孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  チベット住民被災者が多い青海地震で異例の対応

2010-04-20 22:09:27 | 災害

(千人近い遺体を火葬にする炎と見守る僧侶 “flickr”より By Eclipse.info
http://www.flickr.com/photos/www-eclipse-info/4536626239/
“中国青海省で起きた地震で死亡し、チベット仏教寺院に3日間安置されていた1000人近くの遺体が17日、玉樹チベット族自治州玉樹県の山で一斉に火葬された。数百人の僧が読経する中、遺族は故人と別れを告げた。中国新聞社電が伝えた。 四川省最大のチベット仏教ニンマ派寺院から読経のため僧を率いてやって来た活仏は「チベット地区の民衆は遺体を天葬(鳥葬)にするが、地震の死者は多く、時間がかかる。疫病予防も考慮して、火葬が妥当と判断した。宗教規定にも合致する」と語った。”【4月18日 時事】)

【指導部、外遊を取りやめ現地入り】
昨日のブログでは、ポーランド大統領搭乗飛行機の墜落事故に関し、ロシアのポーランドへの配慮が功を奏し、歴史的な経緯でロシアに対する不信感・恐怖感が強いポーランド側にもロシアを好意的に受け入れる動きが出ていることを取り上げました。

今日の話題は、中国青海省の玉樹チベット族自治州玉樹県で14日発生した地震。
標高3700メートルでの厳しい寒さと酸欠に加え、標準中国語(北京語)を理解しない高齢者も多い「言葉の壁」もあって、救助活動は困難に直面しています。

しかし、これまで中国中央政府からの分離・独立の動きがあり、08年には激しい抗議行動もあったチベット族居住区で起きた地震であったため、中国指導部はチベット系住民の不満が社会混乱につながることを懸念して、被災住民へ配慮した異例の対応を見せています。
なお、新華社の20日報道によれば、地震による死者は、これまでに2039人になっています。

****中国、異例の被災対応*****
胡主席、現地入り 幹部ら外遊延期  青海地震 チベット族に配慮
中国の胡錦濤国家主席は18日、14日に起きた青海地震の被災地視察のため青海省玉樹チベット族自治州玉樹県に入った。中国指導部は、被災者の大多数を占めるチベット族住民への配慮を視野に入れ、「民族の団結」や「社会の安定」を強調。相次ぐ異例の対応で、震災対策を最重視する姿勢を打ち出している。

「(胡主席は)18日朝、飛行機で玉樹の被災地に向かった」「到着後、すぐに車で被災視察に向かった」「テント内で簡単な昼食をとり、視察続行」
国営新華社通信は18日、胡主席の被災地入りの動きを計8本の速報電で伝えた。同通信が指導者の動きをここまで詳細に速報で伝えることは異例。震災対応への指導部の重視姿勢をアピールしようとの狙いは明らかだ。
胡主席は外遊先のブラジルで「人民と共に救援活動に取り組まなければならない」とし、チリ、べネズエラ両国への訪問予定を延期。17日に急きょ帰国した。胡主席が外遊途中で急きょ帰国に踏み切るのは昨年7月、新疆ウイグル自治区でウイグル族住民らによる騒乱が起きた時以来だ。(中略)

今回の被災地の同自治州は、チベット族が住民の9割以上。分離・独立の動きも伝えられ、2008年のチベット騒乱で激しい抗議の動きがあった地域でもある。震災対策の遅れなどで住民の不満が広がれば周辺地域のチベット族にも波及し、大規模な騒乱にもつながりかねないとの懸念が指導部にはあるとみられる。
中国の指導者は、社会の混乱につながる恐れのある災害対策を重視してきた。1998年には江沢民国家主席(当時)が長江の洪水被害を受けて訪日を延期した。だが、今回は、温家宝首相も発生翌日の15日に被災地入りし、東南アジア歴訪を延期。李長春・常務委員も17日、サウジアラビアなど4カ国訪問を取りやめ、外遊先から帰国した。
指導部の3人がそろって外遊日程を変更する対応は極めて異例で、死者・行方不明者が8万7千人に上った08年の四川大地震の際にも匹敵する重視ぶりだ。
中国当局は被害者の遺族に1人当たり8千元(約11万円)を支給するといった補償措置も早々と発表。チベット族の食生活に合わせた小麦粉を中心とする援助物資の支給や、避難所での宗教行為を認めるなどの措置をとっていることも強調し始めた。【4月19日 朝日】
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また、温首相は、壊滅的な被害を受けたチベット仏教寺院を訪れ、僧侶が救援活動に参加していることを称賛。「震災救援だけでなく、寺院復興にも力を入れる」と言葉をかけ、政府のチベット仏教僧への気遣いぶりを強調したとも。

チベット仏教4大宗派の一つ、サキャ派の聖地、結古寺(ジェグ・ゴンパ)も建物の9割が倒壊する被害を受けました。
****中国地震:チベット仏教聖地の寺も倒壊…政府苦慮*****
結古寺は文化大革命時に一時破壊されたことがあるだけに、中国政府が対応を誤るとチベット族からの反感を招くと懸念されている。(中略)
中国政府は結古寺の象徴性に配慮した対応を取っているようだ。16日に寺を訪ねると、一般の避難民には行き渡っていないテントも、十数張り届いている。「災害救援」と書かれた青いテントが急ごしらえの祈とうスペースになっていた。
僧侶の一人は「テントは、今朝届いた。カップめんも昨日持ってきた。(文化大革命で寺を)破壊したけれど、今回は助けてくれていると思うよ」と中国政府の対応を評した。【4月17日 毎日】
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“中国中央テレビは、胡主席が「安心して休みなさい」と、テントの医療施設で治療を受ける少女を励ます映像を繰り返して放映した。胡主席は慰問中、チベット族の住民に向かって、「共産党と政府は被災者の救済や復興に全力を尽くす」と何度も強調。「中国各民族の支持や団結」を訴えた。”【4月20日 読売】と、メディアもこうした指導部の対応を大々的に報道し、抗議や不満を抑えることに全力を挙げています。

【チベット族の中に中国政府への好感?】
こうした中国当局の対応は、一定に効果をあげているとの見方もあるようです。
****チベット族に中国への好感芽生える=中国政府の救援活動が奏功―米誌*****
2010年4月15日、米誌ニューズウィークによると、青海省玉樹チベット族自治州玉樹県で発生したマグニチュード7.1の地震後の救援活動によって、チベット族の中に中国政府への好感が芽生え始めている。18日付で環球時報が伝えた。
記事によると、中国政府は震災後すぐに救援活動を開始、ボランティアも含めた救援隊が被災地で活動している。募金活動も活発に行われており、温家宝首相が被災地に赴くなど政府の関心が高いこともアピールしている。今回の震災の性格は08年の四川大地震とほぼ同じだが、違うのは四川大地震の被災者のほとんどが漢族だったのに対し、青海地震では被災地の住民の97%がチベット族だということだ。
あるブロガーは、「これはチベット族もわれわれと同じように生活し、同じように痛みを経験していることを知る好機だ」と指摘、「震災は漢族とチベット族が草の根でお互いを理解する『前代未聞の』機会だ」と述べる。インターネット上では被災者に対する同情の声が高まっており、「被災地の同胞のために祈祷をささげよう」という書き込みもある。
人々の被災地への関心と反応は、チベット族の中国という国家に対する感情に変化をもたらし始めた、と同記事は指摘する。内陸の高地という被災地の地理条件の中での救援活動は困難を極める。しかし展開されている救援活動の効率は高く、それによって中国政府はチベット族の好感を得ることになるだろうと記事は伝えている。
【4月19日 Record China】
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実際、どれだけ「和解」の動きが出ているのかは上記記事では判然としませんが、住民感情に配慮した救助・支援活動が相互理解・和解へ向けたひとつのきっかけになりうるとは考えられます。

【「和解」に向けて大胆な取り組みは・・・】
被災地は、ダライ・ラマ14世の出身地でもあり、ダライ・ラマも被災地入りを熱望しています。
****ダライ・ラマ、被災地入り「熱望」=故郷の中国青海省地震で*****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は17日、多数のチベット族が犠牲になった中国青海省地震の被災地を訪れることを「熱望している」と述べた。チベット亡命政府のあるインド北部ダラムサラで記者団の取材に応じた。
ダライ・ラマのスポークスマンが電話で時事通信に語ったところによると、ダライ・ラマは記者団に対し、被災地訪問の実現に向けて「適切なルートを通じた中国当局との接触を模索している」と語った。
ダライ・ラマは1935年、現在の青海省に属するチベット北東地域で生まれた。この日、英語とチベット語による声明を発表。「青海省は偶然にもわたしが生まれた場所。この地の多くの人々の願いをかなえ、彼らに安らぎを与えるため、自分自身で現地入りすることを熱望している」と訴えた。
その上で、被災者に対し、「希望を捨てず、勇気を持って逆境に向き合ってほしい」と励ましの言葉をかけた。【4月17日 時事】
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なお、中国政府が認定したチベット仏教第2の高位者パンチェン・ラマ11世は、「被災者が党と政府の指導の下で、災難に打ち勝ち、故郷を再建できると信じている。苦難を脱し、永久の平穏を祈願する」との見舞いの電報を送り、10万元(約136万円)の寄付をしたと報じられています。【4月16日 時事】

中国政府が勝手にねつ造したパンチェン・ラマ11世はともかく、ダライ・ラマ14世が被災地に入れれば、被災者の精神的支えとして大きな意味があります。
単に社会混乱の芽をつむといった発想ではなく、中国政府もこの際、不倶戴天の敵ともしてきたダライ・ラマ14世を現地に招き、中国政府指導部と一緒に被災者を励ますといったことを行えば、チベット族融和にも大きな効果が期待できるのではないかとも思えます。
そんな、太っ腹の政治家は中国にはいないのか・・・、いないでしょうね。

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