孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  中央電視台の売春報道を揶揄・批判するネット世論・ジャーナリズム

2014-02-13 22:34:51 | 中国

(中央電視台の東莞市における売春実態報道 【南華早報】http://www.nanzao.com/sc/china/21032/yang-shi-fang-dong-wan-se-qing-ye-dang-ju-xuan-feng-sao-huang-min-jian-bao-zheng-yi

売春の横行、警察との癒着を断罪したTV報道
日本と同様に、また、世界各国と同様に、中国においても売春は存在しますし、当局の摘発も行われます。
そうした意味では、下記記事はごく当たり前の日常的な出来事と言えます。

****売春集中取り締まり=920人拘束―中国広東省****
13日付の中国広東省各紙によると、同省の警察当局は10日から省内各地で開始した売春の集中取り締まりで12日までにサウナ、ナイトクラブなど延べ1万8000カ所以上を捜索し、920人を拘束した。

また、売春が横行していることで有名な広東省東莞市の共産党規律検査委員会は12日、町村の党組織・警察責任者に対して緊急通知を出し、売春摘発で手抜かりがあった場合、一律に解任すると警告。

さらに、あらゆる機関の党員幹部について、売春を行う施設の経営に関与したり、保護したりした者も一律に解任すると通達した。【2月13日 時事】 
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今回の広東省における売春集中摘発は、下記レポートで紹介されている、国営テレビ局の中央電視台による広東省東莞市における売春実態報道に起因するものと思われます。

中央電視台による売春実態報道を受けて、広東省の胡春華党委員会書記が「徹底的な取り締まり」を言明しています。

****東莞、東莞  (ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り)【前半部****
中国のお騒がせ国有テレビ局、中央電視台がまた「大地震」を引き起こした。ネットがえらい騒ぎになっている。

中央電視台といえば、昨年の春のアップルのメンテナンス契約問題、夏には著名微博ユーザーの「売春」逮捕と「自供」、秋のスターバックス「価格差別」叩きをそれぞれぶちあげ、こうやって書きだすとほぼ季節の風物詩化していることに気づく。

そして今度は春節明けに、またやってくれたという感じだ。騒ぎのきっかけは今月9日、日曜日の午前に流れたニュースだった。

華南の広東省にある都市、東莞市でさまざまなホテルや風俗店の様子をカメラで隠し撮りしたものが次から次へと流れ、「今日は普通なら陽の光を見ることが出来ない非合法の行為に焦点を当てましょう。それは売春、買春です」とやったのである。もちろん、中国では買春も売春も違法である。

10年ほど前に日本から社員旅行で東莞の隣町、珠海を訪れた日本人観光客グループが買春で摘発されて拘束され、大騒ぎになった事件を覚えている方もいるかもしれない。

当時、中国を知る日本人の中から「違法だが、中国では売買春はそんなに珍しいものではないはずなのに...」という声も出た。だが、違法であることは間違いなく、そんな中国でも取り締まりは行われているのも事実だった。今回の報道も一応、そんな「違法性」をタテに斬りこんでいた。

カメラには、東莞市内のあちこちのホテルやカラオケ、サウナの入り口、そしてその中で顧客たちの前に女性が並んで選抜ショーが行われている様子、そして下見した部屋や料金体系を説明する責任者の姿まで収められていた。

中には部屋に入って脇のカーテンを開けるとそこは飾り窓になっていて、女性たちが半裸で踊る様子を眺めることができるという仕掛けも紹介された。さらに記者はそのうちの一か所で出くわした男性たちのグループが高級車アウディに乗って帰っていくのを尾行。彼らの勤務先とみられる場所の看板を撮影、車もその会社が所有するものであることを突き止めて実名で公表。

一方で、東莞の警察に電話していくつかのホテルで売買春が行われていることを通報したが、「チェックに行く」と言って電話は切れたものの、結局いつまで待ってもパトカーどころか警官一人も現れなかったと報告していた。

こうなると、すわ、これは町の警察ぐるみの売買春ではないか、どんな利益が絡んでいるんだ?と誰もが思うだろう。
番組は明らかに、視聴者にそういう憤りを植え付け、「違法なる売買春産業の厳しい取り締まり」が行われることを期待するように作られていた。・・・・・【2月13日 Newsweek】
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【「人の目を引きつけるという面では100点だったが、報道価値からすればマイナス、失格だ」】
ここまでの話であれば、売春が盛んな広東省東莞市の実態をTV報道が大々的に取り上げたという“ごく当たり前の日常的な出来事”の一面です。

当然ながら、“東莞の風俗取り締まりに対して、風俗産業がずっと東莞に「性の都」という汚名をかぶせ続けて起きていること、また多くの若き女性たちが「苦海に身を投」じさせられていることから、産業取り締まりは違法行為への打撃、そして社会ムードを清めるためには前向きな意味があり、風俗産業の氾濫を許すことは東莞を汚すだけだと、風俗産業取り締まりを支持する声もある。”【2月12日 万華鏡日誌】とのことです。

面白いのは、この中央電視台のTV報道に対するネット世論、中国ジャーナリスト等の批判的な反応です。
そのあたりが、上記【ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り】の後半部で紹介されています。

****東莞、東莞  (ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り)【後半部****
・・・・だが、番組放送直後からインターネットに流れ始めた人々の反応は、その期待とは180度違った。

人々は口々に番組を製作した中央電視台を罵り、挙句の果てに「東莞がんばれ! 今夜、俺たちはみんな『東莞人』だ!」「泣くんじゃない、東莞」「東莞のために祈りを捧げる」などという、かつての地震の被災地に寄せたエールをもじった言葉まで飛び出した。(中略)

だが、この番組に対する批判はそんなネットユーザーによるおちゃらけや揶揄だけではなく、学者やその他ジャーナリストからも激しい声が上がっている。
特に中央電視台という国の権威性をまとった特殊なメディアが振るった権力に対して、ジャーナリストはことの外厳しく叱責している。

そのうち、コラムニストの秦子嘉さんが書いた記事はあちこちで大きな反響を呼び、多くの人たちにシェアされた。そこにはこう書かれている。「中央電視台の記者は中央電視台の威を借り、メディアのいわゆる監督権利を借りて、この業界の潜入報道を行ったことは、それ自体がすでに『ゴマを見て、スイカを見ない』というミスを犯している。

中国にはこんな話よりもっと多くの、もっと重要なニュースがあるはずなのに、これまで一度も中央電視台の記者が取り組んだ報道は見ていない。彼らは楼堂館所に潜入した? できない。彼らは地下煉瓦工場に潜入した? できない。彼らは血汗工場に潜入した? できない。本当に怖くて出来ない時もあるんだろうが、一方でそんな苦労をするのは嫌だと思っているのだろう」

ここで秦さんが触れている「楼堂館所」というのは、国家機関や政府、あるいは軍隊が作ったクラブ的な内部組織のこと。官吏や軍人など特権的な世界に生きる人たちがそこで本当に何をしているのか、本当に報道されているものはほとんどない。

「地下煉瓦工場」とは各地から誘拐されたり、あるいは人身売買で集めてきた人たちを労働力にレンガ造りをする工場。数年前に摘発された例では足に鎖を付けられ、かつての奴隷同然のように働かされていた人たちが救出された。

中には子供や、身体や知能に障害を持っているために売られてきた人もおり、NGOが一部を救出したもののその後再び工場主と見られる人たちに誘拐され、また行方不明になった人もいる。

「血汗工場」とは低条件で労働者を働かせている工場のこと。これらはすべて特殊な環境に守られつつ、違法な行為が行われている。このような人々の根本的な生活に関わる、「もっと多くの、もっと重要なニュースがあるはず」という指摘は、アップルやスターバックス叩きの時にもあった。

だが、それらは「消費者権益」、そして今回は明らかな「違法性」で、中央電視台は頬かむりをしている。さらに秦さんはこう続けている。「そして彼らはサウナやホテルに潜入した。そちらのほうが気楽だし、肩も凝らない。さらには公費で消費者を装って大金持ちのふりをし、一列に並んだ若い女性たちを指差しながら品評し、そしてズボンを上げてから聖人君子ぶった顔で警察に通報する。警察に通報するのだって結局は匿名電話である。

だが、一方の彼女たちは警察に身分証を調べられ、家に通報され、さらには大衆の目の前にさらされる危険に直面する。そして大衆にとっては、それはもうとっくに知っている事情でしかない。
つまるところ、サウナに潜入してもなんのニュース価値はないのである」

この報道が大批判を引き起こしたのは、この女性たちが置かれた境遇に番組では一切触れていないことだ。

報道は彼女たちをただの「違法な売春婦」としてしか扱っておらず、女性たちがなぜそこに立っているのかについては一言も触れず、また彼女たちと言葉を交わしている様子も流れていない。
彼女たちは番組が告発するための、ただの「道具」なのである。

ジャーナリスト出身のコラムニストの鍾二毛氏は、「こうした報道は『なぜなのか』『どうすべきか』に立脚すべきであり、『何が』『いかに』を絶対に立ち位置にしてはいけないはず」と述べる。
「中央電視台の記者はもっと取材して、『なぜなのか』『どうすべきか』を探り、さらに国際的な水準から言えばさらに高い場所に立って、その立ち位置を『人』に置き、技師たち(女性たちのこと)、買春者、法執行者の話にすべきだった。

人の困窮、制度の困窮、都市発展の困窮、それを描けばピュリッツァー賞並みのテーマなのに、中央電視台の報道は残念なことに、人の目を引きつけるという面では100点だったが、報道価値からすればマイナス、失格だ」(後略)【2月13日 Newsweek】
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報道に批判的なネット世論は社会の対立、分裂を表す
「中国にはこんな話よりもっと多くの、もっと重要なニュースがあるはずなのに、これまで一度も中央電視台の記者が取り組んだ報道は見ていない。彼らは楼堂館所に潜入した? できない。彼らは地下煉瓦工場に潜入した? できない。彼らは血汗工場に潜入した? できない。本当に怖くて出来ない時もあるんだろうが、一方でそんな苦労をするのは嫌だと思っているのだろう」というコラムニストの秦子嘉さんの指摘はもっともです。

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・・・・『中国青年報』の評論家、曹林氏はその個人微博で、中央電視台の今回の東莞潜入報道がこれほど大きなネットユーザーの不満を引き起こしたのは、社会の対立、分裂を表すものだと指摘。

中央電視台が正義を振り回して風俗取り締まりを叫ぶ光景は体制の象徴とみなされ、地面にうずくまって頭を抱え顔を隠している若い売春婦たちを抑圧され、いじめられている底辺だと想像する。

このような対立関係に中央電視台の風俗摘発に対する世論の基礎がある。
加えて中央電視台が持つ象徴的な地位に対する日頃からの不満、そして官僚社会の乱れを漏れ聞いている人々の恨みがここで爆発しているのだと分析している。(後略)【2月12日 万華鏡日誌】
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中国の世論というと、感情的に反日に流れた過激な論調がよく紹介されますが、中央電視台の国の権威と薄っぺらな正義感を振りかざした安っぽい報道を揶揄し、批判する共感できるものも存在することを改めて感じます。

一方で、日本においては、感情的で過激な論調がネットやメディアに溢れるようになっているのでは・・・とも懸念されます。
コメント (1)
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