孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  中国との経済協力枠組み協定(ECFA)で国内論議高まる

2010-04-26 21:21:53 | 国際情勢

(中国が福建省に新たに配備した地対空ミサイルの射程 “flickr”より By BoydJones
http://www.flickr.com/photos/boydjones/4442650258/)

【「ECFAを結べば輸出・投資も、雇用も増える」】
中国との経済関係強化で台湾経済の浮揚をはかりたい馬英九政権ですが、中台間の自由貿易協定(FTA)に相当する経済協力枠組み協定(ECFA)に関して、台湾内で議論が高まっています。
なお、自由貿易協定(FTA)とは、物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁を取り除く自由貿易地域の結成を目的とした国際協定です。

****台湾与野党トップTVで激論 対中国貿易政策で真っ二つ*****
中台経済協力枠組み協定(ECFA)締結の是非をめぐり、台湾の与野党党首が25日、台北市内のテレビ局で2時間半にわたり激論を交わし、全台湾に生中継された。対中融和路線で協定を推進する馬英九(マー・インチウ)総統(国民党主席)と、中国を警戒する野党・民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)主席との考え方の隔たりが鮮明になった。

「貿易は台湾の命だ」とする馬総統は、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定(FTA)が今年本格発効したため、台湾にとって最大の輸出先である中国市場で不利になった点を強調。「ECFAを結べば輸出が増え、台湾への投資も増え、雇用も増える」と利点を訴えた。中国に根を張る多くの台湾企業の利益を守ることも念頭に置いている。
これに対し蔡主席は、中国市場で台湾が競合するのはASEANではなく日本と韓国であると反論。「中国を中心とする経済圏ができることを日韓とも恐れている」とし、「民進党は世界各国とともに中国に向き合うが、国民党は中国を通して世界に向き合おうとしている」と批判を加え、ECFAが唯一の選択肢ではないと主張した。
この点について蔡主席は討論終了後の記者会見で、米国などが提唱するアジア太平洋地域全体の自由貿易圏づくりに関与するとともに、他国とも個別課題で交渉を進める代替案を示した。

中国に市場を開放することで受ける負の影響についても両者の評価は分かれた。馬総統は、競争力の弱い産業は開放を遅らせるなど対応策をとっていることを説明。蔡主席は「ECFAは台湾にとって最大の構造変化となるだろう」と危機感を示した。【4月26日 朝日】
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こうした総統と野党主席の政策討論会は台湾で初めてだそうです。
“馬総統は中国との連携が国際経済で台湾の存在感を高める突破口と考えるのに対し、蔡主席は過度な中国傾斜に警鐘を鳴らしてECFAに反対した。馬総統が「26万人の雇用が創出される」など経済効果を強調すると、蔡主席は「影響を受ける弱小産業に調整の時間が必要だ。猛進すべきでない」と訴えた。”【4月25日 毎日】とも。

なお、ASEAN 先行加盟6カ国(タイ、インドネシア、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール)と中国の間で貿易される品目の9割について関税を撤廃する ASEAN・中国-FTA が2010年1月1日から本格開始されています。

すでに今年1月には北京でECFA締結に向けた第1回協議が、3月31日には台湾北部の桃園県で第2回協議が中台間で行われています。
馬英九・国民党政権は、中国とのECFA締結をテコに、日米欧やアジア各国とのFTA交渉を視野に入れているとも見られています。

【「ECFAを締結すれば台湾は主権を喪失し、中国に併呑される恐れがある」】
一方、野党・民進党など、ECFAに反対する勢力は、住民投票に向けた取り組みを始めています。
****台湾本土派、“中台版”自由貿易協定に反対 住民投票へ署名運動*****
台湾団結連盟(黄昆輝主席)など50余りの台湾本土派団体は23日記者会見し、馬英九・中国国民党政権が締結を急いでいる中台の「経済協力枠組み協定(ECFA)」の可否を問う住民投票実施に向け、100万人の署名獲得運動を始めることを発表した。会見には、李登輝元総統、呂秀蓮前副総統ら本土派の有力者、長老が勢ぞろいし、李元総統は「ECFAを締結すれば台湾は主権を喪失し、中国に併呑(へいどん)される恐れがある」と、馬政権を厳しく批判した。

馬英九政権は“中台版自由貿易協定”とも称すべきECFAの6月中の締結をめざして中国との交渉を進めている。しかし、ECFAは「中国は一つ」との原則を前提としており、台湾の本土派・独立派は「ECFAは中台政治統一への道を開くと同時に、産業空洞化を加速する」などと反対運動を強めている。
台湾団結連盟は3月から署名運動を始め、現時点で約11万人の署名を集めている。住民投票実施には「前回総統選有権者数の0・5%(約8万7千人)の署名」を集めて住民投票審議委員会の審査を受ける必要があるが、第一関門の早期突破に成功した形だ。
23日の記者会見には、野党第一党の民進党から蘇嘉全秘書長、台湾独立建国連盟の黄昭堂主席、辜寛敏前総統府資政らの有力者、長老が多数参加。住民投票実現に向け気勢を上げた。【4月24日 産経】
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馬政権は昨年8月の大水害対応で住民の支持を急低下させて以降、支持率低下に苦しんでいます。
政権の命運を賭して進める中国との経済交流拡大も世論の十分な支持を得ているとは言い難く、年末に台北や高雄など5都市で実施される市長選での苦戦も予想されています。
“馬総統への不満の理由では、「執政に迫力がない」(25%)、「景気を回復できていない」(24%)との回答が目立った。「総統選を今行ったら誰に投票するか」との質問では、馬総統は29%にとどまった。これに対し、台北市長選への出馬を表明した野党・民進党の蘇貞昌元行政院長(首相)が38%でリードし、有権者の支持が民進党に傾きつつある実態も浮き彫りになった。”【3月19日 時事】

【米軍が台湾を守る力にも制限が加わる可能性・・・】
もっとも、馬英九政権も中国への傾斜一辺倒という訳でもないようで、いったん停止した北京を射程圏内とするミサイル開発を再開したとも報じられています。

****台湾:一転再開 北京射程のミサイル開発*****
台湾の馬英九政権が、北京を射程圏内とする1000キロ以上の中距離弾道ミサイルと巡航ミサイルの開発をいったん停止に踏み切ったものの、再着手へと方針転換したことがわかった。台湾の国防・安全保障関係者の話や、国防部(国防省)高官の議会証言で明らかになった。
 ◇日米間の摩擦に危機感
開発停止は、中台関係改善を公約とする馬政権の対中融和策の一環だが、公表されていなかった。再着手は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡る日米関係のギクシャクぶりへの台湾側の懸念や、中国の海軍力増強で有事の際に米軍の協力が得られにくい状況への危機感と受け止められている。

台北から北京までは約1700キロの距離がある。毎日新聞に証言した複数の関係者によると、馬政権がミサイル開発を中断したのは08年5月の政権発足後まもなく。巡航ミサイル「雄風2Eブロック3」を含む1000キロ以上の射程を持つミサイルはすべて開発を停止したという。
馬政権は当初、中国の首都・北京を射程圏とするミサイル開発で中国を刺激することは避けたい考えだった。また、開発停止の背景には沖縄海兵隊を含む在日米軍の「抑止力」があった。安全保障の問題を専門とする台湾の淡江大学国際事務・戦略研究所の王高成教授は「日米安保条約は冷戦終結後、アジア太平洋の安全を守る条約となった。条約の継続的な存在は台湾の安全にとって肯定的なものだ」と指摘する。

一方、開発停止からの方針転換が明らかになったのは、楊念祖・国防部副部長(国防次官)が先月29日の立法院(国会)で行った答弁だった。
楊副部長は「有効な抑止の目的を達成するため、地対地中距離ミサイルと巡航ミサイルを発展させる方向性は正しい」と述べ、開発を事実上認めた。未公表だった開発停止には触れずに、実は方針転換をしていたことが初めて明らかになった。
楊副部長の発言は、台湾自らの抑止力を強化することで中国に圧力をかける狙いがある。関係筋は「普天間問題に代表されるように、台湾に近い沖縄にある米軍の存在や役割が変化する事態もあり得る。米軍が台湾を守る力にも制限が加わる可能性が出てきたことから、抑止力を高める方向に再転換したのではないか」とみている。

台湾の情報機関である台湾国家安全局によると、中国側の台湾向けの短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルは、台湾対岸の福建省を中心に約1400基。アジアの軍事情勢に詳しいカナダの軍事専門誌「漢和防務評論」4月号によると、中国は最近、福建省の竜田軍用飛行場に射程200キロの地対空ミサイルを新たに配備した。同誌は「台湾北部の海峡空域全体を封鎖することが目的」と指摘した。
一方、台湾は中国からのミサイル攻撃や戦闘機襲来への防御策として米国製の地上配備型迎撃ミサイル「PAC2」3基や独自に開発した迎撃ミサイル「天弓」「鷹式」を配備。オバマ米政権は今年1月、米台関係維持を目的とする国内法「台湾関係法」に基づき、最新改良型の「PAC3」などの武器(総額64億ドル)を台湾に売却することを決定し、中国側が「中国内政への粗暴な干渉」と猛烈に反発した。
同誌は「(中台の)政治情勢が過去に例がないほど改善しても、中国空軍は台湾海峡地区の防空態勢を大きく強化している」と分析している。【4月25日 産経】
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中国も大量の台湾向けミサイルを配備していますので、お互い様というところでしょうが、もちろん、中国はそのようには考えないのでしょう。
台湾の国防方針転換には、普天間をめぐる鳩山政権の迷走も関係しているようです。
また、中国の東アジア海域での活動活発化については、今月10日に駆逐艦2隻、潜水艦2隻、フリゲート艦3隻など計10隻の中国艦隊が沖縄近海を南下して、日本でも中国の意図が話題になったところです。
中国が軍事力の増強・拡大を進めれば、日本・台湾など周辺国もその対応を考えざるを得なくなります。
結果的に東アジアの緊張が高まります。

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