孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  貧困と格差に関するいくつかの話題

2014-02-28 23:40:33 | 中国

(上海プチブルの生活)


(上海で働く地方出身者の生活 【2007年1月16日 日経ビジネス】)

【「国民所得倍増計画」で、2020年に「小康社会」実現
中国では赤ちゃんの「売買」の話はよく耳にしますが、下記の記事もそんなひとつです。

****ネットで赤ちゃん販売=1000人超を拘束―中国****
中国公安省は28日、インターネット上で赤ちゃんを売買していたとして、四つの販売サイトを摘発し、容疑者1094人を拘束したと発表した。また連れ去られた382人の乳児らを救出した。全国27地域の公安機関が捜査に乗り出すなど、専門サイトを通じた赤ちゃん売買は全国規模に拡大しており、その背景には貧困などの問題が存在している。

28日付の中国紙・京華時報によると、乳児の「買い手」と「売り手」双方がやりとりする「中国孤児網」などのサイトがあり、ある男性はこのサイトを通じて貧困家庭から養子を得て、3万6000元(約60万円)の補償金を自主的に提供したという。【2月28日 時事】 
*****************

いつものことながら、“容疑者1094人”“連れ去られた382人の乳児”という数字の大きさに驚かされます。
摘発されるのは氷山の一角にすぎないことを考えると、恐ろしい数字です。

赤ちゃんに関連した記事には、中国版「赤ちゃんポスト」に関する話題もありました。

****中国版「赤ちゃんポスト」には障害児や持病のある子供ばかり****
親が育てられない子供を匿名で受け入れる中国版「赤ちゃんポスト」に入れられた新生児や幼児のうち、99%が何らかの病気や障害を持っているとの統計が今月、報じられた。目前の医療費や将来の養育費などの負担を悲観した保護者が育児を放棄したものとみられる。

2011年に始まった中国版赤ちゃんポストの設置は急速に広まりつつあり、児童福祉や社会保障の在り方をめぐり論争を呼んでいる。(後略)【2月22日 産経】
******************

こうした問題には、中国でこれまでとられてきた「一人っ子政策」がもたらす社会的ゆがみなど多くの要素がかかわっていると思われますが、背景にある大きな要因はやはり貧困でしょう。

社会主義というイデオロギーの支えを失った感がある中国共産党政権にとっては、経済的豊かさの実現が政権維持のための生命線になります。

中国政府は第18回党大会で、2020年の国内総生産(GDP)総額を2010年の2倍に、同時期の国民一人当たりの収入を2010年から倍増させる目標を掲げています。

****************
これは、2020年に「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)の実現という国家目標を完成させる経済的な基礎整備とも言える。
実際、中国国家統計局は、「小康社会」の姿を、経済発展、社会発展、生活質、民主法制、文化教育、資源環境という6つの軸から23の指標によって定量的に評価している。これら指標は、政治、経済、社会、文化、自然など多方面に及んでいるが、定量化が難しいため、第18回党大会の「活動報告」では、GDPと1人当たりの収入だけが数字目標として掲げられている。【2012年11月22日 富士通総研 http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/201211/2012-11-4.html 】
******************

日本では高度成長期の1960年代、池田内閣が「国民所得倍増計画」を打ち出しましたが、これは国民1人当たりの収入ではなく、マクロ経済指標としての国民総生産BGNPでした。
中国政府の掲げた国民一人当たりの収入を倍増させるという計画は、よりハードルの高い目標となります。

*****国民所得倍増計画」の成否、専門家の意見分かれる****
中国政府が第18回党大会で2020年の国内総生産(GDP)総額を2010年の2倍に、同時期の国民一人当たりの収入を2010年から倍増させる目標を掲げた。

GDPを倍増させることが実現可能だが、「国民所得倍増計画」について、専門家の間で意見が分かれている。

GDPの成長率が国民所得の増加率を上回ったという過去のデータからみると、2020年までの所得倍増が不可能だとの見方が浮上。政府が2020年までの成長率を7-8%に維持するとしているため、所得倍増させるには2020年までの成長率は平均で8%以上が必要だと試算されている。

一方、アモイ大学・経済学院の李文溥副院長は、投資や輸出拡大というこれまでの成長パターンについて、労働収入の第1次分配で公平性を欠けていたと指摘。これが国民所得の増加率を抑えていたと批判した。
富の分配や成長パターンの改革、健全な社会保障システムの構築などを着実に実行すれば、国民所得の増加率はGDP成長率を上回ることが可能になるとの見方を示した。
2012年のGDP成長率は7.6%だったのに対し、都市部と農村部の所得増加率がそれぞれ9.6%、10.7%に上ったというデータが裏付けになると強調した。

なお、11月に開催する予定の中央委員会第3回全体会議(三中全会)では、構造改革や社会保障システムの構築、富の分配など国民重視の改革案が発表されると期待されている。こうした改革案の着実実施が国民所得倍増計画の成否のカギを握っているといわれている。【2013年10月25日 kabutan】
******************

世界経済全体の減速、中国経済の「影の銀行」問題など、不確定要素が多々ありますので、目標が実現されるかどうかはわかりません。

ただ、中国経済がなんだかんだ言われつつも、これまで急速に拡大しているのも事実です。

****中国:全国民の平均年収30万円上回る****
中国国家統計局は24日、農村部と都市部の住民を合わせた全国民の年間平均可処分所得は前年比10.9%増の1万8311元(約30万7000円)だったと発表した。全国民を対象にした平均可処分所得の発表は初めて。
同統計局は、習近平指導部が進める都市化政策に伴い調査方法を改革したとした。

農村住民の年間平均純収入は前年比12.4%増の8896元で、都市住民の年間平均可処分所得は同9.7%増の2万6955元だった。【2月24日 毎日】
*****************

中国の経済統計の信憑性に関する疑惑はいろいろありますし、“調査方法を改革”の内容もわかりませんが、それはさておき、13年は10.9%増と、高い伸び率を達成したようです。
ここ10年右肩下がりの日本からすれば、前年比二ケタ増というのは、うらやましい限りです。

ただし、その絶対水準は“平均年収30万”と、まだまだ低い所にあるというのも現実です。
冒頭のような赤ちゃん売買・遺棄の問題が生じるのも、こうした厳しい現実が背景となっています。

なお、中国の“年間平均可処分所得”というのはよくわかりませんが、日本では、厚生労働省の2010年の調査によると、世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った等価可処分所得の中央値(平均値ではない)は250万円となっています。

中国で頻発する暴動などの社会不安の原因ともなる格差
絶対的な貧困の問題に加えて更に問題なのは、中国経済を取り上げる際に必ず指摘される「格差」「不平等」の問題です。
上記記事の所得でみても、農村部は都市部の約3分の1の水準にとどまっています。

いわゆる“富裕層”と一般国民の格差も深刻です。

****中国で貧富の差拡大、ネット関連報道は次々削除****
23日付の中国紙・南方都市報によると、西南財経大学(四川省成都)の研究チームは、中国の全世帯の10%を占める富裕層が、全国の総資産の63・9%を所有しているとする「格差」の現状を伝える調査報告書を作成した。

中国の富裕層のうち、上位1%の平均年収は115・2万元(約1930万円)に達する。これに対し、2012年の都市労働者の年間平均賃金は4万7000元(約80万円)にすぎず、1に近づくほど貧富の格差が大きいという「ジニ係数」では、13年は0・717だったと試算した。国家統計局が1月に発表した0・473という数値とも大幅な開きがあった。

関連の報道は、インターネット上で次々と削除され、当局が問題視している可能性がある。米国では2012年、上位10%の富裕層が総所得の50・4%を占めたとされるが、中国で頻発する暴動などの社会不安の原因ともなる格差は、これを上回る規模となっている。【2月24日 読売】
*******************

やはり「格差」が問題となってきている日本の場合、厚生労働省発表の「2011年 所得再分配調査」によれば、当初所得(社会保険料などを支払う前の所得)の「ジニ係数」は前回調査(2008年)より0.0218ポイント悪化して0.5536、社会保険料などを支払った後、年金や医療費などの社会保障給付を加えた再分配所得のジニ係数は、前回比0.0033ポイント増の0.3791とほぼ横ばいとなっています。

当初所得(社会保険料などを支払う前の所得)の「ジニ係数」が悪化しているのは、社会全体の高齢化に伴い所得の少ない高齢者が増加していることが一番の原因と考えられており、一概に“貧富の差が拡大”という訳でもないようです。
ただし、非正規雇用などの低賃金層増加の問題もあるのでは・・・とも考えますが、その話は今回はパス。

で、中国の「ジニ係数」ですが、西南財経大学研究チームの“0.717”と国家統計局の“0.473”では差がありすぎます。

中国政府は従来「ジニ係数」を公表していませんでしたが、上記の国家統計局が1月に発表したところでは、“2003年のジニ係数は0.479だったが、2008年に0.491とピークに達し、それ以降徐々に低下し、2012年のジニ係数は0.473だった”とされています。
ここ数年は“改善されつつある”ということでしょうか。

一方、西南財経大学研究チームは2010年のジニ係数は0.61としていますので、13年の0.717は大きく悪化したものになっています。【2013年2月8日 富士通総研 http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/china-research/topics/2013/no-164.html より】

この差は、“統計局の所得統計は地域別の所得統計にサンプリング調査の結果を加味したものを使っているのに対して、西南財経大学の研究チームは独自のサンプリング調査で得られた家計所得の推計結果が使われている”という使用データの違いに由来しているようです。【同上】

どちらが実態に近いのか・・・何とも言い難いところですが、海外旅行で目にする“富裕層”のリッチさと、“農村住民の年間平均純収入は8896元(約15万円)”という数字を比べると、相当に大きな「ジニ係数」となっているのでは・・・と推察されます。
そうした格差の存在が“中国で頻発する暴動などの社会不安の原因”となっているのではとも思われます。

*****社会に報復」バス放火=乗客6人死亡、35人負傷―中国****
中国南部・貴州省貴陽市雲岩区で27日昼、約50人が乗った路線バスが炎上し、4カ月の男児を含む乗客の男女6人が死亡、35人がけがをした。新華社電によると、警察当局は28日、バスに放火したとして容疑者を拘束した。警察当局は「社会への報復のため、バス内で容器に入ったガソリンに火を付けた」としている。

火は瞬く間に全体に燃え広がり、窓からは炎が噴出、多くの乗客が逃げ遅れた。乗客の一人は「混乱の中、多くの人がドア付近で倒れ、これらの人の上をはって出てきた」と話した。【2月28日 時事】 

******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする