孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  大統領首都放棄で急展開 政権崩壊の流れ

2014-02-23 22:59:07 | 欧州情勢

(22日夜、車椅子で「独立広場」のデモ参加者の前に姿を見せたティモシェンコ元首相 獄中生活の厳しさも窺えます。ハンストなども行っていましたし。 おそらく大統領選挙に出馬する意向でしょう。 “flickr”より By Boaz Guttman http://www.flickr.com/photos/32368051@N08/12704917864/in/photolist-kmG2s1-kmG2wQ-kjY424-kjY3HZ-kjYLMr-kmwKAZ-kmhSeh-kmJ6Ba-kmnGxy-kkhsgU)

一気に加速する流れ
私の故郷、鹿児島県薩摩川内市では毎年、地域を二分して若者たちが全長365m、重さ6トンの綱を引きあう(自称“日本一”の)「大綱引き」が行われ、多くの観光客も見物に訪れます。

互いの力が拮抗して大綱がなかなか動かないこともありますが、いったん動き出すと、引かれている方は引っ張る態勢が取れなくなること、あきらめて手を放す者が増えることなどで、綱の動きは止められなくなり、一気に相手方にもっていかれます。

国際情勢でも、シリア情勢のように膠着状態が長く続くケースもあれば、動き始めた大綱のように“地滑り”的に一気に情勢が動くことがあります。

「アラブの春」の先駆けとなった2011年初頭のチュニジアにおけるベンアリ大統領の国外脱出もそうですが、ここ数日のウクライナの急展開も“地滑り”的な動きとなっています。

ロシア寄りのヤヌコビッチ大統領と、これに反発する親欧米派勢力の対立が続くウクライナで、多くの犠牲者を出す衝突、「休戦」合意の成立、過激派の台頭などでその後も続く衝突・・・という情勢は、2月20日ブログ「ウクライナ 「休戦」合意後も衝突が続く 欧州はヤヌコビッチ政権への制裁発動の動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140220)で取り上げました。

「休戦」後の3日間におよそ100人の死者が出る事態に、EU諸国やロシアの調停が本格化。
21日にはヤヌコビッチ大統領と野党3党代表が事態収拾に向けて、2015年に予定していた大統領選の年内実施や、大統領権限の制限などを盛り込んだ合意文書に署名、再度の「休戦」が図られました。

しかし、多くの犠牲者を出した反政府デモ参加者は、大統領の即時退陣を求め、臨戦態勢を解きませんでした。

****合意後もデモ続く=過激派、武装解除拒否か―ウクライナ****
反政権デモと治安部隊の衝突で多数の死者が出たウクライナでは、事態打開に向けた与野党合意から一夜明けた22日も一部デモ隊が首都キエフ中心部の「独立広場」に残っており、混乱は収拾に至っていない。過激派は24時間以内の武装解除に応じていないとも伝えられ、合意が履行されるか否かは不透明だ。

与野党合意は、2015年春の次期大統領選を14年秋か冬に前倒しすることなどが柱。しかし、デモ隊の要求が欧州連合(EU)加盟からヤヌコビッチ大統領退陣にエスカレートしていた経緯があり、現地報道によると、一部デモ隊は22日も「大統領の即時退陣と早期の選挙実施を求める」と気勢を上げた。【4月22日 時事】 
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ただ、目立った衝突はなく、これで“とりあえず”は落ち着くのか・・・と思っていましたが、ヤヌコビッチ大統領が首都キエフを脱出するということで、事態は一気に政権崩壊・クーデターの方向に向かって動き始めています。

****ウクライナ:大統領首都離れる 与党幹部も辞任し権力空白*****
治安部隊と反政府デモ隊が衝突した旧ソ連のウクライナでは22日、ヤヌコビッチ大統領が首都キエフを離れ、反政府デモ隊らが大統領府や私邸に入り、支配下に収めたと主張した。

政権と野党指導者は21日に危機打開に向け合意したばかりだが、最高会議(国会)でも与党幹部が相次いで辞任、治安組織も野党支持を表明しており、政権崩壊を思わせる権力の空白が生じている。

ヤヌコビッチ大統領は21日夜、キエフを離れ支持基盤の東部ハリコフを訪れたと報じられた。大統領側は22日午後の時点で同地に滞在中と説明しているが、姿が確認されていない。

大統領府からは警備要員が引き揚げており、デモ隊が掌握した。
キエフ近郊にある大統領私邸でも、数百人以上の市民が敷地に入っている。

治安部隊も市内から姿を消し、内務省は「警察は民衆側に立ち早急な変革を求める」との声明を発表。
最高会議が21日に罷免を決めた内相に、ヤヌコビッチ大統領の「政敵」で現在、職権乱用罪で服役中のティモシェンコ元首相の側近アバコフ氏が就任した。

最高会議では与党・地域党のルイバク議長、カレトニク第1副議長が22日、相次いで辞任し、後任の議長に野党「祖国」のトルチノフ氏が選出された。同氏もティモシェンコ氏の側近。

ヤヌコビッチ大統領と野党3党代表は21日、2015年春に予定していた大統領選の年内実施や、大統領権限の制限などを盛り込み危機打開を図る合意文書に署名。大統領権限を制限するため、議会が強い権限を持つ04年憲法を復活▽9月までに憲法改正の実施▽10日以内の挙国一致内閣の発足▽反政府デモ隊の武器放棄と占拠拠点からの撤収−−などが盛り込まれた。【2月22日 毎日】
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どうしてヤヌコビッチ大統領が首都を放棄したのかはよくわかりませんが、そうせざるを得ない内情があったのでしょう。

首都キエフは22日、大統領府や首相府など政府施設が集まる地域に配備されていた治安部隊が撤収、代わってデモ隊が一帯をコントロールするようになり、「解放区」の様相となっています。

“ヤヌコビッチ大統領は22日、支持基盤の東部ハリコフで、地元メディアに対し「これはクーデターだ」と野党側を非難。「私は正当な大統領で国を離れない」と辞任の意向を否定”とのことですが、最高会議が大統領の罷免を決議するなど、事態は大統領がコントロールできない状況になっています。

****ウクライナ:野党、首都占拠 国会掌握、大統領を「罷免****
与野党対立が深刻化したウクライナでは22日、ヤヌコビッチ大統領が去った首都キエフで、デモ隊が大統領府や私邸を支配下に収めた。野党側は最高会議(国会)も掌握し、大統領の罷免を採決した。
一方、大統領は徹底抗戦の構えで、与野党支持者の全面衝突と東西分裂の恐れも含む事態となった。

ヤヌコビッチ大統領は22日、支持基盤の東部ハリコフで、地元メディアに対し「これはクーデターだ」と野党側を非難。「私は正当な大統領で国を離れない」と辞任の意向を否定した。また、乗車していた車が銃撃されたと主張した。

政権が掌握する首相府は「内閣は平常通り機能しており、憲法と法律にのっとり責任ある権力の移譲を実施する」との声明を発表。国軍の参謀総長は政治不介入の意向を表明した。

一方、ヤヌコビッチ大統領の「政敵」で、2011年から職権乱用罪で服役中のティモシェンコ元首相がハリコフで釈放された。

キエフでは最高会議が21日に罷免を決めた内相の代行に、ティモシェンコ氏の側近アバコフ氏が就任。検事総長には野党「自由」党員のマフニツキ氏が指名された。大統領府はデモ隊が掌握、治安部隊も市内から姿を消し、内務省は「民衆側に立ち早急な変革を求める」との声明を出した。

一方、最高会議は22日、ヤヌコビッチ大統領の罷免を賛成多数で決議し、5月25日の大統領選実施を決めた。また、与党・地域党のルイバク議長ら幹部が辞任し、後任の議長に野党「祖国」のトルチノフ氏が選出された。

ハリコフでは22日、東部と南部の地方議員の集会を開き、野党側が掌握した最高会議の正当性を認めない決議案を採択。非常時に備え、必要な手段を講じることで合意した。【2月23日 毎日】
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【“東西分裂”の懸念 ただ、大統領派は踏みとどまれるのか?】
大統領が首都を放棄し、支持基盤の東部に脱出したことで、歴史的・文化的にもロシアに近い東部と、欧州に親近感を持ち、ヤヌコビッチ大統領の親ロシア路線に反発する西部に国が二分されて対立する“東西分裂”の事態が懸念されています。

ただ、大統領が国外脱出を試みたという噂や、実際に大統領側近がロシアに脱出し始めている・・・という現状をみると、東部が西部に対抗する“分裂”の形で踏みとどまれるのかも怪しいように思えます。

このまま一気に、西部を支持基盤とする反政府勢力・野党側が、少なくとも政治的には東西全土の実権を掌握するところまで行く可能性もあります。

****ウクライナ大統領、出国に失敗か****
ウクライナの国境警備当局によると、同国のビクトル・ヤヌコビッチ大統領の側近が22日、国境警備員に賄賂を渡して大統領の国外脱出を認めるよう要求していたことが明らかになった。しかし出国は認められず、大統領は国内にとどまっているとみられる。

当局の報道官はAFPに対し、「ドネツクの空港を離陸しようとしていた自家用機は、(出国に)必要な書類を携帯していなかった。当局の職員らが書類を確認しようとしたところ武装した複数の人物に、金を渡すから急いで離陸させろと要求された」と説明した。

「その後、装甲車が2台到着し、大統領を乗せて走り去った」という。職員らは、自家用機の行き先についても報告を受けていなかった。

ただし、報道官の発言の真偽について、現在のところ裏付けは取れていない。

一方、国内ではテレビで、大統領が「国外に出ることはない。私は合法的に選出された大統領であり、辞任する考えはない」と述べる様子が放送された。22日にウクライナ東部で撮影した映像とされている。

新たに選出されたアレクサンドル・トゥルチノフ最高会議(国会)議長は、大統領はロシアに逃亡しようとしたが失敗し、ドネツクに「隠れている」との見方を示した。

国会は22日、反政権デモ隊の多くが警官に射殺されたことなどを受け、大統領の解任を決議している。【2月23日 AFP】
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大統領の国外脱出がうわさされるようになると、政治的に踏みとどまるは難しいように思えます。
もちろん、どこまでヤヌコビッチ氏を支えるのかというロシア・プーチン政権の意向も、今後の動向に大きく影響します。

“東西分裂”の形になるのか、反政府派による全権掌握となるのかはわかりませんが、仮に政治的には反政府派、現野党勢力への政権移行が実現したとしても、今回の「クーデター」に対する東部住民の不満が根深く残ることは間違いなく、真の意味での東西宥和は当分難しいでしょう。

一連の騒動のなかで、反政府デモ参加者の声はメディアで報じられていますが、ヤヌコビッチ大統領の支持基盤となってきた東部住民の声は殆ど報じられていません。

少なくとも前回大統領選挙ではヤヌコビッチ氏を大統領に就ける形で勝利した東部住民が、今何を考えているのか、ヤヌコビッチ大統領にどういう思いを抱いているのか・・・知りたいところです。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり・・・・
それにしても、事態の急展開、権力の移ろいやすさには驚かされます。
キエフでは、その贅沢さを批判する意味で、早くも大統領私邸が一般に公開されています。

****ヤヌコビッチ大統領の私邸公開、豪華な暮らしぶりが明らかに****
広大な敷地に大理石を敷き詰めて建てられた豪邸、プライベートのゴルフコースや動物飼育施設──ウクライナの首都キエフから約15キロ離れたビクトル・ヤヌコビッチ同国大統領の私邸が22日、大統領が支持基盤のある東部に脱出した後に反政権勢力に掌握され、公開された。

何千人もの見学者らは想像を超えた大統領のぜいたくな暮らしぶりを目の当たりにして、畏敬の念さえおぼえたように歩き回った。(後略)【2月23日 AFP】
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また、親欧米政権を誕生させた2004年の「オレンジ革命」の立役者でもあり、ヤヌコビッチ大統領と大統領選挙を戦い、選挙敗戦後に逮捕拘束されていた“政敵”ティモシェンコ元首相が釈放されています。

車椅子で「独立広場」のデモ参加者の前に姿を見せたティモシェンコ元首相は、政権との闘いを続けるよう人々に訴えています。

****政界復帰に意欲=ティモシェンコ氏―ウクライナ****
ウクライナからの報道によると、東部ハリコフで釈放された野党「祖国」党首のティモシェンコ元首相は22日夜、首都キエフの反政権デモの拠点「独立広場」に到着し、「私は政治家に戻った」と宣言した。
その上で「デモ隊の要求をすべて実現することを保証する」と述べ、政界復帰に意欲を示した。【2月23日 時事】
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拘束中の健康状態が懸念されていましたが、まだ気力は衰えていないようです。
さすがに美貌の方は、長期間の拘束生活で・・・・といった話は不謹慎と叱られますのでやめます。
コメント
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