孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  オバマ大統領訪問を批判するカストロ前議長 しかし、国民の多くが望む関係改善・生活向上

2016-03-30 21:34:42 | ラテンアメリカ

(ハバナ上空を飛ぶ、オバマ大統領一行を乗せたエアフォースワン それを見上げるキューバ市民 【mail online http://www.dailymail.co.uk/news/article-3501651/Destination-Havana-Obama-Michelle-girls-historic-trip-make-President-visit-Cuba-90-YEARS.html】)

オバマ大統領「我々は、友人、隣人、家族として、共に旅をすることが可能だ」】
退任まで残すところ9カ月となったオバマ大統領の“レガシー”のひとつ、キューバとの歴史的関係改善は、まだ今後の道のりは長いものの、これまでのところは概ね順調に進んでいるようです。
オバマ大統領は22日、現職大統領としては88年ぶりの「敵国」訪問を終えました。

****<米大統領キューバ訪問>「歴史的な旅」に好意的も成果半ば****
オバマ米大統領は22日、2日半のキューバ訪問を終えた。現職大統領として88年ぶりにかつての「敵国」を訪れ、キューバ国民に経済、政治上の変革を直接呼びかけるとの主目的は果たした。

「歴史的な旅」の受け止めはおおむね好意的だったが、人権問題で根本的な差異も露呈。1959年のキューバ革命後、半世紀を超えた断交から関与への大転換の成否は、今後に持ち越された形だ。

「我々は、友人、隣人、家族として、共に旅をすることが可能だ」。オバマ氏は22日、首都ハバナの国立劇場でそう語りかけた。両国の歴史的、地理的な「近さ」を強調し、キューバ人の選択による改革を支持する方針を示したものだ。

米国との関係正常化により、投資や貿易を通じた経済の発展や、政治的自由の拡大が見込める。そうした「明るい未来」を提示し、一党支配の社会主義体制から多党制資本主義への移行を求める意識を国民の間に醸成する。

米国社会の人種や格差の問題に対するラウル・カストロ国家評議会議長の批判にも、謙虚な姿勢を見せてキューバ側のプライドをくすぐる。

オバマ氏が取ったのは、そんなソフトな方法論だった。会場にはカストロ氏も姿を見せた。

オバマ氏は22日、反体制派や人権活動家とハバナの米大使館で会談し、キューバの民主化や政治的自由を拡大する取り組みを支援すると明言。米大リーグ「タンパベイ・レイズ」とキューバ代表チームの野球親善試合をカストロ氏と並んで観戦するなど、硬軟両様の交流外交を展開した。

オバマ氏の演説を聞いたハバナ市民は毎日新聞の取材に「真剣だった」「世界への扉を開いた」と前向きに評価した。一方、国営テレビが流した国民の声には「米国に助けられる必要はない」「米国は信用できない」という否定的なものが目立った。

不信は米国側にもある。野党共和党の大統領候補指名レースを先導する実業家のトランプ氏は、オバマ氏の到着時にカストロ氏が出迎えなかったことを批判。22日の演説も「おかしい」とけなした。カストロ政権に批判的な有力候補クルーズ上院議員も「敵と味方の区別がついていない」と指弾した。

だが、キューバ側が強く求める禁輸措置の解除は「米上院で共和党にも前向きな議員がいる」(米アメリカン大のフィリップ・ブレナー教授)状況で、実現の難易度は下がりつつある。オバマ氏は「人権問題で差異を埋められるかが鍵」と指摘し改善を促した。【3月23日 毎日】
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人権問題については、未だ溝は深いようです。

****<米キューバ首脳>人権巡り激しい応酬 共同記者会見でも****
オバマ米大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長による21日の共同記者会見では、人権問題を巡り激しい応酬があった。

最初に発言したカストロ氏が米国社会の格差や人種問題などを皮肉る一方、オバマ氏はキューバでの人権侵害を改めて問題視するなど、この問題を巡る両国の溝の深さを改めて露呈した。

カストロ氏はキューバの人権状況に関し、医療や教育も人権の一部であり、社会主義国のキューバでは無料で提供していると胸を張った。

「政府がこうした権利を守らないのは、私には考えられない」と指摘。学生が高額の学費を払うためローン返済に苦しみ、国民皆保険も実現していない米国の現状を批判した形だ。

オバマ氏はこうした批判を評価し、キューバと半世紀以上の断交状態から関係正常化に踏み出したことで、「方針の違いを直接話し合えるようになった」と前向きに受け止める姿勢を見せた。

一方でオバマ氏は、キューバだけでなく中国やベトナム、ミャンマーとの関係でも人権侵害の批判は行っていると説明。人権擁護は米国の外交政策の要であると強調した。

共同会見では、カストロ氏が米国人記者から「政治犯をいつ釈放するのか」と尋ねられる一幕も。カストロ氏は「名前を示してくれれば、今晩中にでも釈放する」と答え、オバマ政権が批判するような政治犯はいないとの立場を強調。米国側が継続して人権問題を取り上げることへの強いいら立ちを示した。

カストロ氏が会見で記者の質問に答えるかどうかは、会見開始直前まで確定していなかった。米国人記者の質問に答えるよう、オバマ氏が促す場面もあった。【3月22日】
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姿を見せなかったカストロ前議長 「帝国からの贈り物など必要としていない」】
ラウル・カストロ現議長の兄でもあり、キューバを象徴する人物でもあるフィデル・カストロ前議長は今回のオバマ大統領訪問において姿を見せず、オバマ訪問に関し、“「帝国からの贈り物」など必要としていない”“甘言による幻想”“口先だけ”と辛辣な評価を示しています。

****帝国の贈り物いらない」 カストロ前議長、オバマ氏訪問を批判****
キューバのフィデル・カストロ(Fidel Castro)前国家評議会議長(89)は、28日に公開された書簡でバラク・オバマ米大統領の歴史的なキューバ訪問を痛烈に批判し、キューバは米国という「帝国からの贈り物」など必要としていないと述べた。

キューバ革命を率いたフィデル氏が、オバマ大統領のキューバ訪問についてコメントを公表したのは初めて。フィデル氏はこれまでも米キューバ関係の改善に冷ややかな反応を示している。

フィデル氏は、オバマ大統領が東西冷戦時代から50年以上続く敵対関係を許し合い、水に流そうと呼び掛けたことを一笑に付し、「あの米大統領の言葉を聞いていると、みんな心臓発作を起こしかねない」「少し提案させてもらうなら、オバマ氏は頭を働かせて、キューバ政治の理論化など試みないことだ」などと書簡に記した。

オバマ大統領は先週、現職米大統領として88年ぶりのキューバ訪問でラウル・カストロ国家評議会議長と会談したが、兄のフィデル氏とは会わなかった。

訪問に際しキューバ政府からは内政干渉しないよう警告があったものの、オバマ氏はこれを無視。反カストロ派と面会したほか、民主主義や自由の拡大を呼び掛ける演説を行った。

3日間のオバマ氏訪問中、公の場に姿を見せなかったフィデル氏は、この演説を「甘言」だと一蹴。「高潔で無私無欲なわが国の人々が、教育・科学・文化に培われた栄光と権利と精神的な豊かさを放棄するという幻想など、誰も抱いてはいない」「われわれは、国民の労働と知性によって、必要な食料や物質的な富を生み出すことができる。(米国という)帝国からの贈り物など必要としていない」と述べた。【3月29日 AFP】
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アメリカとの関係改善に大きく舵をきったことへの、バランス調整としての国内向け発言の側面もあるでしょうが、キューバそのものでもあった“あの”カストロが口を極めて批判しても、流れは変わらないという点で、逆に、キューバの政治も大きな変化をとげつつある、カストロの時代は終わったということが実感されます。

生涯をキューバ革命と東西冷戦のなかで大国アメリカに立ち向かうことに捧げた89歳のフィデル・カストロ氏には、もはや新しい時代に即応していくことは難しいでしょう。

関係改善に期待する生活苦の市民
カストロ氏は、アメリカの助けがなくてもキューバは食料や物資を自給できるとし、「帝国から施されるものなど何もない」とも述べていますが、キューバ市民の思いとは大きなギャップがあります。

****オバマ演説、好反応 「キューバの人に響いた****
米国のオバマ大統領が、現職大統領としては88年ぶりとなるキューバ訪問を終えた。国立劇場での演説など、キューバ国民に直接訴えかけることを重視したオバマ氏。その言葉は、多くの人々に好意的に受け止められたようだ。

演説はテレビで中継された。ハバナの自宅で演説を聴いたリリア・マルセルさん(70)は、オバマ氏が締めくくりに「やれば出来る」とスペイン語で言ったのが胸に響いた。

日々の暮らしは楽ではないが、子供や孫の世代には、少しでもいい未来が待っているかもしれない、と感じたという。「頑張ったら暮らしもよくなるという希望を感じた」と語る。

マイアミ在住のキューバ系米国人ウゴ・カンシオさんは招かれて劇場で演説を聴いた。演説でオバマ氏が「革命をしたキューバ人の子孫と、亡命したキューバ人の子孫の和解が、キューバの未来に必要だ」と語った時、涙が止まらなかった。

自分自身、15歳でボートで米国に亡命。祖国を捨てた人々や引き裂かれた家族の痛みを感じてきたからだ。海を隔て対立してきたキューバ人に和解を呼びかけた言葉がしっくりきた。「キューバの人々の心に響いた」と話す。

だが、米国が何を言っても、キューバで実権を握る人々の考えが変わらなければ、物価高や物不足など日々直面する問題が解決されることはない、という冷めた見方もある。

テレビで演説を聴いた自営業のエリスマル・タビオさん(29)は、「オバマの話はよかったが、キューバで物事を決めるのは、70歳以上の連中だ。何も変わらないのではないか」と語った。【3月24日 朝日】
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****カストロよりオバマを議長に」とハバナ市民はラブコール オバマ人気の影に生活不安・・・****
現職の米大統領として今月下旬、88年ぶりにキューバを訪れたオバマ大統領をキューバ国民は熱狂的に歓迎した。
半世紀に及ぶ敵対関係に終止符を打ち、制裁緩和などを通じてキューバ国民の生活向上に貢献しようとしているためだ。

ただ、国交回復の恩恵を受けているのは一部の国民で、大半の生活は苦しいまま。カストロ政権の政治姿勢にも変化の兆しはみられず、キューバ社会には国交回復の「明暗」が交錯している。

「ジョージ・ブッシュ(前米大統領)よりオバマの方が断然、好きだ」。オバマ氏がラウル・カストロ国家評議会議長と会談した革命宮殿近くで、自営業のホアン・リベロさん(48)はこう強調した。

キューバ独立系機関の昨年春の調査によれば、キューバでオバマ氏の人気は高く、好感を持たない国民は17%と、ラウル氏(48%)や兄フィデル前議長(50%)を大きく下回る。

外交筋によれば、実はオバマ氏はブッシュ前政権時代より50近く新たな制裁を科してきた。最近の緩和策が注目されるため、オバマ政権の「寛容さ」ばかりが目立つが、実情は異なる。

それでも、キューバの貧困解消実現に向け、米議会に制裁の全面解除を訴えるオバマ氏の姿勢は魅力的に映る。女性のミレニアさん(28)は「オバマ氏をキューバのトップ(議長)に迎えたいほどだ」とラブコールを送る。
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オバマ氏が決断した国交回復以降、キューバに多数の観光客が流入し、多額のカネが落ちているのは事実だ。2015年の観光客は過去最高の350万人を記録。日本人観光客は約1万3千人と、増加率(81%)では世界一だ。1959年のキューバ革命に関心を抱く60代の人々が多いという。

キューバが注目されることで、マヤ文明の遺跡が散在するメキシコ、カリブ海に浮かぶ米プエルトリコなどの観光地は悲鳴を上げている。

高齢のラウル氏が宣言通り2018年に引退した場合、カストロ兄弟の政権への影響力が激減するため、「国が劇的に変化する前に共産主義体制を見ておきたいという人が増える一方だ」(観光業者)という。

米・キューバ経済評議会によれば、ビジネスチャンスを狙ってキューバ入りした経済団体は14年末以降、500に上る。オバマ氏訪問に合わせ、キューバを訪れた米系ホテルも商談をまとめるなど、経済向上への下地は整えられつつある。
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レストランや観光業が歓迎の声を上げる一方で、大半の国民は国交回復の恩恵を実感できないでいる。

国民の月額平均給与は25ドル(約2500円)。20代の女性は「ラウルは600ドルもするスペイン産ワインを飲み、庶民の“夢”である牛肉を口にする。国民第一なら私たちにも与えるべきだ」と口をとがらせる。

政権が国民に与える配給品は毎月1人あたり、卵7個▽豆1キロ▽米2キロ−など。1週間で底を突き、残りはわずかな給与で買うしかない。

独立系ジャーナリストのサンティアゴ氏(38)は「腹をすかせた国民は多い。食糧を買うカネがなければ、残念ながら夕食はない」と窮状を訴える。

ハバナはデコボコの道が多く、移動手段のバスも不足気味。国民のインターネットのアクセス率も5%以下と「鎖国」状態にある。他国民並みの暮らしは「夢のまた夢」でしかない。
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国交回復後、カストロ政権の強権体質にも変化の兆しは見られない。オバマ氏の訪問に合わせ、世界中から押し寄せた報道陣をハバナのホテルに宿泊させるため、カストロ政権は先約の人々を車で東に約2時間のバラデロに強制移動させた。民主国家ではあり得ない手法に不満が渦巻く。

中米外交筋は「キューバの憲法には『国民主権』と書かれているが、実際は『政権主権』でしかない」と述べ、米国がキューバの民主化もにらんで決断した国交回復が同国社会に大きな影響を及ぼすのはかなり先との見方を示した。【3月30日 産経】
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【「敵」を失ったキューバ政権の今後は?】
フィデル・カストロ氏が何と言おうが、国民の生活改善の期待に後押しされる形で、両国の関係改善は今後も続くのではないでしょうか。

ただ、アメリカという「敵」を失ったキューバ政権が今後どのように求心力を維持できるのか・・・は不透明でもあります。

国外の「敵」を糾弾することで国内求心力を保ち、自らの失政の責任を「敵」のせいにするというのは、古今東西の強権支配政権が行う常套手段ですが、その「敵」がいなくなると・・・・。

****オバマ訪問で「敵」を失うキューバ政権の焦り****
「ヤンキー帝国主義」と、キューバの前国家評議会議長フィデル・カストロが批判し続けたアメリカ。その現職大統領としては88年ぶりとなるキューバ訪問を、オバマが先週実現した。

家族と共にエアフォースワンで首都ハバナに降り立ったオバマはラウル・カストロ国家評議会議長と首脳会談を行
い、共同会見に臨んだ。

2人は人権問題をめぐって応酬し、息の合わない握手を披露する一方で、両国が新たな関係構築への道を歩み始めたことを宣言した。

だが、カストロは内心穏やかでないだろう。カストロ兄弟が半世紀にわたり独裁を続けられたのは、アメリカという敵がいたからこそ。経済の停滞も民主主義の欠如も、すべては隣国のせいだと政権は吹聴し続けた。

アメリカもそれを助長した面は否めない。59年のキューバ革命以降、歴代の米政権は厳しい貿易制限や経済制裁を科してきた。キューバの人権問題を批判し続けてきたアメリカだが、懲罰的な政策は人権抑圧への制裁ではない。

むしろ、在米の亡命キューバ人を優遇するためであり、キューバ政府による資産接収に反発した米企業の要請に応
えるためのものだった。
 
こうした因縁の歴史からキューバ国民は反米で結束し、強力なカストロに頼るしかないと、独裁を支持してきた。

「敵国アメリカ」という強力なよりどころを手放そうとしているカストロは近年、民主化を進めるどころか反体制派への抑圧を強めている。

国民が経済改革の進展を望み、もはや敵国でなくなったアメリカの大統領がその期待をかき立てるのを、必死
で阻止しようとしているようだ。

だがカストロの矛盾した政策は限界を迎えている。両国が新たな関係を進めれば、「われわれに従うか、ヤンキー帝国主義者に屈するか」という常套句は使えなくなるだろう。【4月5日号 日本版Newsweek】
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“国際人権NGO(非政府組織)のアムネスティ・インターナショナルなどによると、キューバでは昨年11月だけで人権活動家約1500人が逮捕・拘留されている。これは2014年の月平均の2倍以上で、昨年12月10日にも約200人が逮捕・拘留され、拘置所で殴られるなどした。”【2月19日 産経】
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