孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キルギス  バキエフ政権崩壊 「革命のサイクル」

2010-04-08 22:52:43 | 国際情勢

(4月7日 キルギスの首都ビシケク “flickr”より By Diario Presencia
http://www.flickr.com/photos/diariopresencia/4499978669/)

【裂けたチューリップ】
中央アジアのキルギスで政変が起きています。
“在ビシケクのトルコ大使によると、北部の都市タラスで6日、燃料・電力の値上げに反対するデモが起こり、それが7日にビシケクに飛び火したという。またロシアのインタファクス通信は、タラスで野党指導者らが逮捕されたことを受け、タラス、ビシケク、ナルインで衝突が勃発したと伝えている”【4月8日 CNN】
その後、バキエフ大統領の首都脱出、オトンバエワ元外相らの野党勢力による臨時政府樹立まで、一気にことは進みました。

****キルギス:野党勢力「臨時政府」樹立を宣言*****
中央アジアのキルギスで起きた反政府暴動で野党勢力は7日、政府庁舎や国営テレビを占拠し、「臨時政府」樹立を宣言した。インタファクス通信などによると、バキエフ大統領は同日深夜までに首都ビシケクから南部の主要都市オシに逃亡したとみられる。バキエフ政権の腐敗ぶりや世界的な金融危機を引き金とした経済苦への民衆の不満が政府転覆に至った。米国は、アフガニスタン戦争でキルギスの空軍基地を重要な供給基地として使っており、米国務省は事態に憂慮を表明した。

6日に北部タラスで反政府暴動が始まって2日で政権が崩壊した。キルギスでは05年3月にもバキエフ氏らの主導による反政府デモ「チューリップ革命」で当時のアカエフ大統領が辞任した。反政府暴動による政権崩壊劇が再び繰り返された。
報道によるとキルギス国防省は8日未明、大統領がオシへ脱出したことを明らかにした。
野党指導者のローザ・オトゥンバエワ元外相はロイター通信に対し、「臨時政府を樹立した。私が首班だ」と述べた。臨時政府は、ほかにテケバエフ元国会議長、野党「アク・シュムカル」のサリエフ党首ら14人で構成する。オトゥンバエワ氏によると、今後半年で新たな憲法を起草、「自由で公正な」大統領選挙の環境を整える。

ビシケク中心部では警官隊が野党支持者に発砲し、半ば暴徒化した市民が政府省庁や大統領私邸を次々と襲う混乱が広がり、保健省によると死者は65人、負傷者は約500人に達した。ロイター通信によると、野党支持者が州政府省庁などを占拠したのは、北部タラスなど3都市。
ビシケク近郊には米軍がアフガニスタンへの物資供給中継基地とするマナス国際空港があるほか、ロシアが駐留するカント空軍基地もある。【4月8日 毎日】
************************

【強権的一族支配】
新首班となった女性政治家オトンバエワ元外相は、バキエフ大統領と共に05年のチューリップ革命で当時のアカエフ大統領を辞任に追い込んだ後、大統領の座についたバキエフ氏の下で外相代行に就任しましたが、その後強権政治を批判し、政権から離れています。

反政府デモが激化した背景については、“バキエフ大統領がアカエフ前大統領(ロシア在住)と同様に強権化し、経済情勢も悪化していたことへの失望がある。バキエフ政権は言論・報道統制を強化し、議会でも翼賛体制を確立。同氏の親族が政府高官に起用され、大企業を握るなど「一族支配」の色彩が強まっていた点も前任者と共通する。電気など公共料金が急激に引き上げられたことも庶民の不満に火をつけた。”【4月8日 産経】と報じられています。

「一族支配」のなかでも、とりわけ大統領の後ろ盾を得て権力と富を牛耳ってきた子息マクシム・バキエフ氏に対する国民の強い不満があったとも報じられています。
****汚職体質に国民怒り 大統領息子へ利権集中****
ロシア国営テレビは三月下旬、マクシム氏について「親の七光を得て国内で強大な権力を握る人物」と報道。同氏を頂点とする利権構造に国民の怒りの矛先が向けられ、「暴動が起きるのは必至」と予測していた。
キルギスでは三月までの九カ月間に、通信会社など複数の有力国営企業が民営化されたが、企業の所有権はすべてマクシム氏に移ったという。同氏は治安機関の要職にも就き、アフガニスタンへの中継補給基地として米軍が駐留する軍民共用のマナス国際空港も統括していた。
またマクシム氏のビジネスを支えた有力実業家はイタリア当局から、貴金属と麻薬の不正取引の嫌疑をかけられていたという。

今回の政変で臨時政府トップに就いたオトゥンバエワ元外相は、大統領一族に絡む不明朗な資金の流れをこれまで議会で追及してきたが、「(政府から)明確な答弁はなかった」と指摘していた。
バキエフ大統領は三月下旬、体制引き締めの集会で「正しい道を歩んでいるが、まだ目標には達していない」と演説。その原因をキルギスの「血族関係や汚職にしばられた体質にある」と語っていた。
今回、まさに自身の汚職体質により政権を追われた形だ。【4月8日 毎日】
********************************

【背景には南北対立】
強権支配の大統領が民衆の怒りを買って大衆行動で権力の座から追われる・・・という図式は、05年3月のアカエフ前政権を打倒した「チューリップ革命」とのときと酷似しています。前回と違うのは、100人前後の犠牲者が出ている点のほか、北部と南部の立場が逆転している点です。

キルギスは伝統的に南部と北部の氏族が対立しており、「チューリップ革命」も、北部出身のアカエフ氏に代わり南部のバキエフ派が権力を握った政変でした。
今回は暴動の発端が北部都市タラスであり、バキエフ大統領は支持者の多い南部のオシに脱出したところから、北部が主体となった政変のように思われます。
こうした「政変」「革命」は、民主化運動とか強権支配への抵抗・・・といった面よりも、地元への利益誘導でどちらが豊かになれるかというかという南北間の争いの側面が強いように思われます。
この点について、前出【4月8日 産経】は“新政権が南北対立を克服できない場合、「革命のサイクル」に入り込む可能性も排除できない”と指摘しています。

【米ロのパワーバランス】
アメリカは、アフガニスタン戦略上重要なマナス基地に駐留する米軍の完全撤退を野党勢力が求めたこともあって事態を憂慮していますが、7日夜現在、基地運用に大きな影響はない模様とか。【4月8日 読売】
同じく駐留基地を持つロシアのプーチン首相は、事態の沈静化を呼びかけると共に、キルギスでの衝突にロシアは関与していないと強調。8日にはオトゥンバエワ元外相に電話し、人道支援を行う用意があると表明、暫定政権を支持する姿勢をいち早く見せています。【4月8日 共同】
キルギスはアメリカ・ロシアがその影響力を争ってきた国でもあります。今回の政変は、そうしたパワーバランスにも影響しそうです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする