孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  22日夜の“砲撃”で混乱 軍は強制排除への圧力を強める

2010-04-23 22:11:12 | 国際情勢

(砲撃に使用されたM79 グレネードランチャー(写真はベトナム戦争のもの) “flickr”より By joefd6993
http://www.flickr.com/photos/viet-nam/2255925614/
大口径の散弾銃のような外観で、40×46mmの榴弾、対人榴弾の他、暴動鎮圧用に非致死性の催涙弾やスポンジ弾も使用でき、軍だけでなく警察でも使用されているそうです。【ウィキペディアより】)

【ルンピニ公園からM79砲撃】
治安部隊とタクシン元首相派「反独裁民主統一戦線(UDD)」がにらみ合いを続けるバンコク中心部は、元首相派の「赤シャツ」と反タクシン派の「黄色シャツ」のどちらでもない「多色シャツ」と呼ばれる新たな市民集団のUDDへの批判行動も加わって緊張を高めていましたが、22日夜には市民へ砲弾が計5回撃ち込まれるという予想外の混乱状態となっています。

現場はUDDの占拠地域の南端に当たります。爆発当時、交差点を挟んでUDDに反対する一般市民数百人とUDDがにらみ合っていました。また、付近の高架鉄道の駅構内には、UDDがシーロム通りに突入するのを防ぐため配置された兵士多数が待機中でした。

****バンコク情勢が再び緊迫化、連続5回の爆発で3人死亡*****
タイの首都バンコクのビジネス街で22日夜、連続して5回の爆発があり、少なくとも3人が死亡、75人が負傷した。治安当局とタクシン元首相派のにらみ合いが続く中、再び緊張感が高まっている。
現場は、銀行やオフィスビル、ホテルなどが集まるビジネス街で、治安部隊が警備に当たっていた。病院関係者によると、負傷者のうち4人は重傷で、外国人2人が含まれている。

爆発は、M79と呼ばれる砲弾が撃ち込まれたことによるもので、現場には政府支持派が集結していた。M79は、犠牲者25人を出した今月10日の衝突で治安部隊に向けて発射されたのと同じタイプのもの。爆発の1回は、同国食品大手チャルーン・ポカパン・フーズの本社近くで起きた。
タクシン元首相派「反独裁民主統一戦線(UDD)」が交差点にバリケードを築いていた現場周辺には19日以降、ライフル銃などで武装した治安部隊が配備されていた。
政府当局は、M79はUDDが集結していたエリアの内側から発射されたものと指摘。一方、UDD側は関与を否定している。
テレビの映像では、現場の歩道に血が飛び散り、住民らが負傷者を救急車に搬送する様子が映し出された。
爆発の後、政府支持派は再び集結し、反政府派に向けてガラスびんや石を投げつけて攻撃。治安部隊が介入したが、反政府派も投石などで応酬した。
現地メディアは、これまでに5人の身柄が拘束されたと伝えている。【4月23日 ロイター】
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治安当局によると、爆発は5回発生し、最初は帰宅途中の通勤客などで混雑する都市高架鉄道サラデーン駅構内に3発撃ち込まれました。その約1時間後、UDDと対立する政府支持派グループらが集まるシーロム交差点付近に、2発着弾しています。

ステープ副首相は同夜、テレビを通じ、タクシン元首相派UDDが占拠するルンピニ公園内にあるラマ6世像付近から、何者かが爆発物を発射したとの見方を示しています。
UDDは関与を否定しており、「政府、軍がUDDの強制排除のきっかけを作るために仕掛けた攻撃」と主張しています。バンコクでは3月以降、政府や軍施設などにM79などの砲弾が撃ち込まれる事件が相次いでいますが、UDDはこれへの関与も否定しています。

サラデーン駅もシーロム交差点もルンピニ公園の南西端にあたる地点です。
ルンピニ公園は有名なナイトバザールもあるところで、日本からの観光客も多い場所です。
私もナイトバザール見物などで、バンコクに滞在するたびに出かけています。この付近の安宿に泊まったこともあります。そうしたことがあるだけに、現在の混乱に信じられない思いもあります。

【「多色シャツ」】
この“砲撃”の前日21日には、タクシン元首相派UDDと、これを批判する市民グループ「多色シャツ」の間で20人あまりのけが人も出る衝突も起きていました。

****元首相派と多色派一時衝突 バンコク、20人負傷*****
タイの首都バンコク中心部にある金融街シーロム地区で21日午後、反政府集会を続けるタクシン元首相派と、元首相派を批判する市民グループが道路をはさんでにらみ合った。深夜には興奮した一部の人々が石やガラス瓶などを投げ合い、20人余りがけがをした。(中略)
「多色シャツ」は夜9時過ぎいったん解散したが、居残った数十人が午後11時半ごろ、石やビール瓶などを投げ始めた。これに対し、元首相派側から火炎瓶が投げ込まれ、現場は騒然とした。双方がパチンコなどを使って投石を続けたため、地元メディアによると、取材中のオーストラリア人ジャーナリストを含む約20人がけがをした。「多色シャツ」は23日にバンコク市内で大規模集会を予定しており、元首相派との衝突などが新たな懸念として浮上している。【4月22日 朝日】
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「多色シャツ」は、インターネットで声を掛け合って集まった人が多く、タイ政治状況の正常化を願う草の根運動の芽生え、と期待する声もあるようです。
商業地区の占拠など違法行為をやめない元首相派と、秩序回復ができない政府の双方にしびれを切らした人たちが、ネットの交流サービス「フェースブック」などで意見を交わすうちに路上に集まりだしたのが始まりで、赤と黄のどちらにもくみしないことで存在感を示し出しているとも。
一方で、タクシン派政権時代に黄色シャツを着て、空港占拠などの過激な行動を繰り返した「民主主義市民連合」(PAD)のメンバーも交じり、多数の死傷者が出た今月10日の騒乱後に政府を支持する集会を開いたことなどから、タクシン元首相派は「PAD別動隊」と批判しています。【4月20日 朝日より】
“草の根運動”か“PAD別動隊”かはわかりませんが、21日の衝突などを見ると、相当に激しやすいグループではあるようです。

【「時間切れが間近だ。これは脅しではない」】
こうした、緊張の高まりを受けて、“砲撃”当日の午前、軍報道官は「時間切れ間近」との警告をタクシン元首相派UDDに出していました。

****タイ:タクシン派に退去要求 軍報道官、「時間切れ間近」*****
タイ政府治安回復本部の軍報道官は22日午前の記者会見で、バンコク都心部繁華街を占拠するタクシン元首相派組織「反独裁民主戦線」(UDD)に、直ちに占拠を解いて退去するよう求めた。軍が近く再度のUDDの強制排除に踏み切ることを警告したとみられる。
報道官は「国民のほとんどが、UDDの占拠に反対している」と強調。「時間切れが間近だ。これは脅しではない」と述べた上で、「参加者の生命を危険にさらしたくない。衝突が起きれば流れ弾が当たる恐れがある」と警告し、参加者に退去を要求した。

死者25人、負傷者800人以上を出した今月10日の軍との衝突後も、UDDは政府が国会下院即時解散に応じるまで都心部占拠を続ける構えを崩さず、対立は膠着(こうちゃく)状態に陥っている。再度の実力行使に消極的な陸軍トップのアヌポン司令官に対し、アピシット首相は強い姿勢で占拠地域奪還を命じ、再び死傷者が出る恐れが強い都心部での実力行使に、軍がいつ、どのような手段で乗り出すかが最大の焦点となっている。
政府によると21日夕のUDDの占拠参加者は約1万4000人。UDDは都心部の幹線道路を大型トラックなどで封鎖してバリケードを設置。竹やりで武装した自警団が防御を固めている。(後略)【4月22日 毎日】
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軍報道官の強硬姿勢の一方で、軍トップのアヌポン司令官は同じ22日、AFP通信に対し、死傷者が出る事態は好ましくないと述べ、軍内部にある亀裂を示しています。
アヌポン司令官は12日には「今必要なのは下院の解散だ。どれだけ時間がかかるかは交渉の結果による」と、早期の選挙実施を提言していました。

軍の強制排除実行の意向を受けて、21日、UDD側は、軍との衝突による流血を回避するため、第三者を通じて対話する用意があると表明していました。

【銃撃・砲撃は誰が?】
こうした緊張状態で起きた22日夜の“砲撃”でしたが、誰が砲撃したかについては、“タクシン派内部の過激派であるカディア陸軍少将が率いるグループの犯行との見方もあるが、地元記者は「UDD、カディア派、軍にも事件を起こす動機がある」と指摘する”【4月23日 毎日】とも。

カティア陸軍少将については、10日の衝突の際の銃撃でも名前が挙がっていました。
“アピシット首相は、(10日の)死傷者はUDDに紛れ込んだ「テロリスト」の発砲によるとの立場を繰り返している。再度の軍の実力行使は「テロリスト排除」が大義名分となり、軍は即時の銃撃も辞さない姿勢だ。
だが政府は「テロリスト」が誰かを明らかにしない。タクシン派の過激派、カティア陸軍少将が抱える民兵集団との見方が強いが、政府は少将の拘束や民兵集団の壊滅に乗り出す動きを見せない”【4月21日 毎日】

UDDにしても、軍にしても、正規の組織的判断で“砲撃”を行ったとは考えにくいところで、“軍とUDDの衝突の「発火点」になりかねない同通りに撃ち込まれた砲弾は、緊張を激化させ、あわよくば軍とUDDの衝突を引き起こしたいとの狙いがあったことは明らかだ”【4月23日 毎日】といったところです。

10日の強制排除の失敗を受けて“死に体”とも言われたアピシット首相は12日、UDDに提案した「年内下院解散」のスケジュールを、「6カ月以内の解散、年内総選挙実施」に繰り上げる検討に入ったと伝えられていました。また、軍も再度の強制排除をする気はないとも報じられていました。
しかし、ここにきての緊張の高まり、軍の強制排除への動き、そして“砲撃”の混乱という事態に、今後の展開は全く見えなくなっています。

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