孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  地方選挙を乗り切り、反対勢力への圧力を強めるマドゥロ政権

2014-02-01 22:13:47 | ラテンアメリカ

(昨年7月のキューバ革命記念日に“英雄”フィデル・カストロを訪問したベネズエラ・マドゥロ大統領  
カストロについては、“フィデル・カストロ前国家評議会議長(87)が、キューバで開催中の中南米カリブ海諸国共同体首脳会議(1月28~29日)に合わせて訪れた要人らと、相次ぎ会談し、健在をアピールした。”【1月29日 読売】とのことで、元気なようです。 “flickr”より By Cubadebate http://www.flickr.com/photos/38597823@N03/12235979806/in/photolist-jDfAv5-jDdAuz-jDcEcP-jDcGez-juPUAQ)

野党はアメリカと結託してわが国に「経済戦争」を仕掛けている
南米ベネズエラでは、強硬な反米路線、強権支配、異色のカリスマ性などで何かと話題も多かったチャベス前大統領が死去しましたが、その後は後継者マドゥロ大統領が忠実にチャベス路線を継承しています。

そのベネズエラでチャベス博物館がオープンしたそうですが、現政権のチャベス路線を考えると、いままでなかったのが不思議なくらいです。

****反米左派チャベス前大統領の博物館、キューバに*****
キューバの首都ハバナで、昨年3月に死去したベネズエラの反米左派、ウゴ・チャベス前大統領を紹介する写真や軍服のレプリカなどを展示する博物館がオープンした。

チャベス氏は、キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(87)と反米姿勢を共有。米国による制裁などで慢性的な経済危機に苦しむキューバにとり、石油の割安供給などの支援を惜しまなかった「同志」でもあった。

完成記念式典は1月29日に行われ、カストロ氏の実弟、ラウル・カストロ国家評議会議長(82)も出席した。【2月1日 読売】
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なお、12月8日は、がん闘病中だったチャベス前大統領が昨年12月8日に首都カラカスで最後の演説をしたことにちなんで、「ウゴ・チャベス最高司令官と祖国のための愛と忠誠の日」という祝日に指定されています。

そのベネズエラで、チャベス流の強引な経済政策の結果として深刻なモノ不足が続いていることは、昨年10月6日ブログ「ベネズエラ チャベス路線を忠実に実践するマドゥロ大統領」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131006)でも取り上げました。
状況は今も変わっていないようです。

****政府が商品を差し押さえて勝手に安売りの強引経済政策****
50%超えのインフレ対策は──軍に家電量販店を占拠させ強制バーゲン

野党はアメリカと結託してわが国に「経済戦争」を仕掛けている──そう主張するベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が先週、軍に家電量販店を占拠させ、国民に政府が決めた「公正」価格での購入を呼び掛けた。

軍の標的となったのは、ベネズエラの家電量販チェーン店であるダカ、KVG、クラッシュで、これらの店舗は大混乱に陥った。当局は5人の店長を拘束し、不当に値段を吊り上げた罪で起訴するつもりだ。

何千人もの群衆が安くなったプラズマTVや冷蔵庫、洗濯機などを買おうと、店の前で行列をつくった。また中部の都市バレンシアのダカ店では市民による略奪が起き、5人を拘束したと政府は発表した。

だが識者の間では、これは12月の地方選挙を目前に控えた政府が人気取りのために仕掛けた略奪行為だと、非難の声も上がっている。「店の陳列棚にも倉庫にも何も残してはならない! すべては国のためだ」と国民に呼びかけたのは、マドゥロだからだ。

ベネズエラ経済は悪化している。年間のインフレ率は54.3%、米ドルの深刻な不足から闇市場ではドル紙幣が原価の10倍近い値で取引されている。ドル不足は、トイレットペーパーや鶏肉、料理用油などの生活必需品や食品類の品切れにつながっている。

その結果、ウゴ・チャベス前大統領の死を受けて4月に大統領に就任したマドゥロの支持率は急落。来月の地方選は、新大統領の指導力に対する信任投票になるだろうと、予想されている。

洗濯機が1週間で100%値上げ?
政府を批判する人たちは、経済が瀕死状態に陥っているのは、資本逃避(キャピタルフライト)防止策としてチャベス政権下の10年前から始まった為替管理政策のせいだと非難する。一方の政府は、それは野党が米政府の支援を得て仕掛けている「経済戦争」だと主張する。

マドゥロは11月10日夜、食品や自動車についても「公正」な価格が約束されるよう、今週中に軍を出動させると述べた。

大統領直属の経済対策庁のエバート・ガルシア・プラザ長官は8日、国営テレビで政府がダカを占拠するに至った理由について、不当な値上げがあったからだと説明した。

ガルシアは首都カラカスにあるダカの店舗から洗濯乾燥機の写真と一緒にこうツイートした。「11月1日に3万9000ボリバル・フエルテだったのが、今日は5万9000ボリバル・フエルテだ。たった1週間で値上げ率は100%近い」

中央銀行の元行員でエコノミストのホセ・グエラは、ダカで起きていることだけでなく、もっと根本的な問題を指摘する。「今日、食品が買えたとしても、明日は飢餓状態だ」と、彼はツイートした。

野党勢力を率いるエンリケ・カプリレス前ミランダ州知事は以前から、不況は政府のせいだと批判してきた。先週末にはこうツイートした。「マドゥロがすることは全部、さらなる経済破壊につながる」【2013年11月12日 Newsweek】
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独裁色を強めるマドゥロ政権
軍の力で販売業者の値上げを押さえつけるだけでは何も解決しないことは言うまでもありません。
ただ、政治的パフォーマンスとしては一定に奏功したようです。

「ウゴ・チャベス最高司令官と祖国のための愛と忠誠の日」に指定された昨年12月8日行われた、マドゥロ政権下の初の全国規模選挙となった地方選挙で、与党側が野党連合に勝利しています。

****ベネズエラ地方選で与党が勝利、物価統制策が奏功****
ベネズエラで8日に行われた地方選挙で、マドゥロ大統領の与党が過半数を獲得して勝利した。

選挙管理委員会によると、337自治体の市長選のうち4分の3の開票時点で与党連合の得票率49.2%、野党連合は42.7%となっている。

4月に就任したマドゥロ大統領は、中南米で最高水準のインフレ率や生活必需品不足、経済成長鈍化などの経済問題に直面している。だが、11月初めから実施された物価統制策は貧困層を中心に消費者の支持を集め、地方選で与党候補を後押しした。【2013年12月9日 ロイター】
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昨年4月の大統領選挙同様、左右の政治勢力が激突した熾烈な選挙戦でしたが、大きな混乱もなく選挙戦が戦われた点については、ベネズエラ国民の民主主義に対する見識が示された・・・との評価もあるようです。

市長についても与党側が多くを獲得しましたが、首都カラカス特別区、マラカイボ、バレンシア、バリーナス市など重要都市は野党側の勝利となっています。

マドゥロ政権側は、そうした野党支配の地方自治体に対し、露骨な政治圧力をかけています。

****政権与党 強まる独裁色 ベネズエラ 野党の市・州で権限剥奪****
南米ベネズエラのマドゥロ政権が、故チャベス大統領を彷彿(ほうふつ)させる独裁色を強めている。

先月8日の全国市長選で野党連合が勝利した市から各種権限を次々と奪い、州や政府に次々と移管。野党が知事職を握る州では、政権の息の掛かった人物に知事職相当の別職を与えて“二重の権力構造”を築いており、政権側の強権姿勢に野党から非難が噴出している。

全国市長選(337自治体)では、与党・統一社会党の候補242人が当選し、野党連合(当選75人)に大勝した。直後から政権側は攻勢を強め、市長職を野党連合に奪われた49市から、公園や劇場、文化施設の管理権限などを剥奪し、与党側の知事が支配する州や政府に移管している。

地元メディアによると、62%の得票で野党候補が勝利した西部タリバでは、市長選から数日後、ゴミ回収企業が市内での回収業務を一時中止した。社会党所属の前市長の指示とみられるという。

また、タリバ市を管轄するタチラ州は、警察車両や防弾チョッキ、武器などを引き渡すよう市警察に指示。社会党強硬派の州知事は「もともと州政府に属していた物品であり、これでメンテナンスが可能となる」と主張したという。

一方、昨春の大統領選でマドゥロ氏に惜敗した野党統一候補、エンリケ・カプリレス氏が州知事を務める北部ミランダ州では、政府から与党の重鎮に州開発プロジェクトの管轄権限が与えられた。
予算規模の大きい州開発が知事の頭越しに“委譲”された形だが、政権側はカプリレス知事が野党指導者として全国を飛び回り、州行政を軽んじているため、必要な措置だったと強弁している。

南部アマゾナス州でも野党知事が空港の管轄権限を剥奪され、州警察、ラジオ局、ホテルに関する権限も次々と奪われた。与党側の地元政治家が、州開発プロジェクトを管轄する代表に就任している。

野党所属のカラカス市長らは最近、大統領府でマドゥロ大統領と面会し、二重の権力構造を築きつつある現状を厳しく批判した。
しかし、大統領は市長選に勝利したことを強調し、「私を排除したいのなら、国民から署名を集め、(大統領罷免の国民投票実施が可能となる)2016年に備えればいい」と一蹴している。【1月31日 産経】
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カリスマなき強権支配は単なる独裁であり、傍目にも見苦しい感があります。

もっとも、野党陣営を率いるエンリケ・カプリレス氏は裕福な家庭の出身で、父方はマスメディア・グループの一族、母方はベネズエラの映画館チェーンの創業者でもあるということから民間メディアに大きな影響力を持っていますが、大企業に支持される彼の自由主義経済が国民の多くを占める貧困層にとっていかほどの妥当性を持つものかは定かではありません。

カプリレス氏が州知事を務め地盤としていたミランダ州の多くの市で市長を与党側に奪われたことで、その指導力に陰りが出たとも指摘されています。

時代錯誤的な社会主義路線と大富豪・大企業の自由主義経済の対立ということで、中間の選択肢がないことがベネズエラ国民にとっては不幸なことです。

世界で最も殺人発生率の高い国の一つ
モノ不足・インフレの経済と並んで、治安の悪さもベネズエラの抱える大きな問題です。
元ミス・ベネズエラの女優が路上で射殺された事件で、治安問題が大きくクローズアップされています。

****元ミス・ベネズエラ、パートナーと共に射殺される 路上強盗の疑い****
ベネズエラで6日、元ミス・ベネズエラで女優のモニカ・スピアさん(29)とそのパートナーの英国出身男性(39)、娘(5)の一家3人が銃撃を受け、スピアさんと男性は死亡、女児も負傷した。当局が翌7日発表し、同国には衝撃が走った。路上強盗とみられている。

検察当局が声明で明らかにしたところによると、スピアさんとトーマス・ヘンリー・ベリーさんらが乗っていた車が同国北西部の高速道路上で故障、その後殺害された。娘のマヤ・ベリー・スピアちゃんは右脚にけがをしたものの、手当てを受けて容体は安定しているという。

スピアさん一家は、故障した車がレッカー車に載った直後に5人の人物に襲われ、3人は故障車内に逃げ込んだが犯人らはその車に向かって発砲したとみられる。(中略)

スピアさんは2005年ミス・ユニバース大会でも準々決勝まで残り、その後はテレビドラマに出演。米国に在住していたが、休暇のためベネズエラに一時帰国中に今回の事件に巻き込まれた。また、英国生まれのベリーさんはベネズエラ市民権を取得していた。

昨年の大統領選で治安の悪化に歯止めをかけると公約していたニコラス・マドゥロ大統領は、「これは虐殺行為だ」と述べ、「この暴力はわれわれが抱えている病気だ」と嘆いた。
ベネズエラは世界で最も殺人発生率の高い国の一つとされ、昨年2013年の殺人発生率をNGOのベネズエラ暴力行為監視団」は住民10万人当たり79件、内務省はこれより低い39件と報告している。【1月8日 AFP】
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いずれにしても、接戦の地方選挙を乗り切ったことで、少なくとも大統領罷免の国民投票実施が可能となる2016年まではマドゥロ政権が続きそうです。
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