孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メコン川異常渇水 流域国首脳会議は中国に“配慮”して沈黙

2010-04-07 22:26:29 | 国際情勢

(タイ・ノンカイとラオス・ビエンチャンを結ぶ「タイ・ラオス友好橋」付近のメコンも干上がって、歩いて渡れる状態になっています。そのやせ細った川から水不足に悩む付近の住民がポンプで水を汲み上げています。
“flickr”より By Tran Duc Tai
http://www.flickr.com/photos/tranductai/4480622799/)

【原因は中国のダムか異常気象か?】
東南アジアの大河、メコン川の水位が過去20年で最低を記録し、農漁業への被害が深刻化していることは、3月9日ブログ「メコン川異常渇水と中国のダム建設  今後問題化する水資源争奪戦」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100309)でも取り上げたところです。

メコン川流域では、川にかかわる人が約6千万人に上るとされ、下流に行くほど水位は限界を下回り、川魚がとれなくなるほか、船による人や物の運搬もできず、地域経済に深刻な影響を与えています。
こうした20年ぶりとも、50年ぶりとも言われる異常渇水に、流域国は、降水不足に加え、中国によるダムの放水制限が一因との見方を強めていました。なお、3月9日ブログでも書いたように、ダム建設自体は中国以外のベトナムやラオスも進めています。

今回の異常渇水対策を協議するため、メコン川流域各国で構成するメコン川委員会(MRC)首脳会議が4日、タイのリゾート地ホアヒンで始まりました。

****中国、ダム原因否定 メコン渇水、対策を協議 流域国首脳会議****
・・・同委員会はタイ、カンボジア、ラオス、ベトナムの流域4カ国と、対話国の中国とミャンマーで構成されるが、今回、委員会発足15年にして初めて各国首脳による会議が実現した。いかにメコン川の水位低下が深刻な問題となっているかを示した形だ。(中略)
2日に同委員会の事務局が発表した2010年版メコン川流域リポートでは、「過去5年間で水関連資源の状況が大きく変化しており、今後もこうした状況は拡大するだろう」として、名指しこそしなかったものの、中国が上流に建設した水力発電用ダムが本格稼働して以降、川の環境が変化したことを示唆。開発が進めば、水量だけでなく水質の悪化も避けられないとしている。このため、流域各国は会議で、中国に対し財政支援だけでなく、水量のデータについても提供するよう求める構えだ。

これに対し中国側は、今年から上流の2つのダムの水量データを提供する考えだが、その他のダムや今後、建設する予定のダムについては言及していない。
一方で中国は、国内でも2400万人以上が飲料水不足で苦しんでおり、今後も水や電力、食料確保のため、ダム建設を進めるとしており、下流域各国の要請は受け入れられそうにない。【4月5日 産経】
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中国のダム建設が原因とする見方については、“水位低下の原因は現在、激しい論争の的となっている。環境問題の活動家らは、上流にある中国の水力発電用ダムが川の水を吸い上げているのが原因だと指摘する。
「インターナショナルリバーズ」の活動家によると、水位は単に低下しているのではなく、「不自然に変動している」。こうした変化は、10年以上前に中国で最初のダムが建設された後からだという。” 【4月5日 AFP】といった意見もあります。

こうした指摘に対し、8基のダムをメコン川本流に建設または計画中の中国は、水位低下は異常気象によるものとの立場を取っています。
実際、中国南西部は100年来の大干ばつに襲われています。

****中国で100年来の大干ばつ*****
2010年03月26日 18:07 発信地:曲靖/中
中国の南西部一帯が100年来に1度という大干ばつに見舞われ、数百万人が飲料水不足に直面している。前年9月以降の降雨量は例年の60%を下回り、このため貴州省、雲南省、四川省、広西チワン族自治区などで河川が干上がり、農地の多くが干ばつ被害にさらされている。このほか、大都市の重慶でも水が不足している。【3月26日 AFP】
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【中国への“配慮”】
結局、メコン川委員会(MRC)首脳会議の共同宣言では、中国に“配慮”する形で、ダムとの因果関係や対策としてのダム放水などには言及されていません。
****メコン川:水位低下 流域国会議で中国に遠慮*****
メコン川の異常な水位低下への対応を協議するため、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの流域4カ国首脳が5日、タイ中部ホアヒンで首脳会議を開催した。水位低下について4カ国では「上流の中国内に完成したダムのせいだ」との批判が高まっているが、中国は「原因は干ばつ」と反論。4カ国の指導者は、援助や貿易関係を通じて影響力を強める中国への遠慮から、この問題で強い姿勢を取れず、会議では中国に対しダムの放水など具体的な対応を求めることはできなかった。
中国もオブザーバー参加した会議では、4カ国首脳が水資源管理のための協力強化をうたった共同宣言を採択。流量や水質の維持のために各国間の情報交換システムを作るとしたが、中国のダムには直接言及しなかった。

メコン川の水位は今年に入り過去30年で最低レベルにまで下がり、流域各国では水運や漁業、農業用水取水などに大きな影響が出ている。下流各国では、90年代後半以降、上流の中国内に相次いで完成した四つのダムの影響との見方が強まり、住民には中国への反発が広がっている。
しかし中国は「水位低下は地球規模の気候変動に伴う雨量の減少が原因」と反論。実際、上流に当たる中国南西部では干ばつが深刻化し、約2400万人が飲料水不足に直面している。これまで中国はダムの放水量などのデータを公開せず、ダムと水位低下の関連は解明されていない。タイなどの要請で中国は、ようやく3月末までに今後一部のデータの提供に応じると伝えてきた。【4月5日 毎日】
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また、MRC事務局長は、中国のダムを擁護する姿勢を見せています。
****メコン川の異常渇水、中国による上流へのダム建設は無関係―メコン川委員会****
2010年4月4日、中国のテレビ局「鳳凰衛視」によると、メコン川委員会のバード事務局長は、同委員会が独自に調査した結果、メコン川上流に中国が建設したダムは、09年末から起きている異常渇水、また08年に起こった洪水の原因ではなかったことがわかった、と発表した。

それだけでなく、同事務局長は、中国によるダム建設によって今年1月には起こるはずだった干害を、むしろ現在にまで遅らせる効果があったこともわかった、とした。中国によるダム建設と今回の干害との間には何ら因果関係は認められず、干害の原因は降水量の減少と高温が続いた気候によるもの、と強調した形だ。
同事務局長はまた、中国が5月に同委員会を雲南省のダム視察に招待したこと、各委員会参加国が要求したダムの貯水・放水に関するデータの提出にも応じる姿勢を見せたことを評価した。【4月5日 Record China】
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この事務局長がどういう立場の人物かは知りませんが、痛々しいほどの中国擁護に思えます。

【不透明な中国の対応】
なお、問題となっている中国のダムは、外国人記者の取材が厳しく制限されているとも伝えられています。

****【巨竜むさぼる 中国式「資源」獲得術】第3部 真珠の首飾り(6)****
「この先は軍事施設だから引き返せ!」
中国雲南省の鳳慶県小湾鎮。3月下旬、検問所で武装警察にきつく言い渡された。だが、山道を車で7時間も揺られて来ただけに、こちらも簡単には引き下がれない。「軍事施設」という言葉も引っかかった。記者(矢板)が目指しているのは、ダムである。(中略)
上流のダムで中国当局が外国メディアに警戒の目を光らせているのには、わけがあった。
近年、メコン川の水位が異常に下がり、下流のタイ、ベトナム、ラオス、カンボジアでは灌漑(かんがい)用水が不足するなどの問題が起きている。東南アジアのメディアは「上流にある中国のダム群が原因だ」と指摘、中国側のダムの貯水と放水制限を非難しているのだ。

中国は現在、雲南省内のメコン川上流で、水力発電所8基を建設しており、計画中の6基を含めると将来は14基になる。メコン川に注ぎ込む支流でも多くの小型発電所が造られている。
背景には、高度経済成長に必要な電力の慢性的な不足がある。しかし、水力発電所の高い収益性に目をつけた、浙江省などの実業家の個人投資で発電所が造られるケースも増えており、水資源利用の計画性というものが全くないのが実態だ。(後略)【4月7日 産経】
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異常渇水とダムとの因果関係は知る由もありませんが、これまで中国はダムの放水量などのデータを公開していないとか、ダムの取材を規制するとか、中国の対応には透明性に欠けるものがあります。
それにしても、今回のメコン川委員会(MRC)首脳会議の顛末は、この地域における中国の存在感を見せつけるものでもありました。
また、このような“水資源争い”が今後世界中で激化するであろうことは、前回ブログでも述べたとおりです。

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