
(3月28日、アフガニスタンを電撃訪問したオバマ大統領とカルザイ大統領の会食
http://www.flickr.com/photos/isafmedia/4471811267/
“アフガニスタンを28日夜に訪問したオバマ米大統領とカルザイ・アフガン大統領との会談は30分で、滞在時間は約6時間。両首脳の対応からは、カルザイ政権の汚職体質への米側の懸念や、旧支配勢力タリバンへの対応をめぐる思惑の違いがうかがえた。オバマ氏のアフガン初訪問は、両首脳のぎくしゃくした関係を改めて印象づけたとも言えそうだ。”【3月29日 毎日】)
【依然続く誤爆・民間人犠牲】
アフガニスタンでの誤爆・民間人犠牲は相変らず頻発しているようです。
****アフガニスタン:NATO軍がバス銃撃、4人死亡*****
アフガニスタン南部カンダハルで12日、北大西洋条約機構(NATO)軍が走行中の民間バスを銃撃した。バスは大破し、乗っていた4人が死亡、18人が負傷した。州政府は「乗客全員が民間人で、女性や子供も乗っていた」と激しく非難した。
州政府によると、バスはNATO軍の車両とすれ違う際、突然銃撃を受けた。NATO軍広報官は「調査中」としている。
アフガンでは01年以降、外国軍の車両に近づいた車や民間人が「自爆攻撃」と勘違いされ、発砲される事件が頻発している。【4月12日 毎日】
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最近、報じられたものだけでも、上記のほか
「ドイツ軍、誤って車両を攻撃 アフガン兵6人が死亡」【4月3日 朝日】
「NATOアフガン空爆、住民に犠牲者 地元と食い違いも」【4月7日 朝日】
などがあります。
後者は、北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)による反政府武装勢力への空爆ですが、ISAFの発表によると、タリバンが立てこもる建物をISAFが空爆し、建物からタリバンとみられる4人のほか、民間人の女性2人と子ども1人、年配の男性1人の遺体が見つかったとされています。一方、地元通信社は住民らの話として、空爆で3軒の建物が崩壊し、民間人23人が死亡したと伝えています。
この種の食い違いはいつものことです。
こうした誤爆・民間人犠牲は、アフガニスタン国民の反米・反外国感情を強める結果にもなっていますが、アメリカ・外国の傀儡政権ではないことをアピールしたいカルザイ大統領も、この問題でアメリカを批判することが多くなっています。
今月4日には、アメリカ軍がヘルマンド州マルジャに続く「大規模軍事作戦」を行う予定の南部カンダハル州の現地部族長らをマクリスタル駐留米軍司令官とともに訪ね、部族長らに「(アメリカの作戦は)あなた方を不幸にしますか」と問いかけるなど、民間人殺害の恐れが高いアメリカ主導の軍事作戦をけん制する姿勢を見せています。
【「カルザイ降ろし」の動きで確執激化】
一方、アメリカ側は、こうしたカルザイ大統領の姿勢に苛立ちを感じており、先の大統領選挙では、腐敗・汚職・麻薬を一掃できないカルザイ政権に見切りをつけようとする「カルザイ降ろし」の動きありました。
このことが、更にカルザイ大統領側の対米不信感を増長させるという形で、カルザイ大統領とアメリカ側との溝が、特に4月以降あらわになってきています。
****いら立つカルザイ氏 止まらぬ欧米敵視発言 「圧力ならタリバンに合流も」*****
アフガニスタンのカルザイ大統領が今月に入り、欧米敵視ともとれる発言を繰り返している。特に米国への不快感をあらわにし、オバマ政権になってからの両国関係は悪化の一途をたどっているとの指摘もある。その源は昨年8月の大統領選挙における「カルザイ降ろし」の動きにあり、このとき募った欧米への不信感は今や、“危機感”に変わったともみられている。アフガンの安定に直結する両国関係は、微妙な時期にさしかかっている。
「8月の大統領選で大規模な不正があったのは間違いない。だが、それはアフガン人によるものではなく、外国人によるものだ」
今月1日、カルザイ氏は選挙関係者との会合でこうぶちまけた。不正の責任を転嫁したこの発言は、“欧米敵視”と報じられたため、同氏は2日にクリントン米国務長官に電話を入れ釈明し、国際社会の支援に謝意を示したという。
ところが、その翌3日、カルザイ氏は国会議員との会合で「もし外国が私にさらなる圧力をかけるようなら、タリバンに合流するかもしれない」と発言したという。4日には自身の出身地、南部カンダハル州の部族長老との会合で「アフガニスタンの問題は、国民が自分たちの大統領は外国の支配を受けない、傀儡(かいらい)ではないと信じていれば解決できる」と語ったとされる。
一連の発言について、米ホワイトハウスの報道官は「やっかいだ」と述べ、米国務省は一時、カルザイ氏が5月に予定している訪米の取りやめもにおわせ、不快感をあらわにした。
カルザイ氏は外交でも反欧米路線をにじませている。3月上旬には、核開発問題をめぐり米国などとの対決姿勢を強めるイランのアフマディネジャド大統領が、カブールを訪問。カルザイ氏は中旬に訪中し、月末にはイランを訪れた。だが、イランから戻った日の夜、オバマ大統領は通告なしにカブールを電撃訪問し、イラン、中国との関係強化を図ろうとするカルザイ氏を「強く牽制(けんせい)した」(消息筋)という。
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カルザイ氏はなぜ、今になって、反欧米的な姿勢を見せているのか。
大統領選で欧米はカルザイ氏に代わる候補者の擁立を画策し、事実上の「カルザイ降ろし」を展開した。米国のホルブルック特別代表(アフガニスタン・パキスタン担当)にいたっては、多数のアフガン人に出馬をけしかけたといわれる。それはカルザイ氏の汚職、麻薬対策への取り組みを不満とし、指導力を疑問視した結果だった。
だが、米国は適切な人物を見つけられず結局、カルザイ氏しかないと、同氏に軸足を戻さざるをえなかった。こうした事情を知るカルザイ氏は、昨年11月に会ったある外交筋に、米国への反発をはっきり口にしたという。
カルザイ氏自身がこれまで語ってきたように、ブッシュ政権の米国なくして、2001年のタリバン政権崩壊はなく、自身が大統領になることもなかった。しかし、オバマ政権は駐留部隊の撤退に向けた環境整備を急ぎ、カルザイ氏側に圧力をかけており、ここにきての同氏の敵視的な姿勢は、圧力に対する“反発”ともいえる。
外国部隊が撤退した後の保身をかけ、外国の傀儡ではないことを国内向けに証明しなければならない、という焦りもありそうだ。また、カルザイ氏は、タリバンなど反政府武装勢力との対話も進めている。しかし、米国の反応は芳しくなく、カルザイ氏のいらだちを強めさせているようだ。
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カルザイ氏が置かれた状況はジレンマにも等しい。
米軍などは、2月に南部ヘルマンド州マルジャで、最大規模とされるタリバン掃討作戦に着手。6月にはカンダハル州でも作戦を開始する予定で、一定の成果をあげ、来年夏からの兵力撤退への道筋をつけたいところだ。だが、マルジャでは多くの住民が犠牲になり反発は強い。カンダハル州はタリバン発祥の地で“本丸”。同時にカルザイ氏の支持基盤でもあり、同氏も慎重にならざるをえない。
外国駐留部隊の撤退後、不人気のカルザイ氏が大統領の地位に居続けるためには、欧米が汚職などの根源として敵視する元軍閥指導者ら有力者と、友好な関係を保っておく必要がある。
ジョーンズ米大統領補佐官(国家安全保障担当)は9日、カルザイ氏が5月12日に訪米するとの見通しを示し、この局面を「切り抜けた」と語ったが、カルザイ氏を見る米国と国際社会の目は依然、厳しい。【4月10日 産経】
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成果をあげて出口戦略を確かなものにしたいアメリカに対し、アメリカ撤退後もこの地に残るカルザイ大統領としては、地元有力者やタリバン勢力とも一定の関係を維持したい考えで、そうした立場の違いも背景にあっての不協和音のようです。
【「カルザイ大統領は信頼できるパートナーだ」】
ただ、アメリカとしても、カルザイ政権と事を構える形では出口戦略もありえませんので、なんとか関係修復に努めているようです。
****カルザイ大統領と「関係良好」=修復図る、米国防長官ら****
ゲーツ米国防長官とクリントン国務長官は11日に放映されたCBSテレビなどの番組で、アフガニスタンのカルザイ大統領との関係について「良好だ」と評価した。同大統領が欧米批判を展開し、ホワイトハウスが懸念を示すなど関係がぎくしゃくしていたことから、修復を図った形だ。
ゲーツ長官は、カルザイ大統領が駐留米軍のマクリスタル司令官とともにアフガン南部カンダハル州に足を運び、反政府勢力タリバン掃討作戦への地元部族長の協力を得る枠組み作りに貢献していると指摘。「マクリスタル司令官と定期的に会い、非常に良好な関係にある」と述べた。クリントン長官も「カルザイ大統領は信頼できるパートナーだ」と語った。【4月12日 時事】
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今月1日のカルザイ大統領の「(大統領選挙の)不正票は外国人によるものだった」という欧米批判について、前出産経記事では“カルザイ氏は2日にクリントン米国務長官に電話を入れ釈明し、国際社会の支援に謝意を示したという。”となっていますが、別報道では“クリントン米国務長官が2日、カルザイ氏に電話で真意を問う騒動に。しかし、カルザイ氏は発言を撤回せず、クリントン氏は「驚いている」といらだちを示した。”【4月5日 毎日】ともあります。
「カルザイ大統領は信頼できるパートナーだ」というのは、いかにもとってつけた感がありますが、そう言うしかないところにアメリカ側の苛立ちが感じられます。