孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ホムスでようやく避難始まる “人道”をめぐるせめぎあいも

2014-02-08 22:56:07 | 中東情勢

(シリアの首都ダマスカス南西のダラヤで、シリア軍のヘリコプターから投下された「たる爆弾」とみられる攻撃によって立ち上る煙(2014年2月5日撮影)【2月6日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3007903  なかの金属片やクギは1キロ以上も飛び散るとか)

再開される和平協議に弾みの期待も
シリア内戦の政治的解決を目指し、ジュネーブで1月24日から31日まで行われていたアサド政権と反体制派の初の協議では、アサド政権が包囲する中部ホムス旧市街からの避難や人道支援物資で合意しました。

政権移行という基本的問題での合意が困難ななかでの“信頼醸成措置の第一歩”と期待された人道的対応でしたが、互いの不信感のため実際の避難・支援活動は始まらず、政権側と反体制派は互いに計画の遅れを相手の責任として非難する状況が続いていました。

ここにきて、ようやくホムスでの3日間の停戦と実際の避難・支援活動が実現しました。

****ホムス住民 避難開始 シリア 人道支援、3日間停戦****
内戦下にあるシリアの国営テレビは7日、アサド政権と国連が人道支援ルート確保で合意したのを受け、反体制派の拠点で政府軍が包囲を続ける中部ホムス旧市街から一部の住民が避難を開始したと伝えた。
支援物資の搬入は8日にも始まる見込み。

また、政権側の後ろ盾であるロシア外務省は7日、一連の人道支援活動を実施するため、政権側と地元の反体制派との間で、3日間の停戦合意が成立したと明らかにした。

国際社会の仲介により、人道状況改善に向けた紛争当事者間の合意が一応は成立したことで、10日からスイス・ジュネーブで再開される和平協議に弾みがつくとの期待も出ている。

地元県知事によると、7日に避難するのは、旧市街にとどまっている2500~3千人のうち、女性や子供ら約200人。

現場には同日朝、住民らの搬送にあたるシリア赤新月社のバスなどが到着した。政権側は、反体制派戦闘員の可能性がある15~55歳の男性が避難を希望する場合は「降伏」するよう求めている。

政権側と国連は6日、ホムスでの住民避難や支援物資搬入で合意。国連報道官はこれを歓迎する声明を出した。
ただ、パワー米国連大使は「アサド政権は、反体制派支配地域の住民をすべてテロリストとみなして攻撃対象としてきた」と述べて政権側の人道支援への取り組みに懐疑的な見方を示した上で、避難住民らの身柄の取り扱いなどについて懸念を表明している。

ホムス旧市街は、2011年3月に反政府デモが発生した当初から反政府活動が活発な地区で、12年6月以降は政権側が包囲。激しい戦闘が続く中、食料や燃料、医薬品などの支援物資がほとんど届かない状態が続いていた。【2月8日 産経】
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国連は7日、ホムス旧市街の反体制派の支配地域から市民83人が避難したと発表しています。
また、ホムスには病気や負傷で身動きが取れない市民も数多く残っており、こうした人たち向けの人道支援物資の第1便は8日に同地に到着する予定です。

【「状況はあまりに絶望的」】
政府軍による封鎖が行われているのは反体制派が支配するホムスだけではありません。

****シリア首都の難民キャンプ、封鎖7か月で2万人が飢え****
シリア首都ダマスカスのヤルムーク・パレスチナ人難民キャンプでは、潜伏する反体制派を追い出すための政府軍による懲罰的な封鎖が7か月にわたり続き、2万人近くの住民が飢えに苦しんでいる。

シリア当局とヤルムークのパレスチナ人側との数か月にわたる交渉の結果、一部住民は退去を許されたが、その数はごく少数にとどまっている。

子ども2人を連れての退去を許されたフルード・シェハブさんは、AFP記者に対し「(キャンプ内は)悲惨な状況。人々は文字通り、飢えで死んでいる」と語った。シェハブさん一家は生き延びるために「家の近くに生えていた草やサボテンをゆでて」食べていたという。

また、インターネットを通じて取材に応じた住民によると、多くの人たちが野良犬や野良猫を食べ、一部の女性は最後の手段として食料と引き換えに売春をしている。

ネット電話サービスのスカイプを通じてAFPの取材に応じたヤルムークの住民、アリさんは「ここにいる多くの人が犬や猫、それにロバまでも殺して食べている」と語る。

「ある男性は犬を殺したけれど、食べる肉は見つけられなかった。犬も飢えているからだ」。「状況はあまりに絶望的で、女性たちはコメやブルグアの1カップを得るために、封鎖前に食料を蓄えた男性たちに体を売っている」

■封鎖されたヤルムーク
1950年代にパレスチナ人難民キャンプとして始まったヤルムークは、その後数十年かけて、約15万人のパレスチナ人とシリア人とが共に暮らすにぎやかな商業・住宅地区へと発展。2012年にシリアの騒乱がダマスカスに到達すると、市内各地からヤルムークに大勢の人が流れ込み、人口はさらに増加した。

だがまもなく、反体制派の武装したシリア人たちがキャンプ内に入り込み、ヤルムークも戦闘地域になった。パレスチナ人の一部は反体制派武装勢力に参加し、一部は政権側のグループを支持した。

昨年6月にはシリア軍が2平方キロメートルに広がるヤルムークを完全封鎖。既に住民の大半がキャンプ外へ避難していたが、国連によれば民間人1万8000人がヤルムークに取り残された。

ヤルムーク内では食料と医療品はほぼ底を突き、住民によればコメ1キロの値段は100ドル(約1万円)にまで高騰している。シリア人権監視団によると、封鎖が始まってからこれまでに、飢えや医療不足によって少なくとも88人が死亡した。

■支援物資に群がる住民
数か月にわたる交渉の末、シリア当局とパレスチナ側の14組織は昨年12月、これまで長く拒否されてきた食料支援を許可することで合意。支援は今年1月にようやくヤルムークに届き始め、一部住民には人道的理由による封鎖地区の退去が認められた。

国連パレスチナ難民救済事業機関は1月18日にキャンプ内で1回目の食料支援を、さらに1月30日から2月2日にかけては2回目の支援を実施。

広報担当者のクリス・ガネス氏によれば、これまでに少なくとも3709個の支援物資がヤルムークに届けられ、各配給所には人々の群れが押し寄せた。

パレスチナ解放機構(PLO)によると、これまでに女性や子ども、高齢の男性を主とした少なくとも450人の退去が認められた。
だが、12月の合意で交渉を担当したシリア当局者は、退去が許されるのは人道的な理由が認められた場合のみだと述べている。【2月4日 AFP】
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無差別殺傷の“安上がり兵器”】
シリアで多くの一般市民が犠牲になっているとして注目されているもうひとつの問題は“たる爆弾”です。

****たる爆弾****
ドラム缶のような円筒形の鉄の容器に150キロから1トンの火薬を入れ、クギや金属片を詰め込んだもの。政権軍がヘリコプターで運び、主に住宅地に投下する。
シリア政権軍は2012年夏から使い始め、これまでに2千発近くが使われ、約3千人が死んだとされる。殺傷力は高いとされる。【2月8日 朝日】

****シリア、たる爆弾の惨禍 政権軍が投下、市民犠牲に 死者1週間で250人****
内戦が続くシリアで、反体制派の支配地域に対し、アサド政権軍が大量の火薬などを詰め込んだ「たる爆弾」を投下する作戦を続け、市民の犠牲者が増えている。

人権団体はこの1週間足らずに北部アレッポで、たる爆弾による死者が250人近くに上ると報告。
10日からジュネーブで再開されるシリア和平協議でも問題となりそうだ。

英国に本拠を置く「シリア人権監視機構」によると、反体制派が支配するアレッポ東部でたる爆弾が投下され、今月1~5日の5日間で246人が死亡。うち73人は18歳以下の子供たちだったという。政権側は、10日の協議再開前にアレッポで攻勢を強めようとしているとみられる。

アレッポに近いラスタンの反体制派「地域調整委員会」のアブドルバセト・ラジャブ委員長は、朝日新聞の取材に「200キロのたる爆弾で500平方メートルが完全に破壊され、4階建てのビルが跡形もなく崩れる。さらに金属片やクギが1キロ以上も飛び散り、多くの死傷者が出る」と語った。

さらに「すべてシリア製で安上がりな兵器だが、無差別の殺傷力や破壊力がある。このような兵器が毎日使われ、民間人が死んでいるのが放置されているのは、国際社会の責任だ」と非難した。

たる爆弾による攻撃は、昨年12月下旬にもアレッポで2週間にわたり行われ、500人以上が死亡。
今年1月下旬にジュネーブでアサド政権と反体制派の代表組織・シリア国民連合が初の和平協議を行った際も、たる爆弾攻撃は続いた。

米国のケリー国務長官は4日、「市民へのたる爆弾攻撃は、アサド政権の野蛮さを示している」との声明を発表。
「世界が戦争を終わらせようとしている時に、アサド政権は破壊を激化させ、協議を失敗させようとしている」と非難した。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「政権軍のたる爆弾使用は戦争犯罪にあたる可能性が高い」「ジュネーブの和平協議でたる爆弾を問題にすべきだ」との声明を出した。

1月の和平協議でも、アレッポでの停戦は実現しなかった。ブラヒミ国連・アラブ連盟合同特別代表は「たる爆弾の使用をやめることは市民保護のうえで重要だが、双方とも市民保護を順守しようとはしていない」と語った。

たる爆弾について、シリアのハイダル国民和解相は1月に朝日新聞のインタビューで「シリア軍は民間人が退避し、テロリストの拠点となっている場所を攻撃している」と述べ、使用は認めたうえで、民間人への攻撃は否定した。【同上】
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一般市民を盾にするかのように市民の中に紛れ込む戦闘員、その排除のため市民もろとも殺戮する行為・・・・結果として、多大な市民が犠牲になります。

“たる爆弾”にしても“化学兵器”にしても、非人道的兵器の問題は、「じゃ、普通の爆弾・兵器で殺すのはいいのか?」という釈然としない部分もありますが、要は、戦争にあっても一般市民を無差別に殺害するような兵器の使用は認められないということでしょう。

世界中でそうしたコンセンサスが確立されるのであれば、長崎や広島の原爆、日本各地を焼き払った焼夷弾、ベトナムのジャングルを焼き払ったナパーム弾や枯れ葉剤などの時代からは一線を画し、虐殺を繰り返してきた数十万年のホモ・サピエンスの歴史上の画期的進歩とも言えるでしょう。

ただ、一般市民を無差別に殺害してはならないというコンセンサスによって、逆に市民を盾にするような戦術が拡散するという問題もはらんでいます。戦争の形態が変わってきています。

人道支援で国際圧力
人道支援を巡っては、これをてこにしてアサド政権への圧力をかけようとする国際的動きがありますが、ロシアはこれに反発しています。

****シリア:人道支援へ決議案検討 安保理、受け入れ迫る****
スイス・ジュネーブで1月31日まで開かれたシリアのアサド政権と反体制派主要組織「シリア国民連合」の直接協議で具体的成果がなかったことを受け、国連安全保障理事会の欧米やアラブ諸国が、人道支援の受け入れをアサド政権に迫る決議案の検討を本格化させていることが分かった。複数の安保理外交筋が明らかにした。アサド政権の後ろ盾のロシアに圧力をかける狙いもあるとみられる。

直接協議では、信頼醸成措置として、中部の激戦地ホムスでアサド政権が包囲する旧市街地から女性や子供を脱出させる一方、支援団体が救援物資を搬入することで合意。だが協議最終日になっても実現せず、国連のエイモス人道問題調整官は31日の声明で「受け入れがたい状況だ」と不満をあらわにした。

安保理は昨年10月、アサド政権に人道支援受け入れの即時拡大を要請する議長声明案を全会一致で採択。安保理外交筋によると、この声明の内容を踏まえた上で、安保理の決定で最も政治的重みがある決議に格上げし、ホムスなど政権軍が包囲する地域での人道支援受け入れを求めることが検討されている。

別の外交筋によると、今後のアサド政権の動向を見極めつつ「来週以降、安保理で決議案について協議される」という。現在は、安保理非常任理事国のオーストラリアやルクセンブルクの案と、ヨルダンなどアラブ諸国の案を一つにまとめる作業が進められている。

欧米やアラブ諸国が支持する国民連合はもともと、成果が見込めないとして協議に乗り気ではなかった。
決議で政権側に一定の譲歩を迫ることで、国民連合に今後の協議参加の意思を継続させる狙いもあるとみられる。【2月1日 毎日】
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****ロシア、シリア人道支援決議案に反対姿勢 安保理****
ロシアのチュルキン国連大使は7日、シリアの人道支援に関し、オーストラリアなど3カ国が6日、安全保障理事会の常任理事国に配布した新決議案に反対する姿勢を示した。

ロイター通信によれば、同決議案は、人道支援要員のシリア入りを条件なしで認めることが柱。
学校や病院を軍事利用化しないことも求めている。
人道支援を妨げる個人と団体に対しては、制裁を科すことも示唆した。決議案提出には、豪州のほか、ルクセンブルクとヨルダンも加わった。

パワー米国連大使は決議案について、「人道支援は義務であるということをシリア政府に伝えるため、安保理は前進しなければならない」と強調した。

これに対し、過去3度にわたってシリア決議案に拒否権を行使してきたロシアのチュルキン大使は、「(欧米側との距離を埋める)最初の一歩にもならない。失望している。過去に(欧米諸国から)提出された決議案よりも悪い内容だ」などと酷評。その上で、決議案が近く採決に付された場合には、4度目の拒否権を行使することを示唆した。【2月8日 産経】
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人道支援を政治的圧力の手段として使う結果、人道支援問題でも対立が鮮明となり、肝心の支援が滞る・・・という事態にならないか懸念されます。

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