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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  デモ隊強制排除で犠牲者 追い詰められるアピシット首相

2010-04-11 15:02:46 | 国際情勢

(デモ隊にゴム弾を発射する治安部隊 10日夜の騒乱の犠牲者が、治安部隊の実弾発射によるものか、アピシット首相の言う“デモ隊が投げた小型爆弾”によるものなのか・・・そこは定かではありません。“flickr”より By Thailand Red Shirts
http://www.flickr.com/photos/thailandredshirts/4508837499/)

【流血の土曜日】
先月14日からタイ・バンコク中心部で反政府抗議行動を続けているタクシン元首相派「反独裁民主戦線」(UDD)とアピシット政権の対立については、当初、タクシン元首相派側が長続きしないのでは・・・と見ていましたが、長期化・エスカレートする抗議行動によって、次第にアピシット政権側が苦しい立場に追い込まれてきました。
そして10日、非常事態宣言のもとでの当局のデモ隊強制排除開始によって、日本人テレビカメラマンの死亡という思いがけない事態を含む、騒乱状態に陥っています。
このブログを書いている今も状況は変化している様相です。

****タイ騒乱、死者19人に 元首相派、軍兵士を「人質」に*****
タイの首都バンコクで10日夜、治安部隊とタクシン元首相派が衝突した騒乱で、病院関係者によると、11日朝までに少なくとも19人の死亡が確認された。また負傷者は825人に達している。死者の内訳は、ロイター通信のテレビカメラマン、村本博之さんのほか、軍兵士が4人、元首相派の支持者らが14人だという。
一方、治安当局者によると、元首相派の支持者らが、騒乱のさなかに複数の軍兵士を拘束し、「人質」としており、現在解放するよう元首相派を説得しているという。また北部チェンマイとピッサヌローク、東北部チャイヤプームの3県の県庁舎が元首相派によって占拠されていることを明らかにした。【4月11日 朝日】
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村本さんは取材中、左胸に銃弾を受け、バンコク市内の病院に運ばれる途中に死亡したと報じられています。

現状については、“米ニューヨーク・デイリーニュース紙によると、中心商業地区ではUDDメンバー約6万人が集まり抗戦を呼びかけている。当局はより多くの軍をバンコクの高級商店街やデモ隊の拠点がある商業地区に派遣した。都市の交通機関「スカイトレイン」は運転を休止し、すべての駅を閉鎖していると報じた。当局は27人のデモ隊に逮捕状を出したが、何人が拘束されたかは不明と伝えた。”【4月11日 11:31 Searchina】とのこと。
ただ、今日11日の動きは日本メディアでは報じられていませんので、さすがに昨日の騒乱を受けて、双方“様子見”の状態なのでしょうか。

【アピシット首相 退陣拒否】
タイの騒乱事件としては過去約20年間で最悪の事態となり、アピシット政権は追い詰められています。
治安部隊が強制排除に乗り出し、多数の死傷者が出たことを受けて、アピシット首相は10日夜、国民向けにテレビで演説。
犠牲者遺族に哀悼の意を表しつつも、騒乱の責任はデモ隊側にあるとして、「わたしとわたしの政府は事態打開に向けて職務を継続する」と述べ、タクシン派の退陣要求を重ねて拒否しました。
アピシット首相は治安部隊の発砲についても説明し、実弾の使用は空中への警告射撃および自衛の場合にのみ許されていると述べています。【4月11日 時事より】 

****タイ首相、国民向け会見 騒乱の責任「タクシン派側に」*****
タイの首都バンコクで10日、治安部隊とタクシン元首相派が衝突し、邦人1人を含む13人が死亡、521人が負傷した騒乱を受け、アピシット首相は同日深夜、テレビ演説し、「犠牲者に哀悼の意を表したい」と述べた。
そのうえで「多くの死者が出た要因はデモ隊が投げた小型爆弾だ」として騒乱の原因は元首相派にあると批判。事実関係を明確にするため、中立的な専門家による調査チームを設置することを明らかにした。自身の責任については言及しなかった。
アピシット政権は7日にバンコクとその周辺地域に非常事態を宣言した後、政府の対応については事前に国民に説明することで「透明性を確保する」と強調してきた。しかし、10日の強制排除は突然始まり、混乱を増幅させた。アピシット首相はこの間、国民の前に姿を見せなかった。【4月11日 朝日】
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【遠のく解決】
もとより、こうした犠牲者を伴う騒乱状態にもちこみ国民の政権への批判を高めることはタクシン元首相派デモ隊の戦略でしたので、小型爆弾云々は別として、騒乱がデモ隊側の執拗な挑発行動によって引き起こされたことは間違いないでしょう。
ただ、アピシット首相には、政権側に不利と言われる解散・総選挙には応じることなく、騒乱状態を引き起こすことなく事態を鎮静化させるという、いささかimpossibleなmissionが課せられていました。
そのmission遂行に失敗したことは明らかです。

ここまで強硬策を控えてきたアピシット首相が強制排除に着手した背景については、長引く抗議行動による経済損失の拡大、エスカレートする抗議行動、プレム枢密院議長サイドからの圧力などが言われています。

****タイ強制排除 流血、最悪の事態 タクシン派硬化、解決遠く*****
・・・・日本人カメラマンの村本博之さんを含む犠牲者がデモ隊、治安部隊双方に出る中、収拾のめどは立っておらず、強硬策を選択したアピシット首相は厳しい立場に追い込まれた。
・・・・アピシット首相は当初、強制排除に慎重だった。しかし、3月14日から約1カ月続くデモにより経済活動にも影響が出始めた。
デモ参加者は、タクシン氏が在任中に多額の支援を行い、今もタクシン派の影響力が強い同国北部や北東部の農民が中心だ。アピシット首相率いる連立与党は、任期切れを1年9カ月後に控え、強制排除で死傷者が出れば、これら地方での巻き返しを図るどころか、反感をさらに増しかねないとの判断もあった。
それでも今回、強制排除に踏み切ったのは、デモ隊による国会乱入や衛星放送施設占拠という違法行為がきっかけだ。
タイの英字紙ネーションは、首相が9日夜、治安部隊がいたにもかかわらずデモ隊に占拠されたことに衝撃を受け、集まった軍幹部に「政治的にどちらを支持しろとは言わないが、法に従わせるのがあなたたちの義務のはずだ」と激しく叱責(しっせき)したと伝えた。
また、バンコク・ポスト紙によると、プレム枢密院議長が13日からのタイ正月までにデモを解決するよう求めたという。
衝突を受けてタクシン派は反発、地方での抗議行動を呼びかけており、混乱は拡大の様相を示している。【4月11日 産経】
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【“民主主義”の混迷】
ここに至った経緯はともかく、冒頭朝日記事にあるような19名の死亡を含む多大な犠牲者、更に兵士の人質、北部・東北部県庁の占拠・・・という事態となっては、アピシット首相の続投では事態は収まらないように思えます。
8日に出席を予定していたベトナム・ハノイでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議へも出席できず、対外的問題も生じています。
しかし、仮にアピシット首相が辞任したとしても、単なる首のすげ替えでは、解散要求に加え犠牲者発生の責任問題を追及するであろうタクシン元首相派の抗議活動が沈静化するのか?

現政権は、反タクシン元首相派の街頭抗議行動、司法権力によるサマック元首相の強引な解任、選挙違反を理由とした与党の解党・ソムチャイ政権崩壊という、民主的とは言い難い強引な経緯で誕生した政権です。
ここまで国民の対立が深まっている以上は選挙によって民意を問う・・・というのが本来の話ではありますが、選挙での勝算が見込めない政権側がこれを拒否しているということのほか、仮に解散・総選挙を行ってタクシン元首相派が勝利した場合、その先にあるタクシン元首相復帰が認められるのか?という問題もあります。
タクシン元首相には、大衆迎合的なバラマキ政策、強権的・金権的政治手法への批判も根強くあります。
なお、タイの裁判所は14日、前日発生したデモ隊とタイ軍の衝突を扇動したとして、国外逃亡中のタクシン元首相と、元首相の支持者12人に逮捕状を発行しています。

無責任な部外者的発想としては、アピシット首相は辞任して与党内での首班交代を行う、タクシン元首相の帰国は認めるが政界復帰は認めないという条件で、1年後ぐらいの前倒し総選挙実施・・・というあたりで双方が妥協するというのは・・・。

今後の展開については、これまで全く表に出ていないプミポン国王の仲介の有無、あるいは国王の健康問題という要素も大きく影響します。
前回クーデターで懲りている軍は、あまり前面に出たがらないのでは。

3月19日ブログ“「こうして民主主義は死ぬ」 タイの場合”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100319)でも書いたように、現在のタイの情勢は民主主義への不信感から生じている現象でもあります。
今回の騒乱によって、そして、もし混乱が長引くようなら、タイの民主主義は更にダメージを受けることになります。民主主義が混乱と無秩序、不正と腐敗を生むものではないことを明らかにしてもらいたいものです。

コメント
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