孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  中国による出版関係者拘束でイギリスが中国批判  急進派の騒乱で民主化運動に更なる逆風

2016-02-13 22:14:48 | 東アジア

(「魚蛋革命」あるいは「旺角騒乱」【2月10日 BBC】)

英「共同声明違反」 中国「いかなる国も干渉する権利はない」】
中国の主権下にありながらも「一国二制度」が認められている香港で、中国政府に批判的な本を扱う書店の関係者が滞在先のタイや広東省で相次いで行方不明となっており、中国当局に拘束されたと見られていたことは、1月10日ブログ“香港で強まる中国の管理統制 形骸化する「一国二制度」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160110で取り上げたところですが、その後、失踪した者はやはり中国で拘束されていることが明らかになっています。

****香港の出版社員失踪、中国公安が3人の拘束を認める****
中国の公安当局は、中国本土で昨年失踪した香港の出版社「巨流」の関係者3人について、身柄を拘束していることを初めて認めた。香港警察が4日夜、中国南部広東省の公安当局からの通知を公表した。

多くの香港市民が疑っていたことが事実だと判明したかたちだ。「一国二制度」の原則の下で高度な自治を維持してきた香港で、市民に保障されてきた権利が侵害されつつあるとの疑念や懸念が広がっている。

中国の公安当局が拘束を認めたのは、呂波氏、張志平氏、林栄基氏の3人。いずれも中国政府に批判的なゴシップ本などを扱う香港の出版社「巨流」に務めていたが、昨年10月に中国南部で行方不明となっていた。

「巨流」をめぐっては、スウェーデン国籍を持つ桂民海(桂敏海)氏が同じく10月にタイで失踪したほか、12月には香港市内で李波氏が姿を消し、大きな騒ぎとなった。5人全員が中国本土で身柄を拘束されていることが判明したことで、国際社会から中国に対する批判が殺到している。

米国政府は1日、5人の失踪に関する説明を中国側に要求した。米国務省報道官は失踪によって「香港の自治に対する中国の責務に深刻な疑問が生じた」と述べている。

今回の香港警察宛ての通知で、広東省公安当局は3人の身柄拘束について、「桂」氏に関する事件への関与が疑われており、中国本土での違法行為に関与したとして取り調べていると説明しているという。

通知には香港で失踪した李波氏の手紙も同封されており、この手紙の中で同氏は中国当局から香港警察が面会を求めていると聞いたが今はその必要がない、などと述べているという。

5人のうち桂氏は1月、中国本土の国営テレビを通じ、11年前に起こした交通死亡事故を悔いて自ら中国当局に出頭したと「告白」している。【2月5日 AFP】
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この件に関し、拘束されている李波氏がイギリス国籍ということもあって、「一国二制度」を条件に香港返還に応じたイギリスが、香港返還の基本原則を定めた「中英共同声明」に違反していると中国を批判する報告書をまとめています。

****香港書店失踪事件】 英国外務省が「共同声明違反」と指摘 「本人の意思に反して中国本土に移送された****
香港の公共放送、RTHK(電子版)は12日、中国共産党政権を批判する「禁書」を扱う香港の書店関係者の身柄が相次ぎ中国本土に移された問題で、英国外務省が、「正当な法的手続きなしに(英国籍の李波氏らが)本人の意思に反して中国本土に移送されたことは、中英共同声明の重大違反で『一国二制度』の原則にも反する」との報告書をまとめたと報じた。

共同声明は香港返還の基本原則を定めた1984年に出された。今回の報告書は中国当局に対し正式に通知するものとみられる。

一方、香港政府も同日、英国の報告書を事実上、追認する声明を発表した。

英政府が香港政府と共同歩調をとることになれば、今回の事件は今後、中国当局の動きをめぐる重大な外交問題に発展する懸念がある。

事件では行方不明となった李氏ら書店関係者5人全員が中国本土にいることが明らかになっている。中国当局はこのうち4人の拘束を認め、李氏も「当局の捜査に協力している」との書簡を香港政府に示した。【2月13日 産経】
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当然のごとく、中国政府はイギリス報告書に対し、余計な口出しはするな・・・・といった反応です。

****中国、英国の香港報告を非難*****
イギリス政府はこのほど香港問題に関する報告を発表しました。

これに対して外務省の洪磊報道官は12日、「香港のことは中国の内政であり、いかなる国も干渉する権利はない。イギリスは言動を慎み、香港の実務に干渉しないよう要求する」と述べました。

更に洪報道官は、「香港が返還されて以来、一国二制度の実践成果は誰もが認めるものである。中央政府は一国二制度や香港人による香港統治、高度な自治などの方針を確実に実施し、基本法に則って、行政長官や特別行政区政府の執政を全力で支持している。一国二制度の実施決意は確固たるもので、変わることはない」と述べました。

また、「イギリス政府は香港に関する報告を発表し、香港について理不尽なことを言って、中国を中傷した。これに対して強い不満と反対を表明する」と述べました。【2月13日 china.com】
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中国側の反応は予想どおりですが、【産経】にある“香港政府も同日、英国の報告書を事実上、追認する声明を発表した”というのがやや意外な感もありました。

中国政府の管理下にあり、先の習近平国家主席との会談での香港トップの梁振英行政長官の座席配置が陪席者と並ぶ形で格下げされたことが話題になったところですが、一応建前上は香港政庁としても、今回事件は「一国二制度」に反するものだとの認識を示したということでしょうか。

【「魚蛋革命」は「旺角騒乱」へ
一方、香港内部においては、、行政長官「普通選挙」を求めて若者らが幹線道路を占拠した、一昨年9月のいわゆる「雨傘運動」が、中国政府の意向を受けて一切譲歩に応じない当局対応を崩せずに終わり、民主化を求める市民・若者らの運動は無力感が漂う低迷・分裂状態にもあることは前回ブログでも取り上げました。

運動の先行きが暗くなると、現状打破を目指す急進派による過激な行動が表面化するものですが、香港でもそんな感じです。

****デモ隊VS警官隊 香港の衝突 逮捕者54人に 発砲の対応「適正な判断」と警察当局****
香港の公共放送RTHK(電子版)によると、香港の繁華街、旺角(モンコック)で春節(旧正月)の8日深夜から9日早朝にかけ、露天商取り締まりに反発した市民に「本土派」と呼ばれる急進的民主派が加わってデモが起き、警官隊と衝突した。

9日早朝までに鎮圧され、若者ら54人が逮捕された。衝突で警官ら計90人近くが負傷した。

警官隊は催涙ガス噴射のほか、空に向けて2発の威嚇発砲を行い、デモ隊にも銃口を向けた。香港のデモで警官隊の発砲は極めて異例。

香港警察は9日の記者会見で、発砲は実弾だったことを明らかにした上、銃の使用は「デモ現場の状況からみて適正な判断だった」と説明した。発砲による負傷者はいないという。(中略)

デモの参加者は数百人だったという。【2月9日 産経】
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この騒乱は香港独立を求める急進的なグループによるもので、香港市民の間では「暴徒批判」が高まっており、民主化運動に対する逆風が更に強まっているとの指摘があります。

****香港で起こった「革命」はなぜ市民の支持を失ったか****
2月8日夜、旧正月当日の香港・旺角地区で、暴徒化した群衆と警官による衝突が起きた。警官が市民に銃を向けている印象的な写真が報じられたこともあり、香港の警察は暴力的すぎるとの印象を持った人も多いのではないか。

当初は「魚蛋革命(フィッシュボール革命)」とも呼ばれ、2014年の「雨傘運動」の再来かと海外メディアでも取り上げられた。だが現地香港での論調は正反対で、暴徒批判の声が大勢を占めている。一体どんな事件だったのか、そしてどのような背景があるのだろうか。

「屋台文化を守るため」で、戦闘服を着た過激派が集結した
(中略)事件の発端は警察による移動式屋台の取り締まりだ。香港市街で移動式屋台は禁止されているが、旺角一体では旧正月だけは目こぼしされてきた。

しかし今年は、安全のために火を使った調理だけは禁止することが決まった。事件前日も屋台店主が取り締まりに反発し口論になる一幕があったという。

そして2月8日、「香港の屋台文化を守るため旺角に集まれ」との呼びかけがネットで広がった。平和的に抗議のプラカードを示す人、警官の暴力的行為がないよう監視しようと思っていた人などさまざまな人が集まっていたが、最初から騒ぎを起こすことを狙っていた過激派も存在した。

過激派は警官隊とにらみ合いの末に衝突。おそろいの戦闘服をそろえていたり、盾を用意していたりと最初から準備は万端だったようだ。

一方の警察はここまでの騒ぎになるとは予想していなかったようで、現場にいたのは軽装の一般警官ばかり。人数が多い暴徒は警官隊を圧倒。歩道を剥がして投石し、また直接襲いかかって殴打した。

ヘルメットも盾もないなか、警官側には暴徒による殴打や投石で多くの負傷者が出ている。殴られて昏倒した者まで出たが、その警官が群衆に飲み込まれそうになった際、空に向かって空砲を撃つ威嚇射撃を行っている。

機動隊の到着後、暴徒たちは旺角各地に散らばり、道路でかがり火を焚いたり、タクシーを破壊するなどのゲリラ的活動を朝まで続けた。ビル密集地帯で火を焚くという危険行為もまた暴徒への批判を高めるものとなった。

事前の呼びかけがあったため、現地には多くのメディアもつめかけていた。投石、威嚇発砲、かがり火など一部始終が写真、動画におさめられている。暴力行為の記録をやめさせようと、暴徒が記者に暴行するという一幕まであった。

警官や記者、暴動参加者など計125人が負傷し病院で治療を受けたが、重傷を負った2人はいずれも警官だ。1人は女性警官で投石によって腕を骨折した。もう1人は威嚇射撃のきっかけとなった男性警官で殴打されて意識を失った。

パニックになった警官が投石を投げ返すという光景もあったが、暴徒側が先に手を出したことは報道から明らかだ。政府に批判的な野党ですら暴徒側を批判している。

2014年に普通選挙実施を求めて学生たちが長期間、抗議の座り込みなどを行った「雨傘運動」の主導者である、学生組織「学民思潮」を率いるジョシュア・ウォンも、自分たちの活動はあくまで平和的なものだとして、暴徒とは一線を画することを言明した。

メディアも強く批判している。香港メディア従事者連合会は、記者に対する暴行は報道の自由という香港の革新的価値を踏みにじるものとの抗議声明を発表した。

今回の事件は当初、「魚蛋革命(フィッシュボール革命)」と呼ばれていた。魚蛋とは魚のすり身の団子で香港を代表するB級グルメだ。屋台を取り締まろうとする警察の横暴が人々を蜂起させたという含意を持つ。

しかし暴徒側への批判が高まるなか、「魚蛋革命」という言葉は使われなくなり、暴徒に批判的な「旺角騒乱」という名称が定着している。

中国人観光客に罵声を浴びせる過激な「急進派」たち
騒ぎを起こしたのはどのような人々なのだろうか。政府批判的な政治グループには、政治改革と民主化を求める「民主派」以外に、香港独立を求める「本土派」と呼ばれるグループがいる。

その一部は以前から「中国人はイナゴだ」とのヘイト広告を新聞に掲載したり、繁華街で中国人に暴言を吐くという過激な活動を続けてきた。

2014年秋の雨傘運動でも、「本土派」内の急進派が運動に参加。中環、銅鑼湾、旺角の3つの占拠区のうち、旺角に陣取った。中環では学生たちが青空勉強会を開き、理性的に抗議の意志を示した一方で、旺角では警官隊と小競り合いを繰り返すという対照的な光景が展開された。

雨傘運動終結後には、鳩鳴団(中国語の購物、ショッピングの当て字。デモではなく買い物しているだけという名目で繁華街を練り歩く活動)や、転売目的の中国人観光客に罵声を浴びせるなどの運動、さらには道路にお金を落としたので拾っているという建て前で交通を阻害するといった活動が繰り返された。

香港警察は雨傘運動で催涙弾を使用するという強硬姿勢を見せたことが市民の反発を招いたことを理解し、その後は慎重な対応を続けている。

その一方で急進派は幼稚な挑発行為を繰り返してきた。「暴力的」とのレッテルは警察から急進派へと移りつつあったが、今回の事件はその印象を決定的なものとする転機になるのではないか。

彼ら急進派の数は決して多いものではない。中核メンバーの数はせいぜい数百人程度だろう。しかし、そのごく少数の急進派が大きな影響力を持ちつつある。急進派だけではなく、本土派全体、あるいは同じ政府批判の民主派にも批判が飛び火する可能性はある。

また香港政府は旺角騒乱の参加者を暴動罪容疑で逮捕している。1970年に制定された暴動罪だが、実際に適用されるのは今回が初めてだ。

世論の反発が想定されるだけにこれまで適用はひかえられてきたわけだが、暴徒批判・警察支持という社会のムードを背景に伝家の宝刀を抜いた格好だ。12日現在、38人が起訴されているが最終的には60人以上にまでふくれあがる可能性もある。

香港社会運動が歩むべき「正しい道」とは?
ある香港人は旺角騒乱を反政府側のオウンゴールだと嘆いた。無駄な暴力によって本土派、民主派の支持は失われる。民主化を求める動きにとってはマイナスでしかない、と。

暴力行為はごく一部の急進派によるものであるが、世間はそう思ってはくれない。学民思潮のジョシュア・ウォンは暴力行為を批判する一方で、急進派は合法的手段による解決が期待できないために暴力行為に走った絶望の若者たちであり、政府にこそ最大の責任があるとのコラムを発表したが、この主張は果たして支持されるだろうか。

もちろん若者たちの絶望は状況説明として正しい側面もある。議会は親中派が多数を占めるよう、経済界など各業界出身の議員が多数になるよう制度設計されている。約束されていた行政長官選出の普通選挙導入も失敗に終わった。

デモやストライキで圧力をかけようにも香港政府には重大事項の決定権はなく、遠く離れた北京には影響を与えられない。植民地的悲哀とでも呼ぶべきか。まさに袋小路の状況だ。

希望は見えないとしても、民主化への道があるとするならば、それは香港社会の支持が受けられる平和的運動以外にはありえない。絶望的状況を乗り越えて、正しい道を歩むことができるか。香港の社会運動は試練の時を迎えている。【2月13日 高口康太氏 Newsweek】
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本土からの「春節」旅行者が減少して閑古鳥が鳴く香港繁華街
香港独立を求めて中国政府と決定的に対立することは、中国経済に依存している現在の香港の置かれている状況では多くの支持は得られないようにも思えます。

今年の「春節」では、そんな香港の実情も。
日本などでは中国観光客の「爆買い」を期待していますが、中国観光客との摩擦も表面化している香港は、中国本土からの観光客が減少し、苦しい状況とも報じられています。

****買い物天国」香港では中国本土の客減少****
旧正月の春節を迎え、大勢の中国人観光客が日本を訪れていますが、これまで「買い物天国」とも呼ばれてきた香港では、中国本土からの客が大幅に減少し香港の小売業界にとっては厳しい春節となっています。

春節の初日を迎えた8日、香港島にある繁華街では、薬局や宝石店など中国本土の買い物客を対象とした店に客の姿はほとんどみられませんでした。

関税がほとんどかからず質のよい外国製品が手に入る香港は、「買い物天国」とも呼ばれ、中国本土から多くの人が訪れてきましたが、去年6月から減少に転じ、去年12月は前の年の同じ時期に比べマイナス15.5%と大きく落ち込んでいます。

これは、中国の通貨・人民元が、香港ドルに対してこの1年で4%余り値下がりし中国本土の客にとって香港での買い物が割高になったほか、去年、一部の香港市民が、中国本土の買い物客によって品不足が起きているなどとして抗議デモをしたことなどが影響したとみられています。

繁華街では宝石や時計など高価な品を扱う店を中心に閉店が相次いでいます。腕時計の販売店の担当者は、「9割が中国本土の客ですが、1年で客は半分に、売り上げはそれ以下に減りました。原価や支出を切り詰めなければなりません」と話していました。

中国本土の客のおう盛な購買意欲を取り込んできた香港の小売業界は厳しい春節を迎えています。【2月9日 NHK】
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政治的にも中国の主権下にあり、経済的にも中国に大きく依存・・・ということで、香港が「一国二制度」のもとで民主化を進めるのは非常に困難な状況です。
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