(仲間の公判を聴取した後に法廷外で集まるサウジアラビアの人権活動家 彼らのソーシャルメディアとオンライン上のフォーラムを使った活動を、サウジ政府は脅迫と投獄で阻止しようとしています。
なお、2013年11月、サウジアラビアは中国やキューバとともに国連人権理事会の理事国に当選しています。
写真は【2013年12月18日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】http://www.hrw.org/ja/news/2013/12/18-1)
【独自色か、国民政党としての行動か?】
ドイツのメルケル首相が率いる中道右派、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は昨年9月の連邦議会(下院)選挙で圧勝しましたが過半数にはわずかに届かず、二大政党の相手方である中道左派・社会民主党(SPD)とのいわゆる大連立政権を目指しました。
この大連立にあたり、社会民主党は大連立の是非を約47万人の党員に問う投票を行っています
“社民党は、第1次メルケル政権(2005~09年)で大連立政権に入った際、独自色を発揮できずにその後の総選挙で大敗。同盟との連立には警戒感も根強い。
このため、今回は政権入りが土壇場で「破談」となる可能性もあるが、その場合は再選挙で大敗するとの見方が大勢だ。
ガブリエル党首は「否決すれば、自分たちの都合ばかり考える党ということになる。それは国民政党の行動ではない」と党員に「大連立賛成」を呼びかけている。【2013年12月1日 毎日】”
結局、この投票は有効票の約76%で大連立が承認され、保革大連立の第3次メルケル政権が実現しています。
しかしながら、予想されたことではありますが、連立では独自色を発揮できないという懸念は早くも現実のものとなっています。
****ドイツ:武器輸出決定で社民党に批判 サウジに巡視艇など****
ドイツのメルケル政権が1月、人権弾圧が指摘されるサウジアラビアに対し巡視艇や国境警備艇など約100隻を輸出する方針を決定し、連立政権を支える中道左派の社会民主党が批判を浴びている。
社民党は昨年9月の連邦議会選(総選挙)までは「人権弾圧国家への武器輸出に歯止めをかける」(シュタインブリュック前財務相)方針だったが、昨年12月にメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟と「大連立」を組んで以来、結局は輸出を黙認しているからだ。
ドイツは現在、米露に次ぐ世界第3位の武器輸出大国で、紛争拡大に手を貸しているとの批判もある。
AP通信によると、サウジアラビアは2日、国家や社会を弱体化させるあらゆる行為をテロとして処罰可能な法律を導入。人権活動家は民主化要求も規制対象と批判している。
独誌シュピーゲルによると、ドイツ政府は1月、巡視艇などのサウジへの輸出を決定。総額14億ユーロ(約1900億円)の「商談」になる見通しで、第3次メルケル政権発足後、初の大規模な武器・防衛装備品の輸出となる。社民党のガブリエル副首相兼経済エネルギー相は「巡視艇は他国を脅かすものではない」と弁明している。
ドイツでは人権弾圧国家や紛争地への武器輸出が禁じられており、北朝鮮やシリアなど約20カ国が規制対象だ。サウジへの輸出は許可されているが、野党からは「サウジのような専制国家への武器輸出は、戦争につながりかねない。(総選挙で輸出反対を唱えた)ガブリエル氏の信用にかかわる問題だ」(左派党のキッピング党首)との批判が根強い。
2011年の中東民主化運動「アラブの春」の際も、サウジは民主化デモを鎮圧したバーレーン政府を支援したため、ドイツでは「民主化を弾圧する側への武器輸出は問題」との声が高まっていた。
ドイツ経済エネルギー省によると、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)加盟国のような同盟国以外の「第三国地域」向けに許可された12年の武器輸出総額は26億ユーロ(約3500億円)で、02年の3倍以上に増えている。【2月5日 毎日】
***************
独自の主張を貫けば保革大連立政権は成立せず、CDU・CSUを第1党に選んだ国民の意思にも反するということで、社民党としては苦しい選択です。
第3次メルケル政権の最大課題は脱原発に伴う”ゆがみ”の是正とされています。
ドイツでは再生可能エネルギーの急速な普及による電気代高騰や送電網整備の遅れが問題化。また、企業への電気代軽減策は、欧州連合(EU)が規定違反の疑いがあるとして近く調査を始めると伝えられています。
メルケル政権は電気代上昇抑制のため今春までに関連法制の抜本改革案をまとめる方針で、複数省庁にまたがっていた関連施策を社民党のガブリエル党首が担う経済・エネルギー相に集約することで対応の迅速化を図るとされています。【12月18日 産経】
この問題をめぐって、今後も社民党との“苦しい選択”は続くようにも思われます。
【“サウジのような専制国家”・・・それでもアメリカは・・・】
ところで、今回問題となったサウジアラビアですが、“人権”という基準に照らすとかなり問題の多い国家です。
女性の権利・社会進出が極めて制約されていることはしばしば取り上げてきましたが、それだけではありません。
****サウジ:国家を「弱体化」行為はテロ 対テロ法を施行****
サウジアラビアは2日、国家や社会を「弱体化させる」行為をテロ行為と見なし、処罰できる対テロ法を施行した。
人権活動家は、サウジ王家の体制維持が目的で、民主化要求にも法的規制がかけられると批判している。AP通信が報じた。
新法は「社会の安全や国家の安定を損なう」全ての犯罪行為をテロと規定し「国家の名声や立場に背く」行為も該当するとした。治安当局には、家宅捜索や電話通話などを使った活動に対する追跡など幅広い捜査権限を与えた。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「当局がすぐに平和的な反体制活動家に対して新法を利用するだろう」と警告した。【2月3日 毎日】
*******************
要するに、現体制を批判する活動は一切認めないということです。
宗教的不寛容さは言うまでもないところです。
****収監のブロガーに背教罪適用の勧告、死刑の恐れも サウジ****
サウジアラビアの裁判所判事は26日までに、イスラム教を侮辱したなどとして収監されている同国のブロガー、ライフ・バダウィ被告の事件で高等裁判所に対し背教の罪で裁くよう勧告した。
同被告の妻が明らかにした。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、サウジでは背教の罪は死刑判決につながる。
この事件では、同国ジッダの犯罪裁判所が今年7月、同被告が自ら運営していたサイト「フリー・サウジ・リベラルズ」やテレビ番組を通じイスラム教をおとしめたなどして有罪を宣告。昨年6月以降収監されている被告に対し禁錮7年とむち打ち600回の判決を言い渡していた。被告は控訴していた。
バダウィ被告は08年、同サイトを開設したがその直後に1日間拘束され、サイトについて聴取を受けていた。一部のイスラム教聖職者は同被告を不信仰者、背教者などと糾弾していた。
人権団体は法廷や旅行規制などを通じ活動家を締め付けていると非難。
アムネスティ・インターナショナルは、バダウィ被告の事件はサウジ国民が日常生活で直面する諸問題に関する公開討論を促す活動家に対する脅しの明白な事例と批判している。
バダウィ被告の妻と子ども3人は現在、レバノンに居住している。【2013年12月26日 CNN】
*****************
バダウィ氏に対する司法手続きでは、具体的にどの文言や活動ゆえに起訴されたのか、明らかにされていません。
バダウィ氏が自ら運営していたサイト「フリー・サウジ・リベラルズ」は「宗教と宗教界有力者について、オープンで非暴力な議論を行う土台を提供する自由なウェブサイト」(ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局局長代理ゴールドスタイン氏)とのことで、ウェブサイト上でバダウィ氏らは、2012年5月7日をサウジリベラル派の日と宣言し、「民衆の」宗教と「政治化された」宗教の違いについて開かれた議論を行うことに関心を集めようとした(ウェブサイト事務局長)とも。
*****サウジアラビア:ウェブ編集者に 死刑言渡しの危険 ****
・・・(2012年)12月17日の審理の際、ムハマド・アルマルスーム裁判官は、同氏の弁護士による法廷での弁護を妨げた上で、「神に悔い改めるよう」バダウィ氏に求めた。
更に、悔い改め、自由主義的な信念を放棄しない場合、死刑が適用される危険性があるとも伝えたという。
(中略)
サウジアラビア政府当局は、ウェブサイトの設立以降、バダウィ氏に嫌がらせを続けてきた。2008年3月、検察官は彼を尋問のために逮捕・拘留し、翌日に釈放。
2009年に政府は、彼が外国に旅行するのを差し止め、事業上の資産凍結を行い、収入源を奪った、と家族はヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。
同氏の父親や兄弟は、彼を遠ざけた上で彼を不信心者と言明、更に妻の家族も背教者であるとして強制離婚させるべく、ジッダ裁判所に訴訟を起こした。
妻と子どもはサウジアラビア国外で生活している。
「サウジアラビア政府は表現の自由に関する一般市民の権利をまもる義務がある。それなのに、宗教問題についてあえて議論しようとする個人を脅迫すべく、バダウィ氏になりふりかまわず攻撃してきた。政府当局は彼に対するすべての容疑を取り下げるべきだ」と前出のゴールドスタイン局長代理は述べる。【2012年12月22日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
******************
人権問題で国際的に批判されている国は多々ありますが、その基準で言えばサウジアラビアもかなり怪しいところです。
しかし、世界有数の産油国で、中東の地域大国であるサウジアラビアには、人権・民主主義の守護者アメリカも気を使っています。
****米大統領:3月サウジアラビア訪問へ 関係修復図る狙い****
カーニー米大統領報道官は3日、オバマ大統領が3月下旬に予定している欧州訪問の後、サウジアラビアを訪問すると発表した。
サウジ王室はイランの核問題などを巡るオバマ政権の対応に不満を募らせており、大統領の訪問によって関係修復を図る狙いとみられる。オバマ大統領のサウジ訪問は2009年6月以来。
報道官によると、大統領は3月24〜27日にオランダなど欧州4カ国を訪問後にサウジに入り、アブドラ国王と会談する。会談の狙いは「湾岸地域の安全、中東の平和、テロとの戦い、繁栄と安全に関する両国の共通利益の増進」とされており、両首脳はイランの核問題やシリア内戦への対応を巡って意見交換する見通し。
米・サウジ関係は、オバマ政権が11年2〜3月、バーレーン王室に民主化へ向けた改革を要求したことにサウジ王室が反発し、緊張が高まった。オバマ政権がサウジと敵対するイランと関係改善を進めていることや、米側がシリア反体制派への軍事支援に消極的なことなども、サウジの対米不信に拍車をかけている。
サウジが昨年10月、国連安保理の非常任理事国ポストを辞退した際には「サウジが安保理で米国と足並みをそろえることを拒否した」との見方が広まった。
さらに同月、サウジ情報機関のトップが欧州の外交関係者との会談で「対米関係を大きく変更する」と発言したことが明るみに出て、両国関係の悪化が指摘されていた。【2月4日 毎日】
*****************
現実世界はダブルスタンダードではありますが・・・・。