孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  バシル氏再選の大統領選挙に見るスーダンの将来

2010-04-29 12:59:36 | 国際情勢

(スーダンでの投票風景 投票する女性の顔が晴れやかです “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/4523452404/)

【「民選大統領」の肩書】
スーダンの大統領選挙は、野党の一部がボイコット、立候補取止めなどの対応をとったこともあって、予想どおり現職バシル大統領の圧勝に終わりました。
大統領選には当初、現職バシル氏のほか11人が立候補していましたが、有力候補だった南部の主要政党スーダン人民解放運動(SPLM)のアルマン氏が「自由な投票は不可能」として出馬を取りやめたのに続き、北部で影響力のある野党・ウンマ党(UP)なども全選挙のボイコットを宣言。結局、バシル氏と知名度の低い数人のみで争われることになりました。

****スーダン大統領選、逮捕状のバシル氏再選****
AFP通信によると、スーダンの選挙管理委員会は26日、20年以上に及ぶ南北内戦後初の大統領選(11~15日投票)の結果、与党・国民会議党(NCP)の現職バシル氏(66)が得票率約68%で再選されたと発表した。
バシル氏には、ダルフール紛争で国際刑事裁判所から逮捕状が出ているが、国民は5年前に内戦を終結させた功績や油田開発で成長を導いた指導力を評価した。
同時に実施された南部自治政府の大統領選は、スーダン人民解放運動(SPLM)の現職サルバ・キール氏が同約93%で当選した。【4月26日 読売】
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ダルフール紛争での戦争犯罪や人道に対する罪でICCからの逮捕状も出ているバシル大統領は、これで「民選大統領」としてのお墨付きを得たと主張するでしょうが、野党の多くが「買収や暴力、不正があった」と北部やダルフールでボイコットし、政権の正統性を認めていません。
アメリカも「この選挙は国際基準を満たしているとは言い難い」(ギブズ大統領報道官)と批判しています。
今後の南部分離独立に関する住民投票や西部ダルフール和平交渉への影響が懸念されています。
“南北内戦終結のため05年に結ばれた包括和平合意では、選挙の次のステップとして、独立志向が強い南部で分離独立に関する住民投票が来年1月に予定されている。ただ、野党各派やダルフールの反政府勢力が政権への反発を強めて政情不安が増した場合、ダルフール和平交渉の頓挫や南部での住民投票の延期につながる可能性もある。”【4月26日 朝日】

【「負ける選挙に参加するより・・・・」】
今回選挙について、ハルツーム大学のアブディン教授(政治学)のコメントが朝日に掲載されていました。
****スーダン大統領バシル氏再選 ハルツーム大 アブディン教授に聞く******
・・・・逮捕状が出ているバシル氏がなぜ再選されたのか?
与党・国民会議党(NCP)は資金力や組織力で抜きんでており、選挙に向け周到な準備を進めてきた。(産油国の)スーダンは石油輸出に支えられ、景気が上向いており、北部では市民の支持を集めていた。最初から野党各党に勝ち目はなかった。
バシル氏にとって選挙は国際的に「民選大統領」の肩書を得るためのものだった。逮捕状は彼にとって大きな問題ではない。スーダンはICCに非加盟で、フランスなど加盟国に行かない限り、拘束されることはないからだ。

・・・・野党の一部はボイコッ卜した。しかし南部が基盤の最大野党スーダン人民解放運動(SPLM)は候補者を取り下げたが、全面ボイコットに踏み切らなかった。理由は?
多くの野党は負ける選挙に参加するより、「正統性は認められない」という姿勢を示した方がよいと判断した。
SPLMはバシル氏との関係を維持した方が、来年1月の住民投票を行うためにプラスになると考えたからだ。

・・・・南部が独立を選べば、バシル政権は認めるのか?
バシル氏にとって重要なのは北部で権力を維持することだ。南部には有力な油田があるが、パイプラインなど石油の輸出用設備はすべて北部にある。仮に油田すべてが南部のものになっても使用料などが入る。南部の石油権益をすべて失うことにはならない。
北部は多くがイスラム教徒で、南部はキリスト教徒。民族や社会の違いも大きく、1956年の独立前から対立が続いている。残念ながら分離した方が互いにやりやすい。

・・・・ダルフール問題への影響は?
反政府勢力に一定の権限や議席を与えて納得させる交渉が続くことになる。反政府勢力を支援していたチャドもすでにスーダン政府との関係を改善し、支援をやめた。新政権は優位な立場で交渉に立つ。ただ、反政府勢力は分裂しているうえ、選挙に参加しなかった勢力になぜ議席や権限を与えるのかという、今回の選挙で選ばれた議員からの批判も出るだろう。一筋縄ではいかない。【4月28日 朝日】
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【野党ボイコットへの違和感】
当然、与党側の不正を糾弾すべきでしょうが、バシル政権に民主主義を説いても今更の感もあります。
一方、今回選挙を主要野党がボイコットしたことについては、違和感があります。
与党側の不正の度合いにもよりますが、日本の常識的な価値基準からすれば、民主主義にとって選挙は根幹をなすものであり、仮に不正・弾圧があっても、そのなかでどれだけの民意を集約して社会に明示できるかが選挙の意義ではないかと思えます。それをボイコットしたのでは、唯一・最大の政権批判の機会を自ら放棄するものではないか・・・。ましてや、“負ける選挙に参加するより、「正統性は認められない」という姿勢を示した方がよい”というのでは民主主義は成立しないと思えます。

ボイコットした野党側の判断の背景には、選挙をそこまで重視していない価値基準があるのでは。つまり、最後にものを言うのは、選挙ではなく「銃の力」だという考えです。
そうした発想を続ける限り、スーダンから内戦が消える日は来ないように思えます。

“ハルツームで投票した主婦レイラ・アフマドさん(40)も選挙は初体験で、「政治に参加しているという実感が出た」。ジュバのジョージ・ザフィリオさん(75)は「我々は戦争しか知らなかった。この日を誇りに思う」と話した。”【4月11日 朝日】・・・選挙結果だけでなく、こうした有権者の思いを大切にしないと。

【南部分離独立問題の今後】
南部分離独立に関する住民投票の当事者となる、南部が基盤の最大野党スーダン人民解放運動(SPLM)がバシル政権との関係を考慮して、全面ボイコットを避け候補者取り下げで踏みとどまったのは、かろうじての賢明な判断だったように思われます。
もっとも、SPLMは最初から中央政府の大統領選挙は重視しておらず、実力者サルバ・キール氏は南部自治政府の大統領選挙に立候補していました。

その南部分離独立については、南部自治政府大統領選挙にSPLMの現職サルバ・キール氏が約93%で当選したことからも、もし住民投票が実施されれば、分離独立の民意が出されることが予想されます。
アブディン教授も指摘しているように、民族・宗教が異なり、何よりも流血の紛争が続いてきた現実を考えると、分離することが事態を改善できる現実的な対応であるように思われます。

問題は、そうした結果が予想される住民投票をバシル政権が実施するのか、その結果を認めるのか・・・というところです。特に南部にはカネを生む油田が存在しています。
この点については、アブディン教授は、北部にあるパイプラインなど石油の輸出用設備の使用料などをあげて、南北間の協議が可能であるとしています。
“あの”バシル大統領がそれだけで満足するのか? 法外な輸出設備使用料をめぐって新たな紛争が生じないのか? 個人的にはかなり懐疑的な思いもあります。

コメント
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