事件はうやむやに
エルドアン政権の対応をアメリカ国務省のカービー報道官は4日の定例会見で、「メディアや自らの批判者を狙った懸念すべき行動だ」と非難しています。

欧州はどうでしょうか。シリア難民問題で、欧州はどうしてもトルコの協力を必要としていますので、エルドアン批判の矛先は鈍るのではないでしょうか。

エルドアン政権のメディア弾圧をロシアが批判するというのは、“面白い”話です。

ロシアとトルコは、シリア国境付近でのロシア機撃墜事件以降、対立を深めていますので、今回批判もその流れでしょうが、ロシアではメディア管理どころか、政権に批判的な野党指導者やジャーナリストが何者かによって殺害されるという、究極の弾圧が行われています。

もちろん、プーチン大統領としては、政権がかかわっているのではない・・・ということなのでしょうが。

****露野党指導者、殺害1年で追悼デモ 「プーチンのいないロシアを!」 真相謎のまま捜査終了で政権に怒り****
露野党有力指導者のボリス・ネムツォフ元第一副首相=当時(55)=が殺害され1年となった27日、モスクワ市中心部で大規模な追悼デモが行われた。

しかし当局は首謀者を逮捕しないまま捜査を事実上終了。事件は政治的動機も疑われたが真相は闇のなかで、人々は政権の対応に強い怒りをぶつけていた。

「プーチンのいないロシアを!」「ロシアは自由になる!」
約2時間行われたデモでは、政権を糾弾するシュプレヒコールが繰り返し巻き起こっていた。内務省の発表によると、約7万5000人が参加したという。

主催者側は当初、殺害現場のクレムリン近くの橋を通過するルートを申請したが市当局は拒否し、別ルートで開催された。当日は付近の地下鉄も一部が運転を中止。参加した若い女性は「(運転中止は)偶然工事が行われたからというけど、そんなはずはない。当局は参加者を制限したいだけよ」と憤った。

ネムツォフ氏は昨年2月27日深夜、背後から何者かの銃撃を受け死亡。同氏は当時、ウクライナ紛争へのロシア介入に反対するデモを計画していたほか、ウクライナ東部でのロシア軍の活動の実態を暴く報告書の公表を計画していたことから、殺害は政治的動機が強く疑われた。

その後、露南部チェチェン共和国の元治安部隊員ら5人が逮捕・起訴されたが、捜査当局は国外逃亡中とされる別の隊員を突然“首謀者”と結論し、捜査を事実上打ち切った。ネムツォフ氏側は、この人物は治安部隊幹部の運転手に過ぎず、首謀者ではあり得ないと主張している。

さらにこの幹部は、チェチェンのカディロフ首長周辺に近い人物とされる。カディロフ氏はチェチェンの独立派ゲリラ出身で、その後プーチン氏側に寝返り、強権統治でチェチェンの独立派を封じ込めてきた。ソ連崩壊後の混乱を収めたとして国民の支持を得てきたプーチン氏にとり、“恩人”ともいえる存在だ。

野党側は、捜査打ち切りはカディロフ氏に影響が及ばないためだと主張しており、デモ参加者の多くがカディロフ氏を糾弾していた。

しかし、ネムツォフ氏の殺害現場に花を手向けにきた男性は「事件にチェチェンが関わっているのなら、プーチン大統領が解決することは不可能だろう」と、あきらめたように語った。【2月28日 産経】
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2月27日にロシア各地で行われた反政権派の追悼デモでは、人権監視団体などによると、少なくとも11人が当局に拘束されたようですが、「プーチンのいないロシアを!」と叫ぶ数万人規模のデモが許されたということは、エルドアン大統領の対応よりはまし・・・ということでしょうか?

中国 メディア管理強化と並行して進む習主席への「個人崇拝」】
一方、最近メディア管理の姿勢を強めているのが、中国・習近平指導部です。
中国の場合は、国営メディアについて「党の宣伝の陣地だ」との主張のように、ある意味はっきりしています。

****中国、強まるメディア管理 習主席「党宣伝の陣地****
中国共産党機関紙、人民日報は20日、習近平(シーチンピン)国家主席が19日、国営メディアの幹部らを集めた「ニュース世論工作座談会」を開いたと伝えた。習氏は国営メディアについて「党の宣伝の陣地だ」と強調。忠誠を誓うメディアに、市民の不満も強まっている。

習氏は人民日報、新華社通信、中央テレビを視察。各社の幹部らを集めた座談会で、「世論を正しい方向に導き、良い面を宣伝する」よう求め、メディア管理を強める姿勢を示した。【2月20日 朝日】
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こうした習近平指導部の姿勢に反対する声は封殺されています。

****中国著名企業家のアカウント閉鎖 習主席批判が原因か 「メディアは党を代弁」に反論****
中国の著名な企業家で、北京の大手不動産会社「華遠地産」会長の任志強氏の中国版ツイッター「微博」のアカウントが28日、中国当局によって強制閉鎖されたことが分かった。

習近平国家主席を間接的に批判したことが原因とみられる。任氏の微博アカウントには約3780万人のフォロワーがおり、中国国内で最も影響力のあるアカウントの一つとして知られていた。

習主席は19日、党機関紙・人民日報、国営通信・新華社、国営中央テレビを視察した際、「メディアは党の宣伝の陣地であり、党を代弁しなければならない」と指示。これに対し任氏は微博で「メディアは人民の利益を代表すべきだ。(党を代表すれば)人民の利益は隅に捨てられ、忘れ去られる」と疑問を呈した。

中国青年報など複数の官製メディアはその後、任氏を「共産党員の恥だ」などと連日批判した。【2月29日 産経】
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****習氏のメディア統制を皮肉?=「もの言う新聞」編集幹部処分―中国****
中国で「もの言う新聞」として知られる広東省の日刊紙・南方都市報が2月20日付の1面紙面で、習近平国家主席がメディアに「共産党を代弁する」よう指示したというトップ見出しの下に、「(改革の)魂が海に帰る」と文字を並べたため、編集幹部が処分されたことが分かった。紙面が出された際、インターネット上では、習氏のメディア統制を皮肉ったものでは、と話題になっていた。

同紙の親会社「南方報業メディア集団」の共産党委員会は「政治的な敏感さに欠け、紙面に重大な誤りをもたらした」と指摘した。中国メディア関係者が2日までに明らかにした。

問題となったのは20日付の深セン地方版の1面。習主席は19日に国営メディアを視察し、その後の座談会で「官製メディアは宣伝の陣地だ」などとメディアに忠誠を要求した。

翌日の1面トップ見出しはこうした習氏の発言が並んだが、その下に1月末に死去した著名な企業家・袁庚氏の遺骨を深センの海にまいたことを写真入りで「(改革の)魂が海に帰る」と伝えた。【3月2日 時事】
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こうしたメディア統制強化と並行して、「個人崇拝」とも言えるような習主席への忠誠を強要する雰囲気が強まっています。

****習主席にならえ」=進む個人崇拝、異論を封鎖―「文革悲劇忘れるな」と懸念・中国****
5日に開幕した中国全国人民代表大会(全人代=国会に相当)の冒頭、李克強首相は政府活動報告で「政治意識、大局意識、核心意識、一致意識を強める」よう求めた。

「核心意識」とは習近平共産党総書記(国家主席)が「党中央の核心」、「一致意識」とは「習氏にならえ」という意味だ。

習氏への「個人崇拝」が進み、批判的な異論は封じ込められる。今年は、多くの市民が命を失った文化大革命が始まって50年の節目。改革派知識人は「文化大革命の悲劇を忘れてはいけない」と懸念を強めている。

 ◇政治学者の自殺
2月19日夜、40歳の政治学者が首つり自殺した。上海・華東師範大学の江緒林氏。自殺直前、直筆の遺書を接写し、自身の中国版ツイッター「微博」で発信した。「こわい。少し白酒(アルコール度数が強い中国の蒸留酒)が飲みたい」と最後に書いた。

江氏はその6日前の13日も「絶望に対し、自身が魂を失ったことを知った。ただ体だけが存在している」と書き込んだ。北京大学大学院生時代の2000年、民主化運動が弾圧された天安門事件を追悼して連行されたこともあった。

江氏の自殺を知った改革派の元大学研究者は「中国の知識人が受ける圧力と孤独を表している」と語った。

 ◇父親が目指した法律
「『異論保護法』制定に関する提案」。北京理工大学の胡星斗教授は2月13日、インターネット上でこう題した文章を発表した。

習主席の父親で、文革などの中で毛沢東から政治迫害を受けた習仲勲元副首相は、約8年も独房生活を送った。名誉回復されて全人代常務副委員長になった1980年代、「異論保護法」の制定を検討した。

その事実を詳細に報じた改革志向の中国月刊誌「炎黄春秋」(13年12月号)によると、習仲勲氏は当時、「今後、また毛主席のような強人が出現したらどうするのか」と懸念。「党の歴史から見て異論(の弾圧)によってもたらされた(社会の)災禍はとても大きい」と述べ、異論を唱えても保護する法制の必要性を訴えたという。

胡教授は取材に「文革をピークに非常に多くの人が一言で命を落とした。真実を話すことは許されず、暴力手段で人を黙らせた」と話した上で、「現在の中国の言論環境はひどいが、息子の習主席が父親の感じた使命を実現してほしい」と望んだ。【3月6日 時事】 
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習主席の父親、習仲勲元副首相の「異論保護法」に関する話は興味深いところです。
文革に対する強い反省から生まれたものでしょうが、時間とともに記憶は薄れ、歴史はまた繰り返します。しかも、息子の手によって。

日本の最近の動向は?】
日本でも戦前・戦中の統制社会を経験しましたが、現在の状況はどうでしょうか?
最近では、放送行政をつかさどる高市総務相の放送法をめぐる発言などが問題とされています。

おそらく政治権力というのは本能的に反対意見を示す存在を封殺したがるものでしょう。
しかし、そうした欲望の実現を妨げる様々な社会的制約もあります。

ただ、権力のバランスが一極に集中して、反対勢力が弱体化すれば、反対意見そのものを封殺したいという欲望の実現に手がかかります。

アメリカ大統領選挙では、あきれるような暴言・放言も飛び交っていますが、そうしたあきれた発言ができるというのは、ある意味「さすがは自由の国アメリカ」ということでしょうか。
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