孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク 難航する連立協議 再集計に資格問題も

2010-04-27 21:59:22 | 国際情勢

(アラウィ元首相 選挙では1番手につけましたが、首相になれるのか? “flickr”より By ZAMMILIAT ALNUSSIMIA ALSULTANIA http://www.flickr.com/photos/a35m40/4392396179/

【どれも難しい“組み合わせ”】
3月7日に投票が行われたイラク連邦議会選(定数325)は、アヤド・アラウィ元暫定政府首相派の世俗派閥政党連合「イラク国民運動(イラキヤ)」がスンニ派有権者の受け皿となる形で91議席を獲得して第1党になりましたが、過半数には達していません。
マリキ首相率いる「法治国家連合」は「イラキヤ」よりわずか2議席少ない89議席、シーア派の政党連合「イラク国民同盟」が70議席、クルド人の「クルド同盟」が43議席を獲得しています。

過半数を制する勢力がなく、しかも連立が難しい事情もあって、選挙直後から組閣は難航することが予想されていましたが、実際その通り難航しています。
引き続き政権担当すことに意欲を見せるマリキ首相は、第2党ながら連立協議で“最大会派”を形成することで首相の地位を得ようと動いているようですが、頼みのイランや宗教権威からも助け舟がなく、これも難しい情勢です。

****イラク首相 四面楚歌 連立工作、相次ぎ柚******
続投を目指すイラクのマリキ首相が蕃粛に立たされている。3月の国民議会選挙(総選挙)で2番手に終わり、同じイスラム教シーア派勢力との連立で多数派をつくろうと画策してきた。しかし、各派から柚にされ、後見役と頼みにしていた隣国イランにもはしごを外されてしまった。
3月26日に発表された最終開票結果は、マリキ氏率いる「法治国家連合」が定数325のうち89議席。スンニ派の受け皿となったアラウィ元首相の「イラク国民運動」の91議席に敗れた。しかし、どの政治勢力も単独過半数をとれないことを見越したマリキ氏は、逆転のシナリオを用意していた。
憲法は「大統領が議会の最大会派に組閣を要請する」としている。マリキ氏はその定義について、最高裁から「選挙後の連立協議を経て最大多数を得た会派」との見解を引き出した。第1党のアラウィ氏を排除して、自ら首相候補になる道を開いた。

マリキ氏がまず接触したのは、選挙前の連立相手でシーア派という宗派を前面に出した「イラク国民同盟」だ。今回の総選挙では70議席を得て3位。中心組織は反米強硬派のサドル師派と、イラク・イスラム最高評議会だ。
しかし、サドル師派が今月、首相候補について独自の「国民投票」を実施したところ、トップは24%で移行政府時代に首相だったジャフアリ氏。マノリキ氏は10%で4位に終わった。サドル師は「民意に従う」と明言しており、マリキ氏が首相候補であれは連立には応じない構えだ。
イスラム最高評議会を率いるアンマル・ハキーム師も「アラウィ氏を含まない連立には参加しない」と表明し、マリキ氏続投を否定した。

2005年の総選挙で、マリキ氏を首相候補とすることで長引く連立交渉を幕引きしたのは、シーア派最高権威シスターニ師だった。しかし、同師の事務所は13日、「選挙結果が尊重されるべきだ。各派の協議により早期に政権ができることを望む」との声明を出した。マリキ氏の期待する「鶴の一声」も封じられた。
シーア派が国教のイランは、マリキ政権が続くことを望んでいるとされた。だが、15日にアラウィ氏の代表団がテヘランを訪問。イランメディアは、会談したジャリリ最高安全保障委員会事務局長が「選挙で勝利した全政治勢力で政府をつくって欲しい」と述べたと伝えた。

まさに四面楚歌のマリキ氏だが、これでアラウィ氏が有利ともいえない。シーア派の国民同盟がアラウィ氏の国民運動と組んでも161議席で半数に届かない。カギを撞るのは43議席で4位だったクルド同盟の動向だが、中央集権志向の強い国民運動に対し、地域政府の権限強化を目指すクルドは不僑感を持つ。
「極端なアラブ民族主義者を含む国民運動とは組めない」(クルド同盟のルワノウジ議員)との声が根強く、連立協議は予断を許さない状況だ。【4月20日 朝日】
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アラウィ氏の第1党「イラキヤ」とマリキ首相の「法治国家連合(SLC)」の大連立については、“アラウィ氏は会見で連立協議の対象としてSLCに言及。マリキ首相を「兄弟」と呼んで親近感を表明し、両会派を中核とした国民的政権を樹立したい考えを示唆した。同時に、イラクの国際的地位を向上させたいとも述べ、イランやサウジアラビアなど周辺国の干渉は排除する姿勢を見せた。
アラウィ氏はイスラム教シーア派だが「宗派色は薄く各派を結びつけられる人物」(中東政治専門家シャディ・ハミド氏)との評価を得ている。
しかし、イラキヤとSLCの獲得議席数は2議席しか違わない。SLCが協議に応じた場合でも、マリキ首相の続投を含め強気の要求を突きつける可能性がある。両派の妥協は容易ではない。”【3月27日 毎日】という状況で容易ではありません。

3番手の「イラク国民同盟(INA)」は選挙前に「法治国家連合」から分裂した経緯があり連立は困難、シーア派に不信感を持つスンニ派の支持を受ける「イラキヤ」にとってもINAとの連携には高いハードルがあります。

実現可能な組み合わせが容易には見当たらない状況ですが、“長期化するだろう連立協議の間、シーア派のイラン、スンニ派のサウジアラビアといった周辺国が影響力を行使しようとする可能性もある。石油都市キルクークの帰属などをめぐる、アラブ人主導の連邦政府と北部のクルド自治政府の対立が協議に影響を及ぼすことも想定される。結局、「今後数カ月間に何が起きるかは、誰にも分からない」(サリム教授)不透明な政局が続きそうだ。”【3月27日 毎日】とも指摘されています。

【更なる波乱要素の再集計と資格問題】
ただでさえ難し連立協議を更に難しくしている要素が二つあります。
ひとつは、いまだにマリキ首相が選挙結果・敗北を受け入れてうないこと。
****イラク:議会選で票の一部再集計 組閣、長期化も****
イラクの選挙管理委員会は19日、連邦議会選挙(3月7日実施)のバグダッドでの投票分を再集計すると明らかにした。再集計は、小差の2位だったマリキ首相の法治国家連合(SLC)が求めていた。イラクでは連立交渉が続いているが、再集計は手作業で行われる見込みで、組閣作業がさらに長期化する可能性が出てきた。
選挙ではアラウィ元首相のイラク国民運動(イラキヤ)が91議席を獲得して第1党となったが、89議席を押さえたSLCは「不正な投票があった」と主張、再集計を求めていた。バグダッドは連邦議会の全325議席中、70議席を占める最大選挙区。SLCは26議席、イラキヤは24議席だった。【4月19日 毎日】
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再集計は、完了まで約2週間かかる見込みで、もしこれで結果が変わることになれば、今度はアラウィ元首相側からのクレームがつくことが予想されます。

もうひとつは、選挙前に問題となり、最終決定が持ち越されていた旧バース党がらみの候補者資格問題です。
****イラク:当選者2人含む52人を失格判定 連邦議会選****
3月に行われたイラク連邦議会選挙で、候補者の適格性を審査していた委員会は26日、当選者2人を含む52人を失格と判定した。失格とされた当選者の1人は2議席差で第1党となったアラウィ元首相率いる「イラク国民運動(イラキヤ)」所属で、異議を申し立てる構え。先にバグダッドの投票分の再集計も決まっている。結果確定の遅れが、連立協議のさらなる混迷をもたらすのは必至の情勢だ。
イラクの選挙法では旧政権党バース党関係者などの立候補が禁じられており、候補者資格の最終決定が持ち越されていた。今回の措置で議席数や順位が変動すれば会派間の緊張はさらに高まる。【4月27日 毎日】
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【頻発する爆弾テロ 「今後もこうした攻撃が続く・・・」】
選挙結果の確定、それを受けての連立協議が難航するなかで、大規模テロが頻発しています。

今月4日に35人、6日には45人が死亡する爆弾テロがありましたが、23日にも各地で爆弾テロが起こっています。
****イラク各地で爆弾テロ 60人以上死亡*****
イラク各地で23日、爆弾テロが相次ぎ、死者は合わせて60人を超えた。首都バグダッドでは複数の場所で計7発の爆弾が爆発し、ロイター通信のまとめでは56人が死亡。西部アンバル州ラマディ近郊でも、爆弾で8人が死亡した。
バグダッドでの爆発はイスラム教シーア派地区サドルシティーや、他地区のシーア派モスク周辺などで起きた。モスクには、イスラム教の休日にあたる金曜日の礼拝のため多くのシーア派住民が集まっていた。宗派対立の激化や治安の流動化を狙うスンニ派武装勢力のテロの可能性が高いとみられている。
アンバル州ラマディ近郊では、警察官が住む家の近くで爆弾が爆発したといい、治安関係者を狙ったテロとみられる。同州はスンニ派住民が多い地域で、スンニ派の中でも国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力と、それに反発してシーア派主体のイラク政府に協力するグループなどとの間で抗争が続いている。
イラクのマリキ首相とイラク駐留米軍は19日、アルカイダ系スンニ派武装勢力の指導者ら幹部2人の殺害を発表した。バグダッド治安当局のムサウイ報道官はロイター通信に「これはアルカイダ系の報復だ。今後もこうした攻撃が続くと想定している」と述べた。【4月23日 朝日】
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「今後もこうした攻撃が続くと想定している」・・・・日本でそんな発言をしたら即辞任ですが、イラクですから・・・。
以前のような暴力による宗派対立が再燃するとは思いませんが、とにもかくにも選挙結果・首班指名に早く決着をつけないと、こうした反政府勢力からの“揺さぶり”がますます激しくなります。

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