(12年間の拘束を経て解放されたモンカイヨ軍曹 左は長年解放を訴えてきた彼の父親 “flickr”より By Globovisión
http://www.flickr.com/photos/globovision/4477782878/)
【ウリベ政権で進む治安改善】
南米コロンビアは左翼ゲリラ組織・誘拐・麻薬・・・といったイメージがありますが、左派政権一色に染まった中南米唯一(今年1月にはチリで中道右派政権が誕生しましたが)の親米右派政権であるウリベ大統領のもとで、強力な対ゲリラ対策を進め、国内は相当に安定してきていると聞いています。
JETROの情報でも、そうした安定化の傾向が窺えます。
****コロンビア革命軍が相次いで人質解放−治安回復で日本企業進出の動きも****
2008年以降、軍事作戦や左派ゲリラ兵士の投降による人質救出・解放などが続いたが、09年に入り政治家、警察官、軍人が連続して解放された。左派の国会議員ピエダッド・コルドバ議員がコロンビア革命軍(FARC)との調整役を務め、赤十字やブラジル空軍などの支援のもとジャングルからの解放作戦が行われた。FARC側が一方的に人質を解放したことで人道的和平交渉の道が開けることが期待される。【09年2月10日 通商弘報】
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****治安改善で増え続ける外国人訪問者**********
貿易投資振興機関(PROEXPORT)の2010年2月の発表によると、09年の空路と水路を利用した外国人訪問者数は170万人と、08年の145万人より17.2%増えた。空路の訪問者数は135万人で08年の122万人より10.7%増加。治安の改善を背景に、観光やビジネス目的で訪れる外国人が増えている。【10年3月30日 通商弘報】
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【拘束期間中に軍曹に昇進するも、ウリベ大統領への謝辞なし】
08年7月には、元大統領候補でフランス国籍もあるイングリッド・ベタンクールさんの救出作戦で国際的な注目を集めましたが、最近はコロンビア関連のニュースは大きなメディアに取り上げられることが少なくなっていました。
そんななか、昨日久しぶりに「コロンビア革命軍(FARC)」により人質解放のニュースを見ました。
****12年前に拘束のコロンビア軍兵士を解放、FARC******
コロンビアの左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」は30日、12年前に拘束した人質のコロンビア軍兵士を解放した。
パブロ・エミリオ・モンカイヨ軍曹(当時19)は、1997年12月21日、FARCの攻撃を受けて拘束された。12年という監禁期間は、FARCの人質としては最長だ。
30日、ブラジル軍ヘリコプターで南部のカケタ州フロレンシアに到着したモンカイヨ軍曹は、父親と抱き合い、「文明を再び目にすることができて、喜びに堪えない」と述べた。
なお、拘束時の階級は伍長だったが、拘束期間中に軍曹に昇進した。【3月31日 AFP】
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このモンカイヨ軍曹解放に先立って、28日、FARCは二人の兵士も解放しています。
****左翼ゲリラが大統領選前に人質を解放*****
コロンビアの左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)は28日、昨年4月に誘拐した軍兵士(23)を無条件で解放した。外国人以外の人質解放は、昨年2月の元州知事ら以来。AP通信が報じた。5月30日の大統領選を前に、FARCには各候補の懐柔を狙う思惑がありそうだ。
FARCはこの兵士を含む計2人の解放を予告していた。12年以上拘束されている残る1人の解放は今週内とみられている。政府推定によると、FARCは民間人を含む600人以上の人質を拘束しているとされる。
対左翼ゲリラ強硬派のウリベ大統領は憲法上の規定で次期大統領選には出馬できない。【3月29日 産経】
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12年間拘束されていたモンカイヨ軍曹は、“解放に向けて尽くしてくれたとして、隣国エクアドルのコレア大統領、ベネズエラのチャベス大統領、ブラジルのダシルバ大統領に感謝の言葉を述べた。しかし、コロンビアのウリベ大統領に対しては何の言葉もなかった。”【3月31日 CNN】とか。
【憲法裁判所、ウリベ3選を認めず】
前出産経記事は、この時期に人質解放を行うFARC側の狙いを“5月30日の大統領選を前に、各候補の懐柔を狙う思惑”と伝えています。
大統領選挙については、憲法により3選を禁止されているウリベ大統領を支持する勢力から、憲法改正の動きがあり、下院もこれを承認していました。
しかし、2月26日、コロンビア憲法裁判所(CCC)は、2009年9月下院において承認されていた、ウリベ大統領が大統領再々選を可能とするための憲法改正を問う国民投票法案に対し、無効の決定をくだしています。ウリベ大統領は憲法裁判所の決定を遵守するむねを表明し、ウリベ大統領3選はなくなりました。
なお、ウリベ大統領自身は下院での動き以前から、「私が大統領に再選されることは好ましくない。この国には、多くのよき指導者がいるからだ。私は個人的に、権力に固執した人物として記憶されたり、反感をもたれたくない。私は常に、民主主義のために戦ってきた」と語り、3選を否定していました。
【今なお続くFARCの活動】
組織弱体化が言われるFARCですが、その活動が終息した訳ではありません。
昨年末には、知事がFARCに誘拐され、遺体で発見されています。
****左翼ゲリラに誘拐された知事、遺体で見つかる******
2009年12月23日 16:31 発信地:ボゴタ/コロンビア
コロンビア南西部カケタ州で同州のルイス・フランシスコ・クエジャル知事が左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)に誘拐された事件で22日、のどをかき切られた同知事の遺体が発見された。
同州の州都フロレンシアの南15キロの場所で、農民らが焼けた車のそばで知事の遺体を発見した。FARCは21日、フロレンシアにある知事の私邸を手りゅう弾などで襲撃し治安部隊と交戦した後、知事を誘拐して逃走していた。
「安全な民主主義」と反政府武装勢力に対する軍事的圧力の強化を打ち出したウリベ大統領が2002年8月に政権に就いて以来、知事が誘拐・殺害されたのは今回が初めて。
FARCはこのところ攻撃を激化させており、兵士や地元当局者など数百人を拘束している。ウリベ大統領は全国中継されたテレビ演説で、卑怯な者たちが知事ののどをかき切ったと述べ、FARCを強く非難した。【09年12月23日 AFP】
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また、先日は、12歳少年が爆弾テロの“人間兵器”に使われる事件も報じられています。
****12歳少年“人間爆弾”テロの道具に*****
許しがたき蛮行だ。南米コロンビアのナリニョ州政府は26日(日本時間27日)、12歳の少年が地元警察署に小包を届ける際、その小包に入っていた爆弾が爆発して少年は即死し、警察官2人が負傷したと発表した。少年は何も知らずに「人間兵器」とされたらしく、政府と対立する左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)の犯行とみられている。(中略)
少年を利用した犯人はいまのところ不明だが、24日にもエル・チャルコから北東約200キロの港町、ブエナベントゥラで自動車爆弾が爆発し、9人が死亡、36人が負傷したばかりで、これがコロンビア革命軍(FARC)の犯行とされていることから、今回の犯行も同組織の関与が強く疑われている。
事情を知らない少年をテロの“道具”にしてしまう行為に対して、コロンビア政府内からは国際人道法違反との非難が起きており、ファビオ・バレンシア内相(62)は犯人逮捕に結びつく有力情報に5万3000ドル(約493万円)の懸賞金を出すと発表した
コロンビアではアルベロ・ウリベ大統領(57)がテロ組織や麻薬組織との戦いを進めており、近年は爆弾テロは激減していた。
5月30日に大統領選が行われるが、現在2期目のウリベ大統領に対して、2月に憲法裁判所が3期目の立候補はできないと判決を下した。こうしたなかで政情の不安定化を狙ってFARCが攻勢に出てきた可能性が指摘されている。【3月28日 産経】
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人質解放もポスト・ウリベ狙いなら、テロ攻勢もポスト・ウリベということでしょうか。
また、イスラム過激派テロ組織とのコカイン密輸を介した結びつきも報じられています。
****テロ組織とゲリラを結ぶ危険な線****
昨年12月16日、米麻薬取締局(DEA)によるガーナでのおとり捜査によって、マリ国籍のアフリカ人3人がコカイン密輸容疑で逮捕された。起訴状によれば、3人はアルジェリアに拠点を持つテロ組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」に所属。コロンビアの反政府左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)と協力し、モロッコなどを経由してスペインへの密輸を計画していた。
米主導の「麻薬戦争」が成果を挙げるなか、南米から欧米への麻薬密輸は困難になりつつある。そこで麻薬密売組織は別のルートを求め、同じ反米のイスラム過激派組織に目を付けたとみられる。
「アルカイダとFARCといった武装組織が麻薬密輸で結び付き、資金集めをしているのは間違いない」と、DEAのミシェル・レオンハート局長代理は言う。「厄介な協力関係が生まれている」
メキシコのカルテルも同ルートで密輸を始めているとの指摘もあり、多くの場合、ベネズエラを経由してアフリカに空輸しているとされる。こうした密輸でアフリカのテロ組織は資金を集め、ゲリラ組織は反政府攻撃を継続しようとしている。ゲリラとテロ組織が連携を強めれば、欧米各国は新たな脅威に直面することになるだろう。【1月22日 Newsweek】
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治安回復と同時に、強権政治への批判もあるウリベ大統領ですが、ポスト・ウリベのコロンビアの動向が注目されます。